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第63話 指導とオーガキラー

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「――というのが魔法の基礎になります。皆さんは誰でも使えるようになりますからね、焦らなくて大丈夫ですよ」

「大切なのは根源から力を借りることを忘れないようにすることだね。それが出来ればキーとなる詠唱以外は適当でもいいのさ」


戻るとエリーが魔法の指導をしているところだった。

それをリッちゃんが補足していく。

何気にいいコンビなんじゃないか、あの二人?


「あ、マリーお帰り。今それぞれの女の子たちに魔法を使ってもらっているところだよ」

「皆さん、やはり冒険者になろうとしているだけあって、魔法が使える人が多いですね。」


見回すと、ひよっ子共が好き勝手に魔法を使っている。

とはいえ、使っているのは初級魔法のファイアーボールがメインだが。


「誰か面白い魔法やスキルを使える奴はいたか?」


個人的に指導するならブッ飛んだ奴か、尖った才能を持つ奴を指導したい。

そのほうが伸びしろがありそうだし、アタシたちのスタイルとあってそうだ。


「それでしたらあの子なんかはどうでしょう?」


エリーが指差したのはさっき戦った褐色娘の隣にいたやつだ。


「なんだ? 才能があるのか?」

「あの子は、魔法がちょっと変わってるんだよ」


りっちゃんが横から口を挟んでくる。


「変わってる? どんなふうにだ?」

「えっと、見てもらえばわかると思うよ。おーい、ルルリラちゃん」


声をかけると色白の女の子がこちらへ歩いてきた。



「はいリッちゃん先生! なんでしょうか!」

「えっとね、マリーに魔法を見せて上げてよ。さっきのやつ」

「はい! 任せて下さい!」


元気で素直そうな子だ。

ある意味褐色娘とは対象的だな。


「【ひんやりひやっとかき氷。キンキン冷えて美味しいぞ】〈氷弾〉」


歌うように呪文を唱え終わると、指先から氷の球が飛び出して地面に落ちる。

これ雪の玉か? いや違うな、かき氷……か?


「どうですか私の魔法は! どこでもかき氷を出せるんです!」

「良く出来ました! 素晴らしいですよ」

「お、おう……」



エリーが褒めている。

だがなんというか、すごく微妙だ。

その表情を読み取ったのか、エリーが説明してくる。


「〈氷弾〉の魔法は本来氷の粒を鋭く飛ばす魔法です。ですが彼女は粒ではなく、かき氷の形で生み出すんです」

「ん? てことは最後の詠唱のキーワードを言ってもまともに発動してないってことか?」


そこで再びリッちゃんが口を挟んでくる。


「えっとね、たぶんこの子の持つスキルが干渉してるんだと思う」

「干渉? 完全に使いこなせてるわけじゃねえってことか?」


そういえば魔法にスキルを上乗せしている奴らなら何人かいたな。

その延長線……いや未熟版か。


「さっき話を聞いたんだけど、この魔法って適当に歌いながら魔法使いのマネをしてたらできるようになったらしいんだ」

「正式に習ってないのに使えるのか。そりゃすげえな」

「え? あはは、褒められちゃいました」


あまり褒められてないのか、はにかみ顔がかわいいな。


しかし氷系統のスキルはこの辺りじゃ少ない。

後でギルドに確認してみるか。


「あ、わたしかき氷魔法の他に、ゼリー魔法も使えます!」


ゼリー魔法……?


