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閑話 吸血鬼とエルフ2

5-X2-81


「な、なに言ってるの? 従者?」


アルマが困惑しながらも聞き返してくる。


「ああ、たいした事じゃない。ペットとかテイムスキル持ちとおんなじようなもんだ。魔道具だかをつかって契約をする。同意が必要だがな」


召使いと言ったがそれは名ばかりで、これからは人間の奴隷やペットとして扱うという事か。

同意というのはこの賭けで勝てば自動で承認されるということだろうか?


なんて悪趣味なんだ。

私達を捕え、見世物として嬲ろうというのか。

アルマはそう思うが、声には出さず睨みつける。


「逃げたければ逃げてもいいぞ? その場合、ガロには相応の支払いをしてもらうことになるがな」


動くことのできないガロを人質に取るなんてなんて卑怯な。

冒険者というのは汚いやつらばっかりなのか。

二人は目で互いに合図を送り、戦うことを決断する。


「まてよ、俺も……」

「駄目だよ」

「駄目ですわ」


立ち上がろうとするガロを二人はほぼ同時に押しとどめる。


「ガロくんが同じ人間に手を出しちゃったら問題になるよ」

「ええ、ガロさんは……ガロはこれから私達とは別の道を歩むのですわ」


ガロにだけ聞こえるようにそう告げると、マリーへと向き直る。フィールは一瞬泣きそうな顔をしたが、それをガロに見られる事はなかった。


「痴話喧嘩は終わったか? それじゃ、かかってこい」


手でかかってこいと合図をするマリーだが、二人は動けない。


「まったく、時間がないぞ? しょうがない、こっちから動いてやるよ」


そう言うと一歩踏み出し――


「え?」

「嘘っ!?」


気がつけば二人は吹き飛ばされていた。

元々彼女達がいた場所にある土が盛り上がっている。

おそらく土魔法だ。

それで吹き飛ばされたのだろう。


「ほらどうした? 魔族ってのはこんなもんじゃないだろう? 全力でかかってこい」

「くっ、【暗闇に眠る――】」

「サンダーローズ」


紫電が走り、フィールの体を雷撃が貫く。

殺すつもりはないのか、威力は抑えられているようだ。

が、しかし魔法が中断されてしまう。

その隙を狙ってマリーはフィールの腹に掌底を叩き込んでくる。


「っ……! ……かっ、こふっ」

「おいおい、アタシが無詠唱で魔法を唱えられるのは知っているだろ? 近接が得意な相手を目の前にして魔法を使うには、それなりに手順を踏まねえとな?」

「フィー、大丈夫!? よくもフィーを! 森よ! 先生を倒して!」


アルマが叫ぶと、森が蠢きだす。

木々がたわみ、四方八方から弓のように枝を打ち出した。


「うをっ!? マジかよ、すげえな? ファイアローズ!」


マリーは横に数歩分飛び退くと、炎の鞭で迫りくる炎を焼き払う。

だが、アルマも追撃を止めようとはしない。


「森で戦ったのは失敗だよ! 草よ!刃になって刻んで!」

「甘えよ」


マリーの足元の雑草が刃になり襲いかかろうとするが、地面の土がせり上がりマリーを上空へ吹き飛ばす。


その後、空中で何かを蹴るようにして方向を変えると、アルマに向かって突進、蹴りを放ってきた。

身を守るようにしながら蹴りを受け止め、反撃する。

しかしその場にマリーはいなかった。


蹴りの威力を利用して、マリーはそのまま元の場所へ舞い戻っている。


「まさか魔法を連発できるなんて……」

「連発できなきゃ使いどころをもう少し考えるさ。敵が気軽に見せる技は見せてもいい技だ。覚えておくんだな」


強い。

向こうに殺す気がないために致命傷こそ受けていないが、一撃が重く、体の芯に響く。

まるで身体強化をした熟練の戦士の威力だ。

このままでは遅かれ二人共やられてしまうだろう。


「アル……私アレを使いますわ。援護してくださる?」

「アレ……? でもまた暴走が……」

「大丈夫ですわ。影での攻撃を多用しなければなんとかなりますもの」

「……うん、分かった。アレじゃないと勝てそうに無いもんね」

「相談は終わったか? さあ切り札を見せてみろ」



フィールが一歩前に出て、アルマは後ろで呪文を唱える。

先程までの怯えはすでにない。

高圧的な瞳でマリーを見ていた。


「ひれ伏しなさい人間。私とて真祖の一族として末席に名を連ねる者。たとえ日が昇り力を十全に発揮できずとも、脆弱な人間ごとき敵ではありませんわ!」

「ほう? ひよっ子がおもしろいことを言うようになったな? かかってこいよ。手とり足取り教えてやる」


向かってくる相手を抱きしめんとばかりに両手を大きく広げるマリー。


「先生に見せてあげる。これが私達のチカラだよ。森よ! 天を覆い尽くして! 私の友達が力を出せるように!」


上空の木々が成長し、空が森に覆われる。

光が差さなくなることで、森が一層薄暗くなった。


その間、フィールはほんの一呼吸だけ動きを止めると、静かに呟く。


「〈解放〉」


フィールの瞳が、先程暴走したときと同じように赤く染まっていく。その赤は瞳を真紅に塗り替え、暗闇の中でも輝きを放っていた。

爪は鋭く伸び、牙も口から生え伸びている。


「〈変身〉か? ……じゃねえな。なんだそれは?」

「さすが先生は魔族のことをよくご存知なのですわね。これは〈変身〉の亜種。抑えていた力を解放し、本来の姿に戻る技法ですわ。さあ、私たち一族の力を受けて下さいませ」


先ほどまでと比べ物にならないほどの速さでマリーへ向かって突き進むフィール。


