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第52話 灰色の髪

アタシたちはあっさりと奥へ通される。


「ボス、来客です」

「誰だ? 予定はないはずだが」

「『エリーマリー』のマリー姐御です、なんでも例の件を引き受けたそうで」

「なんだと!? 良くやったぞ。すぐに通せ」


中には高級そうな調度品と、豪華なソファーが設置されており、応接室のようだ。


ソファーには顔に傷のある、いかつい男が座っている。


「ほう……本物だな。おめぇら、席を外しな」

「へいっ」


あっという間にボスのリクドウとアタシ達だけになった。


「ねえマリー。えっと……彼がボスなのかな?」

「おう、聞いてるかもしれねぇが俺はファンクラブ会員No16、リクドウだ。男通りを仕切っている」


リッちゃんの質問に答えたのは、ボス自身だ。

ゴツいな。なんでこんなのがアタシ達のファンクラブ会員をやってるんだ?


「あー、俺はファンと言ってもちょっと特殊だ。お前らのファンクラブとやらの手法を学ぶために入会している」


そういうことか。

心配して損したぜ。

男通りで愛嬌を振りまく方法でも模索してんのかね。


「ファンクラブの会員ネットワークから情報は入っているからな。ねえちゃん達の手腕はよく知ってるぜ。ウチらも通りで参考にさせてもらっている」


話を聞くとファンクラブ会員制度を応用して、店のランキング、娼婦のランキングを刷新したらしい。

それが大当たりして店の質が向上したとか。


なるほど、それなら安心して話を……

いやまて、調度品にこっそり混ざってる写真やらなんやら、よく見ると会員限定グッズじゃないか?


こいつ本当にニワカファンか?

隠れファン会員じゃねえのか?


「まあ、俺に敵対するシマの奴らはランキング落としているがな」

「別にそんなことはいい。アタシが聞きたいのは店の女の子に関してだ」 

「それはサリーって女だな。いろいろ周りがやかましいというのは聞いている。家の者にも探らせているところだ」


やっと本題に入れそうだ。


「で? 結果はどうなった?」

「それがよく分からん。金髪の女、灰色髪の男、灰色髪の女と何故か情報が錯綜している。こんな事は始めてだ」


なんだそりゃ。

情報収集雑すぎんだろ。


「そんな顔をするな。調べるほど矛盾が出てくるんだ。矛盾が多すぎる」


む、確かにそれは少し感じていた。

マフィアの情報網でもそうなのか。


「探った情報を出しても混乱を招くだけだろう。こちらとしては冒険者が出てきているならもう深入りする気はない。嫌な予感がするからな。最低限サリーとやらの人の接触だけは監視するが、それ以上をする気はない」


