第55話 爵位
道中はリッちゃんの空間魔法を活用してショートカットした。
狙いが前回倒した魔族なら、この洞窟へ来ると睨んでいたがビンゴだったな。
うまく先回りして封じ込めてる事が出来た。
「リッちゃん、仕込んだやつを発動してくれ」
「任せてよ! 〈魔封陣〉!」
入り口の方に声をかけると、リッちゃんが現れ、魔法陣を発動させてくれる。
リッちゃんが作った魔法陣は、一時的に魔力供給を遮断して霧散させるものらしい。
ターゲットを絞るためには準備にかなり時間がかかるが、今回先回りできたおかげでだいぶ時間があったからな。
ギリギリまで仕掛けさせて貰ってるぜ?
今回は召喚魔法や魔族の〈変身〉の力を封じることが狙いだ。
「ふん、馬鹿め! この霧も解除されたぞ! 再び私の目を……」
「ただまあ、こんな状況でも使えちゃうんだよな。アタシの魔法」
ばあさん使った魔法の霧も解除されてしまったが問題ない。
アタシは、ロアとかいうばーさんが使った魔法を再現して、代わりに封じる。
「おや、なぜ儂の魔法を再現できるんじゃ?」
「乙女の秘密ってやつだよ」
「フェフェフェ……。おもしろいのう」
ばーさんがアタシに興味を持ったようだ。
どっかで聞いたことある嫌な笑い方だなこのばーさん。
「くっ〈変身〉……。くそっ駄目か!」
「さあ、秘密を吐いてもらおうか。この間は自分からペラペラ喋ってたんだからできるよな?」
「……私の悪い癖が今こんな結果になったんだ。言うわけない、そうだろう?」
まあ、そういうと思ってたぜ。
アタシは毒魔法で生み出し、弱毒を刃に塗って斬りつける。
毒の威力を調整できるになったからな。
実験材料として使ってやるよ。
「いぎっ!? なんだ……。これ、は……」
「気持ちよくブッ飛ぶための薬だ。早く秘密を喋らないとどんどん痛みが増して苦しくなるぞ」
「あ、がっ……い、言うものか!」
「……マリーが悪役みたいだよね」
「リッちゃん、そこは黙っておきましょう」
エリーも入って来たか。
完全に行動を封じているし大丈夫だろ。
ん? 何だコイツ?
エリーの方を見て震えているぞ。
「その声! き、貴様はまさか……。なぜここにいる!」
「私がどうかしましたか?」
「お前は、お前は私が……。前に私が殺したはずだ!」
表情がよくわからないが、声色が恐怖に満ちているな。
……何言ってんだこいつ?
前も会ってただろう? エリクの姿だったから気が付かなかったか?
「魔物寄せの香も焚いて、ギルドでも死亡確認をしていたはずだ! なぜ生きている! エリス!!」
「もしかして貴方はお姉さま専属の執事……ですか?」
ああ、こいつか。
エリーを魔物の森に置き去りにしたのは。
もしかして、執事もこいつと入れ替わっていたのだろうか。
……こいつはやっぱりここで殺す。
「ク、クココ……! 私は、私は失敗したんだな! これ以上ないくらいに!」
気持ちの悪い笑い声だ。精神状態が不安定になっていのか?
安心しろ、アタシも少し殺気だってるから情報を吐けばすぐ楽にしてやる。
「クココ……。おいエリス。お前の姉妹たちが最後、どのようになったか聞きたいか?」
「……必要ありません。あなたがどなたと勘違いしているか存じませんが、私は一介の冒険者エリーです」
「最初は誰がお前を嵌めたか分からなくて、疑心暗鬼になってたのさ。最後には私のスキルでお互いを裏切り、殺し合うように仕向けたがな! 傑作だったぞ!私の策にハマって――」
「もういい、喋るな。サンダーローズ」
アタシは雷撃でコイツを焼き払う。
「すまなかったエリー、辛いこと思い出させてしまったな」
「いいえ大丈夫です。今の私にはマリーがいますから」
さて、きっちりこの敵も処分しねえと。
「クカカ……」
「てめぇ、まだ喋れんのか?」
しぶとい奴だな。
もう一度焼き払ってやる。
「いや、もう限界だ……。だけど、ただじゃ死んでやれないね。スキルが封じられたって、任務が達成できなくたって、嫌がらせくらいはできるものさ、そうだろう?」
死ぬにしても随分と雄弁な野郎だ。
何企んでるか知らねーが……
「おい、フーディー。悪いが……」
「ああ、コイツは危険だ、なにかする前にやっちまいな」
「ああ、そうさせてもらう。サンダーローズ!」
「クココ……ココ…………。我が、命を持って、命ずる。暴れ……ろ〈崩石〉」
擬態野郎が塵になって消える直前、アタシたちは確かにその声を聞いた。
「まさか!」
「まずいのう、魔力がそこまで溜まってたのかい」
リッちゃんとばあさんの魔法使い組が浮かない顔をしている。
「どうした! っ! なんだこの圧は?」
……この圧力は悪魔の時のそれに似ているな。
だが、圧力が桁違いだ。
地面に魔法のような文字の羅列が浮かび上がってくる。
……アタシたちが知っている魔法じゃないな。
あの野郎、死ぬ前に何をしやがった?
