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第60話 春便り

編集時の投稿ミス対策として通し番号を本文に追加しました。

5-60-72


寒さも抜けて、少し暖かくなってきた。


アタシ達は、ギルドとの話もあって王都のエリート共から事情聴取を受けるまで、案件の受注に制限がかかった。


しょうがないので服を買いに街へでかけたり、館でダラダラしている。

あまりだらけすぎるとまたお化けたちに怒られてしまうので、時々は訓練して茶を濁しながらだが。


訓練の成果は上々だ。

なかでも精霊魔法のおかげでエリーの戦闘技術が向上している。


精霊の力で生み出せるのは幻覚、誘惑の魔法だ。

とくに幻覚は見た目は実際に攻撃してみるまで分からない。

視覚に頼ってる奴らだと一杯食わされる。


ただ誘惑の魔法は理性が吹っ飛んでヤバかったので模擬戦ではお蔵入りだ。


エリーが言うには、精霊の力を借りるときは、あえて詠唱を省いたほうがより多くの力を引き出せるらしい。

詳しくは精霊に聞けば教えてくれるだろうが……


アイツは半永久的にお蔵入りだ。

練習と称してうっかり殺されたんじゃ割に合わねえしな。


リッちゃんは相変わらずだ。

研究の結果、魔力効率を改善して速さも威力があがったとか言っていた。

だが、魔力を直接出す古代の魔法とやらは上手くいっていないらしい。


まあアレっきりアタシも使えてないしな。


訓練から始まって、終わりには風呂場でじっくり体を洗い、床につくのが最近の日課だ。


そんな中でギルドから一通の手紙が届く。

アタシはその手紙を読むとため息をついた。


「なんでアタシがガキどもの面倒を見なくちゃいけないんだ」


依頼に書いてあったのはギルドからの新人研修講師の打診だ。


なんでも今年から生存率向上のためベテラン冒険者をしばらく指導にあてて様子を見たいらしい。

アタシの頃は半日講習して終わりだったのに随分と変わったもんだ。


詳しく内容を読み込んで見る。

新人の数にもよるが、いくつかのチーム分けをして、そのうち一つを見てほしいとの事だ。


アタシたちが教えられるのはナイフの使い方くらいだってのに無茶ぶりが過ぎる。


「新人冒険者の研修ですよね? そんなに幼い子たちが来るんですか」

「いや、エリーより少し下くらいが一番多いな。十代後半もいるが。下手するとアタシ達が新人冒険者に見られちまう」


暖かくなる少し前から、ギルドには新しい顔ぶれが増える。

と言っても、農家で継ぐものが無いから口減らしも兼ねて出てきたやつら、商売がうまくいかなくなった行商人の子供など素性は様々だ。

過去には貴族の五男坊なんてのもいたらしい。


冒険者は実力さえあれば一攫千金が狙える仕事だ。

中には素行が悪くて山賊やマフィア堕ちする奴も居るが、その前段階のセーフティネットとしての機能がギルドにはある。


「僕たち、一応人生経験重ねてるんだけど外見がね」

「最年長のリッちゃんが一番幼く見えるんじゃねえか?」


リッちゃんのおかげでウチのチームは平均年齢三百オーバーだ。

ギルドでもぶっちぎり最年長チームだな。


王都のお偉いさんに『不老』というスキル持ちがいるらしいが、リッちゃんどっちが年上だろうか。


「とりあえず断りを入れに行くか」



受付はポン子だった。

おやっさんは奥でなんか作業をしている。


「おや皆さん、お元気でしたか? 最近見かけませんでしたけど?」

「この間からの出張でみんな力尽きてたんだよ。風呂に入ったりゴロゴロしてのんびりしてたんだ」


風呂はいいぞ。とくに温泉は最高だ。

ただ深夜にエリーとイチャイチャしながら浴場へ転移したら、先にいたリッちゃん達と鉢合わせしたのは気まずかった。


「私、この春からは新人冒険者講習の受け持ちもやるんですよ」

「やめろ死人が出る」


お前キャベツとレタスを間違えたとか言うノリでゴブリンとオーガを間違えるだろうが。

新米なんざ骨も残らんわ。


冒険者ってのはただでさえ巷の評判が悪いんだ。

お前のせいでギルドの立場が更に悪くなったらどうするんだ。


「なに他人事みたいに言ってるんですか? 『エリーマリー』の皆さんは、すでに新人教育係として登録済みですよ?」

「は? なんだそりゃ。アタシは依頼を断りに来たんだ。どこの誰が……」

「ふっふっふ、推薦したのは私です! そして承認したのも私です!」

「プチ・サンダーローズ」

「はにゃん! あふぅ……」


とりあえずお仕置きとして一発食らわせてやる。


……どうでも良いけどアタシの雷撃で気持ちよくなってないよな。

耐性ついたのか?