「だいぶ鋭くなったじゃねえか、だがまだまだだな。……何っ!?」


マリーが再び掌底を腹に当てようとするが、腹部が黒い霧となり散ってしまった。


「甘いですわ。体を霧に変えることぐらい、造作もありませんことよ」

「くっ!」


マリーはそのまま振り下ろしてくる血の爪を回避する。


「まだですわ!」

「それはさっき見たぜ!」


フィールの背中から影の刃が飛び出す。

先ほどゴブリンたちは切り刻んだ刃だ。

だがそれも予測されていたマリーに回避される。


だが、マリーの腕に何かが刺さり血が吹き出した。

……木の枝だ。


「私を忘れないでね先生!」

「ちっ、うっかりしてたぜ。すまねえな」

「森よ! 葉と枝の雨を降らせて!」


アルマが宣言するとマリーに向かって数百本の葉と枝が弓のように降り注いだ。


だが、マリーに傷をつける前に生み出された炎ですべて燃やされてしまう。


「ウソ、私の必殺技だったんだよ?」

「大量に打ち出すときは宣言が必要か? そうなら不意打ちで動けなくしてから使うんだな」

「……ごちゅーこく、ありがと!」


数本だけ枝を飛ばすが、それらも察知されたマリーに焼かれてしまった。


「ここまで戦えるならもうひよっ子冒険者じゃねえな、コッチも少し本気を出してやる」

「させませんわよ?」

「ん? コウモリ……? ……くそっ、コレも攻撃か!」


全身が霧となっていたフィールだが身体の一部を変化させ偽物の蝙蝠を作り出していた。

その蝙蝠は不意をつくように飛び出してマリーの左腕に噛み付く。

蝙蝠は一噛みすると再び霧になり、少し離れたフィールのところに戻っていく。


「厄介だなその霧……」

「霧だけの吸血鬼だなんて思わないでくださいませ。見せてあげますわ、私のスキルを。〈血ハ水ヨリ恋ク〉!」


フィールの腕が裂け、体から血が吹き出す。

だが血は地面まで流れ落ちることはない。

腕に絡みつき、一回り大きな爪の刃を生み出した。


「ずいぶんと痛そうな技だな。それを武器にして戦うのか?」

「ええ、少しだけ痛いのですわ。でもこれは武器だけではありませんのよ? 例えるなら……操作盤と言ったところですわね」

「操作盤……? っ! おい、なんだこれは!?」


先ほどコウモリがつけた噛みつき痕から赤い糸が伸びていき、マリーの腕とフィールの爪をつないでいる。


マリーは糸を切ろうと腕を振り回すが、すり抜けてしまい触ることができない。


「先程コウモリを通じて、私の血を少しだけ送り込みましたわ。これで先生の腕は私の支配下になりましてよ」


気がつけばマリーは腕が動かせなくなっていた。

それどころか、勝手に腕が動いて首を締め付けようとしてくる。

マリーは慌ててもう片方の腕で動きを止めた。


「……ずいぶんと厄介なスキルを持ってるじゃねえか」

「形勢逆転だね」

「私達の勝ちですわ。命まで奪うつもりはございません。降参してくださいませ」


そう宣言するフィール。

宣言を聞いたマリーは一瞬だけキョトンとした無邪気な顔になると、大きく声を上げて笑いだした。


「ふふふ、アタシが降参? この程度で? はははっ、本気で言ってんのか?」

「な、何をおっしゃってますの? 先生は両手が使えず、気を許せば自分の腕に殺される状況、加えて二対一! この状況でどうにかできるとでも……」


瞬間、マリーの手から炎が奔る。

そして、操られている方の腕を焼きはじめた。


「魔族ってのはペラペラ喋るのが好きだな? まあどうでもいいさ。血が入ってるから駄目なんだろ? だったらよ、操ってる血を焼くか切り落とせば良いじゃねえか」

「そ、そんな……。自分で自分の腕を……」

「も、森よ! 枝の槍で――」

「もう遅い。サンダーローズ」


マリーは風を纏って加速し、一瞬で距離を詰めると雷撃をアルマに与えた。

痺れて動けなくなったのを見届けると、フィールへと向き直る。


「アルマ!」

「悪いが前戯は終わりだ。一気にイカせるぜ? ファイアローズ」


炎が上空を踊る。

何かを仕掛けてくるつもりだろうか。

フィールは身構え、避けようとした。


「無駄ですわ! ……えっ!?」


気がつけばフィールの足には大きな包丁のような刃物が刺さっている。

炎に視線を移した隙にマリーは影から刃を投げつけていたらしい。


「アツいのは好きか? 炎の曲芸に見惚れて足元が御留守だったな」

「痛い……。くっ、ここは距離を……! ……!? な、なぜ体が霧にならないの!?」

「魔族は体を変えるとき魔力を使ってんだろ? 変身したけりゃ魔力を散らす武器を体に挿れたままじゃだめだぜ?」


「な!? そんな武器まで持って……」

「決着だな。サンダーローズ!」

「きゃああああっ!」


マリーから生み出された雷撃に、フィールもまた膝をつく。

先程まで形作っていた吸血鬼としての姿は消え、少女の姿に戻っていた。


マリーは地面の土を操ると、土がうねり二人の足を包み込んでしまう。

逃げないようにするための足かせだ。


「さて、アタシの勝ちだな。降参しろ、命まで取りはしねーよ」

「くっ誰が……。アナタ達人間の、奴隷なんかに! 殺しなさい!」

「そうだ、よ……。アタシたち負けないんだから」

「は? またお前らなんか勘違いして……」


その時、一つの影が倒れた二人を庇うように立ちはだかる。

ガロだ。


「彼女達を! 絶対に! 傷つけさせない!」



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