第61話 ひよっこ
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一週間後にギルドに行くと、集められたひよっ子共が建物の前にうろちょろしていた。
「うわー、こんなに面倒見るんだ……」
「かなりの数ですね……」
「ひよっ子達も集めればそれなりの数になるって事だな」
戦力としてはともかく数だけは立派だ。
ひい、ふう、……十二人くらいか。
アタシ達も少し年長の冒険者だと思われてるのか、誰も教官側だと気づいていない。
「おうおう、ガキ共はミルクでも飲んでろってんだぜぇ!」
なんかうるさいアホが騒いでるな。
……と思ったらいつものアイツか。
おいウザ絡み、道端でひよっ子に絡んでて情けなくならねえのか。
「おうそこのガキぃ、良い女を二人も連れてるじゃねーか。一人くらいこっちによこせよぉ!」
「ふ、ふざけるな! アルマ、フィール。こっちへ!」
「う、うん。ガロ君、頑張って!」
「逃げませんこと?」
おー、金髪のショタが同じく緩いウェーブがかかった女の子とストレートをかばってやがる。
まだまだガキなのに健気な奴らだ。
青春だな、熱いねえ。
だが少年たち安心しろ。
ソイツはモテないから僻んでるだけだ。
モテナイ男は辛いねえ。
……アタシは特に意味は無いがエリーを近くに引き寄せた。
そうこうしている間もウザ絡みはしつこくひよっ子に絡んでいる。
助けてやっても良いが、頑張ってる男の子を無視して手柄をかっさらうのもな……
少し様子を見るか。
「どうした? かかってくる勇気もねえのか? これで冒険者ってのもおかしな話だなあ!」
「くそっ! やってやる!」
お、鞘付きのまま剣を構えたか。
……意外と様になってるな。
「へ、へっへっへ、俺様に逆らうとはいい度胸だ」
「うるさい、かかってこい!」
鞘から抜かないのも良い判断だ。
先に刃物を出すとちょっと面倒だからな。
まあ鞘付きだと扱いづらいが。
「い、良いのかぁ! 俺に勝てると思ってんのかぁ!」
『ウザ絡み』の腰が引けている。
なんでG級のひよっ子にビビってんだよ。
アイツ見てて不愉快だしブッ飛ばすか。
……と思ってたら間に男が立ちはだかった。
なんか見たことある奴だな。
「おう、年長のモンがガキに嫉妬してイビり散らすとは感心しねえな?」
「ぬ、ぬぁんだあテメェ!?」
「冒険者ってのは仁義もねえか。失せろ」
「き、今日はこ、ここまだにしどいてやる!」
ビビったのか舌を噛みまくるウザ絡みを一睨みで追い返すその男には見覚えがあった。
オネエ組長のトコにいたショタ好きじゃねえか。なにやってんだ?
「大丈夫だったか? ボウズ?」
「ああ、ありがとう。オッサン」
「俺はまだ十九だ、兄ちゃんと呼べ。ところでこれからホテルに行かないか?」
いきなりのド直球アプローチだな。
周りが理解できなくて引いてるぞ。
お前男の子をナンパしに来たのか?
「は? に、兄ちゃんもこいつ等を狙ってんのか!?」
「いや女には興味ない。女ってのはいつもキーキー喚いてうるさいからな。筋も通さねえ。それよりボウズ、ガロとか言ったか。お前みたいな方が好みだ。さあホテルに行こう」
おい、ボウズの顔が引きつってんぞ。
しゃーない、割って入ってやるか。
「冗談はそこまでにしとけ。ひよっ子が困ってるだろ」
「アンタはボスのトコで会った……名前はなんだったけか?」
アタシの名前を忘れるとはいい度胸だ。
「マリーだよ。忘れてんじゃねえ」
「すまん、女の名前に興味はないんだ。男ならすぐに覚えるんだが」
「悪い意味でブレねえなお前。なんでここにいるんだ? ココは新米冒険者が講習を受ける場所だぞ?」
「ボスの命令だ。前回の件も踏まえて、ギルドに詳しい人間が必要らしい。ついでに常識を学んで来いとの事だ」
ここはマナー講座じゃねえぞ。
ここでは魔物の殺し方と暴れ方しか学べねえよ。
「とりあえずガキ共に手を出すんじゃねえ。それが普通の常識だ、なにより教官として……」
「ネェちゃん達も冒険者志望か? よろしくな!」
声をかけてきたのはさっきのガキンチョだ。
ガロ……だったか?
