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第84話 裁判

6-84-99


王の間には兵士達が並んでいる。

一番奥の豪華な天蓋付きの場所、そこに座っている白ひげを蓄えているのが王様だろう。

近くには宰相や他の貴族らしき人物もいる。

王都には土地を持たずとも、行政官としての功績で貴族の地位を与えられる奴らがいるとは聞くが、その類かもな。


「さて『エリーマリー』の諸君。王にはすでに子細を伝えておる。これから王の裁定を聞くが良かろう」


そう言うと、大臣がつらつらとアタシ達の罪状を延べて来る。


「これから罪状を述べる。一つ、千年前の王国にて侵入、暴れまわり治安を乱した罪、二つ、当時における城内の破壊。三つ……」


次々と罪状が読み上げられていく。

……リッちゃんは思った以上にめちゃくちゃやってんなあ。

肝心の本人は夢の中だけど起きて変な反論をされても困るからそのまま寝ていてもらおう。


「被告の主張では魔王の生まれ変わりであるとの事。しかしその主張の根拠は性別を変化したというだけで容姿は変わらぬ事から根拠に乏しく――」


あ、気がついたらなんかアタシ達が宰相にした抗弁になっていた。

宰相め。ナチュラルにアタシ達を下げるように話を持っていきやがって。

考察が間違ってないのが腹立たしいぜ。


「――以上をもって、王国の長年の宿敵であるリッチ・ホワイトとその仲間である『エリーマリー』のチームに対して王国の対応をこの場にて決めるものである。王よ。裁定をお願いいたします」


予想はしてたが一切口を挟む事もできないか。

王様は上を眺めて沈黙しているな。

どうするか考えているんだろうか。


マズイな、有罪だと周りの兵士が捕まえに来るだろう。

兵士ってのは集団で圧殺する事を目的にしてるからな。

個々のスキルが弱くても統率するスキル持ちがいると非常に厄介な事になる。


やがて、王様がこっちを向く。

……流石王様だ。目で鋭く射抜かれたような錯覚に陥るな。


「ここまでの経緯を含め内容は把握した。まず先に二つ。冒険者は礼儀作法に疎いと聞く。故にこの場での無作法を咎め裁く事は本件から逸脱し、公正さを欠く行為であると判断する。したがってこの場に限り、冒険者の礼儀作法に関しては特別に不問とする」


長々と説明しているが要するにマナー違反を許しますってか。

まあ他の貴族もいるしお墨付き貰えるならありがたい。


「次に冒険者に問う。宰相よりあった内容について相違は無いか?」

「概ねは、な」


多少悪意のある表現もあったが、厄介なことに間違ってはいない。


「ふむ……。『エリーマリー』のリーダーマリーと、副リーダーのエリーに問う。貴公らがリッチ・ホワイトに騙されていたというのであれば、今回特別に魔王の味方として扱う事からは免除しても構わぬがどうするか?」


おいおい、リッちゃんを切り捨てれば許してくれるってか?

エリーがアタシの手を握ってくる。

……ああ、分かってるさ。


「……悪いな。リッちゃんはリッちゃんなんだ。リッチ・ホワイトなんて男はここにはいねえ。だからアタシ達が騙されていたとか、そういうんじゃねえ」

「ええ、私も同じ意見です」

「そうか。ならばよい。『エリーマリー』のチームメンバー全員を対象として裁定を下そう」


ここで騙されていたとかなんて言って裏切れるわけねえだろ。

これまでやってきた仲間なんだからな。


「リーダーであるマリーに問おう。この国に対して、あるいは他の人間に対して害意はあるか? 魔族の使いではないと誓えるか?」

「……誓うぜ。アタシは魔族の使いではないし、向こうから敵意を向けてこない限りこっちから必要以上に攻撃を仕掛けたりしねーよ。それはリッちゃんも同じだ」


承知した、そう王様が呟いたあと再び上を見上げる。

しばらくなにかを考えていたようだったが考えがまとまったのか改めてこちらを見てきた。


ついにアタシ達の処分が決まるのか。

……最悪全力で逃走だな。


「千年もの過去から続く因縁とはいえ、罪状は魔王が本格的に動き出すより過去に遠く、魔王本人が起こした災禍に比べればささやかなものである。魔王の関係者というだけでそこまで遡及して罪を問う事は国家の平安および属国への関係に影響するものであると考える」


