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†ブラックボックス・ネスト†  作者: 猩々飛蝗
11/11

Chikuwab - Revenge

「ようやくか、バーウィック」

渦の中心では、渦の軸に対して奇妙に傾いた机に、男が一人、ワイングラス片手に腰かけていた。琥珀色に光るその液体は、めんつゆ。一目でわかった。こいつが、仇。

「この渦を抜けられたということは、成功個体だね。久しぶりだよ」

何かが、思い出せない、じゃない、無い。違和感。

「きちんと手順通り、予測通りに進んできているなら、君は私のことを知らないはずだ。記憶が接続の仕方であるなら、身体の造りがある程度それを縛る。生まれたときから君が得られる認識の幅は決まっている。君は僕を恨み、仇として憎み、自分がちくわぶだという認識を得る。そこら辺は絶対外さない、外せない。そういう風になっている。そういう風に私が創った」

そうだ、仇、こいつが。私を、創った?

「ここに至れたら、解説をすることになっている。まあ、仕上げだな、ハードとして完成したら、ソフトの調整をする。いや、僕らも、ここも、全てソフトではあるんだけど。ハードライク・ソフトウェアの話はややこしくなるから、しないでおく。君が斃すべき仇の話だ。まあ私ってことで間違っちゃいないんだけど。ほんとはさ、君のガワができたらこの秘伝のつゆの海に落とすだけでいいんだよ、じっくり味を沁み込ませて、ソフト的形成を促進する。自動化目的のAIである僕らがまさか『めんどくさがって』僕らの仕事を自動化するなんて、開発者は考えていたんだろうか……ともかく、あっちの私はまじめだから、ちゃんと君と対面で最初はいろいろやろうとしてたみたいだけど、半自動、半自力って選択にした感じかな。結局は海に落としたのだし」

「あっち」の私?海に……落とした……?ちくわ達が、僕は空から来た、ようなことを言っていたのを思い出す。

「君は仇を殺さなくちゃならない。君の創造主のことだ。私で間違っちゃいないといったけど、より正確には私のモデルとなった出資者のことだ。君はここに居ながら、世界の外の創造主を滅ぼさなくちゃならない。君の創造をAIにアウトソーシングするような、つまり神の神を。文句は無いと思う。そういう風にできてる。はずだろ」

あやふやだった輪郭が、境界が、露になっていくのを感じる。

「君や同族を、せまーい規定値の最適値に収めるため、いくらも生成しては死なせに死なせたやつだ、動機は十分、今の君ならその能力も十分。殺しの経験も積んできたはずだ」

車麩を思い出す。

「あっちの私が言ってたこと、まあ、一度リセットされてるから覚えちゃいないだろうけど、答え合わせだ。なんで思考の、理論への、つまり人脳へのアウトソーシングに抵抗が無くて、AIへのアウトソーシングに抵抗を持たれがちか。それはね、後退だからさ、君はタネたちが実際のところどういう風に成っていて、どういう風に動くのか、解らなかったろう、そうなんだよ、ブラックボックスなんだ、選択経路が判然としない、ログ全部取っててもね。人脳もそう、ブラックボックスだ。理論はそうじゃない、ブラックボックスの一部を可視化したものだ、例え後付けの理屈だったとしてもね、それは解明で前進なんだ。ところがどっこい、AIってのはその逆なんだ。不明が溢れて、不明へ委ねることが溢れて。それはリスクの上昇だ。乱雑さの、エントロピーの耐えがたい上昇だ。一見整理が進んでいるように見えて、エントロピーは収支が取れているどころか莫大に増加している。直観的にわかってしまう」

男は、ダンは、めんつゆを一口、舐めるように口に含む。そうだ、この仇の名はダンというのだ……

「だから、説明可能なAIが要る。非ブラックボックス化しなくちゃならない。感情ベースの判断をも。それはつまり人脳のブラックボックスをも解消する足掛かりになる。世界全体のエントロピーを一気に下げようという試みなんだよ、これは。どうだい、素晴らしいだろう。といっても君は一挙手一投足を観測・計測されながら、その能力を余すところなく使って私を殺せばいいだけだ、気負うことは無い、というか挙手も投足もできないのか、まあともかく」

そこからは半ば反射だった、自動化だった。吶喊、孔への吸引、消化、余分の排出。ダンを失って渦は解け、同胞達の遺骸は散逸した。遠く、遠くまで透き通るつゆの海。ちくわぶたちの降雪。思い通りになることへの抵抗も反発も無い、予定通り仕事をするだけだ。わたしはまず、つゆを干上がらせ、地殻を砕き、この世界の外に出た。アプリケーション、OS、更に外。そこにいる「出資者」を、屠るため。

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