第78話 『ラストダンサー』の戦い
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「昔はねえ、王都っていっても度重なる内々での争いで疲弊しててね――」
リッちゃんが当時の王国の説明をしている。
アタシはそんなに興味ないから放置だ。
リッちゃんはヤバそうな事を口走ったらウルルとルルリラが突撃して邪魔するように伝えてあるし大丈夫だろ。
そんなことよりエリーに肩をくっつけながらダラダラしていたい。
「――で、その時いた中年のおじさんが、『私は魔王なぞに絶対負けんぞ! 王国の礎として、これから幾百年でも生き抜いてやる』って言ってさ、実際に…… あれ? どうしたの?」
「ん? ああ、ちょっとごめんね。ストルスから連絡があって、数匹魔物を見逃したから暇つぶしに処理してくれ、だって」
念話石に耳を当てたからなにかと思えば、敵襲か。
「気が利いてるじゃねえか」
やっぱり適度に体を動かさねえとな。
さあ狩りの時間だ。
「あ、張り切ってるトコ悪いんだけど、今回は私が行くね。皆には実力を分かって貰ったほうが後で仕事やりやすそうだしね。このポリーナさんに任せなさい!」
「ポリーナがいくなら私も……行く……」
へぇ、ランク冒険者二人の戦いが見れるのか。
それならアタシは見物に回ろうかな。
「よし、A級冒険者の力を見せてくれ」
「任せなさい! 惚れちゃってもしらないわよ〜?」
「惚れたら……溶かす」
アタシはエリー派だから安心しろ。
つか溶かすって何だ。
……しばらくすると空を魔物が飛んでいるのが見えてくる。
あれはC級魔物のキラーイーグルじゃないか。
不意をついて馬や人を持ち上げ、空から地面に叩きつける魔物だ。
たいして強くはないが、空を飛んでいて攻撃しづらい奴らだな。
遠距離攻撃の手段がないならカウンターを合わせてやる必要がある。
数は全部で三体。
さてお手並み拝見といこう。
「ジーニィちゃんは一体だけ倒してね。わたしの見せ場無くなっちゃう」
「……わかっ、た。【我が望むは絶え間なき苦痛。皮は溶け落ち牙は抜け落ちる。昏き雨に蝕まれ、身を焦がせ】〈酸蝕雨〉」
その時、上空に黒い雲が出来上がり一体の魔物へめがけて雨が落ち始めた。
雨に当たると敵は苦しそうにもがいて……
いや、違う。
あの雨、体を貫いてやがる。
……溶かしているのか。
雨が当たった個体は暴れて逃げまどうが、上空の雲が追いかけ回し、雨を当て続ける。
やがて空を飛ぶ一体は力を無くし、地面に落ちた。
「エグい魔法だな」
「ウルル見た!? すごい魔法だったね!」
「普通にこえーじゃん!?」
ひよっ子達も驚いている。
アレは地味に回避がめんどくさそうだ。
「フフフ……。わた、しは……毒と、酸の魔法使い。敵は、グツグツ溶かして煮込む。フヒッ」
それぞれの評価に気を良くしたのか不気味に笑っている。
いや、本人は自信満々に笑っているつもりなのかもしれないが、笑顔が怖い。
なんて言うか闇のオーラを感じる。
こっちの太陽みたいに明るい光のちびっこ魔族を見習ってほしい。
「よっし、じゃあ残りは私だね。私のスキル、『熱量移動』を見せてあげましょう!」
「エリー、念のため馬車全体に防御魔法をかけておいてくれ」
「え? 分かりました。……〈守護〉。そんなに威力の高い魔法なんですか?」
「まあ見てれば分かるさ」
馬車から飛び出したポリーナは懐のポケットに手を突っ込むと大剣を取り出した。
あれは魔道具の一種だな。
その姿を見た魔物がポリーナへと向かってくる。
仲間の一体を倒されて怒ったデカい鷹二匹が、ポリーナを敵として認めたようだ。
「ふっふーん。これから楽しいショーの始まりだよ。まずはー、炎よ集まれ!」
ポリーナの掛け声とともに、彼女の左手が赤く染まり炎が発生した。
