仕返し
「ここが、現代の世界か……」
悪魔が見回すと、六本木ヒルズや東京ミッドタウン、虎ノ門ヒルズなどの超高層ビルが見える。
ずいぶんと変わったものだな、と思い、
「この全てが予のものになるのか」
満足そうに悪魔が言った。
「今気付いたんだけれど、悪魔って日本語が喋れるのね。英語とかフランス語じゃないの? 確か、ヨーロッパ出身のはずなのに」
「職員どもの会話を聞いていて、自然と覚えた。それに、絵画の説明文を見て、文字も覚えたぞ」
「ふぅ~ん、凄いわね」
感心するエリカに、
「助かった」
と一言、礼だけを言って立ち去ろうとする悪魔を、
「ちょ、ちょっとぉ、待ってよぉ!」
とエリカが引き留める。
「なんだ?」
「助けてあげたのに、何もしてくれないの? あの時の約束はどうなったのよ」
悪魔を相手にひるむことなく強い口調で言った。
「約束? ああ、そうだったな。で、願いとはなんだ? この国の統治者、皇帝にでもなろうというのか」
「皇帝? 馬鹿じゃないの」
「バカだと。ハッハッハー、気の強い女だ。まあ、一万もの人間を皆殺しにすれば、皇帝になれるだろう」
「そんな、つまらない願いじゃないわよ!」
「つ、つまらないだと!」
「そうよ。今の私の願いはね、仕返しすること。私をもてあそんだ、最低な男に仕返ししたいのよ」
「なんだ、たった一人の人間を殺せばいいんだな。簡単なことだ」
「殺す殺すって、簡単に言わないでよ。何故、そう平気で人を殺すって言えるの?」
「それは、予が悪魔だからだ」
「それは、そうよね……いや、間違っている。簡単に人を殺してはいけないのよ!」
「とにかく、仕返しをすればいいんだな。ある男を半殺しに」
うっとおしい女と早く別れようと悪魔は急かす。
「半殺し……。まあ、なんでもいいわ。その前にあなたのその身なり、なんとかならないの? コスプレと言えばそれまでなんだけれど、どうも怪しく見えるわね。この先は大通りだから、多くの人がいるわ。ハロウィンはとっくに終わっているし、クリスマスにはまだ早い。速攻で職務質問されるわよ」
「人間にか、なれる。活動するには人間の姿でなくてはならないからな」
「まさか、変化の術? 変身能力があるのね。だとしたら、髪が長くセンター分けで、キリッとした目、端正の整った顔、それでいてベビーフェイス。モデルで俳優の、あの……」
「そう都合良く変われるわけがないだろう。加工は出来ない、元々の顔だ。見た目が人間になるだけだからな」
「ふう~ん、そう」
でも、人間に代わるってことは……。
漫画にでてくる変身後の主人公は一糸まとわぬ姿。
それを想像すると、エリカが顔を赤らませながら悪魔の下半身を凝視する。
「ちゃんと服は着ているぞ。予とて、人間の常識は知っているからな」
見透かしたように悪魔が言うと、
「そ、そうよね。目のやり場に困るから。それこそ変質者として捕まるわね」
気にしてないとばかりにごまかす。
悪魔が手に力を込めると、エリカの顔に近付ける。
「――ちょっとぉ、何すんのよ! こんな所で」
あからさまに嫌そうに言うが、
「何もしない、お前の思考を感じ取るだけだ。現代の衣装がどんなのか、分かるだろう」
と悪魔は説明する。
「こんなことで、流行りの服が分かるの? さては、私の身体が目当てなんでしょう。素直に言いなさいよ!」
「誰がお前を。気が散るから、大人しくジッとしていろ」
そう悪魔は言いながら、大きな翼で体を隠すように覆う。
すると、悪魔が一瞬で消えた。
――どこ? どこに行ったの。まさか、帰たんじゃ……。
エリカの目の前に人影が――人の男性が立っていた。
「何をジロジロ見ている、予だ」
「予? じゃあ、悪魔なのね」
エリカが言って、目を輝かせながら悪魔を見詰める。
