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第46話 聖人祭

ギルドに戻ると、何やら騒がしい。


「あ、マリーさん、大変です! 大変です!」

「何をやらかした? 大事な書類にコーヒーでもこぼしたか? お前はちゃんと仕事をこなしたほうが良いぞ」

「それは昨日やらかしました! そんな事より本当に大変なんですってば!」


やらかしたのかよ。

お前のやらかしてないことってなんだよ。


「北の山にある溶岩ダンジョンで異常個体が発見されました!」

「……一応詳細を教えてくれ」

「はい! ゴーレムは推定魔銀製、ダンジョンの深くに眠っていた鉱山の一部が変質したものだと考えられています。推定ランクはB級からC級相当」


さっきのアレだよな?

アレ以外ねーもんな。


「……大丈夫じゃねえか?」

「まったく無責任な……。門番達が報告に来てからまだ間もないんですよ。他にも領地内で新規ダンジョンが発生したらしくてそこに人員が割かれているっていうのに……」


だから門番がいなかったのか。

むしろ入らせないように見張っとけよ。

うっかり入っちまったじゃねえか。


とりあえず、ぼやいているポン子の前に半壊したゴーレムの顔を置く。


「えっと、コレは?」

「倒した。報酬をくれ。あとついでに金属塊から糸をつくりたい。いい魔法屋がいたら教えてくれ」

「えぇ……。なんでいつもマリーさんの周りでトラブルがおきるんですか……」

「知らねえよ」


エリーの『絶対運』の力だろうが流石にそれは言えん。

多分アタシ達の美しさにトラブルが会いに来てるんだろう。

……嫌だな、それ。


「あの、もしかしてダンジョンの方も絡んでたりしません? マリーさんの館近くで発生したみたいですが」

「まったく心あたりがないな、うん。見つけたら破壊しといてやる」


へぇ、なにかダンジョンを探知する仕掛けがあるのか。

危ないところだった。おやっさんなら見抜かれて怒られてた。


「普通は冒険者複数で破壊するものですよ。ちゃんとギルドに報告してください」

「分かった分かった。ちなみに敷地内で見つけたら支配しても構わんよな?」

「そんな規約はありません! 前例もないので王都での審判待ちです!」

「もしもの話だ。うっかり支配したらマズイだろうが」

「普通は魔法使い十人がかりで秘匿された術を使って支配するモノですよ。ちゃんと破壊してください。マリーさん魔王でも目指すんですか……」


ドン引きしているポン子に詳しく話を聞くが、ルールはないらしい。

ルールがないなら何やってもセーフだな。

お役所ってのは『やっていいですか?』って聞くと『駄目』って答えるが『やりました!』だと案外通るもんだからな。

よかったよかった。



ポン子に色々バレる前に話を打ち切って、店に龍眼玉の加工を依頼した。

魔法銀の加工もやっていたのでついでに依頼する。

流石の量にドン引きしていたな。

色々頼んだついでにプレゼントも作ってもらうようにこっそり依頼しておいた。


これだけ無茶振りしても聖人祭の前日には完成するんだから立派なもんだ。



「おかえりなさいませ。今回の仕事はいかがでしたか?」


館に戻るとメイが挨拶をしてくる。

アタシ達は返事を返すと、メイに経緯を説明する。


すると何故かメイがアタシとエリーにキスをしてきた。


「ご主人様のキスは間接的ながらいただきました」

「あらあら、それでは私も改めて頂きませんと」

「え? じ、じゃあ僕も!」

「終わりがなくなるから止めろ」


なんだかんだでゴタゴタした結果、キスとハグまでは共有でOK、それ以上は許可制とか言うルールができた。

もう訳が分からない。



あっという間に聖人祭前日になった。

途中、おやっさんに会ってダンジョンの事を聞かれたので正直に答えたが、しばらく頭を抱えたあと、聞かなかった事にしてくれた。

おやっさんいわく、最悪ギルドの上層部全員の首が飛びかねないらしい。物理的に。


……話の分かるおやっさんで良かったぜ。

今度旨い酒でも持っていってやるか。

なにかと心労が溜まる仕事だしな。


そんな事より今大事なのは聖人祭だ。

聖人祭はおよそ千年くらい前、自らの誕生日に貧しい子どもたちに食べ物を配って歩いた大魔法使いリーチ・ハイトだかルイッチ・ファイトだかの人物を讃え、家族と祝う静かな日だ。

その前日に市場が大盛り上がりするので事実上の祭りは今日だな。


ギルドの近くでは、ポン子がノコギリで記念樹を切ろうとしている。


「お前何やってんだ?」

「あ! マリーさんにエリーさん! ギルドにドンと木を立ててですね、飾り付けをしようかと思いまして! で、ここを見たら立派な木があるじゃないですか!コレを拝借しようかと!」