「ん? いや、アタシは――」
「ガ、ガロ君! すいません! 冒険者の皆さん!」
「ガロさん、ほら冒険者タグ!」
「え? ……あぁっ!!」
気づいたか。
念のために見えるようにブラ下げておいて良かったぜ。
「嘘だろ! 俺達とたいして年変わらねえじゃん!」
「冒険者は見た目で判断してはいけませんわ。私達だって十年くらいなら今の姿で…… コホン、とにかく冒険者は色々と特殊な事情が多いですのよ」
「つまり若作……ってぇ!」
金髪ウェーブのガキンチョが思いっきりスネを蹴り飛ばす。
次に赤髪の女の子が嗜めてきた。
「ガロ君。女の子に年齢を聞いちゃだめなんだよ!」
「気にするな。……名乗ってなかったな。アタシは『エリーマリー』のマリーだ」
「私はエリーです。よろしくお願いしますね」
「我は魔王の、ひゃんっ! ……僕はリッちゃんって言うんだ! よろしくね!」
またリッちゃんが余計なことを言いそうになっていた。
軽く尻にタッチして黙らせる。
「すいません。私はアルマです」
「私は高貴なる一族の血を引くもの。フィールですわ。記憶の片隅にでも留めて置いて下さいませ」
自分で高貴なる血を引くとか中二病か。
まあ若いウチは仕方ないよな。
自分が全能だと感違いしちまう年頃だもんな。
「な、なんですの!? その妙に優しくて生暖かい目はっ!」
「いや、何でもねえ……。大人になれば分かるさ。ただ、あんまり高貴とか強い言葉を使うと未来の自分にボディーブローが返ってくるぜ?」
「違いますわ! 私は本当に……」
「フィールちゃん! それは秘密だから! これ以上はしーっ!」
まあ服が明らかに良い布使ってるし、それなりの身分なんだろうな。
だがここに来たからには関係ない。
「ただの冒険者見習いとして扱ってやるから気にするな」
「同い年くらいに見えるけど、そっちも冒険者なのか?」
ガロとかいう金髪ショタがリッちゃんを見ながら話してくる。
「僕? そうだよ! 冒険者としては先輩だね!」
「……ちなみにアタシらで一番の年上はリッちゃんだ」
「うぇっ!? 全然見えない!」
「えへへ……」
照れてるようだが多分向こうは褒めてないぞ。
むしろギャップにびっくりしてるんだろ。
「リッちゃんさん、始めまして。俺はダン。前の仕事ではアンタのトコのボス、アリー……? と仕事させて貰った」
おい、もう名前忘れたのか。マジかよ。
「あっはい。よろしくお願いします。あ、リッちゃんでいいよ」
「分かった。よろしく頼む」
しかしずいぶん偉そうな新人だな。
ギルドからは最終的に何人か有望そうなのに絞って面倒を見るように頼まれてるが……
とりあえずダンはねえな。
おっ、ポン子が出てきた。
「未来あふれる新人冒険者の皆さーん。元気ですかー? そろそろ講師を担当する冒険者の方が来ますので集まって並んで下さーい」
おいおい、冒険者が掛け声だけで並ぶわけが……。
おおっ! 普通に集まって並んでるぞ、凄え!
これが酒場でクダ巻いてる奴らなら、俺が前だの後ろがいいだの言い出して、挙げ句の果てに小競り合いが始まるところだ。
新人ってのは真面目で初々しい奴らだったんだな……。
普通っていいなあ。
こんなに可愛い奴らの大半が一年後には酒と色に溺れて沈んでいくんだもんなあ。
月日ってのは残酷だぜ。
「マリー、ちょっと目が潤んでるけどどうしたの?」
「いや、教育ってのは大事だと思ってな。身を引き締めてたところだ」
「ふふ、私達も頑張らないとですね」
ああ、そのとおりだな。
「あ、マリーさん来てたんですね。皆さん、あちらが指導にあたる冒険者『エリーマリー』のチームメンバーです」
ひよっこ共が一斉にコッチを向く。
「マジか……。ほとんど同い年じゃん」
「ちょっと年上かな? かわいい……」
「キレイ……。撫でて欲しいなあ」
うん、やっぱりそう来るか。
だが全体的に好意的な意見が多い気がする。
「あー、アタシらが指導にあたる『エリーマリー』のリーダー、マリーだ。教官でも先生でも好きに呼べ」
「本当に戦えんのかよ。実は弱いんじゃん?」
「ちょっと、ウルル!」
お、ヤジが飛んできた。
ヤジを飛ばしてきたのは褐色の女の子か。
色白の女の子が止めようとしているな。
「よし、そう言うならちょっと模擬戦がてらに戦い方を教えてやる。こっちに来な」
良かった、良い子ばっかりいるのは想定してなかったからな。
こういう生意気なガキがいないと予定が狂うトコだった。
「え!? マリーさん、ちょっと待って下さい!」
「大丈夫だ、黙って見てな」
「ああもうっ! 準備してきます! 絶対に試合を始めないでくださいね!」
ポン子はアタシを咎めたあとギルドに入ってしまった。
ポン子やギルドが何考えてようとアタシはアタシのやりたいようにやるだけだ。
知ったこっちゃない。




