表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/159

第72話 料理教室

5-72-86


「でしたら、材料は用意いたします」


メイが食料庫から肉や野菜を引っ張り出してきた。

……意外と食料貯めてるな。


「これなら色々できそうだな。ある程度どこでも使える料理にしたいから……煮込みと焼き物料理にするか」


「それでは私は鍋を担当しますね」

「エリーは鍋だな。アタシは肉や野菜を切る。お前たちの中でそれぞれ分担してアタシ達の誰かに……、リッちゃんはどうする?」


リッちゃんは研究以外はからっきしだからなあ。

なんというか、何もしないのが一番役に立つ。


「僕は味見役を任せてよ!」


……うん、火も包丁も苦手だからそれでいいや。


「そうです! 魔王様に料理なんてそんな事させられませんわ!」

「お前たちはリッちゃん以外に付くんだ」


リッちゃんも一応冒険者だから、料理ができないのはマズいんだがな。

そもそもアンデッドだから何も食べなくても大丈夫だしな。


うっかりで指を切り飛ばしてウインナーと一緒に出されたり、鍋ごとマグマで煮ようとしたりと、大惨事になるよりはいい。

料理中に創作した魔法を試そうとしてくるし、もう諦めた。


「伝承によると魔王の友人というのは、正義感はあるけれど人に任せっきりでやる気のない人間だと書かれていましたわ」

「おとぎ話に書いてあったとおりだね! ふふっ」


アルマが笑い、怒ったようにリッちゃんが反論する。


「違うよ!? 僕ができないことをメイやファーちゃんにやってもらってたのさ! メイが作って僕が食べる、ファーちゃんが働いて僕は応援する、完璧な役割分担じゃないか」


うん、それを人にまかせっきりでやる気のない人間というんだ。

何も間違ってない。


「ふふ、一見働いてないように見える人でも、そばにいてくれるだけで心の助けになる事はあるんですよ」


エリーがいい事を言った。

そうだな。エリーは働き者の上にアタシの救いになってるぞ。

……リッちゃんも美味しそうに食べるから見てるだけで幸せになれるからいっか。


さて、ひよっ子に作らせつつ、時々手伝いながら料理をしていくか。


アタシはケモノ二人のナイフ捌きを眺めながら他の所も軽く見てまわる。

まずはエリーが指導しているカリンの所だ。


「ん? 結構難しいな。俺、今までは胃袋に入ればそれでよかったからな」

「自分が食べるんじゃなくて相手に食べてもらうことを意識しながら作るといいですよ。カリンちゃんならできます」

「おう、頑張ってるな、その調子で続けてくれ」


「くそっ、爪でバッサリ切りたいじゃんよ」

「止めろ、爪で切った食材なんて誰も食べたくないだろ。あと変身すると抜け毛がひどい」

「先生! 私達もう夏用に生え変わってますから大丈夫です」

「いや、昨日リッちゃんの手に結構毛が付いてたぞ」

「え? 嘘! うう、恥ずかしい……。後でウルルと毛づくろいしなくちゃ……」

「別に良いけど飯食ってからだと毛玉吐かねえか? 汚すなよ?」

「大丈夫です! 人前でそんなみっともない事しません!」


裏ではこっそりしてるのかよ。


みんな真面目にやってるな。

これならスムーズに……おっと、問題児を見つけた。


「おう、お前なんで料理サボってるんだ」

「マリー先生! サボっておりませんわ! 高貴な私が料理などもってのほか、むしろ魔王様の母親と親しくお茶をするのは貴族の嗜みで……、痛た! ほっぺたを引っ張らないで下さいまし!」