「それ街の創立記念日に贈られた木だぞ」

「……え?」

「憲兵さーん! あのひとです! あの人が木を切ろうとしてて!」

「ご、誤解です! つい、ついうっかり!」


知らないオバちゃんが憲兵を呼び出し、ポン子を連れて行った。

……聖人祭は独房で憲兵と仲良く静かに過ごすんだぞ。

まあ、ギルド員なら身分確認さえできればギルド預かりになるか。

大変だな、おやっさんも。


「みんな明るい笑顔だね! いいなあ」

「リッちゃんの頃は違ったのか?」

「うーん、この時期は食べ物がなくてさ、アチコチからかき集めて皆にあげてたんだよ」


ふーん、大変だったんだな。

もうそんな時代は終わったから安心して良いぞ。



「いらっしゃー……。お、待ってたよ。ペンダントはお望み通りの付与魔法をかけてるよ」

「おう、あんがとな」

「では、早速試着してみましょう!」


店に到着すると人数分の一式を用意してくれていた。

服とペンダントをそれぞれ着けてみたが、みんな似合っている。


「どうだい? 付与魔法のオマケでサイズも多少調整されるからね。そんなにキツくないはずさ」

「ええ、ピッタリです。素敵なものをありがとうございますね」


エリーが笑顔なのはいい事だ。

ついでにリッちゃんも。


「ありがとよ。えーと……」

「アタシはルクスだよ。よろしくね、期待の新人さん」

「おう、またくるぜ、ルクス」


ルクスにこっそり頼んでおいたブツを受け取って今日のミッションはおしまいだ。

アタシ達は館に戻ってお祝いの準備をする。


「ところで聖人祭って何するの?」

「ああ、リッちゃんは知らないのか。プレゼントを交換しあうんだ」


「えっ? どうしよう。誕生日の分しかプレゼント買ってないや」

「そういうと思っておりまして、私の方で購入しておきました。今回は私とご主人様の二人からのプレゼントという形でお願いします」


さすがはメイだ。

リッちゃんのことをよくわかっている。


「別にそんなに気を遣わなくていいんだぜ? エリーともちょっと話をしたが、今回はアタシ達も誕生日プレゼントと一緒だからな」

「そうですよ。私はマリーをプレゼントしていただければ十分です」


そうそう、アタシもエリーからのプレゼントがあれば……

ってなんかそれ、おかしくないか? 

まあ、アタシをあげるけど。


「ほらよ、二人にプレゼントだ」


アタシはケーキ作りのセットをリッちゃんとメイに渡す。


「あ、これ買おうと思ってたんだ! ありがとー!」

「このようなものを私にまで……。ありがとうございます、マリーさん」


いいってことよ。

二人で仲良くお菓子作りに励んでくれ。

そうすればアタシの胃袋も幸せだ。


「私からはこちらをどうぞ」

「王室御用達の紅茶セットですか。結構高かったのでは?」

「いいんですよ。いつもお世話になってますから」


そう言うと、エリーはメイの耳元でそっと囁く。


「例の媚薬は奥に入れております」

「まあ……。重ね重ねありがとうございます」

「いえいえ、楽しんでくださいね」


おい、お前ら。

アタシに聞こえてんぞ。


「ん? どうしたの二人とも悪い顔してるよ」

「いえ、何でもございません。ご主人様、こちら寝る前に頂くもののようですので、後でお持ちしますね」

「そうですね。マリーも夜いかがですか?」

「……考えとく」


うちの彼女とメイドが怖い。

まあ、なんだ。頑張れリッちゃん。


アタシはリッちゃんからはブーツを、メイからは手袋をそれぞれもらった。

どれも長く使えそうだ。


「最後はマリーとエリーのプレゼント交換だね!」

「ん!? そ、そうだな! その……アタシはあとでも良いか?」

「マリー、どうせ明日には見つかってからかわれますよ」


うう、否定できない。

だけどこの二人の前で渡すのはちょっと恥ずかしいんだよな。

……ええい、覚悟を決めるぜ。


「それじゃあ、エリー。これがアタシの……その、プレゼントだ」


アタシは小さな包み紙から箱を取り出して開ける。

中に入ってるのは指輪だ。

杖のように魔力を増幅する力を持っている。


「あら……。とても、とても素敵ですね。それでは指にはめて頂けますか?」


そう言うとエリーは右手を差し出してくる。

……左手じゃないのか、ちょっと残念だな。


アタシは薬指に指輪をはめてやる。


「ふふ、ありがとうございます。うふふ……ごめんなさい、嬉しくって笑顔を抑えられそうにありません」


そんなにじっと指輪を見つめて喜んでもらえるとは。

アタシも嬉しくなるぜ。


「その、実は私もあの店で指輪をお願いしていたんです。右手を出して貰えますか?」


そういうと、色が違うがよく似た指輪を取り出してくる。

アタシは、右手の薬指に指輪をはめてもらう。


……サイズもぴったりだ。

しっかり調べてくれたんだな。


「あと、これはプレゼントではないのですが」


箱についていたリボンを持ち出すと、アタシの左手薬指にリボンを結ぶ。


「左手の薬指は私が予約済みですから、いつか来る日のためにとって置いてくださいね」

「……エリーも?」

「ハイ、私の薬指もマリーのために予約済みです」


ああ、たまらないな。

アタシはエリーに唇を重ねようと、更に顔を近づける。


「誕生日おめでとー」

「おめでとうございます。お二人とも」


しまった。

こいつらがいたんだった。

……残念だ。


食事も終わり、用意してくれたケーキも食べた。

今日は早めに部屋で眠ることにする。


部屋は暗い。

日付が変わったことを知らせる鐘が聞こえる。

普段は夜中に鳴るものじゃないが、今夜は聖人祭だ。

この鐘を聞きながら、アタシ達は肩を寄せ合う。


互いの目が合った。

先程着けてもらったリボンを絡める。


どうやら、紅茶はいらなさそうだ。

これで第三部は終了です。

第四部はしばらくお待ち下さい!1月のどこかで再開できると思いますので……

さらにその次の第五部は仕事やストック諸々の事情で春頃?ですかね

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