第66話 買い物練習
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最初に道具を持ってきたのはガロのチームだ。
「俺達がえらんだものはコレだ」
持ってきたのはキャンプ用具一式に、解体用ナイフ、携帯食糧か。
うん、他にも回復薬に毒消しなど必要な物が一式揃っていて問題ない。
重すぎもせず完璧だ。
こういうのは事前準備が大事だからな。
……っておい、なんでゴムが入ってるんだ。
「ん? なんだこれ? 俺は入れてないぞ?」
「あ! ガロ君! えっと、これはお守り、お守りだから!」
「え? でも俺がお前たちを守るし、こんなもん……」
「だ、大丈夫ですわ! 私達の地方に伝わるおまじないですの!」
まったく色気づきやがって。
だがゴムはちょっとなあ……。
「フィール、アルマ。お前たち、ちょっと来い」
「ひ、ひぃっ! その、誤解です!」
「そうですわ! 万が一に備えた準備ですわ……。え? この薬は?」
なに、効果はソレと変わらねえよ。
「物理的に遮断してもいいが、アレは病気のリスクがある奴らが買うもんだ。お互い初めてならコッチの魔法薬にしておけ」
「え? は、はい?」
「その、なんというか理解力ありすぎですわ……」
「分かってると思うが時と場合は選ぶんだぞ」
二人共顔が真っ赤だ。
無言で頷いている。
初々しくていいな。
「あと分かってると思うが、片方が特別な存在になったらチームは崩壊だ。お前達の事は知らないが友達を続けるのも難しくなるだろう」
「そんな! 私達の友情はそんなんじゃ壊れません!」
「そうですわ! アルマは館にいたときから一緒にいてくれた、無二の親友ですの!」
二人共手を握りあっている。
やはり少し不安はあるんだな。
……ちゃんと指導してやるか。
「安心しろ、男ってのは根っからの浮気性だ。きっかけを作って二人がかりでヤれ。まとめて特別な存在になっちまうんだ」
「え!?」
「その手が……!」
よし、理解が早くて助かるぞ。
変に貞操がカタい奴は一人を独占するのがベストだと思ってるからな。
「遠慮して受け身になるな、二人がかりで積極的に行け。最悪別の奴に盗られるからな。テクニックを磨いて二人がいないとイケないくらいまで攻めたてろ」
「はいっ! 先生!」
「ご鞭撻感謝いたしますわ……」
頑張れよ。
こういうのは事前準備が大事だからな。
ガロが心配そうにこっちを見ているな、戻るか。
「フィールもアルマも大丈夫だったか?」
「ええ! とても有意義な講義でしたわ!」
「ガロ君、私達頑張るから!」
「ん、大丈夫だったのか。元気が出たなら……ちょっとなんか目が怖いんだけど」
気にするな。
冒険者はガツガツ行くもんだ。
さて、次はルルリラ達か。
「私達はこれです!」
どんどん荷物が置かれていく。
……多すぎる。
「いくらなんでも多すぎじゃねえか?」
「大丈夫です! ウルルが持つので!」
「おう、これくらいは任せておくじゃんよ」
へぇ、これを軽々しく持ち上げるのか。
見かけによらず随分と力持ちだな。
「まあいい。中を見て行くぞ」
荷物を開けて見る。
ほとんど食い物じゃねーか。
「なんだこれ? 保存食を用意するのは良いが多すぎる。それに、これ人間用じゃねーぞ?」
「えっ……? あはは、間違えちゃいました」
「意外と美味いんじゃねーのか?」
まったく。
ジャーキー以外は猫の缶詰に犬の缶詰とか、餌付けでもするのか。
「中にキャンプ用具が入っていないが野宿でもするのか?」
「私たちここに来るまでずっと野宿してたので大丈夫です!」
「おう! 北みたいに雪が降ってるわけでもねえしな! 楽勝じゃんよ!」
「……せめて蚊帳付きテントかハンモックくらいは用意しておけ」
こいつら野生児か。
……なんか、そのままでも大丈夫そうだなコイツら。
だがいくら慣れているとはいえ、北の方とは勝手がちがうだろう。
森の中は虫が多いし、噛まれたり病気になったりしたら元も子もない。
「ん? これは……?」
「あー、それな。ルルリラのやつがどうしても持っておけってうるせえからよ」
「えっと、必要だと思います!」
いや、これ痛みを快楽に変える薬じゃねえか。
特殊性癖向けか、痛みを増す毒と組み合わせて疑似媚薬として使うくらいだぞ。
「ふふふ……、怪我をしたウルルにこっそりとコレを使って虜に……、えへへ……」
おい、心の声が漏れてんぞ。
つかそっち方面に使うんじゃねえ。
アタシたちは一応戦場に行くんだよ。
昂ぶるにしてもノーマルな方にしとけ。
「これは駄目だ」
「そんなぁ! ちょっとくらい良いじゃないですか!」
「こんな危なっかしいモン持ち込むんじゃねえ。しかしこんだけ荷物があるのになんで無駄なものばっかりなんだ」
衣食住のうちほぼ食糧しかねーだろ。
食うことしか考えてないのか。
「無駄じゃないです! 美味しい食事があったら幸福度が違います!」
サバイバルに幸福度を求めるなら缶詰より先にキャンプ用具を先に揃えろ。
つかナイフもねえじゃねーか。
「魔物の解体とかどうするんだ? なんか剥ぐための道具持ってるのか?」
「おう、あるぜ! 代々受け継いだこの両手がな!」
「そ、そうか……」
両手でガッツポーズされても反応に困る。
野生児かお前は。
「ツッコむのも面倒いが一応言っておくぞ。手で解体なんてするんじゃねえ。肉や皮を売る場合、価格が落ちるからな。ナイフを使え」
「ええ……面倒くさいじゃんよ……」
素手のほうが大変だろうが。
面倒くさいのは教えてるアタシの方だ。
そうこうして、一つずつ常識という名の事前準備を二人に教えていく。
なんでコイツら、こんなに常識が無いんだ。
「――というわけで、準備はこんなもんだ。今は駆け出しだが、馴れてくると自分のスタイルに合わせて取捨選択できるようになる」
「持ってみると意外と重たいのですわ……」
「俺に任せろ! 運んでやる」
「前衛は力がある奴が多く持つのは構わないが、回復薬含めて分散して持つ事や必要に応じて捨てる事も忘れるなよ」
一人だけが荷物を持ってると事故で壊滅もありえるからな。
基本は分散だ。
「魔道具には見かけ以上にたっぷり入る袋とか重量を軽減するバックパックとかあるからな。余裕が出来たら買っておくといい。楽になる」
なんとか準備は終わったな。
……しかし疲れた。
主にウルルとルルリラのせいだが。
これなら前日に説明して買っておけば良かった。
悩んでも仕方ないか。
森に行こう。




