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†ブラックボックス・ネスト†  作者: 猩々飛蝗
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おでん海

 じゃがいも。

 水底で煮崩れするそれは断末魔の叫びをそこはかとなく漂わせていて、直上を通過する際はどことなく陰鬱な気分にさせられる。それらに根元を埋めて生え、波に揺蕩う昆布は結ばれており、六角形の結節点がじゃがいもたちを隠している。隠しているのに、明らかにそこにじゃがいもの存在を確信させる。何故こんな低層を泳いでいるのかと言えば、上方にはしらたきの群生地があるからだ。ちくわの主食ははぐれしらたきと呼ばれる一本きりのしらたきであるが、それらが纏まってしらたきとなると、ちくわは手も足も出ない。あの塊に圧倒され、取り込まれて終うだけだ。とすれば僕もそうなってしまうのだろう。避けるには十分すぎる理由。ちくわの群生地から加速する渦へ向けて旅立って、僕とは似ても似つかないタネたちを見た。「僕とは何か」という問いについて、「僕はあれではない」「あれは僕ではない」というヒントだけが積みあがっていく。ちくわと僕の違いはイマイチわかりかねているけれど、こうしてあからさまに異なる存在を知っていくと、核心にはさわれないまでも、段々と答えに近付いて行っているような気がしてくる。しらたきの群生地下方を抜けたものの、水面に差し込む明かりが昏い。どうしたことかと随伴のちくわに尋ねてみると、水面にハンペンが浮いているのだろうとのことだった。はた迷惑な話である。と、目の前を、体の下面だけしわくちゃに絞って内部の汁を排出し、その反動で上昇するがんもどきが下から上へと高速で通り過ぎていく。筒を絞って一方向に加速し、曲がるときは筒後方をなんとか曲げるしかない我々と違って、任意方向に向かった全身の表面がスラスターになりうるがんもどきは優秀な狩人だ。今回は恐らくハンペンを狙っていたために見逃してくれていたのだろうが、我々が狙いだったのなら通り過ぎた瞬間に我々と逆側の体表を絞って、その効きすぎる小回りで捕捉されていただろう。あれが群れの斥候でないとも限らない。下方から大量のがんもどきが浮上してくる可能性。ぞっとしない。我々は全力で筒を絞った。


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