そこで王様はひと呼吸置いた。

改めてリッちゃんの方を見てくる。

リッちゃんはうつむいて何も反応がない。


……よくこの状況で眠れるな。


「仮に古き魔王の友人であったとしても、過去にいた歴代の魔王と今の魔王に連続性はなく、魔王として裁くのは妥当ではない。そしてリーダー、マリーよ。倒した魔族の数を述べよ」

「……二体、いや三体だ。今の魔王軍と直接関係ないやつも含めてな」


リッちゃんを解放したときに戦ったあいつも魔族だからな。

もしかすると話がばれているかも知れねえ。

話の整合性をとるためにもなるべく本当のことだけで情報を誘導しないとな。


「結構だ。『エリーマリー』の功績として魔族を討伐したという行為に違いはない。その者に歴代の魔王達が持つ罪を背負わせたところで魔邦人との関係を悪化させ、最悪は敵対するものである」


魔邦人?

……ああ、魔族の隠語かなんかか?

表向き魔族と繋がってるって事は記録に残したくないんだな。


「『エリーマリー』一行は魔王との関係の有無に関わらず王国を侵蝕する悪意は無いものと判断し、遠き過去は歴史書の中に封ずるものとする」

「ふむ、左様ですか。……以上ですかな?」


宰相のオッサンが伺うように王の方を向いて尋ねてきた。

言い回しはアレだが、無罪ってのに思うところがあるみたいだな。


「否。本件はこれよりリッチ・ホワイト改めリッちゃんと呼ばれる者が所属する『エリーマリー』が、王国に対し誤解を招いた件を対象として扱う」


アタシ達を改めて指定して来たな。

……王国への侵略疑惑は晴れたようだが、まだ続きそうだ。


「改めて本件を定義する。『エリーマリー』はA級冒険者『ラストダンサー』、そして我が国の宰相たるグロウに対して疑惑を与え、結果的にこの場を開くまでの事態となった。それは『エリーマリー』のチームの説明不足であり咎である」

「……否定はしねえよ」


そうか、元々の魔王関連だとポリーナ達や宰相のオッサンも知らなかったとはいえ魔王の仲間を引き入れたって扱いになるのか。


……それが分かっててオッサンはこの場にリッちゃんを引きずり出したんだな。

それだけの因縁があったってことか。


なら下手に逆らっても不味い。

様子を伺ってどこかで都合のいい方向に話を誘導して……。

ん? いま王様の奴が一瞬ウインクをしたような……、気のせいか?


「これより定義を改めた上で裁定を下す。冒険者『エリーマリー』一行は結果的に魔王の関係者を疑わせるような動きをした。

これは本人達が十全な説明をしていれば防げたものと判断する。本件における贖罪として、今後は敵対する魔族と戦う事に精進するとともに、王国への特別奉仕活動を命ずるものとする」


本題のリッちゃんのほうは不問になったか。

代わりに混乱を招いたからそこは簡単な処分で終わらせる、と。


特別奉仕ってのが気になるが……。

まあここまで来たなら大丈夫だろ。

エロい事なら全力でお断りするが。


「奉仕活動に関しては極秘として扱う。宰相と冒険者一行は奉仕内容を伝えるためここにしばらく留まるように伝える。それでは本件を終了とする」


皆が王様にたいして一礼をすると、集まっていた貴族たちはその場から去っていった。

残されたのはアタシたちと王様、宰相のオッサンだけだ。

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