「確かに、悪魔の面影が残っているわ……。悪魔のくせに、カッコ良い……私好みの、理想の男性じゃない」
思わず飛び付き、悪魔を抱き締めた。
高身長で、外国人と見間違うほどのハーフっぽい顔立ち。整った凛々しい眼鼻立ちと、どの角度から見てもイケメン。
「まるで、ドラマの世界に居るみたい……見れば見るほど、ハーフ俳優の代田レイだわ」
心の声が漏れる。
顔立ちがハッキリしていて目は二重、鼻筋が通ったハーフ顔。
「日本人にもかかわらず、いえ、もともと外国人? だから、日本人のような顔立ちね」
仕返しの用意万端整ったところで、エリカはシンゴに『分かれてあげるから、最後に一度会いましょう』と書いて送信する。
すると、待っていたかのように、
『分かった。今からそっちに行く』
すぐさま返信がきた。
これで良し! とエリカは気合を入れた。
国立新美術館に隣接する人気の無い青山公園で待っていると、タクシーに乗ったシンゴが遣って来た。
新しい彼女を見せ付けるようにしっかり腕組みをしている。
二人は嬉しそうにしていて、その顔は自慢に満ちた表情だった。
エリカは、動揺を隠すように大きく息をした。
そして、絞り出すような声で、
「最後に一つだけ聞かせて。私のどこが嫌だったの」
恐る恐る聞いた。
「エリカと居ると疲れるんだよな。綺麗な顔に見合わず気が強いというか、男勝りなところ。この先、怯えながらなんて付き合えないだろう。自己中心で思いやりが無い。はっきり言う、エリカは俺にとって小悪魔だった。いずれ魂までも抜き取られそうな気がしていたんだ」
上手いこと言うわね、と言わんばかりに横で黙って聞いていた彼女が、
「ぷっ」
と噴いた。
「無駄に明るく元気なところも嫌だった。こっちは落ち着きたいのに、うっとおしいんだよ」
「なら、そう言ってくれればいいのに」
「その、空気の読めないところも嫌なんだ。なんでも自分を中心に動こうとする」
「そ、そんな……。シンゴに喜んでもらおうと必死だったのよ。将来のために、シンゴと一緒に居られるように、総合職を諦めて事務職に専念したというのに……」
唇を噛み締めながらエリカが言った。
居たたまれずに彼女も口を挟む。
「いっつも、あなたの愚痴を言っていたわ。早く別れたいって。でも彼、言い出し難くて。私という本命が居るのに、どんな気持ちで付き合っていたのかしら。可哀想で、笑いが止まらないわね、オ・バ・サ・ン」
勝ち誇ったように嫌味を言った。
「お! オバサン……」
唖然とするエリカをよそに、
「さっきからシンゴって名前で呼んで、もうオバサンとは関係ないんだから、気安く彼の名前を呼ばないでくれます!」
強い口調で言ってきた。
何よ、こいつ、口が悪い。少しぐらい若いからって良い気になって。いやな奴。
「……分かったわ」
と自分に言い聞かせるように言ったエリカが、
「私もね、理想の彼氏が出来たの。そのことを告げようと、今日会う約束をしたんだから」
悔しさのあまり嘘を付いた。
「嘘付け!」
嘘を見透かしたシンゴが言うと、
「居るじゃない、すぐ後ろに」
エリカが言って指を差す。
「後ろ?」
シンゴが振り向くと、いつの間に男が立っていた。
「ビックリさせるんじゃねーよ!」
自分よりも背が高く男前、見下ろすように見る悪魔に声を荒げて言うが、ケタ違いのカッコ良さに、付き添っていた彼女が思わず見とれてしまう。
「あれだろ、ホスト。金にものを言わせ、一日限りの彼氏。お金を払ってデートや食事をする出張ホストだろ。きっとそうだ」
国宝級のイケメンさに嫉妬したシンゴが暴言を吐く。
「あれだけの男前、きっと高い金払って付き合ってもらっているんだよな」
ホストだと決め付けエリカを罵る(ののし)る。
