表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

仕返し

「ここが、現代の世界か……」

 悪魔が見回すと、六本木ヒルズや東京ミッドタウン、虎ノ門ヒルズなどの超高層ビルが見える。

 ずいぶんと変わったものだな、と思い、

「この全てが予のものになるのか」

 満足そうに悪魔が言った。


「今気付いたんだけれど、悪魔って日本語が喋れるのね。英語とかフランス語じゃないの? 確か、ヨーロッパ出身のはずなのに」

「職員どもの会話を聞いていて、自然と覚えた。それに、絵画の説明文を見て、文字も覚えたぞ」

「ふぅ~ん、凄いわね」

 感心するエリカに、

「助かった」

 と一言、礼だけを言って立ち去ろうとする悪魔を、

「ちょ、ちょっとぉ、待ってよぉ!」

 とエリカが引き留める。

「なんだ?」

「助けてあげたのに、何もしてくれないの? あの時の約束はどうなったのよ」

 悪魔を相手にひるむことなく強い口調で言った。

「約束? ああ、そうだったな。で、願いとはなんだ? この国の統治者、皇帝にでもなろうというのか」

「皇帝? 馬鹿じゃないの」

「バカだと。ハッハッハー、気の強い女だ。まあ、一万もの人間を皆殺しにすれば、皇帝になれるだろう」

「そんな、つまらない願いじゃないわよ!」

「つ、つまらないだと!」

「そうよ。今の私の願いはね、仕返しすること。私をもてあそんだ、最低な男に仕返ししたいのよ」

「なんだ、たった一人の人間を殺せばいいんだな。簡単なことだ」

「殺す殺すって、簡単に言わないでよ。何故、そう平気で人を殺すって言えるの?」

「それは、予が悪魔だからだ」

「それは、そうよね……いや、間違っている。簡単に人を殺してはいけないのよ!」

「とにかく、仕返しをすればいいんだな。ある男を半殺しに」

 うっとおしい女と早く別れようと悪魔は急かす。

「半殺し……。まあ、なんでもいいわ。その前にあなたのその身なり、なんとかならないの? コスプレと言えばそれまでなんだけれど、どうも怪しく見えるわね。この先は大通りだから、多くの人がいるわ。ハロウィンはとっくに終わっているし、クリスマスにはまだ早い。速攻で職務質問されるわよ」

「人間にか、なれる。活動するには人間の姿でなくてはならないからな」

「まさか、変化の術? 変身能力があるのね。だとしたら、髪が長くセンター分けで、キリッとした目、端正の整った顔、それでいてベビーフェイス。モデルで俳優の、あの……」

