第69話 魔族っ娘
5-69-83
「リッちゃん。コイツらも泥まみれのボロボロだ。悪いが軽く洗浄してやってくれ」
「おっけー。任せてよ」
「おっと、ガロ。お前は男だから先にやってやる。ほら、服を脱げ」
「え? おい、やめろ!」
うるせえ。
お前の裸見て喜ぶのなんて、そこの二人くらいだから気にすんな。
ん?
なんだ、この胸の布?
……サラシじゃねえか。
よく見ると、へその位置も……。
ちょっと待て。
もしかしてお前。
「お前、ちょっと下も脱げ」
「え、ちょっと、やめろ! それだけは!」
「え、そんないきなり!」
「いけません、はしたないですわ!」
暴れるな。
服を焼き払うぞ。
あとおまえら、手で顔を覆うふりして指の隙間から眺めるのはバレバレだって習わなかったのか?
数分後、そこには素っ裸になったガロがいた。
全力で隠しているがあるべきモノがついていない。
「ガロ、お前男だと偽ってたな?」
「そ、そんな!? 知りませんでしたわ」
「え? え? ガロくんへの夜這い計画はどうなるの? 私達の子供は?」
夜這いとか子供よりもっと大事なことを心配しろ。
つかお前らも知らなかったのか。
「俺は、俺は……男だ!」
「いや無理があるだろ」
男のシンボルがないのに何言ってんだ。
アタシのスキルで取り付けんぞ。
三人をリッちゃんに洗ってもらったあと詳しく話を聞く。
なんでも、ガロの両親は数年前に事故で亡くっており、その際に女だと騙されて売られてしまうかもしれないから、男装するようにと言われたらしい。
まあ、あくどい仕事だと騙されて売られる女も少なからずいるしな。
それからアチコチで雑用とかの下働きをしつつ、金をためてここまで来たんだとか。
苦労したんだな。
「それで、母さんの言うことを聞いて今まで男で通してきたんだ……」
「事情は分かった。これから冒険者として独り立ちするんだ、女に戻れ」
「いや……駄目だ! 頼む! 俺を男として扱ってくれ!」
なんか面倒くせえ事情でもあんのか?
しゃーない、聞いてやるよ。
「へへっそれが……。二人にカッコいいって言われたからさ、その、なんかイメージ壊したくなくて」
「うん、凄くどうでもいいな」
アイドルかテメーは。
もうスキャンダルは二人にスクープされた後だから諦めろ。
「それならアタシよりお前のチームになんか言うことあんだろ? そっちに聞きな」
「ガロ君、いやガロちゃん。ガロちゃんが女でも構わないよ!」
「ええ、私としても構いませんわ。むしろ女の子のほうが自然で素敵でしてよ?」
二人とも快諾だな。よかったよかった。
これにて一件落着か?
「そ、そうか? 分かったよ二人共……」
「ですが普段は男装していただけますと、私としてはその、目に癒しがあって良いですわ」
「流石フィル! 分かってる! 先生達もそう思うよね?」
いや分かんねえよ。
皆が同じ性癖を持つと思うなよ?
リッちゃんも困ってんじゃねえか。
「僕は可愛いほうが良いかなあ。やっぱり女の子も男の娘も可愛くないと」
「違う、そっちじゃない」
そういう方向に話を持っていくんじゃない。
余計に拗れるからやめろ。
「とにかく今後お前たちがどうしたいかはアタシが口を出すことじゃない。三人で決めろ。あとリッちゃんの意見は気にするな」
話の方向を三人で解決してもらうように仕向けておく。
男とか女とかどうでも良いんだよ。
最悪アタシが変えてやるからまずは仲間同士納得してろ。
「まあ男装が良いなら俺もそうするけど、その……男じゃなくて良いのか?」
「なにがですの? 私達だって魔族ですわ。その私をガロさんは認めてくれたではありませんか」
「そうだよ! 私嬉しかったんだから!」
「二人共……ありがとう。俺さ、女だけど二人と会えてよかったよ……。俺の、俺の本名はカリンだ! よろしくな」
なんか知らんが上手くまとまったようだな。
さて、エリー達と合流するか。
「これからはカリンちゃん、いえ親しすぎるかしら…… カリンさんでしょうか……。でもカリンちゃんのほうが……」
「うふふ……お風呂はこれから一緒に……洗いっ子して、……うふふ。新しい花園を開いて見せるんだから」
うん、一人は新しい扉をフルオープンしてるようで何よりだ。
是非とも我が道を行って……、いやコイツら、人の話聞かないし少しは常識を学べ。
さてみんなの所に戻ってきたが大丈夫だろうか。
「マリーお帰……。その腕はどうしたのですか? それに二人のその姿は……魔族ですね?」
「おう、ひよっ子がとんでもない牙を隠してやがった」
ん?どうした?
ウルルとルルリラの二人の顔が青い。
……そういえばこの二人は魔族を見るの初めてだな。
それにアタシの腕が火傷でボロボロというのは、刺激が強かっただろうか。
だが冒険者をやっていくならこれくらいは慣れてもらわなくちゃな。
「先生、先生は二人をどうするの?」
「まさか……処刑するのか? 魔族だから?」
「そうだな……」
ウルル達はやけに心配してくるな。
短い間とはいえ仲間だからな、情がうつったか?
だが魔族だからとかそう言う細かい理由で処刑なんてことしねーよ。
アタシは引くべき一線はちゃんと引いた上で平等に差別するだけだ。
まあ魔族を匿ってたと知られるのは良くない。
この二人の未来にもな。
相応の罰を与えるという事にでもしておこうか。
「お前らも見てしまったからしょうがないが、こいつらは然るべき処置を与える。この二人の事は忘れるんだ」
三馬鹿は誤解しそうだからウインクでもしておこう。
おい、金髪ショタ……じゃなくてロリ、なんで顔を赤くしてやがる。
「黙っていられるか?」
「そんな、駄目ですよ!」
「そ、そうだぜ! 魔族だって生きてても良いじゃないか!」
「本当に言ってるのか? 魔族は討伐対象だからな? 最悪お前らも懲罰対象だぞ?」
あえて脅しをかけるように、質問してやる。
さて、どんな反応したとしても先輩としてアドバイスをしてやらねぇとな
「駄目なんです! だって……私達も魔族ですから!〈解放〉!」
「おいルルリラ! あー、もうしゃあねえ……〈解放〉」
そう言うと二人の姿が変わっていく。
それぞれ肘や膝まで獣毛が生えて、頭に獣耳がつく。
ルルリラは白い狼の耳を持った獣に、ウルルは黒い猫を模しているようだ。
つか、お前らもかよ。
……お前らは予想外なんだが。
「出会ったばかりですが、同胞を処刑はさせませんよ! がるるるっ!」
「しょうがねえにゃ……なあ。お前ら助けてや――」
「わりいな、そこまでだ」
落とし穴発動っと。
「え? ひゃああぁぁぁーーっ!!」
セリフを言い終わらないうちに地面が抜けると、二人は底に落下していく。
カッコつけてるとこ悪いがな、不穏な空気だったんでな。
念の為に足元の土抜いておいてよかったぜ。
「アタシは戦いに疲れたんだ。指導はまた今度な」
なんか引退間際のベテラン戦士みたいなセリフになってしまったがまあいいか。
しかしコイツらもかよ。
スカウトしたひよっ子の魔族率高すぎだろ。どうなってやがる。
アタシはウルル達をエリーとリッちゃんにまかせて、一旦場所を離れる。
なんか精神的にも疲れたし、腕も痛いからいい加減回復しないとな。
ちょっとコイツらの目につかないところに移動して回復するか。




