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第73話 A級冒険者

5-73-87


翌朝。

結局酔って寝てしまった。

ひよっ子共も何人か転がってるな。

居ない奴らはメイあたりがベッドにでも連れて行ったんだろう。

うっかり酒場で飲むことを覚えたら駄目になりそうな素質を感じる。


アタシは側で寝ていたエリーをソファに移動させる。

隣にはリッちゃんが転がっていた。

……お腹出すなよ風邪ひくぞ。


ウルルとルルリラは獣化した状態で、二人くっついて丸まっていた。

お前ら獣かよ……。獣だったわ。


試しにこっそり撫でてみるが背中の毛が気持ちいい。


「ん……ウルル〜。もっとぉ……」


いかん、起こしてしまいそうだから止めておくか。


外は雨だ。

季節の変わり目のせいか天気が崩れているな。


「マリーさま。昨日お伝えしていた来客が再び来ております」

「もう来たのか? 早いな、準備してすぐ行くから待たせておいてくれ」

「承知しました」


酒臭さを飛ばすために軽く水浴びをして、着替えてから居間へ向かう。


そこで待っていたのは一人の男だ。


「やあやあ、初めましての初めまして、冒険者のマリーさん。拙者の名前はストルスと申す者」

「おう、よろしくな」


細目にフード付きのマントを被っている男が大袈裟な挨拶をしてくる。

どこか古臭い言い回しをする野郎だな。


「いきなり本題で悪いが、アンタはなにをしに来たんだ」

「むむ、実に直接的な確認である。よろしい、理由についてはうすうすご存知であろうが、先日隣の男爵領にて特殊な魔物が立て続けに現れた」

「魔族、だろ?」

「やはりのやはり。あなたが魔王軍直轄の魔族を退治したマリーで間違いないようですな」


「失礼します」


その時メイがお茶を持ってきた。

話は一時中断だ。


メイはアタシとストルスの二人の前に茶を置くと、頭を下げて出ていく。

これから面倒くさそうな話題になるからな。念の為、しばらく入ってこないように合図を送っておくか。


「すまねえな。話を途中でぶった切っちまって。えっと……」

「ふむふむ。チーム名を伝えていなかった。改めて名乗りましょう。A 級冒険者チームの斥候を努めている、ストルスと申す。他の者達に先んじて参った次第」


男なのにA級冒険者か。

基本的に男はのし上がりにくいこの世界で、A級まで上がるとは。

ヤバいスキルを持っているパターンだな。


「で、そのA級冒険者様がアタシに何の用だ?」

「ふむふむのふむふむふむ。ギルドより伺っているかと思うが、魔族が現れたその場その時の状況について教えて頂きたく思っている」


……まあ、理由としては妥当だな。


「だが、何で他の奴らは来ないんだ? 他にも仲間がいるだろう」

「ふむふむ。もっとものもっともなご意見。拙者が先んじてこちらに来た理由は大きく二つ」


そう言うと大げさに手を振ってジェスチャーをする。

いちいち演技がかった動きをするやつだな。


「一つは拙者のスキルにより他の者たちよりも早く移動できたこと、もう一つは他の者達はそれぞれが他のチーム、『パンナコッタ』や『オーガキラー』に聞き込みにいっていること。数日もすれば合流できる予定である」


「で、アンタが代表として一人でこちらへ来たと、そういうわけだな」

「であるである。その通りである。そして腕試しも拙者は兼ねている」


瞬間、ストルスの姿が目の前からかき消えた。

次に、後ろから声が聞こえてくる。

そして、アタシの首元に刃が突きつけられている。


マジかよ。見えなかったぞ?

なんて早え……いや、空気の動きがない。

お茶も波だっていないし、高速で動いた訳じゃないようだ。

……これはスキルだな?


「うーむ、他の皆が褒めていたがそれほどでもない、どうやら見込み違いだったようである」

「てめぇ……。初対面の挨拶にしちゃ、やり過ぎじゃねえか?」

「いやいや、まったくのまったく、そんなことはないといえる。拙者がもしも万の万が一で魔族だったらマリー殿の首はポロリと落ちているとも」


細目が背後から殺気を放って来る。

おいおい。完全に気配を消せるくせに、有利になったら殺気を放って心を折ろうってか?

お前アレだろ?

見えねえけど殺気出してるときだけ目をカッと開くタイプだろ?


……普通の冒険者なら折れるだろうな。

だが、甘えよ。


「そうか。だがアンタが本当にアタシの体をちょっぴりでも傷つけたら後悔するところだったぜ」

「ほうほう。口だけは一人前の前。試して見るとしよう」


ナイフが首元を離れ、肩に突き刺してくる。

おいおい、少しは容赦しろよ。

もしアタシがハッタリだったら大怪我しちまうだろうが。


「何故刃が通らぬ!? これは王都の名工が作ったひと振り。小娘の体を貫くなど雑作もないはず」

「アタシの血は鎧さ。女の体を傷物にする奴は裁きを受けるんだぜ? サンダーローズ!」

「うぐぁっ!」


電撃で硬直したな?

