表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/159

第56話 遊び

だがコイツは本当に遊ぶ気なんだな。

悪意も何もない。

……ならチャンスはあるか。


「いいぜ。全力で遊んでやるよ」

「ふむ、決まりじゃな。……さて、この魔法陣だが、これがあると互いにつまらなくなりそうじゃな」


そう言って手を振るとリッちゃんの描いた魔法陣が砕け散る。


「これでよし。さあ遊ぼうじゃないか」

「僕が時間をかけて書いた魔法陣を一瞬で破壊するなんて……」


精霊の存在感が更に増し、皮膚にチリチリと刺さる。

……ただ立っているだけでこれほどか。


「どうした? 来ないのか? ならこちらから遊ばせてもらうぞ?」


水精霊は腕を上げる。

すると、地面から水が溢れでて、渦を巻いていく。


「やばいよみんな! 避けな!」


太い水柱が吹き上がり、天井へと突き刺さる。

水の勢いが弱まり、しばらくすると水は消える。

水が刺さっていた天井には穴が開いていた。

ちょうど夜の月が穴から光を照らしている。


「元とはいえ、ダンジョンの天井に穴を開けやがったのかい」


フーディが驚いているがアタシも同感だ。

元々破壊不可能の壁だぞ。

ダンジョンとしての特性が消えたとはいえ、ある程度の力はまだ保有しているはずだ。


「これぐらい普通じゃろ?」

「そんな簡単にぶち抜けるならアタシらダンジョン攻略なんてしねーよ」


なに自分のやった事が出来て当たり前のようにしてやがる、化物め。


「んふふ、この程度で驚いて貰って嬉しいの。そうじゃ! この魔法を主らが負けたときの罰ゲームとしよう! 異論は認めぬぞ?」


ふざけんな。

あの威力を食らったら体ごと粉々になるぞ。


「おい! リッちゃん! なにか対処法を知らねえか!?」

「だめだ、石に蓄えられた魔力が尽きるまではあのまま力を振るい続けるよ!」

「うんうん。そこのアンデッドは、よう分かっておる」


あれだけの火力を無尽蔵に使えるだと……?

理不尽にも程があるだろうが!


