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五級に昇級

「リオ、昇級おめでとう」


 ゴドルからそう告げられたのは初仕事、ゴブリン討伐からわずか一週間後のことだった。

 最初は元手がないため、王都で安宿に滞在しつつ地道に六級の魔物討伐に勤しむ。不衛生な宿だったが、元の生活を思えばリオにとって苦行ではない。

 しかしすぐにそのような生活も終わる。初仕事のゴブリン討伐が高評価されたからだ。


「ぼ、僕が昇級ですか!」

「あのゴブリンの村を壊滅させた件な、クリード支部長がお前を評価してるんだ。放っておけば被害が計り知れなかったからな」

「僕の仕事で誰かが死なずに済んだんですね! やった……よかった」

「報酬や評価よりもそっちを喜ぶか。お前はいい子だよ」


 リオが照れながらも喜んでいる反面、周囲の魔術師達は面白くなかった。

 ゴブリン討伐くらいで何を、そう思う者達がいるのも無理はない。しかしゴブリンのような下級の魔物は繁殖力が高いため、常に討伐しなければならない。

 王国魔術師団や上位の等級の魔術師達だけでは手が回らないことが多いのだ。だからこそ、リオのような働き者の下級魔術師が重宝される。


「ケッ、ゴブリン討伐ごときで褒められるんだからな」

「それとも、よっぽどあの魔女が怖いのかね?」


 リオだけではなく、彼らの悪態は魔術協会にまで及ぶ。

 リオが魔女の弟子ということで、魔術協会が忖度していると思い込んでいるのだ。もちろん本意ではないが、万年四級や五級の彼らである。

 新進気鋭、それも少年となれば口も悪くなるのも仕方なかった。


「えへへ……お金、僕のお金……」

「自分で稼いだ金ってのはいいもんだろ。とはいえ、命あってのものだからな。命を何より優先しろよ」

「はいっ!」

「じゃあ、さっそく昇級手続きをしよう。で、これが先日のリザード討伐の報告書か。えーとだな……」


 ゴドルとしてもリオの昇級は心から祝いたかった。唯一、懸念事項があるとすればリオの報告書の文章力だ。

 難解な文章の解読がいつまで続くのか。魔術もいいがこちらも上達してほしいと切に願うのであった。


                * * *


「五級、やったじゃない。今日はお祝いね」

「力の限り祝うっ!」


 何日かぶりに魔女の家に帰ってきたリオにアルムが突進する。難なく抱きしめた後、床に下ろした。

 仕事をいくつかこなしたリオはセレイナに聞きたいことがたくさんある。改めて意識し始めた等級についてだ。


「セレイナさんは特級なんですよね。特級ってどんな仕事をするんですか?」

「自由よ。その名の通り、特別枠だからね。私くらいになると魔術教会も好きにしなさいって言ってくれるの」

「それってつまり……いえ」

「なーに? まさか手に負えないから放置されてるだけって言いたいのー?」

「ち、ちがっ……や、やめてください」


 アルムに続いてセレイナがリオにくっつく。自分で言った通り、セレイナにも自覚はあるのかとリオは思った。

 セレイナの豊かな胸に埋もれながら、リオは次の疑問を口にする。


「ほ、他にも、その特級の魔術師はいるんですか?」

「いるいる。どいつもこいつも変なのばっかりよ」

「へぇ、じゃあその人達が一番強い魔術師なんですね」

「最強は私だけどね」

 

 上を見上げれば果てがない。わかっていたが、リオはただ感嘆するしかない。

 やはり今はアルムにとっての魔術師、リオはひとまず見上げるのをやめた。


「そうだ、セレイナさん。五級になったらダンジョン調査というものができるらしいんです。受けたほうがいいですか?」

「調査というか実質、討伐依頼ね。いわゆる魔物の巣に攻め込むの。地の利は敵にあるから、普通の討伐依頼より難易度は高いわ」

「でもその分……」

「大きな実績になるわよ。厳密にはあなたが全滅させたゴブリンの村もダンジョンに相当するんだけどね」


 洞窟や廃屋敷など、ダンジョンとなる場所は無数にある。放っておけば一大勢力となるものもあるため、これも早急に潰さねばならない。

 セレイナの言う通り、難易度は通常の討伐よりも跳ね上がる。複雑に入り組んだダンジョンでは魔物討伐以前に補給が断たれて遭難するケースが多い。長丁場ともなると、攻略に月単位を要する。

 以上のような説明を受けてリオは生唾を飲む。


「や、やっぱりやめようかな……」

「言っておくけど、この森がすでに一級魔術師が攻略するダンジョンみたいなものよ?」

「そんなに?!」

「あなた、普通に帰ってきたけど並みの魔術師ならこの家まで辿りつけないのよ」

「そういえば、前にそんなことを言ってましたね……」


 リオはまだ自覚が足りてなかった。魔物は等級で分けられているものの、リオにとっては等しく魔物だ。

 油断せず、確実に相手にする。慢心しない心が自覚というものを遠ざけていた。

 なるほど、とリオは一応の納得はしたものの心は変わらない。


「ゴブリンもヘルハウンズも同じ魔物です。もし一発でも攻撃を受けたら死んじゃいますからね」

「ふふふ、それでいいの。油断しない奴が一番強いんだから」

「ところでセレイナさん。そろそろ離してくれません?」

「あら、ごめんなさい」


 リオがようやく胸による圧迫から解放された。と思ったのも束の間、今度はアルムがリオの頭を掴む。


「アルム、どうしたの?」

「くっつくっ!」


 アルムが床に座っていたリオの頭を両手で掴み、自らの胸へとダイレクトヒットさせた。

 セレイナと違って豊かではない為、うまくいかない。セレイナのようにリオを抱き込もうと試みて失敗したのだ。


「な、何するのさ」

「むー?」


 セレイナと自分で何が違うのか。アルムなりに考えたが、それはすぐに得られるものではない。再チャレンジしたところで何も変わらなかった。 

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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