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社会見学

 朝、目覚めたエリカ。

「きのうは、確か……」

 布団から出て這うようにロフトから見下ろすと、悪魔が居て、パソコンと向き合っていた。


 夢じゃない。理想の男性が居る。

 ハッとして、でも、悪魔なのよねぇ……。


「おはよう、レイ、嘘……、ずーっと起きていたの?」

「ああ、お陰でこの世界の仕組みが分かった」

「本当に? そうだとしたら、すごい集中力ね。東大はもちろん、難関のハーバード大学にも受かるんじゃないかしら。その集中力を、他のことに使えればいいのに」

 と呆れながら言い、

「でも、この世界のことが知りたいのなら、勉強だけではなく、実際に見ることも大事。社会見学が必要ね。私が東京の街を案内してあげるわ」

 言いながらゆっくりとハシゴから降りた。


 土曜日の朝早くから悪魔を案内する。

 底冷えする朝だが、天気は良く気分も最高。だが、

「予は、朝は苦手だ」

 悪魔にとって明るい場所は苦手なようで、昇る朝日を手でさえぎりながらエリカに愚痴る。

「悪魔って、夜行性なのね」

「予を下等動物と一緒にするな。人間共の活動を避けて暗闇で暮らしていたから、明るい場所が苦手なだけだ」

「ふぅ~ん、そう。もしかして、紫外線が弱点なんじゃ」

「予に、弱点などはない。ただ、苦手なだけだ」

「まあ、言葉は言いようよね。日焼けが嫌で、シミになることを気にしているんなら、ウケるんだけど」

 と言ってエリカが爆笑する。

「誰がシミを気にするか。魔族の習性だ」

「ふぅ~ん、そう。こそこそと暮らしていたのね。挙句、絵の中に閉じ込められたんだ。可哀想な人生、いえ、魔生を送っていたのね」

「同情はよせ! これからその恨みを晴らせるのだからな」

 威勢良く悪魔は言った。

「そう文句言わないでよ。夜だと、案内人の私が困るでしょう。眩しいならサングラスを買ってあげる」


 コンビニエンスストアに寄って、朝食用のハンバーグとサングラス(安物)を買った。

 悪魔がサングラスを掛けると、似合っている。似合うどころか、かえって目立つ。

 長身の悪魔は、エリカのボディーガードのように見え、より怪しく見えた。


 まるで映画の、未来から送り込まれた殺人マシーンじゃない。まあ、機械じゃなく生身の生き物なんだけど。サングラスは、レイの目が慣れるまでの間だけね。


 案内は公共のバスや地下鉄は使わず歩きが中心。

 乗り物嫌いの悪魔に付き合い自分の足で歩き、首都東京を案内する。

「あの辺りが日本国の政治の中心、千代田区永田町よ」

 皇居の内堀沿いを通る内堀通りを歩きながらエリカが説明した。


 官庁街が集中している東京都千代田区。

 日本の政治の中心永田町には国会議事堂を始め、政治関連の施設が集結していて、霞が関エリアには財務省・経済産業省などの各省庁の拠点となるビルが林立している。


「確か、この国は議院内閣制だったな。内閣総理大臣がこの国を牛耳っている。軍事も政治も」

「牛耳るって、独裁じゃじゃないんだし、そう好き勝手なことは出来ないわよ」

「なんにせよ、一番偉いのだろう。なら、操り人形のように思いのままに指図すれば」

「まあ、そうなんだけれど……」

 複雑な思いのエリカ。


「日本の金融・経済の中心、王手町に丸の内。そして、あなたと出会った六本木は勝ち組の街よ」

 歩きながらエリカは説明する。

「勝ち組?」

「お金持ちの住む所よ。私も収入の多い総合職を考えていたけれど、覚えることが沢山あって転勤もあり、虚しくなっちゃって」

「要は、金さえあれば、なんも出来る。支配することが出来るのだろう」

「支配、とは違うんだけれど、レイの言う通り、同じなのかもしれないな。お金が全てって訳じゃないけれど、そのために働いて、嫌なことでも文句言わずに働いているんだし、お金のために犯罪に手を染めるし人殺しだってする。昨日見たニュースも、だいたいがお金がらみだもん。そう考えると、お金って、悪魔が考えた物じゃないの。人間を狂わせ、社会を混乱させるために」

