第83話 牢屋へ
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ウルル達は感違いしてたようだな。
この宰相オッサンは一見ふざけているが千年間、国のために身を削ってきた妖怪だ。
正直アタシが今までやり込めてたのは本気になってなかったからだ。
国を背負う覚悟から来る凄みは魔物と戦う時の圧力とはまた違ったモノがある。
久々に背筋に汗が流れるぜ。
「……だが、おぬし等の心配は最も。王には公平な裁定を下すようお願い申し上げよう。ワシが育てた代々の王に誓ってな」
オッサンは教育係もやってたのか。
代々の王に誓う……。
つまりオッサンの誇りと国の威信、尊厳をかけて公正さを保つ、と。
……ここまで言われちゃ折れるしかねえな。
「分かった。裁定をよろしく頼む」
「良かろう。さて、分かっていると思うがリッチ・ホワイトを含む『エリーマリー』のメンバーは魔法封じの牢屋にて数日生活してもらう」
やっぱりな。まあ暫定犯罪者だもんな。
仕方ないか。
「そして、見習い冒険者の二人は裁定が終わるまで別室にて軟禁状態とする」
「分かったじゃんよ」
「そんな! 姉さん達を置いて一人だけ美味しいもの食べるなんて!」
いやルルリラ、お前なんか勘違いしてないか?
お前ら事実上の人質だよ?
もしかして中庭で王宮の料理食べさせて貰えるとか話してたから勘違いしてるのか?
「落ち着けルルリラ。アタシ達は言うとおりにするさ。……それで何日くらいかかる?」
「ふむ、遅くても一週間というところかのう。さて、話は以上じゃ。次は王の面前にて会おう」
宰相が懐からベルを取り出して鳴らす。
すると間もなく兵士がやってきて、アタシ達を牢屋へと案内した。
「ここまでは予想できませんでした」
「ゴメンね、僕のせいで……」
「まっ、なっちゃったものはしゃーねえ。ドンと構えていようや」
アタシ達は三つある牢屋に一人ずつ、それぞれ押し込められている。
牢屋に鍵はかけられているが、拘束具の類は付けられていない。
まあ、今回はアタシ達が大人しく捕まったってのもあるんだろう。
魔法を封じるだけでも十分だからな。
「……でもまあアタシは魔法使えるな」
「マリーだけ良いなあ」
「リッちゃんもここで魔法が使えるように研究してみたらどうだ?」
「多分この牢屋、僕が作った魔法理論をベースにしてる魔法を組み込んでると思うんだけど、根源との繫がりを弱くするから普通の魔法は使えないんだよ。使えるマリーがおかしいんだよ?」
自分が理論の発明者だから無理とか遠回しな自慢か。
あと、アタシの事はおかしいんじゃない。凄いんだ。
「自分が発明した理論と戦って自分自身を乗り越えてみせろ」
「そんなあ……。あ、でももしかしてエリーも使える?」
「やってみますね。……んー、駄目です、普通の魔法は使えません。ただマリーと同じような無詠唱の魔法ならできそうです、お揃いですね!」
そういえば基礎魔法の延長線でならエリーも無詠唱で使えるんだったな。
威力は低いから戦闘だと使えないけど、今度一緒にお揃いの可愛い魔法でも考えてみようかな。
「うーん、じゃあやっぱりマリーのスキルで干渉を解除して……? いや根源にたよらず自身の魔力を……。それなら精霊の言っていた……」
なんか一人でブツブツ呟いてる。
研究者モードになって没頭しはじめたか。
こうなったらしばらく戻らないな、ほっとこう。
「良い方向に話が転がると良いがな」
「きっと大丈夫ですよ! これから好転していきます」
まあ確かにな。
そもそも最初のエリーのスキルで厄介事に巻き込まれるのは確定だったわけだ。
コレより酷い事が在るとすれば死ぬとか有罪確定とかそんなんだ。
三人で話をしていると途中で兵士たちが来た。
「すまないなお嬢さん達。これも仕事なんでね」
「構わねえよ。ウルル……ちびっ子達は大丈夫か?」
「ん? ああ、大丈夫だよ。宰相は公私を分ける人だから。プライベートだと子供に優しいんだよ」
どうやら獣っ娘は思った以上に大切にされてるらしいな。よかったぜ。
兵士は飯を置いて去っていく。
普通のパンとスープにサラダだ。
重罪という割に待遇は悪くない。
今の心残りはエリーと一緒に寝れないことくらいだ。
……それが一番嫌だなあ。
「よしっ、一回帰るか」
「え? ちょっとマリー! 僕まだ魔法を使う方法見つけてないよ!?」
なんだ、真面目に考えてたのか。
偉いなリッちゃん。
「アタシは魔法が使えるからな。……よっと」
金属魔法で鍵を操って外してやった。
