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オーク洞窟調査 2

 リオは疑問だった。エーベンとダッツは確かに魔術を使うが、何かがおかしい。

 エーベンは氷、ダッツは地の魔術を使う。前者は氷柱を飛ばしてオークの頭部に何度も放つ。

 ダッツは岩を飛ばしてやはりオークの頭部を狙う。ダッツ曰く、オークの皮膚は固いから頭部などの急所を狙うのがいい。リオは疑問だった。

 なぜ二人は魔力の操作がこんなにも雑なのだろう、と。


「エーベン! そっちに行ったぞ!」

「おう!」


 広めの空洞にて、二人は数匹のオークを相手にしている。豚を醜悪にした顔、出るところまで出た腹、それでいて腕や足の筋肉はたくましい。知性もないに等しく、ひたすら拳を振るうのみ。

 エーベンとダッツは一匹のオークを倒すのにかなり魔力を放出している。このままでは魔力が尽きるのでは、とリオが思った矢先だった。

 疲労により魔力の操作が疎かになり、エーベンの氷柱がオークの頭部をかすめる。


「やべっ!」

「ふごっ!」


 オークの拳がエーベンの肩にずしりと入る。完全にはヒットしなかったものの、防御の手立てがなかった彼にとっては致命傷になりかねない。


「うぐあぁぁ!」

「エーベ……ぐあぁッ!」


 気を取られているうちにダッツにも拳が入った。吹っ飛ばされて、岩肌に背中ごと叩きつけられる。


「うあぁ……いでぇ……誰か、誰かぁ……」

「僕がやります!」


 エーベンが激痛に耐えかねて地面に転がったところで、リオが庇うようにして前へ出る。引っ込んでろと念を押されたため、黙っていたが限界だ。

 まだ数が多いオークがリオを見て、より涎を垂らした。ゴブリン達とは違う感情の表れにリオは嫌悪する。

 食べるつもりか。それとも、ギルドの魔術師達のようにいたぶって楽しむのか。ここで彼らを思い出したリオは気づく。

 理性がなければ人間も魔物も変わらない。人に危害を加えるという点においては同じなのだ。


「あのひどい顔……ギルドの人達みたいだ。全員、少し痛い目にあってもらうよ!」


 あの顔は醜悪な心そのものだ。リオは幻の炎を衣のようにまとわせて、オーク達を牽制する。

 その鮮やかに赤々と燃える炎をエーベンとダッツは目に焼きつけた。激痛で脂汗を流しながらも、完全に畏怖していたのだ。


「なんだ、あれ……」

「レ、レベルが違う……」


 リオが一直線に迫るオーク達にむけて片手を向ける。


「ブラストッ!」


 レーザーのような一直線の赤い炎がオーク達を飲み込む。エーベンはその熱を感じて、ダッツと共に気絶した。

 目の当たりにした光景が頭の中で処理できず、加えて怪我の痛みが限界を迎えたからだ。


                * * *


「あ、よかった……」


 二人が目を覚ますと外だった。身体には包帯が巻かれており、処置の跡が見られる。

 うまいとはいえない応急処置だが、不思議と二人は痛みを感じなかった。リオはあえて言わないが、これも彼の魔術だ。

 魔術で死に至らしめられるなら、魔術で処置を施せば痛みを和らげられるのではないかと考えた。

 もちろん本当に怪我が治ったわけではない。痛みを感じなくなっただけで、体そのものはダメージを受けている。つまり無理をすれば危ない。


「お前がオレ達を……?」

「地図によると近くに村があるみたいです。よかったですね。助けを呼んでくるのでもう少しだけ我慢してください。本当に動いたらダメですよ」


 リオが汗だくになっており、二人を外まで運んだのだ。少年の身では大変な重労働である。

 危険な洞窟内でそれを行ったと知った二人は言葉が出なかった。礼以外の言葉など、すべてが上滑りする。


「おい……」

「動かないでください」


 リオは冷たく言い放ち、二人に顔を向けなかった。自身の魔術による処置だと明かす気にはなれない。

 少なからずリオは二人に対して反感を持っている。偉そうに立ち振る舞い、先輩を気取ってこき使う。挙句の果てにこの大怪我だ。

 オークと重なる辺境の町のギルドにいた魔術師達の顔、エーベンとダッツの顔がそれぞれ被って見えていた。


「待て、待てって!」


 リオは背中を見せて立ち去った。エーベンは身体の芯から冷える。もしリオが助けを呼ばずに帰ってしまったらと考えてしまったのだ。

 そうさせれても不思議はない。恐怖が込み上げてきて、ガタガタと震え出す。

 どのくらい、こうしていればいいんだろうか。エーベンとダッツは泣きだしたい衝動に駆られた。自分達の半分も生きてない少年に助けられる。リオの冷たい横顔といい、もはや二人にプライドなどない。

 魔女の弟子、コネでも運がよかっただけでもない。紛れもなくその資質を買われて弟子となったのだと確信するしかなかった。


「ひっ! 血、血が!」

「落ちつけ、エーベン!」


 未だ血は止まらない。リオが間に合うか、それとも自分達が死ぬか。

 リオの真意と恐怖の狭間で、二人はついに涙を流す。もう馬鹿にしないからどうか助けてくださいと心の中で何度も願っていた。


                * * *


「もう少し遅かったら危なかったの……」

「村長さん、ありがとうございます。こちらの二人、お願いできますか?」


 村にて、リオは老齢の村長や村人に頭を下げる。当面の間、エーベンとダッツの面倒を見てくれると村長は快諾した。

 この村とて裕福ではない。リオの住んでいた家ほどではないにしろ、貧相な小屋が立ち並んでいる。

 怪我人の面倒など見ている余裕はあまりないのでは、とリオは薄々気づいていた。


「君はまたあの洞窟に行くのか?」

「はい。まだ調査が終わってませんし、オークもいます。この村の安全の為にも何としてでも討伐します」

「すまないな……。本来なら我々が君のような子どもを助けねばいかんというのに……」


 村長が目を伏せる。かつては武器や防具で村人達も自衛していたが、魔術革命に伴ってその手段すら奪われた。リオはその事実を思い出す。


「うちのばあさんが少しだけ治癒魔術の心得があるでな。こっちは任せてくれ」

「治癒魔術! すごいですね!」

「ほんの少しな……」


 老婆がのっそりと出てきてエーベンとダッツの治療を始める。リオとしては見ていたかったが、一刻も早くダンジョン調査に向かわなければいけない。

 こうしている間にもオークが村に攻めてくるかもしれないからだ。村長と村人に食事をご馳走になり、保存食をもらったリオは村を出た。

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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