「あの魔族が最後に使ったのは、精霊の解放さね。精霊と契約するための前段階の魔法さ」
「精霊と契約するには、莫大な魔力が必要になるんだ。契約の魔力が不足したり正式な手順を踏まないと、精霊や悪魔たちが暴走する。 ……それを意図的に引き起こしたんだよ、きっと」
『パンナコッタ』のばあさんとウチのリッちゃんが解説をしてくれる。
つまり最後の嫌がらせで暴走状態にさせたってことかよ。
「だが、魔法は封じていたんじゃないのかい?」
「召喚石に蓄えられた魔力を使ったんだろうさね。どんな精霊が封じられていたかわかるかい?」
「たぶんアプサラス…… 爵位持ちの水精霊……アプサラスだよ!」
「爵位持ちか…… だったらまだマシじゃの。冷静な会話ができるといいがね……」
婆さんが話している途中、そこかしこに水しぶきが上がる。
その中でも一際大きな水しぶきの中の一つから、美しい女性が立ち上がってきた。
女は服は着ていない。
代わりに水の衣をまとっており、全身を隠している。
「ふむ、我との契約を望むのは誰かな?」
その声が響く。
物腰の柔らかな声だが、その声だけで圧倒的な力量差も分かってしまうほどの圧力がある。
キツイな。
その“威”に飲まれて、誰も言葉を発することができない。
……くそっ、正しく化物じゃねえか。
「なんだ? 供物たる魔力も宝石も、生贄すらなければ、呼び出した術者もおらん、あるのは一つの取るに足らぬ命令だけ。さてさて? これはどうなっておる?」
「すまないが死んだ奴が勝手に呼び出したんだ。コッチは関係ないんだよ」
最初に反応したのはフーディだった。
……アタシも負けてられねえな。
「コッチとしても敵対する気はねーんだ。おかえりいただけねーか?」
「なんとも身勝手な……。まあ良い、我は時が経てば自然と帰れる。この体も借り物だしのう。久々の娑婆だ、少し遊ばせてもらうぞ? 一応術者の命もあるしな」
遊ぶだぁ……?
「へぇ、勝ったら金一封でも出るのかよ」
「ちょっとマリー! あんまり煽らないでよ! 友好的な精霊だって怒るときは怒るんだよ!!」
これで友好的なのか。
怒らせたらその時はその時だ。
全力で逃げるまでよ。
……逃してくれるかどうかわかんないけどな。
「ん? ふふ……おもしろい小娘じゃ。そうだな……。もしも我を満足させたなら、契約を結んでやろう。対価は……魔力だけでいいぞ。寿命も生贄も宝石すらもいらん。実に破格じゃろ?」
「……アタシは契約には詳しくないんでね」
破格なのかもしれないが、要するに勝たせる気はないってことだろ?
「まあどちらでも良いか。我はお主らで遊ぶ。一応の対価は見せた。さあ帰るまでの僅かな時間、貴様らで我を楽しませてみせよ」
一気に圧が強まった。
こいつらアタシ達と戦う……いや、言葉通りアタシ達で遊ぶ気か。
「何をして遊ぼうかの……。悩ましいな」
「サイコロでもふるか? それともかくれんぼでもするか?」
正直やりたくねぇ。
ドラゴンとネズミが戦うようなもんだ。
「それも楽しそうだが……よし決めたぞ。鬼ごっこだ、我が鬼をやろう。時間内で我に攻撃してもよし、倒せるなら倒してもよし。全員我に捕まるか死ねば負けじゃ」
アタシの知ってる鬼ごっこと違う。