「なんだそりゃ? スライムでも召喚するのか?」

「違います! 使ってみせますね【ぷるぷる夢のぷるゼリー。踊って触ってぷるぷるるん】〈水球〉」


そうすると手のひらに半透明なスライムのようなものが生み出される。


「あのな、許可なくモンスター召喚したら捕まるんだぞ」

「違います! ゼリーです! 食べてみてください!」

「ゼリー? なんでゼリーが魔法で……」

「良いですから! 絶対美味しいですから!」


おい、顔にグイグイ押し付けてくるな。


見た目はスライムだからあんまり食べる気がしないんだよなあ……。

しゃーない。一口だけ食べるか。


お、甘い。


「意外と美味いな。そしてゼリーだ」

「でしょう? これが私ルルリラ自慢の特性ゼリーです!」


凄い能力だが戦闘には向いてない気がするが……。


「私、この力でウルルと自分の菓子店を開くのが夢なんです! 力を鍛えてカラフルお菓子を作ったり、皆に喜んでもらってお店をおっきくして、そしてウルルをお嫁さんに迎えて……」


夢があるのは良いこと……、ん?

最後なんかおかしくねえか?

お、噂をすれば相方とやらが来たな。


「ルルリラ、俺を呼んだか?」

「ウルル! ……えへへ、ちょっと未来の夢をお話ししてたの」

「おう! 未来はルルリラと一緒に活躍して有名になってみせるじゃんよ!」

「うん! 一緒に有名になろうね! 私たち一心同体だから!」

「へっ、この腕でどんな強敵もぶっ倒してやるじゃん!」


ウルルの活躍は冒険者としての活躍だろ。

もう既にすれ違ってるじゃねえか。


「……冒険者やりながら商売人やってる奴らもいるし、その辺りは自由だからな。まあ頑張れ」

「はい、頑張ります!」


何はともあれ夢があるのは良いことだ。

応援してるぞ。


それから一ヶ月が経過した。

基本的にやっていたことは、足運びや体裁き、武器の使い方などの基礎練習だ。

あとは重しを使った筋力トレーニングだな。


「んじゃ、男どもはマラソン十周したら終わりな」

「うぎゃーっ! せめて半分に……」

「魔物倒せば強くなんだろ? 良いじゃねーか!」

「男は確かに魔物を倒して身体強化できる。だがな、そうすると基礎がおざなりになるんだ」


コレにアタシが気づいたのはそこそこ成長してからだった。

身体強化は元の筋力に倍率かけて計算してる感じだからな。

先に身体強化で強くなると筋力が伸ばしにくい。


多分だが冒険者の男どもがランク的に伸び悩んでる理由の一つがコレじゃないだろうか。


「エリーせんせー、この魔法ですが……」

「この魔法はですね……」


ちょっと離れたところでは、エリーとリッちゃんが魔法を教えていた。


魔法関係はリッちゃんとエリーにすべてを任せている。

詠唱ができないアタシより、あの二人の方が適任だろう。

実際、うまく理論と実践できっちり能力を伸ばしてくれているみたいだ。


「さてお前ら、来週から実際に魔物との戦闘で経験を積む形になる」


戦闘と聞いただけでひよっ子達の顔が緊張する。

一部緊張してない奴らは村や人間相手に戦ってたんだろう。

オネエ組のダンとか良い例だ。


「だがこれだけの人数だ。面倒見るにしてもアタシたちじゃ取りこぼしが出るからな。不本意だが、非常に不本意だが別の冒険者チームがこれからお前たちの面倒を見る」


そこでポン子が一歩前に出る。


「はい! 未来ある冒険者の皆さんのために、とっておきの逸材に依頼しました! 一人一人がオーガを倒す能力を持つ、『オーガキラー』の皆様です! どうぞ!」


ポン子はギルドの扉に向かって声をかけるが誰も出てこない。


「……」

「……」

「あ、あれ? ついさっき到着した『オーガキラー』の皆さんには扉の前で待っていて貰うように伝えたんですが……」


そう言うとギルドの奥から大声が聞こえてきた。


「くそっ! まだ生きていたか!」

「姉ちゃん! もう倒したから! 死んでてもピクピクする事あるから!」

「必殺! 絶対最強呪い斬り!」

「やめてえぇぇぇ!!!」


爆音が響いて扉が吹っ飛んだ。

いきなりナニやってんだあの馬鹿。


うわ、なんかの体液が飛び散ってばっちい。


「ふはは! みろ! 私の一撃はキングローパーですら粉砕したぞ!」

「うう……。これ、もう死んでたんよ……」

「お任せください二人共。先日覚えた技をお見せしましょう。【ハンマーも筋肉も力が命、釘も力が命。筋肉のように再生せよ】〈物体修復〉」

「おおっ! 扉が直っていく! 流石だラズリー」

「お褒めに預かり光栄の極みです」


あぁ、相変わらずだなコイツら。

つか物体修復なんて冒険者が覚える魔法でもないだろ。

専門の修理屋が覚える魔法だ。

……どんだけモノを壊してきたんだ?


