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第47話 年明け

「いらっしゃい」


アタシ達は年明けにぶらりと街をまわっている。

この店、『よろず屋 アイザック』はすでに開いているが、まだ休み気分が抜けてないのかどこかのんびりだ。


本当ならアタシたちも年明けはもう少しゆっくりしてから動く予定だった。

だが聖人祭から年明けまでの一週間、家でメイも含めて四人でダラダラと過ごしてたらオバケ達に服も着けずにだらしない、退廃的すぎると怒られた。


ネックレスと指輪、あとたまに靴下くらいは身につけてたんだがな。

おばけ達に詰められて廊下で四人正座させられているのは床の冷たさが身にしみた。


仕方ないので文明人らしく振る舞うため、メイも含めた四人で街に買い物に来ている。

帰りがけに暴れる事ができそうな仕事を探してギルドへ寄る予定だ。


「この店、いつも開いてるが運営が厳しかったりするのか?」

「ん〜、半分暇つぶしでやってるようなもんだからね。いつだって開けてるよ。君たちみたいな変わったお客さんも多いしね」


変わったとはなんだ、可愛いと言え。

たしかに、一般的な商品の他に、炸裂回復薬零式やら圧縮成長剤やらと言った、よく分からない商品が所狭しと並んでいる。


これはマトモな商売では取り扱わないだろうな。


「魔道具の腕はいいのにもったいねえな」

「そっちで稼いでくれるから自由にできるんだよ。イロモノの道具もおもしろいよ、買っていきなよ」


悪いな。

仕事は物理的に命かけてんだ。

流石にイロモノは買えねえよ。

おっと、痛みが気持ちよくなる薬は買っていくか。

アタシの毒魔法と相性がいいからな。


「おや、皆さん。何やってるんですか? 奇遇ですね」

「あ! ポン子さん、お久しぶり~」


リっちゃんが挨拶をしているので誰かと思えばポン子だった。


「なんでこんな店にいるんだ?」

「この店のですね、ハイパーエックスっていう栄養ドリンクがすごいんですよ! 一本飲むと一週間は一日五分の睡眠で済むんです!」


それ、もはや栄養ドリンクじゃないだろ。

なんだその危ない薬は。


「へえ…… 研究のとき使うとメイに怒られずに済むかな……」

「いえご主人さま、普通にお止めいたしますが?」


聞こえていたのかすぐさまメイが近寄ってきてリっちゃんが持っていた栄養ドリンクを取り上げてしまう。


「止めとけ。つかリっちゃんアンデッドだし睡眠いらねえだろ」

「取らなくても大丈夫だけどほら、メイが心配するからさ」

「主の体調管理もメイドの努めですので」


リっちゃんにとっては三大欲求は娯楽みたいなもんだからな。

その割にはメイとよく抱き合って寝てる気もするが。

案外メイが一緒に寝たいだけかもしれねえな。


「しかし、こんな危ないドリンク飲んで仕事とはご苦労なこった」

「いえ、仕事はしませんよ? 年明けから頑張るもんでもないですからね。そんなものより副業兼趣味のコスプレ衣装製作に全力を注ぎたいんです!」


良いのかよ。

むしろ仕事に力を入れろよ。

つかコスプレってどこで着るんだよそんなん。


「ふふふ、冒険者の皆さんの衣装を作ると買ってくれる人がいるんですよ。場合によっては私の制服も欲しいとかで作ってしまいました」

「奇特な奴もいるもんだな。まあ別にいいや。後でギルドに行くからオススメの仕事見繕っていてくれ」

「仕事ですか? 私も今日は午後から出勤ですけど、今の時期に仕事は…… あ、そうだ! いまなら是非受けてほしい依頼が一件だけありますよ!」


ポン子は買い物を済ませると、あとで来てくださいと言い残して先に店を出て行った。

アタシ達も少し買い物をして、どっかで食事してからいくか。




「パスタのお店美味しかったね」

「そうだな、また今度行ってもいいな」


アタシ達はギルドにやってきた。

メイは食事を食べた後、先に館に戻って夕食の準備をするらしい。

今いるのはりっちゃんを含めて三人だ。


ギルドに寄ったついでに酒場を軽く覗いてみる。

何人か冒険者がいるがダラけた雰囲気が抜けていないな。

いや、いつもアイツらダラけてるからいつものことか。


「あ、マリーさん! 依頼ですね! こちらです」


ポン子だ。もう受付についていたか。

内容を読んでみる。


……人探しだ。場所がちょっとアレだな。


「色街での人探しなんて、そんなもんアタシ達に向かねえだろ?」

「そんな事わかってますよ! ですが上位冒険者が出払ってて、いま頼めそうなのが皆さんだけなんです!」


年明けから何かと忙しそうだ。

話を詳しく聞く。

なんでもバレッタ伯爵領が荒れているらしく、その応援やらで忙しいとか。

おやっさんも裏での調査やらで冒険者を手配するため各所を回っているらしい。

年明けからご苦労なこった。


「場所が場所だけにな生半可な実力者じゃダメなんですよ。ある程度腕の立つ人じゃないと」


それなりに実績のあるみなさんですし、とポン子は言う。


たしかに実力があるのは否定しない。

だがアタシ達は戦ってこそ輝く戦乙女だ。

しかしな、潜入や捜索には向いていないんだよ。


そもそも色町……娼婦街なんてマフィアの領分だ。

ヘタに首突っ込むとろくなことになりゃしない。