「安心せよ。我の力は使えば使うほどに石の魔力も消耗するからのう。このような事を何度も繰り返すなら…… せいぜい五分という所だな」


あの力で五分かよ……

下手すりゃ三分で全滅するぞコッチは。


「撤退だ! 戦っても勝ち目がない! 逃げるよ!」

「それをされるとつまらんのう」


再び腕を振るうと空間が霧に覆われる。

撤退をしていた『パンナコッタ』のチームは霧の中を進んで行くも、再び元の場所へ戻ってきてしまった。


「……! なんでアンタ達が先に……?」

「我の幻術じゃ。あまり動き回るのは好かんのでな。解けるなら解いても良いぞ?」


つまり逃げ場はない、と。

リッちゃんならどうだろうか。

もしかすると奇跡の一発を出してくれるかもしれない。


「リッちゃん、行けるな? 否定の言葉は聞きたくないぞ」

「む、無理だよこんなの! 二日はかかる!」

「むう。たった二日で解かれると少し自信をなくすのう」


くそっ、駄目か。

強敵相手に逃げ場はなし。

マズイな。


「フーディ! こっちはいつものように攻める! そっちもヤバくなったらカバーしてくれ!」

「任せな! コナツ、ロア婆! 行くよ!」


おうおう。

敗北必死の鬼ごっことやらをやってやろうじゃないか。


「うんうん、かかってくるがよい。人が元の力を失ってから、幾千もの時が経った。それでも目の輝きだけはかわらぬ。変化した貴様らの変化せぬ力を見せてもらおう」


それだけいうと、精霊は手を大きく広げる。


「行くよ! 燃えな!〈炎眼〉」


フーディーがスキルを発動させる。

だが、精霊は燃え上がる事なくただ立っていた。


「何っ!?」

「お主はその力に頼りすぎじゃろうて。我の体を纏う水、これを貫けるほどの炎はそなたの目にはあるまい」


精霊の力で身体を守っているのか。

ってことはアタシのファイアローズも効かねえかな。


「ちっ、ならこれはどうだい! 【石よ石よ……】〈石槍弾〉」


魔法で石の槍が生み出されると精霊に向かって突き進む。

途中、石の槍が燃え上がり炎を纏う。

……スキルで威力を底上げしているのか。


「なかなか器用な使い方をするの。だがムダじゃな」


やはり、水の衣を貫けず手前で止まってしまう。


「予想済みだよ! コナツ、ロア婆、頼む!」

「はい! 符呪よ! 解放せよ!」

「フェフェフェ……。【蒼き雷撃よ。その力を集め敵を穿て】〈雷砲〉」


精霊の周りに符呪がばらまかれる。

ばらまかれた符呪から月々に氷の刃が飛び出す。

さらにロア婆とかいう婆さんの魔法が氷の槍に雷撃をのせていく。


見事な連携だ。

『パンナコッタ』は魔法を連携させるのが得意なのか。


「ほう! おもしろいことをするの。さすがじゃ。人間の創意工夫、我らには真似できない!」


……だが、その魔法は水の盾によって弾かれる。


「ふむ、もう少し威力が高ければ、借り物とはいえ我に攻撃が通ったぞ。惜しかったの」

「じゃあアタシの刃ならどうだ?」


アタシは精霊が魔法に気を取られてるウチに背後に回り込んで斬りつける。

僅かだが切りつけた箇所から光の粒がこぼれて消える。


「ぬおっ! なんと……! 貴様の刃は魔力を吸うのか! これは危うい」


精霊は手を振るう。

瞬間、アタシは弾き飛ばされた。


「くっ……」

「マリー! 〈治癒〉、〈守護〉!」



くそっ、マトモに食らったが……

なんだ? 何を食らった?


アタシは全身を見まわしてみる。

武器らしきものはないが、所々水滴がついて濡れていた。


……こいつ水滴を飛ばしただけか。

それであの威力かよ。


「お主、面白そうじゃの」

「美女に気に入られて嬉しく無いのは初めてだぜ」


どうやらやっこさん、アタシが気に入ったようだ。

……いいぜ、とことんやってやろうじゃねえか。


「私に背中を見せるとはいい度胸じゃないか。行くよ二人とも!〈炎眼〉」

「はいっ! 符呪よ! 増幅せよ!」

「フェフェフェ…… 【雷撃は集いて槍となり、槍は集いて破壊となる】〈豪雷槍〉」


『パンナコッタ』の婆さんが雷を呼び、符呪がそれを増幅する。

雷はそのままフーディーの持つサーベルへと集う。

炎と雷を纏った刃を精霊の背中から突き刺した。


衝撃が響き、ダンジョンを揺らす。

その威力に精霊の水衣が弾けると、精霊の美しい裸体が顕になった。


「おおっ! 見事じゃ! 僅かだが痛みを感じたぞ! 褒めてつかわそう!」


だが、刃は皮膚の表面で動きを止めてしまう。

……あの威力で傷もついてねえのか。


「サンダーローズ!」

「ぬっ! ……何っ!? これは、まさか混ざっておるのか!?」


アタシはフーディーが退却する時間をかせぐため、裸体に雷を撃ち込む。

流石に鎧がなければ多少は通るはずだ。

精霊の奴、何故か驚いているな。何があった?


「助かったよ!!」

「気にするな! リッちゃん、できたか!」


「うん! できたよ! 〈爆雷陣〉」


精霊の頭上に陣が浮かぶと、雷撃と閃光が降り注ぐ。


「どうだ、リッちゃんの溜めた一撃をぶっかけられた感想は?」

「ふむ……。これもなかなかの威力じゃ……。だがアレではないの、少しは混ざっておるようじゃが」


まともに食らって傷一つねえのかよ。

いや、悪魔と同じように気が付かないだけか?

しかし、なにブツブツと訳のわからねえ事を言っているんだ?


「試してみるかの」


ボソリとつぶやくと、精霊の姿が目の前からかき消える。

どこへ行きやがった!?


「お主はどうじゃ? 回復主体のようじゃが?」


後ろから声が聞こえてきた。 ……エリーのいる場所だ。

一瞬で移動したのかあの野郎!


「てめぇ! エリーに何をする気だ!?」

「なにもせんよ。強いて言うなら魔法を使わせようとしている所じゃ」

「負けません!〈ファイアボール〉!」


エリーが魔法を使い牽制をするが、精霊は交わすことなくそのまま攻撃を受けた。


「やはり混ざっておる……。かなり効率は悪いがの」

「いい加減離れやがれ! ファイアローズ!」


精霊はアタシの攻撃を回避すらせずに受けとめた。


「ふむ、やはりお主が一番多く混ざっておるな。お主、なぜ悪魔どもが封じた古代の力を使うことができるのか?」


古代だあ?

リッちゃんが言ってたアタシの魔法の事か?


「古代の力ってのが何なのか知らねえが、アタシは自分が使える力を振るうだけさ」


そこで後ろからフーディーとコナツが武器を構えて斬りかかった。


「私らも無視をしないでくれるかい?」

「すまんの、お主達は…… こやつらがいなければかろうじて合格じゃったんじゃがな。残念ながら今回は落第じゃ」


不意打ちをものともしないのか。

紫の光が精霊の手から生まれると、『パンナコッタ』のメンバー全員に向けて光を放つ。


「うっ…………」

「なんと……?」

「これは……」


「わが能は誘惑と幻術よ。しばらく心地よい夢でも見ているがいい」


『パンナコッタ』のメンバーはその場に崩れ落ち微動だにしない。

目は開いているがトロンと溶けたようになっている。

まるで、夢でも見ているようだ。


……幻惑か。しかも超がつくほど強力なヤツだ。


「待たせたな。今はこやつらよりもお主等に興味があるからの。とくにお主」


精霊がアタシを見つめてきた。

アタシが美人だからって見つめられたって何もでねえよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