「えっと……オーガキラーのみなさん……?」

「おお、受付嬢ではありませんか! これはお見苦しいところをお見せしました」

「いきなり扉を破壊して何やってるんですかぁ!」


あ、ポン子がキレた。

よし、アタシの代わりにしっかりシバキ倒してくれ。


「失礼しました。これはささやかな気持ちですが……」

「えっこんなにたくさん……。コホン、扉も直した事ですし今回は多めに見ましょう」


おいポン子、ラズリーの賄賂を懐にしまうんじゃない。

ひよっ子たちがドン引きしているぞ。


「何やってんだお前は?」

「おお、マリーさん達! お元気でしたか? これは過去の経験より身につけた社交術という奴です」


なんでやらかす事前提の社交術なんだ。

やらかして袖の下贈るとか明らかに間違ってるだろ。

世間から絶交されてろ。


「ほう、面白いモノを受け取ってるじゃねえか、ポン子ぉ?」


ギルドの奥から現れたおやっさんが、ポン子に声をかける。


「ひっ、部長……? こ、これは違います。賄賂じゃないです! というか何故ここに!?」

「そりゃあんだけ大きな音だ。顔くらい出すよなあ?」


あ、おやっさんがポン子の頭を鷲掴みにした。

おやっさんの十八番、アイアンクローか。

久々に見たぞ。もっとやれ。


「さて、さっきのお金について話して貰おうか」

「い、いだだっ! ここ、これは借金です! 貸してたお金を、返して貰っただけで、痛だたたっ!」

「ほう? じゃあなんだ? ギルドの受付嬢が、冒険者に金を貸した? いつ? どうやってだ? 分かりやすく教えてくれねえか?」


おお、片手で持ち上げた。

流石はおやっさんだ。

ポン子の顔からメキメキって音も聞こえる。

目とか鼻とかから水が出て整った顔が台無しだな。


「まさか天下の受付嬢ともあろう者が、新米冒険者を前にして賄賂を受け取るなんて浅ましい事をしてねえよなあ?」

「わ、私は決して賄賂など……、そうですよねマリーさん!」


それアタシにいってんのか?

お、手持ちのお金をチラつかせている。

……しょうがねえやつだな、ポン子は。


「ソイツ前にも新人とアタシが戦って何分持つか賭けにしようとしてたな」

「ほほぅ?」

「マリーさあぁぁん!!! それは秘密にしてくれるって……! いだだだだ!!」


そんな約束してねぇよ。

勝手に捏造するな。


というかなんで味方してくれると思ってんだ。

ポン子なんかより、そこの可愛いひよっ子の方が大事に決まってんだろ。

コイツらには酒場の冒険者やポン子と違って未来があるんだ。

真っ直ぐに育って欲しいんだよ。


「お前らよく見ておけ。悪い大人はああやってギルドに制裁されるんだ。ギルドを怒らせるんじゃないぞ」


「「はいっ! 先生」」


うん、良い返事だ。


「そんな! みんな酷……いだだあああっ!!」

「さあ、中でゆっくり話を聞かせて貰うぞ? ラズリー、お前もだ」

「私は賭け事に絡んではいないのですが……」

「そっちじゃねえ! とにかく来い!」


おやっさんが後は任せたぞ、とだけ言うとポン子とラズリーを連れて行ってしまった。


アタシが『オーガキラー』の説明と紹介をするのかよ。

やだなあ……。

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