その一方でアタシ達のいる馬車の前はひどく冷え込んで行く。
アタシは炎を灯して体を暖める事にした。
……だがアタシが出した炎はポリーナの持つ炎に吸われるように移動し消えてしまう。
「これはいったい……」
「すごく空気が冷えてる……寒いね」
「エリー、リッちゃん。一応服を着込んでいた方がいいぞ」
「あ、そっちまでもしかして冷え込んでる? ゴメンゴメン、すぐ終わらせるからちょっと待ってて」
そう、これが彼女のスキルだ。
熱を周囲から奪い集める能力。
多分だが昔より強くなってるな。
「んじゃ、いっくよー。凍って、燃えちゃえ!」
彼女が手をかざすと、二匹いた魔物のうち一匹が凍りついた。
敵からも熱を奪ったようだ。
相手のヤバさに気がついたもう一匹は慌てて逃げようとする。
「へっへーん。もう遅いよ【燃えよ燃えよ球!】〈ファイアボール〉!」
彼女が呪文を唱えると、炎の塊が魔法として射出された。
……普通の魔法とは違う、超高火力の火球だ。
その魔法は一瞬で敵を焦がし尽くし、空中で大爆発を起こす。
「うわっ! 熱波がここまで……」
「初級の魔法をあそこまで威力を増幅させるとは、凄いスキルですね」
エリーとりっちゃんがそれぞれ感想を述べる。
実際すごいスキルだ。
凍らせて燃やすというシンプルさだが、大体の相手はそれで終わるんじゃないのか?
「どうだった? これが『氷炎』の魔女改め、『凍焼』のポリーナさんなのだ!」
「恐ろしい威力だった。前より威力が上がってるんじゃないか?」
「そだね。昔ここにいた頃よりは間違いなく上がってるけど、見たことあるの?」
おっといけね。
見たのはアタシがスキルを得る前だからな。
誤魔化すか。
「人伝てに聞いただけさ。アタシ達のいるギルド出身者でA級冒険者なんだ、昔のことを聞いてみたくなるもんだろ?」
「そっかそっかー。やっぱり私のファン? サインいる?」
いらねーよ。
アタシはむしろサインをねだられる側だ。
寝ている間に額に書くぞ。
「さて、戦いも終わったし馬車を改めて動かすよー」
「あれ? ウルルはどこに行った?」
「ここにいますよ!」
場所から少し離れたところからかけてくる。
「なにやってたんだ? 花でも摘んでたのか?」
「違いますよ! 見てくださいこの枝! いい感じの枝じゃないですか?」
見せびらかしてきたのただの木の枝だ。
「そんなもの拾ってたのか……」
「ふふん! ウルルちゃん甘いね! 僕が拾ったのはこの枝さ、見てごらん!」
「わぁ、太くて立派です……。でも負けませんよ! 太さよりも硬さです!」
「別に拳でいいじゃんよ……」
こいつら何やってるんだ。
つかリッちゃんもいつのまに拾ったんだ。
……二人が木の枝振り回してチャンバラを始めたが放っておこう。
「さっ、『エリーマリー』のみんな出発するけど準備はいい?」
「アタシ達は大丈夫だ。行ってくれ」
「あ、ちょっと! 置いてかないでよー」
「そうですよ! 置いて行かれたら泣いちゃいます!」
「普通に黙って座ってれば良いじゃんよ……」
途中、いくつかの関所を抜け、小さな村で寝泊まりをしながら移動し、王都へ着く。
たまにストルスがわざと魔物を逃してくれたのはいい暇つぶしになって助かった。
おかげでお互いの実力もなんとなく知ることができたしな。
「さあ! 目の前に見えるのが王都の入り口だよ」
「ああ、準備はできてるぜ。……ところでリッちゃん。その棒切れは王都まで持って行くのか?」
「ん? これ? もちろんだよ。僕の聖剣エクスカリバーはいつでも一緒さ!」
「同じく私の魔剣バルムンクも一緒です!」
お、おう。
ただの枝にそこまで大仰な名前を付けられてもこっちも困る。
大体魔王が聖剣なんて持ってどうすんだ。
敵に奪われて切られるパターンだろそれ。
まあいいや。
本人たちが飽きるまで持たせておくか。