二人の扉も同じ要領で鍵を外してやる。
「さあエリーもリッちゃんも一回帰るぞ。流石に逃げ出すとマズイから戻ってくるけど、色々対策含めて館に戻らねえとな」
「えっと、大丈夫なのでしょうか?」
「任せとけ」
アタシは土魔法で石でできた壁に穴を開けて抜け道を作る。
ここは地下だが、上に向かっていけばなんとかなるはずだ。アタシはしばらく移動したところでエリーに声をかける。
しかしダンジョンの素材をベースにした岩やレンガだと魔法が効きにくいらしいが、ここの牢屋は案外平気だな。
魔法封じの紋様が書かれているだけで普通の材質だからか。
上へと移動していく途中、ふとあることを思いついた。
「エリー、魔法はもう使えそうか?」
「え? ええ、もう大丈夫だと思いますが……」
「じゃあ、幻惑魔法でアタシ達の偽物を作ってくれ。ついでに壁も隠す感じで。そして牢屋に偽物が移動できるか試してくれ」
「……そういう事ですね。やってみましょう」
エリーに幻惑魔法で偽物のアタシ達を作って貰う。
そしてアタシ達の代わりに偽物を牢屋へ放り込んだ。
発動した魔法なら大丈夫だったか。
「よし、これでしばらくは大丈夫だな。ちょっと館に戻ってメイに事情を話して色々融通して貰おう」
アタシ達は地下から中庭まで掘り進めて一度館に戻る。
夜も遅いし泊っていきたいが、アタシ達が城から居なくなってるのが分かると獣っ娘達に迷惑がかかるからな。
こっそりメイだけに話を通して色々準備していく。
今後もし捕まってもこれで逃げられそうだな。
いい経験になった。
日が昇って兵士たちが数人やってくる。
「君たち、王の審判がこれから下るから……何だこりゃ!?」
何って……どう見たってふかふかのベッドだろ。
わざわざリッちゃん空間に色々詰め込んで来たんだ。
他にも拘留が長引いた時に遊ぶためのカードとか色々ある。
普段は消費が大きいからやらねえが、一週間も夜しか出歩けねえんじゃ退屈で仕方ないからな。
「それに牢屋がすべて開いて……」
「最初から開いてたぜ? 鍵をかけ忘れてたんだろ」
「いやそんな、だがしかし現実に……」
ちょっと三人で仲良く眠ってただけじゃねえか。
……寝る前に幻惑魔法をかけ直すのをうっかり忘れてたぜ。
警戒されたかな?
今夜からはもっと上手くやらねえとな。
「と、とりあえず! 一緒に来てもらおう!」
「分かった分かった。服を着るからちょっと向こうを向いててくれ。それとも王国の兵士は乙女の裸を見るのが兵士の趣味なのか?」
「い、いや! す、すまない!」
すぐに後ろを振り向いてくれる。
……ちょっとイジるだけで狼狽えるとは訓練がなってないな、新米か?
こっちが怪しい動きしてんだ、こういう時は堂々とガン見するくらいじゃねえと。
昨日から薄々感づいていたが重罪人の扱いじゃねえな。
まあ今はネグリジェを野郎に見られるのは恥ずかしいから都合が良い。
さて、二人を起こして着替えさせるか。
「さあ、こっちは準備オーケーだ」
「ええ、おまたせしました」
「眠い……」
エリーとリッちゃんを起こすと速攻で準備する。
リッちゃん空間にベッド含めて全部放り込んだ。
……少し魔力が減った感覚があるな。
やっぱりベッドはやり過ぎか。
贅沢になれると大変だし、アタシ達も少しはサバイバルしねえとだな。
エリーはともかく、リッちゃんはうつむいて黙っている。
流石に裁判前だと思うところが……。
あ、鼻ちょうちん出てる。寝てるわコレ。
……危なそうだから手を引いて行こう。
あと寝ているのがばれないようにエリーにこっそり幻惑魔法をかけてもらおう。
「準備できたぜ、待たせたな」
「う、うむ……。いや待て、一体ベッドはどこへ!?」
「そんなことどうだっていいだろ?」
兵士がいろいろと腑に落ちない感じをしているのが目に見えるがこれ以上は突っ込んではこない。
なんというか、警戒心が緩すぎないか?
やっぱりなんかあるな。まあいいや。
「それより裁判の話をしてくれ、今から裁判に行くのか? 最低でも三日はかかると思っていたぞ」
「……本件を知った王は最重要事項として扱うよう命じた。さらには多少不思議なことがあっても詮索しないようにとのことだ。王があそこまで迅速に行動するのを初めて見る」
……マジか。
王様ってのはふんぞり返ってアタシ達の事なんか後回しにすると思ってたぜ。
もしかしてちょっと警戒されてるのか?
こんなに可愛くて非力で愛嬌たっぷりな乙女達なのに。
色々予定が狂ったが、ちょっと気を引き締めねえと不味いかもな。




