第50話 色街
いったん自宅に帰って作戦会議をする事にした。
「ねえマリー。少し気になってたんだけどバレッタ伯爵と何かあるの?」
「ん? そういえばリッちゃんはまだメンバーに加入していなかったな。実は――」
アタシとエリーは出会うことになったきっかけ、そのあらましを説明する。
「――と言う訳で、私達は仲良く結ばれることになったのです」
「所々にノロけ話が入ってて胸焼け気味だけどよく分かったよ。だけど酷いね、その家族」
まったくだ。
アタシ達みたいに仲良くできねえのか。
「ですが彼らがいなければマリーとも出会えませんでした。これは私の人生で最大の幸福ですね」
「そうだな、アタシもこうしてエリーと手を絡めることも無かっただろうな」
「うん、ごめんね。ちょっとノロケばっかり聞きすぎて、今はそういうのいいかな」
なんだよ。これから良いところなのに勿体無い。
「という訳でこれから人探しに移る。だが、そこでだ。リッちゃんに頼みがあるんだ」
「頼み……? 何かな?」
「ああ、ちょっとしたお使い兼情報収集だ」
翌日、アタシ達は再び娼婦街にいた。
リッちゃんは万が一に備えて別行動だ。
「さて、どこから聞き込みするかな」
「そうそう都合よく目当ての人なんて見つかりませんからね」
「誰か詳しい奴がいればいいんだがな、適当に冒険者から聞き込みしてみるか?」
聞き込みをしようとした途端、男たちの集団に道を塞がれる。
なんだコイツラ、キャッチでもねえだろうしチンピラか?
アタシ達に絡みにきたのか?
「マリーちゃん! どうして男漁りなんか!」
「不足してるなら俺達が慰めて上げるよぉ!」
「エリーちゃんもどうか、どうかそんなところには行かないでくれ! なんでもしますからぁ!」
……こいつら、ファンクラブの連中か。
どこからつけてやがった。
お前らに慰められなくてもアタシにはエリーがいるんだよ。
「アタシ達は遊びに来たんじゃね。仕事だ、人探しだよ」
しっし、と手でこいつらを追い払う。
悪いがあんたらに構ってる暇はねーんだ。
また今度何かのパーティーでも開いてやるよ。
「マリーさんが人探しだと……」
「ちなみにどういった人で?」
「アッシらでよければ相談に乗りますぜ」
おっ、手伝ってくれるのか。
じゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ。
「茶髪茶眼のどこにでもいそうな女の子さ。数ヶ月前にこの街へ流れてきたらしい」
アタシは似顔絵を見せる。
「うーん、この顔は……。おいおめえ、知ってるか?」
「いや、アッシはたまにしかこんなところに来ないんで、詳しくねんですわ」
「あ! お前ズルいぞ! 一人だけかっこつけようとしやがって! へへっ、俺も詳しくねんですわ」
「おい! えっと、実は俺も……」
こいつら糞の役にも立たないプライドしか持ってねえ。
色街にナニをしに来てんだてめえらは。
童貞捨てる前にプライド捨てろ。
「そうか、なら別に良いぞ。こっちで探す。じゃあな」
「あぁ、待って待って! えっと、思い出した! 俺じゃないけど、全然俺関係ないけど、コイツが昨日行った店に最近入ってきた子がいたよな!」
「アッシが!? おいおい勘弁してくれよ。」
「おいおい、前に言ってたじゃねえか。たん何とかっていう店だったか」
「『探索者』だよ! ……あっ」
「やっぱりおめえ詳しいじゃねえか! 嘘ついてやがったな!」
「ふてえ野郎だ! 指名まで入れやがって!!」
おい、一人を生贄に捧げて自分たちはキレイなフリするのを止めろ。
そのノリ見る限りお前ら同じ穴の兄弟だろうが。
まあいい。『探索者』だな。
「おう、ありがとよ。まずはそこに行ってみるぜ」
とりあえずお礼としてポケットに入ってた飴玉をくれてやった。
飴玉を受け取った後、何かに気付いたのか顔を青くする三人組。
「あ、あの……あんまり怒らないでやってくれ」
「そ、そう、アッシらの憩いの場なんでさあ」
「なるだけ内密にお願いしやす……」
何言ってんだコイツ等。
なんでアタシが怒らなきゃイケねえんだ。
マフィアと揉めたくねえし暴れねえよ。
アタシを狂犬かなにかと勘違いしてないか?