あとはお前らで調べたほうが確実だ、とのことだ。

それでも何かわかったら情報を流してくれるらしい。

まあそれで良しとするか。


「さてこれが俺からの最後の頼みだ」


そう言うと、色紙を渡してくる。


「これは?」

「サインを書いてくれ。飾るからな」


部屋から出て扉を閉じたあと『よっしゃあああ! ゲットだぜ!』とか言う声がしたが、聞かなかったことにした。

オネエ組長のところに戻る。

戻った先では、ゴスロリファッションのオネエ組長がフェイスマッサージの途中だった。


「あらこんな姿でごめんなさい。皺が気になっちゃって。女の子は見つかった?」


顔よりもたるんでる腹の方をなんとかしろ。


「似顔絵の女は見つかった。だがそれだけだ。本当にバレッタ伯爵の長女はこっちへ来ているのか?」

「……やっぱりあなたも同じことを言うのね。」


やっぱりってなんだ。

心当たりがあるんじゃないか。


アタシはリクドウとその手下に会ったことを話す。


「ああそこね。今回は同盟みたいなもんだし、この件に関してはあっちも知っているからアタイに連絡が来ると思うわ」

「……似顔絵の女のほうを再び探ってもいいが、その前に何か隠していることがあればそれを全部喋ってくれ。無駄なことは嫌いなんでね」

「とはいってもね……。アタイもほとんどのことは喋ったのよ。依頼主の名前は言えないわ。でも、信用できる人物だとは言っておくわ」


ああ、そっちはいい。

大体検討はついてる。

後はおやっさんに裏取りするだけだ。


「この領地に長女が入った証拠はあるのか? 似顔絵のサリーとか言う女と一緒に入ったという証拠は」

「ええ。依頼主からの証言の他に、門番の記録でサリーともう一人、ニルベルという女性が領地に入ったという記録が残っているわ」


門番の記録か。

名前は偽名だろうが、姿形を余所者が改ざんするのは難しいな。


「そうか、分かった。次にサリーの周りを嗅ぎ回ってる奴がいるらしい。男とも女だとも言われているそうだ。心当たりはあるか?」


「……知らない、いえ、噂では聞いているわ。見つけたら捕まえてちょうだい」

「ああ、分かった。どうも怪しいやつだからな。場合によっては骨の数本は折っても構わないな?」

「それに関してはあとでアタイの部下を手配するわ。使い潰して構わないからその人と協力してね」


めんどくさい依頼だな。

エリーが関わってなかったら降りてるところだ。


神妙な顔をして、オネエ組長がこちらを見つめてくる。


「あとひとつだけ」

「なんだ?」

「知ってると思うけど、今回なぜか情報が錯綜しているわ。最初はサリーちゃんのそばでうろついているのは女の子という報告だったの」


ああ、それはリクドウのおっさんからも聞いたぞ。

訳が分からない依頼だ。


「でもマリーちゃんが聞いたように、途中から男の子に変わってしまってるわね。なにかあるかもしれないから気をつけて」

「……分かった」


まずは裏取りで門番のトコに行ってみるか。


「ふへへ……。生足……。お兄ちゃんって呼んで……」


門番のトコに来たらよく会う兄ちゃんがいた。

なんかブツブツうるさい。

怪しい薬でもやってんのか?


「おう、兄ちゃん久しぶりだな」

「ふへへ……。ん? んんっ!? ……こほん、マリーちゃん久しぶりだね。どうしたんだい?」


門番の兄ちゃんは謎のブローチを眺めてニヤニヤしていた。

気持ち悪い顔しやがって。

恋人か?大切にするんだぞ。


「ちょっと兄ちゃんに頼みたい事があってな。バレッタ領地から来た奴で、三ヶ月前の入場記録を調べてほしいんだが」

「それくらいなら別に大丈夫だよ」


アタシはその娘が来た日付を指定して伝える。


「その日は君たちと同じで女の子が二人入ってるね。片方は君たちが言っていた茶髪の女の子。もう片方は灰色の髪の女の子だね」

「灰色の髪……? それは間違いないのか?」

「ああ間違いないよ。遠くの監視役と受付で相互に確認するからね」

「……金色の髪のやつは来ているか?」

「ん? んー、男は二人ほどいたけど……女の子だとこの三ヶ月は来てないんじゃないかな?」


資料をパラパラとめくっているが、その記録は残っていないらしい。

アタシはエリーと顔を合わせる。

エリーの金髪の髪が太陽に反射してキレイだな。


「ありがとう参考になったぜ」

「何かあったらまた来てね。相談に乗るからね」


アタシたちは門番の兄ちゃんに分かれを告げると自分達の館へ歩いて戻る。


「エリー、家系の中に灰色の髪は……」

「残念ながら。接点の少ない姉でしたが、それでも姉妹は皆おなじ金髪だったのを覚えています」


じゃあ、灰色の髪の女って誰だよ。

変装でもしていたのか?

貴族だとそういう道具を持っていてもおかしくはないな。

そこまで考えると面倒だ。

一回情報を整理しよう。


伯爵の長女を探して得たヒント。

女性が二人、領地に入った。

一人は所在がわかったが、もう一人が何者か分からない。

保護しなければいけないのは金髪の女性。

だけどその存在が姿も形もない。

代わりに出てくる灰色の髪の女。


「もう分からん。サリーとやらの周辺を調べるとするか……」

その時リッちゃんから通信が入る。

ペンダントに施しておいた簡易通信だ。

伝えるのは振動の大小だけ、個人も指定できないが、コード表を作っておけば遠くでも通信ができる。


「えっと……。バレッタ領に、ついた、よ。お土産は、何が、いい?、byリッちゃん、か……。いや、観光じゃねえぞ?」

「私が返しておきましょう。ウールが、名産、品、ですよ、byエリー、と……。これで大丈夫そうですね!」


へぇ、じゃあウールを使ってお揃いのセーターでも……

いや、そうじゃない。


「アタシからも例の件について送っておく。コンタクト、よろしく……byマリー、と」

「うまくコナツさんたちに会えるといいですね」

「まあ大丈夫だろ、いや大丈夫かな? まあちょっとは覚悟してる」


リッちゃんは今、バレッタ領で情報収集に行ってもらっている。

アッチの領地も荒れていて色々大変だと聞いているからな。

もしかするとここじゃ掴めない情報が何かあるかもしれない。


……リっちゃん一人だと不安なので、定期連絡とギルド経由で手助けを頼もうと思っている。

あっちも伯爵の件でいろいろ混乱しているみたいだし相互で利益になるだろう、多分。


なんか焼き鳥が美味しいとか通信が届いた。

本当に大丈夫だよな?


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