「違うわよ、そんなの。私、あなたと違ってお金に余裕がないし、そんな無駄遣いしないもん」
「なら、なんでこいつがお前なんかと」
と信じられない様子のシンゴが言うが、
「あなたにはもったいないくらい、私が魅力的ってことでしょうね」
言い負かされて面目を失う。
「クッ……」
シンゴがヤケを起こし、
「部外者は引っ込んでいろよ!」
怒りの矛先を悪魔に向けて、声を荒げて悪魔に殴り掛かった。
悪魔はシンゴのこぶしを軽く受け止める。
「――痛ぅ」
怪力で締めあげられ、
「ちょ、ちょっとタンマ……」
シンゴが青白い顔をしながら悲鳴を上げる。
「予に手を向けるとは、愚かな奴、面白い」
不敵な笑みを浮かべた悪魔にシンゴはゾッとしたが、
「よ、だと。何カッコつけてんだよ! 頭がおかしいんじゃねえのか」
後には引けず虚勢を張った。
「あ、痛、タタ、ター」
悪魔はこぶしを強く握り締める。
そして、ヒョイとシンゴを投げ飛ばした。
『ズザザーザーー』
着陸時の飛行機のように地面に着くと、その勢いで数メートルも滑った。
「きやぁー!」
凶暴な悪魔の本性を見た連れ添いの彼女が悲鳴を上げて、シンゴを見捨てて我先にその場から逃げ去った。
「ちょっとぉ、やり過ぎよ!」
心配したエリカが慌てて近付くと、シンゴは白目をむいて気絶していた。
「大丈夫みたいね、ちょっと意識を失っているだけだわ……」
シンゴは無様な格好で横たわっていて、その格好は情けない姿だった。
百年の恋も、一瞬にして冷めてしまった。
「殺すか?」
悪魔が声を掛ける。
「やめて、もういいわ。ヨリを戻せたらいいのにと、ついさっきまで思っていたけれど、今、完全に吹っ切れたわ。こんな男を一度でも好きになっただなんて、私には男を見る目が無かったんだなと思えてくる。これでスッキリしたわ」
「フッ、お前のことを小悪魔とは、よく言ったものだ。お前も予と同類だな。でもこれで気が済んだか、予の役目も終わっただろう」
悪魔はそそくさと立ち去ろうとした。
「どこへ行くのよ。誰のお陰で、あの絵から出られたというの。もっと付き合っても良いんじゃない」
当然でしょと言わんばかりにエリカが引き留める。
「ほらきた、この男の気持ちが分かる」
「何か言った?」
「別に。やれやれ」
悪魔らしからぬ溜息を付いた。
「お腹すかない?」
「予は、飯など食わぬ。人間の作った飯はな」
「そう。私もあんなことがあったから、食欲が無くなって」
「飯は食わぬが、人間の魂を食らう」
「それって…」
「ああ、すでにお前の魂の半分を吸収した」
「――え!」
驚くエリカを見て、
「ハハハッ、冗談だ。お前の魂はマズそうだからな」
と笑って言った。
「ん、もぉう、驚かせないでよ! にしても、悪魔も冗談が言えるのね」
愛嬌もある理想の男性。
悪魔の顔を見ると、ついうっとりしてしまう。
「ねえ、家に来る? どうせ行く所はないんでしょう。シンゴの家にお泊り、の予定だったんだけど、行く所がなくなったから」
「行く所がない、か、確かに、そうだな。ここは極東の日本という小さな島国だったんだな。現代の環境がどんなものか見ておきたい」
「くれぐれも、変な気は起こさないでよね」
エリカが、まるでそれを望んでいるような視線を向けたが、
「バカな。予が人間の、それも女如き者にうつつをぬかす訳がないだろう」
と女を馬鹿にするよう悪魔が言った。
「さっきから、お前お前って言って、ムカつくんだけれどぉ。それって、パワハラよ。私の名前はエリカだからね。ちゃんと名前で呼ばなくちゃ、今の社会じゃ裁判沙汰になるのよ」
「人間のメスごときに、名前で呼べるものか」
「メス、ですってぇ! それ、絶対にアウトだからね!」
