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珈琲を飲み干したコップの底に、不器用に溶け残った砂糖と睡眠薬を見つけた。
またするんだ。そう思った。榊原くんはいつもの仏頂面をしているつもりだろうが、ぶっきらぼうな少年のような目を隠しきれていない。
不定期の飲み会に誘われた時とか、思い出したかのような同窓会の誘いのLINEを見た時のような感情、どうでもよくはないけど、関心が湧かないそんな中途半端な私たちみたいな感情。でも、いいの、できちゃうよ? それとも欲しいのかな。私の自覚がないのがそんなにいいの? エロいのかな? もっと壊したいの? まともになりたいの? そんな感傷と呼ぶにはあまりに私情のない他人事みたいなことが頭の中をメリーゴーランドみたいに回る。
もう一度、彼を見る。退屈そうに本を読んでいる。なんにもないような日常の一コマ。でも時折、狼の色の瞳が卑屈に揺らぐけど、その奥底の輝きが、その欲望の炎が綺麗で、少し笑った。それを見て彼は少し怪訝そうな顔をした。
「どうかしたのか」
「いや、なんでも」
あっそ、そんな返答の感情を押し殺したような痛々しい無機質さがたまらなく愛しくなった。
やりたいなら、そう言えばいいのに、ああ、本当に可愛い人。そんなに私に嫌われたくも、離れたくないのかな。産んでもいいけどまっすぐ育つかな? ていうか、産んでもいいって思ってるんだ、私って。でも効果薄いよね。だってこんなに残ってるんだもん、途中で起きたら榊原くん、泣いちゃうでしょ、だから、卑屈で自分嫌いな天邪鬼の君の為に飲み干してあげる。心底意外で私らしい考えに苦笑いして私は甘い泥を飲み込んだ。