ゴロツキにしか見えない『ウザ絡み』あたりが顔的にも適任だろうが。



「マフィアが仕切ってるシマにアタシ達みたいな可愛くて可憐でか弱い女の子三人とか自殺行為だろ」

「はいはい。おもしろい冗談ですね。か弱い女の子は悪魔を殺したりはしませんよ『デーモンキラー』のマリーさん」


なんだそのあだ名は。

めちゃくちゃ邪悪そうな名前じゃないか。

可愛らしくマジカルマリーとかにしろよ。


「いーや、アタシ達はか弱いね。あんまりいじめると泣くぞ?」

「まるで逆のことを言っても信用されませんよ? むしろ泣きたいのは年明けから出勤をしている私です!」


くそっ、コイツおやっさんから学んで手強くなってやがる……


だがお前が休みを削っているのはお前のミスが積み重なった結果だろうが。

アタシ達に八つ当たりは止めろ。

むしろ午前中が休みだっただけでもありがたいレベルだろ。


「そもそもうちのギルドで腕が立って潜入できる技術のあるやつなんていないだろ。破壊と混沌がここのギルドのモットーだぞ」

「ギルドのモットーは知性と平和、節度ある行動です。勝手にモットーを作らないでください。どこの犯罪組織ですか」

「ははは、おもしろい冗談だ」

「こっちは本気です!!」


そんなモットーがあるなら冒険者はもう少し理性的だろ。

まったくポン子は本音と建前ってやつを分かってねーな。


「それに今回は潜入捜査ではありません。なんでもあのあたりで抗争をしている幹部の娘が家出してしまって、娼婦街のどこかに隠れているので探してほしい、と言うのが依頼です」


娘だと?

抗争中に家出とか、ただの自殺志願者じゃないのかそいつ?


「そんなもん、アタシ達がおっかけたら逃げちまうだろ。身分を隠してっていうのは正直辛いぞ」

「最近何かと話題の『エリーマリー』なら大丈夫じゃないですか? 流行りに被れるニワカなファンなら会いに来るかも知れませんよ」


おい、流行りが去ってアタシ達が将来忘れ去られるアイドルみたいな言い方は止めろ。

アタシ達は永遠の十代なんだよ。

三人合わせると千百歳と少しくらいだけど。


「それに名前が知れている分だけ、相手も安心して近づきやすいと思います。下手をすれば敵対組織にさらわれることも考えられますから」


とはいってもなあ……

年明けから面倒くさい仕事はしたくないんだ。

ゆるい仕事でいいんだよ。

派手に血しぶき上げるようなゆるい仕事でよ。


「賞金首とか分かりやすいのはねーのか?」

「近くにいたのは『オーガキラー』が軒並み狩り尽くしていますね。この時期だと春の更新まで新しい賞金首は出ませんよ。他のB級の方がいないのも美味しい獲物がいないから遠征に行ってるんです」


くそっ、前回の赤字補填するために狩り尽くしやがったか。

賞金首が絶滅したらどうするんだ。

もう少し考えろ。


「なんにせよ聞き込みから入ってもらう形になります。うまく行けば戦闘も回避できますよ?」


ポン子のうまく行けば理論ほど信用できないものはねえよ。

うまく行かなくて良いから戦闘してさっくり終わらせろ。


……しかし、他にロクな依頼がねえな。

まあ年明けなんてみんな頭ボケてやがるからな。

酒場に言っても飲んでるやつのほうが多い。


依頼を受けずに家に帰っても良いが、さすがに今はお化け達の視線が辛い。

しょうがない、受けることにするか。


一応ターゲットの似顔絵も貰った。

茶髪に茶色い目、ありふれた姿だな。


「人探しかー。懐かしいなあ」

「リッちゃんはやったことあるのか?」

「うん! 犯罪者の街での犯罪者探しだったけどね。うちの子が最終的に街ごと焼き払って無事解決したよ」


それは全てを無に帰しただけで何も解決してないんじゃないか?

全く参考にならねえな。


「女三人だけで行くと睨まれそうだな……。かといってリッちゃんを男にしても何も変わらないしな」


アタシが男になればいいんだろうが、一部の娼婦には顔も割れてるし、そもそもマリーとしての名声が利用できない。

ロクなことにならない気がする。


「でしたら私が変身しましょうか?」

「エリーが……? まあ少年の姿だけど男がいないよりマシ……いや待て、その姿を他の奴に見られると色々マズい」


その姿はアタシのスキルの秘密に直結してるからな。

あと館で色々やりすぎたせいか、最近その姿を見るとなんかクる。


「とか言ってマリーはその姿を独占したいだけじゃないの?」

「なっ!? いや、そんなことはない、ぞ? あくまで公平で公正の関連から見た結果だ、そうあくまでもな」


リッちゃんとエリーがニヤニヤしながらこっちを見て笑っている。

……ぐぬぬ。


悔しそうなアタシにエリーが抱きついてくる。


「しょうがないですね。エリクの姿はお姉ちゃんだけのものですよ。 ……でも、あの姿でデートするのも素敵じゃないですか?」

「……ああ、もし別の領地で変身する必要があったら頼む」


アタシに抱きつきながら耳元で囁くエリー。

どこか旅行の予定でもたてようかな。

二泊三日の温泉旅行みたいな奴。

リッちゃんとメイはそれぞれ別室で。


……うん、良さそうだ。

今度場所選びからやってみようかな。

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