「そう都合良く変われるわけがないだろう。加工は出来ない、元々の顔だ。見た目が人間になるだけだからな」 

「ふう~ん、そう」


 でも、人間に代わるってことは……。


 漫画にでてくる変身後の主人公は一糸まとわぬ姿。

 それを想像すると、エリカが顔を赤らませながら悪魔の下半身を凝視する。

「ちゃんと服は着ているぞ。予とて、人間の常識は知っているからな」

 見透かしたように悪魔が言うと、

「そ、そうよね。目のやり場に困るから。それこそ変質者として捕まるわね」

 気にしてないとばかりにごまかす。


 悪魔が手に力を込めると、エリカの顔に近付ける。

「――ちょっとぉ、何すんのよ! こんな所で」

 あからさまに嫌そうに言うが、

「何もしない、お前の思考を感じ取るだけだ。現代の衣装がどんなのか、分かるだろう」

 と悪魔は説明する。

「こんなことで、流行はやりの服が分かるの? さては、私の身体が目当てなんでしょう。素直に言いなさいよ!」

「誰がお前を。気が散るから、大人しくジッとしていろ」

 そう悪魔は言いながら、大きな翼で体を隠すように覆う。

 すると、悪魔が一瞬で消えた。


 ――どこ? どこに行ったの。まさか、帰たんじゃ……。


 エリカの目の前に人影が――人の男性が立っていた。

「何をジロジロ見ている、予だ」

「予? じゃあ、悪魔なのね」

 エリカが言って、目を輝かせながら悪魔を見詰める。

「確かに、悪魔の面影が残っているわ……。悪魔のくせに、カッコ良い……私好みの、理想の男性じゃない」

 思わず飛び付き、悪魔を抱き締めた。


 高身長で、外国人と見間違うほどのハーフっぽい顔立ち。整った凛々しい眼鼻立ちと、どの角度から見てもイケメン。

「まるで、ドラマの世界に居るみたい……見れば見るほど、ハーフ俳優の代田しろたレイだわ」

 心の声が漏れる。

 顔立ちがハッキリしていて目は二重、鼻筋が通ったハーフ顔。

「日本人にもかかわらず、いえ、もともと外国人? だから、日本人のような顔立ちね」


 仕返しの用意万端整ったところで、エリカはシンゴに『分かれてあげるから、最後に一度会いましょう』と書いて送信する。

 すると、待っていたかのように、

『分かった。今からそっちに行く』

 すぐさま返信がきた。


 これで良し! とエリカは気合を入れた。



 国立新美術館に隣接する人気の無い青山公園で待っていると、タクシーに乗ったシンゴが遣って来た。

 新しい彼女を見せ付けるようにしっかり腕組みをしている。

 二人は嬉しそうにしていて、その顔は自慢に満ちた表情だった。


 エリカは、動揺を隠すように大きく息をした。

 そして、絞り出すような声で、

「最後に一つだけ聞かせて。私のどこが嫌だったの」

 恐る恐る聞いた。

「エリカと居ると疲れるんだよな。綺麗な顔に見合わず気が強いというか、男勝りなところ。この先、怯えながらなんて付き合えないだろう。自己中心で思いやりが無い。はっきり言う、エリカは俺にとって小悪魔だった。いずれ魂までも抜き取られそうな気がしていたんだ」

 上手いこと言うわね、と言わんばかりに横で黙って聞いていた彼女が、

「ぷっ」

 と噴いた。


「無駄に明るく元気なところも嫌だった。こっちは落ち着きたいのに、うっとおしいんだよ」

「なら、そう言ってくれればいいのに」

「その、空気の読めないところも嫌なんだ。なんでも自分を中心に動こうとする」

「そ、そんな……。シンゴに喜んでもらおうと必死だったのよ。将来のために、シンゴと一緒に居られるように、総合職を諦めて事務職に専念したというのに……」

 唇を噛み締めながらエリカが言った。


 居たたまれずに彼女も口を挟む。

「いっつも、あなたの愚痴を言っていたわ。早く別れたいって。でも彼、言い出し難くて。私という本命が居るのに、どんな気持ちで付き合っていたのかしら。可哀想で、笑いが止まらないわね、オ・バ・サ・ン」

