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リオの工夫

 リオはついにゴブリンの集落を発見した。丸太を縦にして連ねた柵、門番役をやっているゴブリン。人間のような文明を築いており、リオは少し尻込みする。

 何匹のゴブリンがいるのかもわからず、リオはその場を離れた。二級のヘルハウンズを仕留めたリオだが、決してゴブリンを甘く見ない。周辺の地形を徹底的に調べた上で、川のほとりで作戦を立てた。

 その結果、もっとも望ましい作戦を思いついたのだが躊躇する。


「いくら魔物でも……うーん」


 リオが考えた作戦は魔術で殺すことよりも、ある意味で残虐だった。

 そこでリオは思い直す。相手は何人もの人間を殺している凶悪な魔物だ。剣などを使って戦っていた時は村人でもゴブリンを撃退できた時代があった。

 しかし魔術師の台頭に伴い、旧時代の武器や防具がどの店でも見られなくなる。その為、魔術を使えない者達はゴブリンの襲撃に怯えるようになってしまった。

 魔術革命はいい事ばかりではなく、一部の者達が不利益をこうむっている側面もあるとセレイナは語る。

 筆記試験以降、セレイナはリオに少しずつだが世間の事も教えた。その際に決して筆記試験のことを忘れていたわけじゃないと、セレイナは念入りに念を押す。


「よし、よし、よし……。やるぞ、やるぞ」


 再びゴブリンの村の近くにやってきたリオは作戦を決行した。うまくいくかはわからない。リオは意を決して、自分を幻で作成して歩かせた。


「ギ!?」


 ゴブリンが幻のリオに気づく。門番のゴブリンの前に立ち、一気に村の中へと走り抜けた。

 呆気に取られるのはゴブリンも同じなんだとリオは安心しつつ、間もなくゴブリン達が騒ぎ始める。幻のリオが走って村から出ていき、ゴブリン達が追いかけた。

 同時に本物のリオも身を隠しつつ、後を追う。


「すごい数……!」


 村から出てきたゴブリンは軽く五十匹を超えている印象だった。さすがのリオもあの数をまともに相手にして勝つ自信はない。

 仮に勝てる事実があったとしても、その気はなかった。魔女の森でも常に魔物と正面から対峙していたわけではない。

 このように、姑息であろうとも立ち回って魔物の裏をかく。それこそが自分の魔術がもっとも活かせるとリオは考えていた。もっとも、ほぼセレイナ譲りではあるが。


「いけっ!」


 幻のリオである以上、体力が尽きない上に足が速い。ゴブリン達は血気盛んに幻のリオを追いかけるが、間もなく転落し始める。

 幻のリオは幻の地面の上に立っていた。そこは崖となっており、ゴブリン達ははまってしまったのだ。


「ギギィー!」

「ギャー!」

「グゲッ!」


 リオが作り出した幻の地面に気づかず、崖からまとめて落ちるゴブリン。彼らは幻の地面を本物だと思い込んでいたが今回、リオはあくまで幻として生成した。幻のリオも実体がなく、触れることが出来ない。

 こけ脅し時代にやっていたことだ。リオは過去の自分を認めて、強さへと昇華させていた。


「うわぁ……」


 ゴブリン達が落ちていく光景に、自分でやっておきながらリオは引く。さすがに後方にいたゴブリンは仲間達の様子に気づいて足を止める。

 しかし数はかなり減っていた。落ちればまず助からない崖である。いつも魔術で外傷なく魔物を倒していたリオにとって、初めて物理的な手段で死に至らしめた。

 とはいえ、戸惑うゴブリン達への止めに躊躇はない。突如、発生した炎の柱にゴブリン達はまた悲鳴をあげた。


「バーストッ!」


 ヘルハウンズすら一撃で仕留めたリオの魔術だ。四つの柱の爆破を受けたゴブリン達は悲鳴をあげる暇もない。

 崖への誘い、バーストによる一網打尽でゴブリン達は全滅した。いつものようにリオは慎重にゴブリン達を監視する。

 それからゴブリンの村へ向かい、門から顔をだして中の様子を伺った。


「あれで最後かな?」


 生き残りがいないか警戒しながら、リオは鼻と口元を手で押さえる。とてつもない臭気が漂っていた。

 リオにはわからなかったが、それは腐敗臭を含めた不衛生からくる臭気だ。帰りたくて仕方なかったリオだが、仕事は最後まで真面目にこなすと決めている。

 魔術協会の評価だけではなく、もし生き残りがいたら人間が一人死ぬ。妥協をしない気構えで挑んでいた。


「うわっ……!」


 拉致された食われかけの死体を発見してしまった。腐敗が進んでおり、さすがのリオも吐き気を抑えられない。よろけながらもくじけず、リオは探索を再開した。

 涙目になりながら歩いていると、人間の遺品らしきものを大量に発見した。それぞれ一つずつ、誰かの想いが込められているはず。リオはそっと手に取った。

 今回の依頼に限らず、仕事はすべて調査報告としてまとめなければいけない。リオは遺品の件を魔術協会に報告することにした。一人では持ち帰れず、後で回収してもらおうと思ったからだ。


「僕がもっと立派な魔術師になれば、食べられる人もいなくなるかな……」


 正義の味方を気取るつもりがないリオも、こういった惨状を見れば少しずつ心境が変化する。

 アルムが犠牲になる可能性も考えれば、より身が引き締まる思いとなった。集落を出て、リオは帰路につく。下手な文章で報告書を仕上げて提出しなければならない。

 虚偽報告をすれば免許剥奪だけではなく、厳しい制裁があるとリオは聞いていた。


「やりがいがある、あるよ。こういう魔物を討伐して、どんどん危険をなくしていこう」


 王都には何日か滞在して、連続で仕事をする予定だ。アルムには寂しい思いをさせてしまう事を危惧しており、どこか二人で暮らせる住居を見つけることも検討していた。

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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