「バカな、予は、そんな姑息なまねはせぬ」

 悪魔にもプライドというものがあるようで、強く否定する。


「この世の中には、資産が十兆円もあるお金持ちがいるのよ。私達庶民は、あくせく働いているのに、お金持ちにどんどん吸い取られていくんだもの、ほんと、嫌になっちゃうわ」

 とエリカが日頃の不満をこぼす。

「ほう、一人の人間が……国家予算並みの金だな。確か、神の教えでは、金は汚れたものだと説いている。金に執着し過ぎて足かせになり、天国とやらに行けなくなるとな」

「そうそう、持っていることが悪という考えがあって、海外では寄付する人が多いんだって」

「まるで正反対、欲望のまま、金の亡者となって突き進んでいる」

「そうね、そこはレイと同じ、人間の慾も底無しだわ」

「予と比べるな。予の行うことは、自然の摂理だ」

 同じ扱いにされ、悪魔が迷惑そうに言うと、

「まあ、自然の摂理だなんて、大きく出たわね」

 と呆れ顔のエリカ。


「あなたは経営者には向かないわね。今の世の中、俺様的な経営をしていると、誰もついては来ないわよ」

「誰もついて来なくてもいい、従わせるだけだ」

 そう息巻く。

 悪魔的な発想、どうでもいいとばかりにエリカは相手にしない。

 

「ずいぶんと歩いてきたわね。ここらで休まない」

 息を切らせながらエリカが言った。

「もう、バテたのか。体力が無さ過ぎるぞ」

「ちょっと、休憩しよっか」

 皇居内堀のベンチに腰掛け、コンビニで買ったハンバーグで腹ごしらえ。


 温かいハンバーグを食べながら、

「本当に何も食べないのね」

 退屈そうにしている悪魔の方を向く。

「ああ、加工食は口に合わぬ。人間の作った物が食えるか」

「毒なんか入ってないのに」

「予は肉しか食わぬ」

「お肉が好物なのね。なら、早く言ってよぉ」

「肉と言っても、生肉だぞ。どこを見渡しても、家畜などいないではないか」

「生肉か。なら、お昼は焼き肉で決まりね。レイにお似合いの食べ放題があるから」

 大柄なレイを見ながら嬉しそうにエリカは言った。


 目の前を、皇居外周路を利用したランニングの人が通り過ぎる。

「呑気なものだな。平和を謳歌するのも今のうちだ。いずれ人間共から、主役に座を奪ってやる」

「はいはい、そうですか」

 他人事のようにハンバーグ頬張りながら相槌を打つ。

「人間共が死に絶えれば元も子もない。予が支配者になってもつまらぬことだ。支配者としてこの地上に君臨する意味がなくなるからな。人間共は殺さず、生かさず。さて、どう料理して、どんな世界にしようか」