何言ってんだコイツ。

今のお前はただの冒険者だろうが。


「ナイフやフォーク、スプーンに東方のおはしまでなら使えるのですが、皮を剥いたり刻むのは苦手ですわ」

「言い訳はいい。リッちゃんみたいに料理ができなくなってからじゃ遅いんだ、今のうちに仕込んでやる」

「私には無理です! 助けて下さいませ魔王様!」

「あはは、頑張ってねー。あと今の僕は魔王じゃなくてリッちゃんだよ!」


リッちゃんに取り入ってどうすんだ。

いまのリッちゃんは自称魔王のニート兼冒険者だぞ。


「うーん、これなら、この香草とこれを混ぜれば臭みが消えますよ」

「素晴らしい。三人の中で一番料理ができるのはアルマでしたか」

「ふふふ、昔から料理作るの好きだったから色いろ試してたんだ。フィーちゃんも興味持って試してたけど壊滅的だったんだよね……」


遠くからフィールの料理について残念な評価が聞こえてくる。

……ちょうど今、実感してるところだ


「何だこれは……? 適量入れろと言って瓶まるごと入れるやつがあるか」

「だから言ったではありませんか! 私は魔力の篭った血をちょっとだけいただければ十分ですの! 料理なんて必要ありません!」

「お前普通にメシ食ってただろ」

「お、美味しいものは別腹ですわ……」


お前の食事はデザート感覚かよ。


「なにか他にできる事はないのか?」

「紅茶なら得意ですわ!」

「……なら食後の紅茶を頼む」


料理の文化がないやつに作らせようとしたアタシが間違いだった。


…………まあ一人になっても生き延びるために料理教えてるんだしな。

吸血鬼が血を吸えば生きられるのなら優先度は下がる。



「アルマ、食事のほうは頼りにしておりますわ。冒険者は助け合いですものね」

「任せて! フィーちゃんの分もカリンの分も私が作ったげる!」



おい、自分が料理できないから人に投げようとするな。


かつ多少のゴタゴタはあったものの、一通り料理が出来上がった。

今回ひよっ子が作ったのは煮込み鍋、焼き鍋などのサバイバルにも応用しやすい物だ。


逆にちょっと凝った料理はメイとお化けたちにやって貰う。

万が一失敗してもメイたちが料理するなら安心だ。


「肉と野菜のスープはアルマとカリンが作りました」


ほう、よく出来ている。

調味料や香草の使い方がうまい。


「焼き物は、ウルルとルルリラだな」


多少野性味あふれる切り方だが、様になっている。焼き具合も良い。


「僕たちは一生懸命食べる役をやるよ!」

「ええ! 任せてくださいまし!」


……うん、この二人はどうでもいいや。


「本来ならギルドの酒場で乾杯といきたいところだが、アタシの家でやる事になったな。味は美味いから心配するな、乾杯!」

「「「乾杯」」」


適当な口上を垂れて乾杯をする。

色々疲れただろう。

ひよっ子共も今日くらいハメを外せ。


「あ、これ美味しい」

「アルマさんの香辛料の使い方は勉強になりました」


メイも参考にするほどすごいのか。

うん、料理が美味しくなるのはいいことだ。


「この大葉包みは俺達がやったんだぜ」

「里の料理を真似しました!」


この肉はほのかに獣肉特有の臭みがあるが、いいアクセントになっている。

これはこれで美味い。


ひよっ子達も楽しそうに会話している。

秘密がバレて打ち解けて来たかな?


「ところでウルルさんの住んでいた場所はどんなトコロでしたの?」

「ん? ウルルでいいぜ。俺もフィールって呼ぶじゃんよ。俺達の居た所は寒いけど温泉が気持ちよくてさ、雪うさぎの肉がよく取れてな――」


フィールが話しかけている。

隠し事が無くなって二人とも前より気さくな感じだ。


「ルルリラちゃんは狼の獣人なの?」

「そだよ! フィーちゃんはエルフだよね? 初めて会えてびっくりだよ! よろしくね!」

「うん、こちらこそよろしく! 今の魔王様の側近にも狼の獣人いるよね、知り合い?」

「んー、どうだろ? 会ったことないからわかんないや」


こっちもこっちで仲が良さそうで何よりだ。

少し幸せになれる飲み物をもっと出すか。



宴も進んで皆ノリノリになってきたな。


「カリン〜、私とぉ、アル、どっちが好きなんですのぉ〜?」

「そ、それは……決められない、ぜ」

「だったらぁ、カリン〜、私とぉ、アルをぉ、両方共嫁にして下さいまし〜」

「えっ? 俺女だけど?」

「あははは! じゃーあ、男の子になるための秘宝とかぁ、スキルを探しますよー! ……うっぷ」

「それは、いい、でふわぁ」


だいぶ酔っ払っているな。

絡み酒とはタチの悪い奴だ。


しかしカリンはハーレム状態だな。

良かったな。

男なら泣いて喜ぶトコだぞ。

ナニとは言わんが、つけてやったほうがいいだろうか?


「ウルルは今日もいい匂い。クンクン、もっとかがせて〜」

「ルルリラ……。だめだって、汗臭いにゃあ……」

「大丈夫だよ〜。ウルルはいつだっていい匂いなんだからあ〜」


なんだか色々と凄いことになっている。

こいつら別の教育が必要じゃねえのか。


メイも給仕を終えてリッちゃんとおしゃべりしている。


うん、平和だ。

エリーのとこにいこう。


「エリー、お疲れさん」

「皆酔ってますね。マリーも皆の監督ばかりで疲れたでしょう。はい、あーん」

「さんきゅー」


アタシはエリーが差し出してきたゼリーを口にほおばる。

これはルルリラが作ったやつか。

甘くて美味い。


「ほらほら、口についてますよ」

「んっ……」


口にソースがついてたか。

手持ちのハンカチで拭って貰う。

よし、アタシもお返しに……


「あーっ! エリー姉さんとマリー姉さんがイチャイチャしてる!」

「やっぱりマリー姉ちゃんとエリー姉ちゃんはそういう仲だったんだな……。休憩中に二人だけでいちゃいちゃしたときから怪しいと思ってたんだ」


そういえばコイツラがいた。

この流れだとキスくらいまではいけたのに、ぐぬぬ。

つか、カリン。お前見てたのか。

そこの吸血鬼みたいに酔っ払ってぶっ倒れてろ。


「あれ? あ、そっか。姉さんじゃなくてせんせーか!」

「最初にどんな呼び方でも良いって言ったろ? 気にすんな」

「エリー姉ちゃんとマリー姉ちゃんは、恋人……なのか?」


おう、相変わらず直球勝負が好きな野郎だ。


「ええ、私とマリーは互いに代わりのいない大切な関係なのです」


握ってくるエリーの手が柔らかい。

アタシも指を絡めながら頷いておくか。

……アルマがキャーキャー騒いでうるさいな。


「でも女だけで……」

「カリンちゃん。愛の形は無限大なのですよ。世間がどうとか言いますが、あなた自身はどうしたいのですか?」

「俺は……。うん、二人と一緒にいたい」

「カリンちゃん……。その、これからもよろしく……」

「お、おう……」


おいおい。

お前らアタシ達の邪魔しといて見つめ合ってるんじゃねえ。

あとそこに転がってる吸血鬼も起こしてやれ。

一人だけ置いてけぼり食らってるぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