 勝ち誇ったように嫌味を言った。

「お! オバサン……」

 唖然とするエリカをよそに、

「さっきからシンゴって名前で呼んで、もうオバサンとは関係ないんだから、気安く彼の名前を呼ばないでくれます!」

 強い口調で言ってきた。


 何よ、こいつ、口が悪い。少しぐらい若いからって良い気になって。いやな奴。


「……分かったわ」

 と自分に言い聞かせるように言ったエリカが、

「私もね、理想の彼氏が出来たの。そのことを告げようと、今日会う約束をしたんだから」

 悔しさのあまり嘘を付いた。

「嘘付け!」

 嘘を見透かしたシンゴが言うと、

「居るじゃない、すぐ後ろに」

 エリカが言って指を差す。

「後ろ?」

 シンゴが振り向くと、いつの間に男が立っていた。

「ビックリさせるんじゃねーよ!」

 自分よりも背が高く男前、見下ろすように見る悪魔に声を荒げて言うが、ケタ違いのカッコ良さに、付き添っていた彼女が思わず見とれてしまう。


「あれだろ、ホスト。金にものを言わせ、一日限りの彼氏。お金を払ってデートや食事をする出張ホストだろ。きっとそうだ」

 国宝級のイケメンさに嫉妬したシンゴが暴言を吐く。

「あれだけの男前、きっと高い金払って付き合ってもらっているんだよな」

 ホストだと決め付けエリカを罵る(ののし)る。

「違うわよ、そんなの。私、あなたと違ってお金に余裕がないし、そんな無駄遣いしないもん」

「なら、なんでこいつがお前なんかと」

 と信じられない様子のシンゴが言うが、

「あなたにはもったいないくらい、私が魅力的ってことでしょうね」

 言い負かされて面目を失う。

「クッ……」

 シンゴがヤケを起こし、

「部外者は引っ込んでいろよ!」

 怒りの矛先を悪魔に向けて、声を荒げて悪魔に殴り掛かった。


 悪魔はシンゴのこぶしを軽く受け止める。

「――痛ぅ」

 怪力で締めあげられ、

「ちょ、ちょっとタンマ……」

 シンゴが青白い顔をしながら悲鳴を上げる。

「予に手を向けるとは、愚かな奴、面白い」

 不敵な笑みを浮かべた悪魔にシンゴはゾッとしたが、

「よ、だと。何カッコつけてんだよ! 頭がおかしいんじゃねえのか」

 後には引けず虚勢を張った。

「あ、痛、タタ、ター」

 悪魔はこぶしを強く握り締める。

 そして、ヒョイとシンゴを投げ飛ばした。


『ズザザーザーー』

 着陸時の飛行機のように地面に着くと、その勢いで数メートルも滑った。

「きやぁー!」

 凶暴な悪魔の本性を見た連れ添いの彼女が悲鳴を上げて、シンゴを見捨てて我先にその場から逃げ去った。


「ちょっとぉ、やり過ぎよ!」

 心配したエリカが慌てて近付くと、シンゴは白目をむいて気絶していた。

「大丈夫みたいね、ちょっと意識を失っているだけだわ……」

 シンゴは無様な格好で横たわっていて、その格好は情けない姿だった。

 百年の恋も、一瞬にして冷めてしまった。


「殺すか?」

 悪魔が声を掛ける。

「やめて、もういいわ。ヨリを戻せたらいいのにと、ついさっきまで思っていたけれど、今、完全に吹っ切れたわ。こんな男を一度でも好きになっただなんて、私には男を見る目が無かったんだなと思えてくる。これでスッキリしたわ」

「フッ、お前のことを小悪魔とは、よく言ったものだ。お前も予と同類だな。でもこれで気が済んだか、予の役目も終わっただろう」

 悪魔はそそくさと立ち去ろうとした。

「どこへ行くのよ。誰のお陰で、あの絵から出られたというの。もっと付き合っても良いんじゃない」

 当然でしょと言わんばかりにエリカが引き留める。

「ほらきた、この男の気持ちが分かる」

「何か言った?」

「別に。やれやれ」

 悪魔らしからぬ溜息を付いた。


「お腹すかない?」

「予は、飯など食わぬ。人間の作った飯はな」

「そう。私もあんなことがあったから、食欲が無くなって」

「飯は食わぬが、人間の魂を食らう」

「それって…」

「ああ、すでにお前の魂の半分を吸収した」

「――え!」

 驚くエリカを見て、

「ハハハッ、冗談だ。お前の魂はマズそうだからな」

 と笑って言った。

「ん、もぉう、驚かせないでよ! にしても、悪魔も冗談が言えるのね」

 愛嬌もある理想の男性。

 悪魔の顔を見ると、ついうっとりしてしまう。


「ねえ、うちに来る? どうせ行く所はないんでしょう。シンゴの家にお泊り、の予定だったんだけど、行く所がなくなったから」

「行く所がない、か、確かに、そうだな。ここは極東の日本という小さな島国だったんだな。現代の環境がどんなものか見ておきたい」

「くれぐれも、変な気は起こさないでよね」

 エリカが、まるでそれを望んでいるような視線を向けたが、

「バカな。予が人間の、それも女如き者にうつつをぬかす訳がないだろう」

 と女を馬鹿にするよう悪魔が言った。

「さっきから、お前お前って言って、ムカつくんだけれどぉ。それって、パワハラよ。私の名前はエリカだからね。ちゃんと名前で呼ばなくちゃ、今の社会じゃ裁判沙汰になるのよ」