アタシは男通りの道を進んでいく。
やはり女二人だと視線が痛いな。
とりあえずエリーと腕絡めて娼婦じゃないアピールしとくか。
「おぅ、テメーらどこの店のコだぁ? 可愛いねぇ」
「何やってんだお前」
『ウザ絡み』じゃないか。
アタシ達に気がつかない状態で声をかけるとはいい度胸だな。
軽く睨みつけてやるとあからさまに狼狽やがる。
「な、なんだオラァ!? 俺様をA級冒険者と知っての狼藉かぁ?」
お前は万年E級冒険者だろ。
なに経歴詐称してやがる。
せめてどっしり構えろ。
……つか、顔を覚えてねえか。
「お久しぶりですね」
「あぁっ!? テメーは……いやアンタは次期C級冒険者の『エリーマリー』のエリーさん! てことはこっちがマリーさんで! お久しぶりッス! なんでこんなところに? ……ッス」
格上と分かったら変な敬語を使ってくるなコイツ。
語尾にッスをつけても敬語にはならないぞ。
「いいから普通に話せ。アタシたちは任務でちょっとな」
「ういっす。てっきり良い店の紹介でもしてほしいのかと思ってやしたぜぇ。で、俺に何が聞きたいんで?」
自分から声掛けといていい店ってなんだよ。
ボッタクリ店に引き込むバイトでもやってんのかテメーは。
そもそもアタシたち女三人で入れる店なんて色街でも数えるほどしかねえだろ。
「『探索者』という店にいるらしき人物を探している。お前、ここに詳しいとかないか?」
「んー、残念ながら俺様は詳しいんだが、なかなか記憶が定かじゃなくてなー」
今お前紹介してやるつってただろ。
なんで一瞬で意見を手のひら返してんだよ。
もしかしてお前も善人ぶりたい偽善者か? その顔で?
「そうか、お前はそういう奴なんだな」
「つってもねぇ……。ちなみにどんな人で?」
「若い茶髪茶眼の娘だ。『探索者』という店にそれらしいのがいるらしい。だがその店がなかなか見つからない。場所だけでも教えてくれ」
「あー、手が軽いなあ。何か重みのあるものがアレは思い出すかもしれねえなぁ!」
うっぜぇ。
もう少しマイルドなタカり方があるだろうが。
清々しいまでに屑だな。
アタシは銅貨を数枚載せてやる。
「もうイチイチ突っ込まねえよ。いいから場所を教えてくれ」
『ウザ絡み』は答える代わりに再びスッと手を差し出してくる。
「いやー、もう少しで思い出せそうなんスけどねぇ。もっと手にずっしり来るものが欲しいっすね」
ほう、このアタシに何度もタカろうってか。
たかが場所ごときで。
面白い冗談だ。
ニヤニヤ笑いがって。
「ちょっと待ってろ。今作ってやる」
「へっ? 作ってやるって……」
アタシは地面に手を触れると、土魔法で泥人形を作りだした。
「凄いだろ。前にゴーレムと戦ってな、似たようなもの作れないかと思って試してみたんだ。まあ失敗だったが……」
攻撃力も低いし使い勝手が悪い。
ずっと触り続けてないと操作もまともにできないガラクタだ。
「え、えとそれで俺になにを……?」
「ずっしりと手に重みのあるものが欲しいんだろ? こんなモンで悪いが受け取ってくれ」
ちょうどずっしり来るように胸のボリューム上げといたぜ。
アタシは『ウザ絡み』に覆いかぶさるように人形を倒してやる
ありがたく受けとんな。
「へぐぇっ! お、重いからどけてくれ」
「おうおう、生身の女が買える場所で土人形でベトベトになるとはいい趣味だなあ? 鍛え方が足りねえぞ? もう一体、重ねとくか?」
「悪かった、俺が悪かった! 勘弁してくれぇ!」
「おう。分かればいいんだ。で? 場所はどこだ?」
「三軒先だ! ここから三軒先の細道を、入ったところにある!」
「ありがとよ」
サービスだ。
アタシは銅貨をもう一枚手に載せてやる。
「おいっ! 人形をっ! 今のっかってる人形をどけてくれ!」
「冒険者なんだ。それぐらい自分で何とかしろ」
お前は酒と女にうつつを抜かしすぎなんだよ。
いい訓練だと思え。