もの凄い剣幕で息まくエリカに、さしもの悪魔も後ずさりしながら、
「分かった、分かったよ」
と詫びを入れる。
会話に夢中になり、大通りの赤信号に気付かず渡ろうとする悪魔。
「――あっ! 駄目よ」
慌ててエリカが制止しようするが、
『キィーー』
間に合わなかった。
青信号で交差点を通過しょうとする車に悪魔が勢い良く引かれた。
『救急車!』
通行人が叫ぶ。
車は止まったが、ハザードを点けたまま運転手が出てこない。
覗き見ると、人身事故起こし,大変なことをしてしまったと頭を抱えてうなだれている。
『救急車。早く救急車を!』
と何人もの通行人が声を上げるが、
「大丈夫です」
慌ててエリカは返事する。
「君ぃ、起き上がって来ないぞ。彼氏さんが心配じゃないのか?」
「あら、ほんとだ。大丈夫なのかしら?」
悪魔は倒れたまま動かない。
――まさか、大怪我したんじゃ……。
むくりと起き上がった悪魔の額から赤い血が流れていた。
急いで駆け寄ったエリカがハンカチで血を拭いながら、
「大丈夫?」
不安そうに声を掛ける。
「心配はいらぬ。人間との抗争では、よくあることだ」
案ずることはないとばかりに悪魔は言った。
「でも、血が出ているじゃない」
「一瞬、動かなくなっただけだ。卑怯にも、不意を衝いて牛が急に突っ込んで来たからな。さすがの予も、対応出来なかった。どうも人間の姿だと防御が弱く、力が出ない」
「そうなの。でも、むやみに悪魔の姿に戻らないでね、大騒ぎになるから」
と念を押したエリカが振り返って、
「どうも、お騒がせしました」
頭を下げながら言うと、心配していた通行人が散って行った。
「でも、悪魔も血が赤いのね」
「当たり前だ。どんな生き物も血は赤いだろう」
「流れる血が緑色だと、怪しまれるところだったわ」
と一安心のエリカ。
程なく、車から出て来た男性が声を掛ける。
「怪我は、怪我はないですか?」
見ると、メガネを掛けた、いかにも高学歴そうでエリートっぽい顔立ちの若い男性。気の毒なぐらい顔面蒼白だった。
「よくも、予の身体に傷を付けてく…」
怒りをあらわに、加害者に迫ろうとする悪魔の口を手で押さえながら、
「無事だったんだから、いいじゃない」
とエリカが悪魔の怒りをなだめる。
「……すいません、なんて言ったらいいか……。そうだ、救急車を呼ぼう」
悪魔の素性がバレたら、それこそ大変よね。
面倒なことにならないよう、
「いえ、いいです」
とエリカは断った。
「しかし……」
「この人、鍛えているんで」
「鍛えてるって言っても、血が出ているじゃないか」
「血の気が多いから、少しぐらい出た方がいいんです」
「こんな時に、冗談言っている場合じゃないだろうに」
言いながら、
「……じ、示談金を払うから、この場は見逃してくれないか。お願いだ、今は大事な時期で、どうしても事件沙汰になりたくはないんだよ」
「示談金……」
お金でなかったことに、との言葉にエリカはムッとしたが、気の毒なぐらい落ち込んでいてなんだか可哀想に思えてくる。
「もとはといえば、信号無視して飛び出した彼が悪いんですから」
「でもね」
「あっ、それなら、家まで送ってくれれば、それでいいですから」
悪魔を連れて地下鉄の電車に乗るのは面倒、タクシーでも拾おうかなと思っていたエリカにとっては好都合だった。
「そんなことでいいなら、ぜひ、送らせて下さい」
と終始低姿勢の加害者は言った。
車の後部座席の乗ると悪魔は珍しそうに見回した。
「馬車とは、ずいぶん違うものだな」
「何も知らないのね。馬の力で引っ張るんじゃなくて、エンジン、つまり、自らの力で動いているのよ」
「自力で動いているのか? 随分と進歩したものだ……」
感心する悪魔。
「この車、あのエル型のエンブレムは確か…」
