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初仕事

 リオは生まれて初めて魔道列車の存在を知って乗った。魔術革命の産物だというこの魔導列車は国内の主要の町と町を繋ぐ。

 リオが住んでいた辺境の町まではカバーされていないものの、人々の暮らしは劇的に楽になった。

 とはいえ、魔女が住む森を出て徒歩で町の駅までかなり遠い。何せ森は危険地帯であり、近くの町となれば日単位を要する。

 改めてセレイナがどんな魔境に住んでいるのかがわかった。町から魔道列車で王都に着いて、ようやく魔術協会の王都支部だ。そんな旅ともいえる道中をリオは――


「面白かった……。列車って便利だなぁ。帰りが楽しみ」


 旅を楽しんでいた。実はセレイナが送り迎えしてやると言ったのだがリオは頑なに拒む。

 道中、一人で旅をしたいという思いもあった。何よりセレイナから自立できるように、今からでも慣れておきたいと思ったのだ。

 旅のグッズを持たされて身だしなみを整えられて、怪しい人にはついていかないようにする。

 都会に出る子どもを心配する母親のようであったが、リオにその感覚はない。王都の駅から魔術協会の支部へと向かう途中、改めて活気を感じた。

 あの人はどんな仕事をしているんだろう? そこの魔術師も免許を持ってるのかな? 歩いているだけでも果てのない疑問が沸く。


「セレイナさん風にいえば今日が初陣……こんにちは!」

「おう」


 支部に入るなり元気よく挨拶したリオだったが、短く返事をしたのはゴドルだけだった。

 リオからすれば、なぜか他の魔術師達は距離を置いている。


「わかってる。仕事だろ。あるぜ、あるぜ。六級向けのザコ討伐がさ。ゴブリン討伐、リザード討伐……好きなの選べ」

「じゃあゴブリン討伐にします」

「……おう。じゃあ、手続きな」


 ゴドルが事務的に処理を進める。そんな中、やはりリオは気になった。


「なんか静かですね」

「そりゃ魔女の弟子なんてのが来たからな」

「セレイナさんは優しいですよ。怖くないです」

「今までどんな強い魔術師にも興味を示さなかった魔女がとった弟子だからな。お前、気をつけろよ」


 手続きを終えたゴドルがリオを見据える。リオは姿勢を正して、ゴドルの言葉を待った。


「魔女の弟子だと判明した以上、魔女を恨んでる奴が何を企むかわからん。あの女の庇護下にあるからといって安心するな。いいな?」

「はい、忠告ありがたいです!」

「ほらよ。ゴブリンが頻繁に目撃されている場所だ。近隣の村なんかも被害にあってるから何とかしてやりな」

「絶対に何とかします!」


 リオが支部を出ると、ようやく周囲が落ち着きを取り戻した。リオへの警戒心、或いは侮り。なぜあんな子どもが。魔術師達がリオに対する感想を口にした。


「魔女の弟子ならゴブリンくらい余裕で討伐して見せてくれるよな」

「あのセレイナがまともに指導できるとは思えん。それにゴブリンは六級のザコだが、舐めてかかって殺された奴だっているんだ」

「群れると意外と厄介だよな。旧時代の武器を振り回す奴もいるし……」

「それにあのガキが引き受けた討伐だけどな。近くにゴブリンの村があるって話だ」

「おいおい、そりゃ……。ゴドルさん、言わなかったのか?」

「依頼書に書いてある」


 ゴドルはぶっきらぼうに堪える。

 一方で、彼以外の魔術師達は期待していた。魔女の弟子リオが期待外れであることを。多くが四級以下の彼らにとって、手強いライバルが増えるのは避けたかった。

 彼らは期待していた。魔女の弟子リオが殺されることを。


「へっ、ゴブリンの村ごときでどうにかなるかよ」


 ゴドルは誰にも聞こえないよう呟いた。


                * * *


 現地までの費用はすべて魔術協会が支給してくれる。問題の場所は魔女の森ほどではないにしろ、木々が邪魔をする雑木林だ。ゴブリン達はこの雑木林を根城にして、近隣の村を襲っていた。


――他に魔物がいたらどうするの


「ゴブリンはたくさんいるから……」


 セレイナの言葉通り、リオは警戒して雑木林を進む。リオはゴブリンという魔物について考えていた。

 彼らが自分の魔術をきちんと誤認してくれるか。セレイナのもう一つの言いつけを思い出す。


――奇襲上等、何でもやりなさい


「奇襲、上等……!」


 林の陰からゴブリンの一団を発見した。リオには気づいていない。

 さっそくゴブリンの周囲を幻の炎で囲むと、ゴブリン達が慌てふためいた。まずは目の前に炎が現れたと認識させなければいけない。

 その上で即発動、炎の輪がゴブリン目がけて収束。


「ギャアァァァ!」

「き、効いてる!」


 燃えていないゴブリン達だが、断末魔の叫びをあげて次々と倒れた。リオはこの瞬間、いつも緊張する。

 外傷がないので、本当に死んでいるかわかりにくいのだ。魔女の森では一度、不用意に近づいた時にまだ生きていたことがあった。

 そんな時のためにリオは保険として、自分の周囲に炎をまとわせている。外見だけなら高レベルの炎魔術の使い手に見えると、セレイナに褒められた。


「……死んでる。よし」

「ギィィーー!」

「えっ」


 リオが一安心した時、遠くから別のゴブリンの一団が現れた。こんな続け様に、と慌てるリオ。

 落ち着いて、今度は鞭状となった雷を見せつける。ゴブリン達が警戒して怯んだ隙に鞭を放って一網打尽。

 感電したつもりのゴブリン達が倒れたところで、リオは考えた。ゴブリン討伐は初めてだが、明らかに数が多すぎると感じたのだ。


――魔物の巣には警戒しなさい。六級のゴブリンなんか数だけは揃えているからね。


――どうすればいいんですか?


――調べなさい。あるものは全部使いなさい。あなたの魔術では重要よ。


 あるものはすべて使う。この言葉がヒントとなり、リオは魔術の実技試験に合格したのだ。

 自分の魔術はあらゆるものをごまかせる。そこにあるものも利用する。リオは周囲の探索を再開した。

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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