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第48話 マフィアのボス

翌日、色街に向かう。

街と呼ばれているが範囲は意外と狭い。

わずか三本の通りを色街と呼んでいるだけだ。


男が女を買う通称男通り。

逆に女が男を買う花通り。

あとは同性のための薔薇百合通り。

その三本の通りにある宿や茶屋、スナックなどの飲食店の一帯を街と呼んでるだけで、規模としては小さい。


「オネーさん達! 飲み? それともアレ? 今ならたったの銀貨五枚ポッキリからあるよ!」

「薔薇百合のほうならウチに任せてよ。気持ちよくなれる宿あるよ!」


ワラワラと客引き共がうるさいが、今回向かうのは娼館じゃない。

依頼主のボスの所だ。

場所はギルドから聞いている。

薔薇百合通りの奥、一見目立たない看板のない店。


表向きは薔薇百合通りの商会長。

実際は通りを仕切る裏の元締めの一人。

人の世の業を集めたようなやつだろう。


当然あくどい事もやってるはずだが証拠がないので憲兵も動けない厄介な相手だ。

まあそういう手合いは逮捕しても第二第三の悪党が現れるだけだしな。


そのボスがいるという、厳つい扉の前にアタシ達はいる。


「なんかヤバそうだね」

「リッちゃん、中に入ったらあんまり物を触るなよ。壊したら色々と面倒だからな」

「触らないよ! 昔王城で国宝の壺を割って大変なことになったからね! 僕は学習するのさ!」


おう、千年前の失敗を忘れないのはいい事だ。

待てよ? 千年前に魔王が国宝を砕いて宣戦布告したって昔話はもしかして……?

いいや、今は考えないようにしよう。


アタシはノックを三回、一回、三回と叩く。

ギルドから教えてもらったこの方法で、アタシ達がギルドの人間だと言うことを知らせるらしい。

これで扉が開くはずだ。


鍵の外れる音がして、中からどうぞ、と言う声が聞こえた。

アタシは扉を開ける。


「あっらー、よく来たわね」

「すまん、間違えた」

「ちょっ……」


慌てて扉を閉めると、住所を見直した。

なんだアレ。ヒラヒラのワンピースをつけた腹がぶよぶよのハゲたおっさんがいたぞ。


「部屋は……間違ってねえな」

「すごい方ですね……」

「え? 何がいたの?」

「都会に生まれた人の業……かな?」


リッちゃんは見えなかったか。

見ないほうがいいぞ。


そうこうしているうちに扉が開いてモンスターおじさんが顔を出す。


「もう! 冒険者ってシャイなんだから!」

「おっさん、すまないがボスを呼んできてくれないか? アタシ達はギルドから派遣されてきた冒険者だ」

「なに言ってるの? アタイがボスよー。よろ・し・くね」


ウインクがナイフのように心に刺さる。

もちろん悪い意味で。


「言葉を喋るモンスターか……。厄介なんだよな」

「キーッ! 失礼なガキどもね! 埋めるわよ!?」


いやお前ホントにマフィアのボスかよ。

別の理由で憲兵が来るだろ。


コイツの娘とか、そら家も出るわ。

せめて人と会うときくらい普通のカッコしろ。


「まあいいわ、とりあえず中に入って座って座って! 詳しいことは後から説明するわ!」


扉では少年がドアを開け閉めしていた。

ボスの専用のお付きなんだろうか。


……なんで裸エプロンなんだよ。


「アタシ達は冒険者として依頼を受けた『エリーマリー』のマリーだ。こっちがエリーとリッちゃんだ」


アタシ達は簡単に自己紹介をする。

途中、先ほどの少年がお茶を持ってきてくれた。


「あらあら、 噂は聞いてるわよ! アタイはこの辺りのシマをまとめ上げてるオネエ組のブンチって言うの。『エリーマリー』って言ったら百合の花香る武闘派パーティーとして有名じゃない!」


別に隠すつもりはねぇが……

やっぱりアタシとエリーの関係は世間にバレ気味だな。

いつも手をつないだり腕組みしてるだけなんだがな。

おかしいな。


「宿屋に泊まってた頃は銀髪の少年を連れ込んでるなんて噂もあったけど、どうやら違ったみたいね」


それはエリクだな。

つか宿屋にいたのだいぶ前なのに、そこまで調べ上げてるのか。

一瞬エリーの顔が固くなった気がする。

流石に男の姿が見られてるのは気になったか。


「オネーさんにはわかるわ。あなた達デキてるわね? マリーちゃんの恋人エリーと愛人のリッちゃん、覚えたわよ」

「え!? 僕は愛人じゃないよ!」

「まさか、本命狙い! やっるわねー。ウチのシマにある媚薬買う? 副作用もなくて快適よ?」


それエリーが買ってた奴じゃねえか。

アタシの目の前でアタシを堕とす話をするんじゃない。


「ちっがーう! 僕はただの友達です! 本命は他にいますー!」

「そっか。もう媚薬は買ってたんだったわね。オネーさんたらごめんなさい、うっかりしちゃった。でもたまにはマリーちゃんやエリーちゃんの腕に抱きしめられたいと思うでしょ?」


おっさん何言ってやがる。


「え? そりゃ、たまには……?」

「しょうがないですね。あとで抱きしめます。マリーの貸し出しはちょっとだけなら良いですよ」

「えーっ! やだっ、百合の花ハーレムなの!? 仲良くて素敵ねぇ」


おい、勝手にガールズトーク……ガールじゃないのも混じってるがまあ良い。

勝手にアタシをレンタルするな。

リッちゃんも気になる事を言ってたが後だ。


……しかしコイツ、フザけたファッションと言動だが相当にできやがる。


「茶番はもういい。こっちは素で来てんだ。そっちも化粧を落としな」

「え? マリーも鏡の前でセットしてたじゃん? エリーにも手伝ってもらってさ」


違う、そうじゃない。

リッちゃんは少し黙っててくれ。

まあオネエ組長には言いたい事が伝わったようだ。


「……へぇ、やるじゃない。流石はリーダーね? わかっちゃった?」

「わかるようにしてたんだろうが。試されるのは気分が悪いぜ」


この世のどこに一冒険者の過去の恋人や最近買ったものまで把握してるボスがいるんだよ。

アタシたちが依頼を受けるって事を知ってから情報を集めたってことだろ?

この短期間で集めてた情報をどっかから仕入れたってことだ。


……オッサンの目が変わったな。

さて、ここからが本番だ。


そこでベル音が鳴る。

アレは……念話器か?

たしか念話使い抜きでも念話ができるとか言う……


王都では徐々に使われ始めてると聞くがここにもあったのか。

まだまだ高級品のはずだが金があるんだな。


「あーもう! せっかく楽しくなってきたとこなのに! ちょっとまっててねー。 ……おう、俺だ。 ……そうか。消せ」


一瞬でキャラ変わったぞ。

随分と野太い声だな。そっちが素か。

リッちゃんが小さく悲鳴をあげてるぞ。



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