 得意げに悪魔が言い、余韻に浸っていると、

「本当にそう、一人ぼっちじゃ威張れないし、こうして話も聞いてくれないもんね。ああ、可愛そう」

「そうならないようにだな、生かさず殺さずに…」

「もう、行こっか。レイの分も食べたからお腹も一杯、疲れも取れたから」

 悪魔の話もそこそこに、急かすように立ち上がる。

「今度はどこへ?」

「若者の楽しむ場所、わくわくする場所よ」

 行ってからのお楽しみ、とエリカは笑みを見せた。



 エリカが目指したのは新宿。

 東京屈指の大都会。

 新宿を目指して新宿通りを西へと歩いて行く。

「歩きは、もうこりごりだわ」

 さすがに歩きあるキツイと思ったエリカが不満を言いながら、

「自転車で行こう」

 と言い出した。

「ジテンシャ? だと」

「そう、自転車。レイの嫌いな車じゃないから安心して。自転車は免許もいらない便利の乗り物なのよ」


 最寄りのレンタサイクル屋でそれぞれ自転車を借りた。

 借りた場所とは別の場所での、乗り捨て可能なレンタサイクル。大柄なレイはスポーツ自転車のクロスバイクで、エリカは電動アシスト自転車を借りた。


 悪魔にとって初めて乗る自転車。

 うまく乗れないだろうとエリカは高をくくっていたのだが、

「これは良い!」

 と言ってスイスイと走って、エリカを置き去りにして向こうの方まで行ってしまった。


 うそぉー。


 完璧に乗りこなしている。

 自分はズルして楽な電動アシスト自転車に乗っているものの、追い付けない。

「ちょっとぉー! 待ってよぉー!」

 すると、反転してドヤ顔で戻って来る。

 だいの大人が自転車で楽しそうにはしゃいでいる。

 娯楽の少なかった時代に生きた悪魔のことを思うと、親が子供におもちゃを与えるのと同じ気持ち。悪魔の笑顔を見ると、エリカも嬉しくなる。

「くれぐれも、赤信号には気は付けてね」

 とエリカが注意を促し、悪魔とのサイクリングを楽しんだ。



 新宿駅の東口は百貨店や劇場が集まり、西口は都庁などの超高層ビルが連なる新宿副都心。

 駅周辺の駐輪場に自転車を停めて、繁華街を歩いた。

 

 人の流れが途切れることなく溢れ出てくる。

「どこから湧き出てくるのか、人間共がウジャウジャと。東の果ての島国のはずだが、ローマの都よりも繁栄している……」

 驚いた様子の悪魔を見ながら、

「東京はね、世界でも有数の人口密度を誇っているのよ」

 エリカは説明する。

「それにしても、空気が悪い」

 人通りの多い密集した繁華街は空気が悪い。

「空気が悪い、って、あなた、タバコの吸い過ぎ、じゃないわよね。確かにそう、昔と比べたら、確実に空気が悪いわよね。私も上京したての頃は空気が悪いって思ったから、ここでずっと暮らすのかと思うと、ゾッとしたわ」

「予の居ない間に、これほどまで住みにくい環境に、よくも変えたものだ。人間共に、この世界を統治する資格はないな」

「そこは、同じ意見ね。レイが活躍していた時代からしたら、ずいぶん変わってしまったんでしょうね。なまじ、頭が良くなったばかりに環境を変えてしまった。お猿さんの知能のままだったなら、このあたりも緑が一杯で、自然のままだったかもしれないね」