「人間のメスごときに、名前で呼べるものか」

「メス、ですってぇ! それ、絶対にアウトだからね!」

 もの凄い剣幕で息まくエリカに、さしもの悪魔も後ずさりしながら、

「分かった、分かったよ」

 と詫びを入れる。


 会話に夢中になり、大通りの赤信号に気付かず渡ろうとする悪魔。

「――あっ! 駄目よ」

 慌ててエリカが制止しようするが、

『キィーー』

 間に合わなかった。

 青信号で交差点を通過しょうとする車に悪魔が勢い良く引かれた。


『救急車!』

 通行人が叫ぶ。

 車は止まったが、ハザードを点けたまま運転手が出てこない。

 覗き見ると、人身事故起こし,大変なことをしてしまったと頭を抱えてうなだれている。

『救急車。早く救急車を!』

 と何人もの通行人が声を上げるが、

「大丈夫です」

 慌ててエリカは返事する。

「君ぃ、起き上がって来ないぞ。彼氏さんが心配じゃないのか?」

「あら、ほんとだ。大丈夫なのかしら?」

 悪魔は倒れたまま動かない。


 ――まさか、大怪我したんじゃ……。


 むくりと起き上がった悪魔の額から赤い血が流れていた。

 急いで駆け寄ったエリカがハンカチで血を拭いながら、

「大丈夫?」

 不安そうに声を掛ける。

「心配はいらぬ。人間との抗争では、よくあることだ」

 案ずることはないとばかりに悪魔は言った。

「でも、血が出ているじゃない」

「一瞬、動かなくなっただけだ。卑怯にも、不意を衝いて牛が急に突っ込んで来たからな。さすがの予も、対応出来なかった。どうも人間の姿だと防御が弱く、力が出ない」

「そうなの。でも、むやみに悪魔の姿に戻らないでね、大騒ぎになるから」

 と念を押したエリカが振り返って、

「どうも、お騒がせしました」

 頭を下げながら言うと、心配していた通行人が散って行った。


「でも、悪魔も血が赤いのね」

「当たり前だ。どんな生き物も血は赤いだろう」

「流れる血が緑色だと、怪しまれるところだったわ」

 と一安心のエリカ。


 程なく、車から出て来た男性が声を掛ける。

「怪我は、怪我はないですか?」

 見ると、メガネを掛けた、いかにも高学歴そうでエリートっぽい顔立ちの若い男性。気の毒なぐらい顔面蒼白だった。


「よくも、予の身体に傷を付けてく…」

 怒りをあらわに、加害者に迫ろうとする悪魔の口を手で押さえながら、

「無事だったんだから、いいじゃない」

 とエリカが悪魔の怒りをなだめる。


「……すいません、なんて言ったらいいか……。そうだ、救急車を呼ぼう」

 

 悪魔の素性がバレたら、それこそ大変よね。


 面倒なことにならないよう、

「いえ、いいです」

 とエリカは断った。

「しかし……」

「この人、鍛えているんで」

「鍛えてるって言っても、血が出ているじゃないか」

「血の気が多いから、少しぐらい出た方がいいんです」

「こんな時に、冗談言っている場合じゃないだろうに」

 言いながら、

「……じ、示談金を払うから、この場は見逃してくれないか。お願いだ、今は大事な時期で、どうしても事件沙汰になりたくはないんだよ」

「示談金……」

 お金でなかったことに、との言葉にエリカはムッとしたが、気の毒なぐらい落ち込んでいてなんだか可哀想に思えてくる。

「もとはといえば、信号無視して飛び出した彼が悪いんですから」

「でもね」

「あっ、それなら、家まで送ってくれれば、それでいいですから」

 悪魔を連れて地下鉄の電車に乗るのは面倒、タクシーでも拾おうかなと思っていたエリカにとっては好都合だった。

「そんなことでいいなら、ぜひ、送らせて下さい」

 と終始低姿勢の加害者は言った。



 車の後部座席の乗ると悪魔は珍しそうに見回した。

「馬車とは、ずいぶん違うものだな」

「何も知らないのね。馬の力で引っ張るんじゃなくて、エンジン、つまり、自らの力で動いているのよ」

「自力で動いているのか? 随分と進歩したものだ……」

 感心する悪魔。

「この車、あのエル型のエンブレムは確か…」

 エリカがスマホで車の名前を調べる。

『レクサスLS500hエグゼクティブ』

 