チャンスだ。


アタシは立ち上がるとソファを駆け上がり、全力で回し蹴りを叩き込む。


キッカケはフィールのスキルだ。

血を操る力を、アタシの水魔法でほんのちょっぴりだけ再現してみた。


とはいってもフィールみたいに武器を想定したものじゃない。

アレはアタシじゃ効率が悪すぎるからな。


想定していたのは鎧だ。

体内の血液や体液を水魔法で操作して、ゴムのように弾力をもたせる。


血液はその弾力で衝撃を殺し、刃物や衝撃を通しにくくするというわけだ。


上手くやれば、傷をつけられても止血できるかもしれない。


元々不意打ちをしてきた奴らに対するカウンターは色々考えていたからな。

さすがにスキルを使って至近距離から不意打ちしてくるやつは予想外だったが。


「うむむ。見事の見事。この状況を破れるのは仲間内でもそうそうない。本当に魔族を倒したと見るべきか」

「格下の冒険者相手に不意打ちでイキり倒すとか恥ずかしくねえのか」


男の冒険者ってだけで近距離特化型ってのは、ほぼ確定なんだ。

それが理由もなく一人だけで館まで来てるんだ。

ちょっと警戒ぐらいするさ。


「おかしな事をいう。弱者の弱者が勝つために最善を尽くす、それが冒険者というもの」

「ちげえねえな。……まだやるか?」


「無論。まだまだのまだ続けるとも。実力の一端は把握した。さてさて次はお前が魔族ではないかと言うことだ」

「はぁ!?」


なに見当違いな事を言ってやがる。

的外れも良いとこだ。


「無論の無論。こちらとしても魔族だと疑っている訳ではない。だが魔族と内通してないか、知り合いの知り合いはいないのか調べるためにきた」

「言いがかりも甚だしいって奴だな」


……ヤベえな。

心当たりしかねえ。

まさか嘘を見破る仕掛け……魔導具とかないよな?


「……そうだな、魔族の生みの親ならこの館で腹出して寝てるぜ?」

「戯言を。真実を語る気はないと見た」

「へっ、ホントの事言ったところで信じねえだろうが!」


よし、どうやら嘘を見破る仕掛けはないようだ。

だがバレるのもマズイ。

どうにかしねえとな。


「いやいや信じるとも。博打打ちがカードの切り方で相手を知るように、拙者も戦い方で君を信じよう」


ナイフを構えて来やがったか。

結局戦うんじゃねーか、クソが!


「さてさて、ここでは戦いにくいだろう。僭越ながら外へお連れしよう」


髭が指をパチンと鳴らす。

何を気取ったことをしてやがる--


「は?」


次の瞬間、アタシは外に立っていた。

雨が頬を濡らす。

ワンテンポ遅れてコイツも姿を表した。


「ふりふり降りしきる雨中に、傘もささずに少女をお連れしたことをお詫びする。さあさあ改めて切り合おうではないか」


一瞬、ほんの一瞬だけだが立方体のような空間が雨で浮かび上がったのが見えた。


「『空間交代』……のスキルか?」

「然りの然り。そのスキルで違いない。拙者は『空間交代』を極めた者。故に拙者から七十歩以内に距離の意味はなし」


『空間交代』のスキルはその名の通り二箇所の空間を切り取り、場所をそれぞれ入れ替えるスキルだ。

ちょっと変わった空間転移ってところか。


うまく使えば距離を無視した攻撃ができたり、逆に遠ざかったりするのが簡単になる。


ただ入れ替えるにも制限があったはずだ。

切り取る空間を硬いモノが邪魔していた場合は失敗する……だったはずだ。自信はない。


そもそもこのスキル、覚えた当初に取り替えられるのは拳一個ぶんぐらいの大きさしかないはずだ。

それが人ほどの大きさを取り替えられるなんて、聞いたことがない。


「ふむふむ? 何やらお悩みの様子。女子の質問にはなるべくお答えしよう」

「……随分とスキルを使いこなしてるな? どれだけ訓練したんだ?」


こいつ、その質問を待っていたと言わんばかりにニヤリと笑いやがった。


「なるほどのなるほど。規模と精密さにおいて類を見ないと、こう言いたいわけだ? 答えは『物心ついたときからずっと使っていた』、だ。理解いただけたか」


何かのきっかけで生まれた時からスキルを使えるようになっていたタイプか。

それで成長と共にスキルを使いこなして熟練させた、と。


アタシがスキルを熟練させたところで変化の速度が早くなるだけなのに羨ましいぜ。


しかし厄介だな。

これじゃ距離を取って戦うことが難しい。



「さてさて、これからのお喋りは助長の助長。こちらとしても手札をこれ以上見せるわけにはいかぬ。ではでは参るぞ、殺す気で来るがいい」

「悪いがそうさせてもらうぜ!」


コイツはひよっ子達の時と違って手加減できそうにない。


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