 大勢の人が行き交う都会の街中に、刺激を求めて多くの人が集まって来る。

 仕事のため、また仕事を探しに。中には芸能人になるため、夢を叶えるために、それぞれ集まって来ている。中には……。

「死相が見える」

 と悪魔が言う。

「死相、それって…」

「あいつは首吊り、あいつは飛び降りか、自殺を考えているな」

「そ、そんなことが分かるの?」

「人間共の絶望感、絶望のゾン底に陥った人間の姿を見るのが何よりの楽しみ、御馳走だ」

「ふぅん、まるでハイエナね。あなた、精神が病んでいるわよ」

 冷めた視線を悪魔に送る。

 軽蔑の眼差しで見られ、

「予は、いたって正常、悪魔だからしょうがないだろう。人間共の不幸が、結果、予を強くするのだから。悪魔とはそういう生き物だ」

 と改めて人間とは生き方が違うのだと説明し、自分の考えは何一つ間違ってはいないと、自身の正当性を説明する。


「運動したから、お腹すかない?」

「お前、さっき食べてただろう」

 ツッコミを入れる悪魔に、

「あれはウォーミングアップ。本番は、これからよ」

 満面の笑顔でエリカは言った。


 焼肉食べ放題の店に入る。

 お席で注文するテーブルバイキング方式の焼き肉店。

 エリカがお得なランチコースを頼むと、カルビにロースタンにハラミ、鶏肉に豚肉と従業員が生肉をどんどん運んで来る。

「食べ放題だから、遠慮なくどんどん食べてね」


 悪魔が生肉を焼かずに、手づかみで口の中に入れようとするのを見て、

「ちよっとぉ、焼いて食べなさいよ」

 エリカが言い聞かせるも、

「予は、生肉しか食べぬ」

 焼こうとはしない。

「まるでライオンやトラの猛獣じゃない。なら、焼いているふりしてよ、個室じゃないんだから、変に思われるでしょう」

「ん! 実に良い肉だ」

「そうよ、毎日市場から配送された新鮮なお肉で、レイの時代には無かった、和牛って言う品種だからね」

「あと、赤い飲物があれば最高なんだがな」

「赤い飲物って、赤ワインのことね。レイって、意外とお洒落なのね」

「誰がワインと言った。予は、酒は飲まぬ。生き血、生の血だ」

「い、生き血! やめてよぉ、食欲無くすじゃない。お冷で十分でしょ」

 これでも飲んでなさい、と言わんばかりに悪魔の目の前に氷水をドンと置いた。


 生肉を頬張るレイに、

「少しは野菜を食べなさいよ、体に悪いわよ」

 野菜に一切手を付けようとしない悪魔を見兼ねてエリカが言うが、

「予は、旨いものしか食わぬ」

「まるで、子供ね」

 と呆れるエリカだった。



 昼食を終えて店を出たエリカと悪魔が繁華街を歩いていると、テレビの声が聞こえてくる。

 街中のビルの側面に設けられている街頭ビジョン。

 新商品の広告やミュージシャンの新作の案内などの各種情報などを放映する大型街頭ビジョンに、『たった今、緊急ニュースが入りました』とニュース速報が入った。

 思わずエリカは足を止めた。

 釣られて悪魔も足を止めて、エリカが釘付けになったテレビに視線を向ける。


『中東の過激派集団によって邦人が拉致されました。拘束された日本人は二人で、某国内の過激派のアジトに拘束されているとのこと。彼らは民兵を組織し、非合法かつ暴力的な破壊活動を行うテロ集団で、犯人は人質を盾に、日本政府に対して高額な身代金と共に、仲間の即時解放を要求しているそうです』    

 国内メディアは二人の解放のために、身代金支払い交渉が続いていると報じた。


 宗派の対立、テロと混迷極まる中東。

 中東は世界の火薬庫として世界紛争の象徴となっている。

 ひとたびここで事件が起これば原油価格は急騰する。それだけに大きな紛争ともなれば中東に依存する日本の経済に打撃を与えかねない。


「中東でのテロ。円高になり、株が下がって日本経済が大変なことになるわ……」

 エリカが顔を強張らせながら言った。

 悪魔は嫌な予感がし、思わず顔をそむけるが、

「ねえ、行ってみようよ」

 案の定、エリカが行こうとせがむ。

「ほらきた。予は行かないからな」

 悪魔は拒むが、

「悪魔なんだから、一瞬で敵を倒せるんでしょう。それで事件解決。私達、一躍有名人じゃない」

 他人事のように愉快そうに言った。

「それは、マンガとかいう空想の世界の話だろう。一瞬で敵は倒せないぞ」

「さては、怖いんでしょう。いつもオレ様的に威張っていて、私達人間見下すように言っている割には、たいしたことないのね」

「な、なにぃ!」

 プライドを傷付けられ、ムキになって悪魔が言い返す。

「この予が、人間ごときに恐れているだと」

「そうよ。だから行きたくないんでしょう。素直に言えばいいじゃない、怖いって」

「予に怖いものなど、何一つとしてない!」

「ほんとぉ」

 エリカが言いながら悪魔の顔を覗き込むように見る。


「何より、あんな離れた場所に行けないだろう」

 頭を冷やせと言わんばかりに悪魔が言うと、

「ジャーン、これ」

 エリカが自慢するように一枚のカードを見せた。

 それは銀行のカードだった。

「貯金が二百万ぐらいはあるわ。子供の頃からコツコツと貯めたお金。将来のことや、彼氏との結婚を考えて蓄えていたんだけれど、もう必要無くなったから、今日は思いっ切り買い物しょうかと思って持って来ていたの。二百万円もあれば、海外にだって行けるでしょう。ねえ、ねえってばぁ」