エリカがスマホで車の名前を調べる。
『レクサスLS500hエグゼクティブ』
――この車、最上級モデルじゃない。
「一千万円以上はする高級車。しかも、馬力が400馬力だって」
「400頭の馬が引いているのか?」
「ぷっ、ほんと、なんにも知らないのね」
長年、絵の中に閉じ込められていたのだから知らないのも当然、笑ってはいけないと、笑いを堪えながらエリカが説明する。
男性がルームミラーで後方の二人をチラチラと見る。
二人の容姿に、ただならぬ者であると感じていた。
俳優に、そのマネージャーだと。
大事な顔に傷が付き、ドラマの撮影に影響が出るのではと案じ、高額な慰謝料を請求されるものと覚悟していた。
「……君達は、その、芸能関係者なのかい?」
「いえ、ただの一般人です。彼、ちょっと変わってはいますが」
と苦笑いのエリカ。
「そう、それは良かったよ」
「それより、この車、高級車なんですよね。思いっきり傷が出来ちゃったみたいで」
「保険が、対物保険が下りるから心配はいらないよ。それより、彼氏さんの傷の方が心配だ。頭だから、後遺症が残るかもしれない。やはり、病院に行った方がいいんじゃないのかい」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。でも、万が一何かあったら、ここに電話してくれればいいよ」
振り向いた男性が手を差しのべながら名刺を渡した。
手渡された名刺を見ながら、
へぇ~、だから、大事な時期で、どうしても事件沙汰になりたくないって言ったんだ。まだ若いのに、凄いじゃない。
と後部席から運転する男性を見てエリカは感心した。
後部座席の密室空間。
運転手に気兼ねなく、くつろぐことが出来た。
高級車の中は外の喧騒を完全に遮断し、悪魔との時間を過ごす。
「ねえ、名前はなんて言うの? 生まれは? どこから来たの? 彼女とかいるの?」
興味本意でズケズケと質問する。
悪魔にとって、人間に自己紹介させられるのは初めて。そもそも人間と対等に話したことはなく、自分を恐れない人間などいなかった。
「それは……」
初めての経験で、ガラにもなく悪魔が戸惑う。
「予に名前など無い。人間と違って、呼び合う仲間など必要ないからな」
「まあ、強がっちゃって。寂しなら寂しいって、素直に言えばいいのに」
「だ・か・ら、仲間など必要ないと言っているだろう」
「つまんないわね。じゃー、『レイ』でどう? 今のあなたによく似た俳優さんの名前よ」
「レイ、か。全く……予に勝手に名前など付けるとは、どういう女なんだ。予を飼い犬か何かと間違っているのではないのか」
「ポチやジロなんてよりはましでしょう」
「それは、そうだが……」
やれやれ、とばかりに頭を掻いた。
「今度は住んでいた場所。生まれた場所は何処なの」
「生まれた所は、真っ赤な世界。それしか覚えていない」
悪魔が言うと、エリカの額に手を当てようとした。
「えっ?」
「何もしない。目を閉じて、予の送る気を感じろ」
と悪魔が説明する。
「うん、分かった」
エリカが頷いて、言われた通り目を閉じた。
「真っ赤な世界……。ここって火山、そう火山の中よ」
「そうだ、予は火山の噴火によってこの世に出て来た。多大の損害を出しながらな。それ故、人間共から忌み嫌う存在となったのだ」
「ふぅ~ん、火山の中か。じゃあ、あなたは悟空の親戚ね」
「ゴクウ?」
「斉天大聖・孫悟空。お猿の妖怪よ」
「猿、この予が猿だとぉ」
「そうよ、レイは、この世界のことをなんにも知らない、お猿さんよ」
「ウッ……」
この地上で唯一無の存在であることを自負している悪魔。
世界の支配者とならんとする悪魔が、猿と同等の扱いを受け、酷いショックを受けるのだった。