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オーク洞窟調査 1

 リオは五級のダンジョン調査依頼を引き受けることにした。場所は王都より南西の山岳地帯の洞窟。

 元々はゴブリンが住み着いていた洞窟だが、今はオークの住処となっている。ゴブリンよりも個の力が強く、皮膚も厚い。

 個体によっては五級魔術師の魔術でも討伐が困難なこともあり、四級に指定されている。といった概要が書かれた依頼書を手に取ったリオはやはり怖気づく。


「大丈夫かなぁ……」


 そんなリオを囁きながらも目をつけた二人の魔術師がいた。五級魔術師のエーベンとダッツだ。

 二人とも二十代半ばであるが、何年も昇級を経験していない。昇級の通達がこない理由をクリードに問い合わせても実力不足としか言われない。

 そんな鬱憤が溜まりに溜まったところにリオの登場だ。彼らは魔女の弟子のリオを観察しては幾度も舌打ちをしていた。そんな二人がリオに近づく。


「よう、魔女のお弟子さん。よかったらオレ達にも指導をしてくれないか?」

「あなた達は?」

「お前と同じ五級の魔術師だ。オレがエーベンでこっちがダッツ」

「エーベンさんにダッツさん、指導だなんてそんな……。僕もまだまだ修行中の身ですよ」

「そんなことないだろ。何せあの魔女セレイナに弟子として見込まれたんだからな」


 魔女の弟子であることを鼻にかけないリオの姿勢が二人を悪い意味で刺激する。

 鼻につくようなエーベンの物言いだが、リオとしては人間関係でことを荒立てたくなかった。


「そのダンジョン調査、オレ達も同行させてくれ。ぜひ魔女の弟子のお手並みを見せてほしいんだ」

「……わかりました。誇れるような実力かわかりませんが、よろしくお願いします」

「楽しみにしてるぜ」


 断れまい。二人はすでにそう確信していた。ここで断れば、魔女そのものの風評にも関わる。

 元々そんなものなどあってないようなものだが、リオとしてはそうではない。二人もそれをわかっているのだ。


                * * *


 リオはすべてを任された。旅に必要な食料や物資の用意、ルートの選択。果てにはオークの討伐経験などないのに戦略について質問される。

 素直にわからないと答えるのがリオだ。やはり知識がないと確信した二人はリオを徹底してこき使った。自分達は作戦を立てて頭を使うからといって雑用をリオに押しつける。

 野営時、二人が雑談している傍らでリオは粛々と雑用をこなしていた。


「そこでオレは言ってやったわけよ。このヘタレめってな」

「おいおい、いくら相手が六級でも言い過ぎだろー」


 その会話内容も誰かの悪口で花が咲いている。これでは辺境の町のギルドと同じだ。この程度のものならリオは聞き流していた。


「魔女の弟子さん、オークってのはな。ゴブリンやリザートとは訳が違う。そこをわかっておけよ」

「どう違うんですか?」

「そういうのは戦って肌で感じろ。魔女の弟子なんだろ?」

「はい……」


 いわゆる常にマウントを取られた状態だった。実際、リオには知識や経験が二人に比べると不足している。

 リオは知らないから仕方ないと諦めて、ここで勉強して今後の参考にしようと前向きな姿勢だった。

 雑用など辺境の町のギルドでやらされたことだ。野営時、二人はリオを放っておいて平然と寝る支度を始めた。


「じゃあ、オレ達は寝るわ。見張りよろしく」


 リオは返事すらしない。二人が食い散らかした食事の始末をした後、膝を抱えて考え込む。

 彼らから学ぶべき点が何一つないとわかって落胆した。そして思い出すのはやはり辺境のギルドのことだ。あのギルドだけが特別ではなく、ここにも似たような魔術師が二人いる。

 人をないがしろにして傲慢になる。何かにつけて魔女の弟子だのそればかり。リオは憤りを抑えられなくなっていた。


「そんなに弟子になりたいなら僕がお願いしてやろうかな。ヘルハウンズと戦ってお漏らししちゃえばいいんだ」


 ゴブリンもヘルハウンズもリオにとっては等しく魔物だが、後者は悪い意味で思い出深い。

 あの恐ろしさは生涯、リオは忘れない。いい経験ではあったものの、思い出すたびに赤面するのであった。


                * * *


 三日後、三人は調査対象の洞窟に到着した。連日、野営時の見張りを任されたリオだが耐え切れずに何度も眠っている。

 それでも寝不足は否めず、そんなリオを見てエーベンとダッツはニヤついていた。


「どうした、お弟子さんよ。ずいぶんとつらそうじゃないか」

「なんてことないですよ。魔女の弟子ですから」

「あ……?」


 今まで大人しかったリオの挑発だ。面食らった二人は不快感を露わにした。

 クソガキ、コネ、運が良かっただけ、魔女の趣味。二人の頭の中にはリオに対する様々なレッテルが用意されている。

 エーベンがどの言葉を引き出そうかと思った矢先、リオが先行して洞窟に入っていく。

 辺境の町のギルドにいた頃とは違う。これ以上、言いなりになるわけにはいかない。リオには確かな自負があった。


「おい! 待てよ!」

「魔女の弟子ですから大丈夫です」

「てめぇ、ちょっと煽ててやれば調子に乗りやがって……!」


 リオの言葉に偽りはない。新人とはいえ、ここで無様姿を見せればセレイナを貶めることにもなる。

 自分を見出して世話をしてくれた彼女が馬鹿にされることだけはあってはならない。リオなりの意地だった。先行したリオの肩をエーベンが掴む。


「なんですか」

「お前は入口で待ってろ。オークなんざオレ達で十分だ」

「そんなわけにはいきません。元々僕が引き受けた依頼ですよ」

「オレ達は先輩だ。言うことがきけないのか」

「見張りや食事当番を押しつけるのが先輩なんですか」


 リオに図星をつかれた二人が言葉を詰まらせた。何よりリオの目にかすかな恐怖を覚えたのだ。少年ではあるが、魔術師リオが怒れば無事ではすまない。


「チッ! ついてこい!」

「エーベン、オレ達だけで十分だよな」


 さすがの二人も新人にイニシアチブを握られたのではプライドが許さない。

 魔術師として自分達のほうが上だと信じる為に、彼らは何としてでもオーク討伐を手柄にしたかった。魔女の弟子は何もできなかったと吹聴するためだけに。

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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