 と、子供のように甘えた口調で悪魔にせがむ。

「やれやれ、とんだ魔物に取りかれたものだ」

 根負けした悪魔が小さな声で呟くように不満を漏らす。

「何か言った?」

 エリカは聞こえていたが、あえて聞こえなかったふりをした。


「ただ、理解出来ない。何故、お前は利益にならないことをするんだ? この事件が解決したとしても、お前になんの得にもならないというのに」

「これは損得の問題じゃなく、単なる人助け。これは私だけでなく、誰もが思っていることなの。ただ、行動に移すか移さないかだけの違いなのよ」

 悪魔には自己犠牲の精神が分からない。

 それは悪魔が唯一恐れる、人間の強さだった。


「あっ!」

「今度はなんだ?」

「パスポート、パスポートよ。あれがなければ、海外に行けないんだったわ。今すぐ、って訳にはいかないし、確か、申請から受領までには一週間はかかるんじゃ……。それに」

「それに?」

「そう、パスポート申請には身分証明書が……悪魔が身分証明書なんて持っているはずないでしょう」

「当たり前だ、この予が人間ごときに、いちいち許可をもらわなければならんのだ」

「どうしょう……私、海外は初めてだし、そもそも、あなたが居ないと始まらないじゃない」

 困惑するエリカをよそに、

「パスポートとは、このことか」

 悪魔が手品師のように手に出した。

「何?」

 差し出した手にはカードのような物が二つある。

 赤色の花の絵が入っている。よく見ると身分証。

「インターネットとかいう辞典で見たデザインを写したものだ」

 もちろん偽物。

 玩具のような身分証だが、

「心配ない。まやかしの術を掛けている。気付かれることはない」

 案ずることはないとばかりに悪魔が言う。

 ふとエリカは考え、

「それって、違法じゃない。私達、犯罪者として捕まるわ……。でも、仕方ないわね、料金さえ、きちんと払えば」

 自分に言い聞かせるように言って納得する。


 パスポートは二つあり、一つは自分の名前、もう一つは神田政英とある。

 エリカの父親の名前だった。

「私のお父さんの名前……」

「昨日、お前の思考を読んだ時、チラッと浮かんだ名前だ」

「そう。ずいぶん若いお父さんだけれど、その方が都合良いかもね」

「人のためとは言いつつ、だだ、海外に行きたいだけではないのか」

 少し考えるふりをしたエリカが、

「そこは、否定しないわね」

 と悪びれもせず、ケロッとした顔で言った。




 荷物を詰めて、身支度を済ませたエリカは、会社に親が倒れたと偽って有休休暇を取る。

 働き方改革で有給休暇が五日間も義務化され、休みが取り易かった。

「嘘付いちゃったけれど、仕方ないわよね。これも世のため人のためですものね」

 罪悪感を払拭するように、エリカが言う。

「まあ、嘘を付くのは唯一、人間だけだからな」

「そうそう、嘘を付くのは人間の専売特許だものね」

 満面の笑顔で答える。

「そこは、悪いことだろう……」

 悪魔に諭され、ぺこりとエリカは頭を下げた。

 

「車に乗って、空港まで行くわよ」

「また、あの馬力のある馬車に乗るんだな」

「車のこと言っているのね。レイの意味嫌っていた文明の象徴。でも、もっと驚くわよ。何せ、空を飛ぶんですもの」

 エリカは人間の代表とて、誇らしげに悪魔に言った。


「私達の力で、日本人を救出するぞぉー!」

 自然とエリカはわくわくした。

 まるで冒険にでも行くような気楽な気持ちでマンションを出た。

 頼りになるが、気の進まない悪魔を従えて。


 嫌々な悪魔を強引に連れ出したエリカは、タクシーに乗って羽田空港に向かった。


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