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第80話 窮地

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マズいな。

今まで抜けなかった剣を抜いたとなれば注目されるのは間違いない。

普通ならそこから勇者として認定されて崇められるんだろうが、問題はリッちゃんが抜いたってことだ。


そもそも剣を刺したのリッちゃんだし。

根掘り葉掘り理由を聞かれるのも良くないだろう。


「リッちゃん、アタシ達の推測が正しければこの剣は半ば神格化されてるんだ。つまり、抜くと勇者として認定されて城で訓練やらで軟禁される可能性が高い」

「え!? じゃあ館に戻れなくなっちゃう! 早く戻さないと」


問題はそこじゃない。

それに慌てて戻そうとするな。

慌てると転ぶぞ。


「まずは元の場所に戻して……。あっ」


元の場所に戻そうとしたとき、台座の上に豪華な壷があらわれる。

アチコチにヒビが入って割れているがもしかして国宝の壺とやらだろうか?

そうか、空間魔法が解けたからこの壺も出てきたんだな。


突然現れた壺に剣を突き刺しそうになるリッちゃん。

あわてて避けようとしたリッちゃんはバランスを崩し、よろけて剣先を台座に叩きつけてしまう。


「あっ」

「あっ」


叩きつけた衝撃で剣の先が折れた。いや、砕けた。

……あんだけ錆びてればそりゃそうなるよな。


「ど、どうしよう! 空間魔法で隔離されてるところは保存の魔法が効いてなかったみたい!」

「落ち着くんだリッちゃん。人に見られる前に始末するぞ」


マズいな。

ここにあるのは壊れた勇者の剣、壊れた国宝の壺だ。どれも他の奴らに見られるとマズい物なのは間違いない。

リッちゃん倉庫にしまってもいいが、うっかり引っ張り出されると面倒だ。

あそこはよく調べずに慌てて取り出すと間違ったものを取り出すことがあるからな。


「よしリッちゃん。空間魔法で空間を作るんだ。この剣と壺を放り込むぞ。なかったことにするんだ」

「わ、分かったよ。少し時間かかるから、ちょっと待っててね」


おう、頼むぜ。

もうじき案内の人か誰かが来るはずだ。

それまでになんとかしてくれよ。


「ふぉっふぉっふぉ……。冒険者の皆さんはみな元気ですなあ」


リッちゃんが隠ぺいに動いてから間もなく、後ろから声がした。

温和な雰囲気だが話し方がどこか古臭い。


「リッちゃん。アタシ達が時間を稼ぐから、こっちは任せたぞ。どんな方法でもいいから上手く誤魔化してくれ」

「う、うん。わかったよ」


アタシは小声で囁くと、声がしたほうへいく。

中庭には中年のおっさんが入ってきていた。

とりあえず台座のある場所へ行けないようにうまい位置取りに立っとくか。


「なにやら慌てていたようだが、何かあったかのう?」

「いや、何もないぜ。そうだよなエリー」

「そ、そうですね。ある意味いつも通りの日常です……」


落ち着くんだエリー、目を泳がせるな。

嘘は覚悟を決めて突き通すもんだ。


「ところでオッサンは誰だ?」

「ん? ワシ? ワシはグロウ・タスケット・ファーブルと言う名前での。この国で宰相を務めておる」


宰相だと?

……確かに服も身に着けている小物も品質がいい。使用人が着れる服じゃない。


だけどよ、宰相なんて普通は奥の方で引きこもってるもんだろうが。

なにしに出向いてきやがったんだ?