なんで頬が赤くなってるんだ?


まあいい、考えたら負けだ。

とにかくアタシ達の意志を無視して勝手に承認するとは面白いやつだ。


教育すると言っても、このチームだとアタシはスパルタ過ぎてヒヨッコ達がついてこれねえだろうし、リッちゃんは舐められそうだ。


そうなるとウチのメンバーで新人を手とり足取り教えられるのなんてエリーくらいしかいない。

だがむしろアタシが手とり足取り教えてほしいので却下だ。


「今回の依頼はC級以上のランク持ちが条件になってる。今のアタシ達は公式にはまだD級だ。横暴だぞ」

「仮とはいえB級のタグをつけてるんですから、都合よくランクを変えないでください。それにどうせ暇なんですよね? いいじゃないですか。新人をイビってお金貰えるんですよ?」


なんでイビる事前提なんだ。

お前は自分より若い子が来たらイビるのか。

……やりそうだな。


「死なねえように死ぬ寸前まで厳しく鍛え上げるだけだ。イジメたりはしねーよ」

「それをイビると言うんじゃないですかね……」


ちげーよ。アタシの愛だよ、愛。

可愛がってんだよ、物理的に。

ファンクラブの奴にやってみろ。

涙流して喜ぶぞ?


「とにかくキャンセルするにしても部長から話を聞いてからにして下さい」


しょうがない、おやっさんに文句言うか。

おやっさんは……奥で働いてるな。


アタシはおやっさんに声をかけて呼び出す。


「おやっさん、ギルドからの手紙だがな、断わりたいんだが……」

「と言ってもお前ら仕事ないだろう? 勝手に承認したのはポン子だがな。こっちとしても受けて欲しい依頼だ」

「つっても他にマシな奴らいるだろ? アタシ達は自分でこういうのもなんだが、イレギュラーの塊だ」


魔王の親、精霊使いのエリー、レアスキルと謎魔法のアタシ。

新人が参考にするにはブッ飛びすぎる。


それを聞いたおやっさんがため息をつく。


「ここの領地にいたB級冒険者だがな。現在大半がバレッタ領に移籍している。治安が不安定になっていてな。悪党狩りのため王都から良い報奨金が出ているそうだ」


何?

じゃあ今はミソッカス共しかいねえのか。


「B級で残っているのは近々強制依頼から戻ってくる『オーガキラー』とお前達くらいだな」

「よくそんな状況で新人教育なんてやろうと思いついたな」


隣の男爵領並に人材不足じゃねーか。

ここ、それなりに稼げる土地なのに勿体ない。


「逆だ。こんな状況だからこそ、ヒヨッコ共でも早急に育てあげる必要があるんだ。なにも全員を最後まで面倒みる必要はねえ。見込みのありそうなのを数人見繕ってくれればそれでいいんだ」


つっても今いる奴らを育てた方が……。

いやあいつ等無理だな。

人としての低みを極めたような奴らだからな。

成長してるのはアルコール耐性くらいだ。


それにあいつ等が新人教育したら才能の芽を伸ばそうとして引っこ抜きそうだ。


「ここでしっかり育て上げ、恩を売っておく。さらに今回は特例として、上位冒険者の同伴時に限り上のランクも受けられるようにする予定だ」


上級冒険者のサポート業務のみをすることが前提だがな、とおやっさんは言う。


「ちなみに断った場合は?」

「特にペナルティそのものはねぇが、お前ら俺達ギルド側の都合で依頼受けられない状態だろ? この依頼を受けてくれた方がこっちとしても金が出しやすい」


おやっさんがそう言うと金額を提示してきた。

依頼を受けた時の報酬込みの金額と受けなかった時の金額だ。

かなり差がある。


……というか受けたら結構いい額になるな。


「今回は実験的な試みだが、この件に関してはギルドとしても上手く行ってほしいと思っている、だから奮発するぜ?」

「……よし、分かったぜ。未来ある冒険者のためだ。一肌脱いでやる」


たまにはギルドのために働いてやるよ。

金も良いしな。

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