プロローグ 師走
夏真っ盛り。クリスマスにはまだ早いのですが、12月だと思って読んでいただければと思います。
冬晴れが心地良い師走。
クリスマスのイルミネーションが華やかに街を彩る季節となり、白い息に冬の訪れを感じさせる。
慌ただしく過ぎてゆく日々。
12月は寒さが厳しくなるのに加え、年末の準備などで忙しい時季。
そんな中でも、一年の最大のイベントであるクリスマスを間近に控えたある日。デートの約束をしていた神田エリカ・(24歳)は、久しぶりに会う彼氏であるシンゴのことを想い、胸をときめかせていた。
都内の銀行に勤めるエリカは、窓口での口座作成、振込・両替などの手続きはもちろんのこと、書類作成、会議準備や来客の対応といった業務も手掛けるオフィスレディと呼ばれるOL。
彼女は総合職ではなく一般職。将来、幹部として管理職に昇進する総合職とは違い、中心業務が事務ということもあり、あまり高い年収は見込めない。
そのため、日々倹約に努め、派手な生活は極力控えているのだが……。
男性と女性が出会いを求めるために設けた飲み会。
その合コンの席で知り合ったのが、いっこ下のシンゴだった。
ちょっとキザそうな男だったが、お金があって暮らしが派手。自分には無い都会っぽさが魅力的だった。
見た目はわりと良くて話が面白く、人懐っこくて一緒に居て楽しい。ちょっと良いかなぁ、って思い、それが恋愛に発展し付き合い始めるも、付き合ってみると遊び人。いわゆるチャラ男だった。
それでも、女子高から女子大へと進み、異性との出会いが無かったエリカにとって初めて出来た彼氏。
人生を楽しむため、また、将来が幸せになるためには、どうしても彼を繋ぎとめたかった。
過剰な束縛がシンゴを遠ざけているとも知らずに……。
「今日の仕事終わりに、六本木にある国立新美術館に行かない。昔の言い方で、花の金曜日? って呼んでいたわよね」
「ああ、あったな、美術館が……」
「そう、海外の有名な作品が一堂に集まる展覧会があるんだって」
絵画には興味のないエリカだが、大人の雰囲気を醸し出すお洒落な美術館。
さりげなく、彼からの本気の告白が告げられるように仕向ける、が。
「でも、仕事がな……」
「仕事?」
「そう、今日は遅くなるんだ……」
「遅くなるって、今日、会う約束していたよね」
「ああ……」
「遅くなっても構わないわよ。確か、企画展会期中は閉館が20時まで延長されているんだって。私、待っているから」
「待つって言われてもなぁ……」
「何よ、私達、付き合っているのよね?」
「まあ、一応」
と、つれない返事。
「一応だなんて、ハッキリ言ってよ。付き合っているって」
「お、おう」
「もうすぐクリスマスなんだし、一回、会っておきたいから」
「俺、疲れてるし」
「もぉーう、そう言って、何日もあっていないんだよ。私、待っているから、ずっと」
「いや、その……」
「約束だよ。ぜぇーったいに来てよね」
と言って一方的に電話を切った。
いつも消極的なシンゴに、強引にデートの約束と取り付ける。
これで、良し。仕事帰りだから、そのまま泊まりってことになるわね、きっと。
うふっ。計画通りの、楽しいクリスマスになりそう。
金曜日だから、土曜日曜と二日連続で休み。
そのまま彼のお家かホテルで一晩明かす可能性は高いと、浮かれるエリカには、シンゴが乗る気でないことに気付いていなかった。
2時間後ぐらいに一話を投稿します。少々お待ちください。