「ああ、固くならずとも結構。千年くらい生きておると時勢とともに移り変わる礼儀などワシには些細なことでの」

「千年? って事はアンタもしかして『不老』のスキル持ちって噂の……」


王都の重職についてるとは聞いていたが宰相だったのか。

千年か……。ちょうどリッちゃんが現役だったころだな。

頼むからリッちゃんとは面識なしでいてくれ。


「左様。『不老』のスキルを経て千年、この国で身を粉にしておるよ。実は皆をこの中庭に通すよう伝えたのもワシじゃ」


そう言うと、中庭をぐるりと見渡してくる。

おいやめろ。あまり見るな。

まだリッちゃんが作業中なんだ。

頼むからアタシ達だけを見つめていてくれ。


「ふむ、噂には聞いておる。『エリーマリー』のリーダー、マリーちゃんじゃろ? あの憎き魔族を追い払ってくれたこと感謝するぞい。……ところで三人組のチームと聞いていたが、ここには四人ほどいるようじゃが……?」


おう、そっちに興味を持ってくれたか。

良かった。ケモノっ子達の説明も踏まえて経緯を丁寧に、長ったらしく説明させてもらおう。


「――という訳で、ついてきてしまった。すまねえな」

「ふぉっふぉっふぉ。それくらい構わんぞ。お嬢ちゃん達には後で王宮のデザートを食べさせてあげよう」

「え!? いいんですか! やったー!」

「へへっ、ありがとうじゃんよ」

「構わんよ。子供は癒やしじゃからのう」


ニコニコと笑う宰相のオッサンが料理をごちそうしてくれるそうだ。

なかなかいいオッサンじゃないか。


「さて、本題に入るぞい。冒険者は好奇心旺盛な者が多いからの、ここで待ってい貰えば中庭の面白い物に気がついて暇を潰して貰えると思ったのじゃ」


宰相のオッサンは剣のあったほうを見チラチラみつめている。

この位置だと庭園の花や木々に隠れてみえないが、ちょっと歩くと素敵なモノが見える……いや見えなくなっているのに気づくだろうな。


……流石にここで知らないフリは不自然か。


「あの剣の話……か?」

「そうじゃ。あの剣は特殊な魔法がかけられておっての。この千年、だれも抜くことができん。君らも抜けなかったじゃろ?」


すまねえ、魔王本人がうっかり抜いてしまった。

いま一生懸命に無かった事にしてるから待っててくれ。

いろんな意味で元凶のリッちゃんが修復してるところだ。


「ああ、アタシの最後の仲間が色々頑張ってるみたいだが、難しいだろうな」

「ふぉっふぉっふぉ……。しょうがない。あの芸術的な魔法……。魔術師にとっては奇跡を見ているに等しいと聞くの」

「そ、そうだな。リッちゃんもびっくりするほど熱中してるからな。おーいリッちゃん!」


リッちゃんに宰相が来たぞ、と声をかけてみるが返事がない。


「熱中しすぎだな。ちょっと様子を見て引っ張って来るから宰相様はそこで待っててくれ」

「いやいやワシも行こう。才ある者へこちらから出向くのも礼儀じゃ」

「そう、か……。別に待っててくれても構わねえんだがな。いやホントに」


リッちゃんに今から宰相と一緒にそっちに行く事を大声で伝える。

……やはり返事がないな。大丈夫か?


こっそり簡易通信の魔導具も使って見る。

……反応があった。今、から、いく……?

行くってなんだよ。


……ええい、女は度胸と愛嬌だ!

出たとこ勝負よ!


ゆっくりと剣が見えるところにまで移動する。

そこにリッちゃんの姿はない。

そこに刺さっていたのは剣じゃなかった。


さっきまで剣が刺さっていた場所には代わりに木の枝が刺さっていた。


「こ、これは……!?」

「聖剣エクスカリバー……」

「私の魔剣バルムンクまで!」


なぜか剣の代わりに二本も枝が刺さっている。

そして肝心のリッちゃんがいない。


「な、なな、なぜ……?」

「……良かったな。もう一本増えたぜ」


呆然している宰相の前で空間が歪むとリッちゃんが姿を現す。

手に持っているのは壷だ。

壊れていたはずの壷が完璧に復元されている。


「ふぅー、ただいま。その人が偉い人なの?」

「ああ、この国の宰相のオッサン……宰相様だ」


顎が外れそうなくらい口が開いているが宰相だ。

ちゃんと敬ってやってくれ。


「えっと、どうも初めまして、リッちゃんっていいます。良かった、間に合ったみたいだね」


何一つ間に合ってねえよ。



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