 ――この車、最上級モデルじゃない。


「一千万円以上はする高級車。しかも、馬力が400馬力だって」

「400頭の馬が引いているのか?」

「ぷっ、ほんと、なんにも知らないのね」

 長年、絵の中に閉じ込められていたのだから知らないのも当然、笑ってはいけないと、笑いを堪えながらエリカが説明する。


 男性がルームミラーで後方の二人をチラチラと見る。

 二人の容姿に、ただならぬ者であると感じていた。

 俳優に、そのマネージャーだと。

 大事な顔に傷が付き、ドラマの撮影に影響が出るのではと案じ、高額な慰謝料を請求されるものと覚悟していた。

「……君達は、その、芸能関係者なのかい?」

「いえ、ただの一般人です。彼、ちょっと変わってはいますが」

 と苦笑いのエリカ。

「そう、それは良かったよ」

「それより、この車、高級車なんですよね。思いっきり傷が出来ちゃったみたいで」

「保険が、対物保険が下りるから心配はいらないよ。それより、彼氏さんの傷の方が心配だ。頭だから、後遺症が残るかもしれない。やはり、病院に行った方がいいんじゃないのかい」

「いえ、大丈夫です」

「そうか。でも、万が一何かあったら、ここに電話してくれればいいよ」

 振り向いた男性が手を差しのべながら名刺を渡した。

 手渡された名刺を見ながら、


 へぇ~、だから、大事な時期で、どうしても事件沙汰になりたくないって言ったんだ。まだ若いのに、凄いじゃない。


 と後部席から運転する男性を見てエリカは感心した。


 後部座席の密室空間。

 運転手に気兼ねなく、くつろぐことが出来た。

 高級車の中は外の喧騒を完全に遮断し、悪魔との時間を過ごす。

「ねえ、名前はなんて言うの? 生まれは? どこから来たの? 彼女とかいるの?」

 興味本意でズケズケと質問する。

 悪魔にとって、人間に自己紹介させられるのは初めて。そもそも人間と対等に話したことはなく、自分を恐れない人間などいなかった。

「それは……」

 初めての経験で、ガラにもなく悪魔が戸惑う。

「予に名前など無い。人間と違って、呼び合う仲間など必要ないからな」

「まあ、強がっちゃって。寂しなら寂しいって、素直に言えばいいのに」

「だ・か・ら、仲間など必要ないと言っているだろう」

「つまんないわね。じゃー、『レイ』でどう? 今のあなたによく似た俳優さんの名前よ」

「レイ、か。全く……予に勝手に名前など付けるとは、どういう女なんだ。予を飼い犬か何かと間違っているのではないのか」

「ポチやジロなんてよりはましでしょう」

「それは、そうだが……」

 やれやれ、とばかりに頭を掻いた。


「今度は住んでいた場所。生まれた場所は何処なの」

「生まれた所は、真っ赤な世界。それしか覚えていない」

 悪魔が言うと、エリカの額に手を当てようとした。

「えっ?」

「何もしない。目を閉じて、予の送る気を感じろ」

 と悪魔が説明する。

「うん、分かった」

 エリカが頷いて、言われた通り目を閉じた。


「真っ赤な世界……。ここって火山、そう火山の中よ」

「そうだ、予は火山の噴火によってこの世に出て来た。多大の損害を出しながらな。それ故、人間共から忌み嫌う存在となったのだ」

「ふぅ~ん、火山の中か。じゃあ、あなたは悟空の親戚ね」

「ゴクウ?」 

「斉天大聖・孫悟空。お猿の妖怪よ」

「猿、この予が猿だとぉ」

「そうよ、レイは、この世界のことをなんにも知らない、お猿さんよ」

「ウッ……」

 この地上で唯一無の存在であることを自負している悪魔。

 世界の支配者とならんとする悪魔が、猿と同等の扱いを受け、酷いショックを受けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