第42話 撤収
アタシはみんながいる広間に戻ってくる。
フーディーの奴は、眼を覚ましそうになかったので背中に担いできた。
「マリー!」
「マリー、無事でしたか」
エリーが駆け寄ってくると、アタシに抱きついた。
エリーもリッちゃんもボロボロだが幸い命に別状はなさそうだ。
アタシもここに来る前にスキルを使っておいたので怪我や呪いは一掃済みだ。
「急にスケルトン達が消滅したので、おそらくダンジョンを攻略したと思っていました。 ……アレを使って回復しなければいけないほど激戦だったのですね」
「まあな、というより相性が悪かった」
逃げ回って遠距離から広範囲攻撃で戦うタイプだったからな。
リッちゃんかエリーがいたら割と簡単に片付いたと思うぜ。
「フーディー!」
次に声をかけてやってきたのは、『パンナコッタ』のメンバーだった。
名前は……コナツとか言ったな。
黒髪でその独特な服装は東方の出身だろうか。
背中に担いだフーディーが気になったのだろう。
悪いが命に別状が無いやつにアタシのスキルを使う気はない。
「こいつはまだ生きてるぜ、アタシは他人は治せないから早く治してやんな」
「……ありがとう。感謝します」
「礼を言うのはこっちだ。今回かなり助けられた。フーディーにもよろしく伝えておいてくれ」
「……今度またお礼をします。フーディーも連れて、必ず」
アタシは軽く手を振ってコナツとやらとの会話をおしまいにした。
他のチームもボロボロだ。
それぞれのチームが手当てをしている。
落ち着いてからギルドまで戻っていくだろう。
エリーはまだアタシにくっついたままだ。
……心配かけたし仕方ない。しばらくそのままにしておこう。
撤退の準備をしようとすると、リッちゃんが服の裾を引っ張る。
「なんだ? トイレか? もういい年なんだからひとりで行くんだ、もうスケルトンは出てこないぞ」
「違うよ! ……あの祭壇にある道具、回収しないの?」
そう言われて祭壇の存在を思い出す。
そういえばあったな。
取れるかどうか試してみるか。
……お、取れる。
「リッちゃん、これ呪いとかかかってないな?」
「……大丈夫、呪いどころか最初にかかってた魔法までもう消えちゃってるよ」
それなら持って行っても良さそうだ。
「おっさん、あと……コナツ、だっけか? これ持って帰れるみたいだぜ?」
アタシは最短で置いてあったもののうち自分で取った龍眼玉だけをとると、それぞれのメンバーに宝物を忘れないよう促す。
「そうなんですね……。リーダーのフーディーが不在のいま、リーダーに代わって重ね重ねお礼を申し上げます」
「こちらもだ。この炎のマントはありがたく貰っていく」
コナツって奴は一挙一投足がやけにキレイだな。
ちゃんとした家柄の出身だったりするんだろうか。
まあいい、詮索はしない主義だ。
たとえ貴族だろうと乞食だろうと、やらかしてなけりゃ冒険者さ。
今回はそれぞれのチームにお宝渡をして完了だ。
それぞれのチームでギルドに報告をし、後で情報を取りまとめてもらう。
それで今回の報奨金をもらって終了だ。
「あの〜、ウチ達の分け前は?」
筋肉妹がなんか言っている。
「お前たちは手に入れただろ、かけがえのない思い出ってやつをよ」
「ちょっと待って! いい思い出で終わらせないで! うちらも頑張ったんよ! 少しくらいお宝もらってもいいんよ!」
まあ確かに頑張ったのは事実だ。
だが肝心な時、肝心な所にいなかった上に徹底的にやらかしてるからな。
……一応回収しておいたアレをやるか。
「しょうがねえな。ほらよ、ルビー。あの骨野郎が落としたアイテムだ。ボスを倒すときにも使った逸品だぞ」
「ほう、敵を倒したという証だな! いいだろう! ありがたく貰っておくぞ」
「まあ姉ちゃんが満足してるならいいけど……」
アタシは魔族にはめていた腕輪を渡してやる。
呪われていたやつだ。
どうやらこれで満足してくれたらしい。
「そうそう、それなら呪われてるから気軽に腕につけるなよ」
「ん? なんか言ったか?」
筋肉女は忠告をした時点ですでに腕輪をはめた後だった。
……だが呪いが発動しない。
もしかして一回こっきりの力だったのだろうか。
そう思った瞬間、筋肉女の全身に髑髏が浮かび上がる。
「む? 何だこれは!?」
「ヤバい! その腕輪を早く手から離せ!」
「むむっ! 負けるものか! マッソー……パウアッ!」
パチンッと弾けるような音とともに髑髏が吹き飛んだ。
……え? それで呪い解除できるの?
「リッちゃん、アレさ……」
「呪いが消えてるね」
やっぱりか。
「ふむ、なかなかいい腕輪じゃないか、礼を言うぞ!」
「お、おう……。礼を言われる筋合いはねーよ。いやホントに」
筋肉妹と変態がさすが姉ちゃんとか筋肉に合いますねとか褒めていた。
もういいや。
あいつらと絡んでると脳みそが破壊されそうになる。
さっさと距離を置こう。
……色々と手当やらを行ってたせいか、他のチームはすでに撤退をしていた。
気がつけばなんだかんだ残っているのはアタシ達くらいだ。
「あ、リッちゃん。荷物預かってほしいから空間を開けてくれないか?」
「いいよー」
アタシは祭壇で手に入れたお宝と、他にダンジョンで手に入れたお宝を異空間……。通称アイテムボックスに放り込んだ。
……よしっ、なんの問題もないな。
「あの、マリー……。今のってまさか……」
「しっ、とりあえず館に持ち帰ってからだ」
「え?何いれたの!? ちょっと! 虫とかじゃないよね!?」
「大丈夫だ。ダンジョンにはよくある石だ、館に帰ったら見せるから気にするな」
エリーも気にするな。
普通は手に入らないかもしれないけど、たまたま手に入ったから良いじゃないか。
「さあ任務も達成したし、アタシ達も帰ろう」
「あ、ちょっと待って」
そう言うとリッちゃんは壁の横、目立たない場所に何かを書き出す。
……魔法陣か?
「リッちゃん。もう使わないダンジョンだからって落書きはいけないぞ」
「違うよ! これをこうして……できた!」
リッちゃんが書かれた魔法陣に魔力を流すと、空間が開く。
「さあ行くよー」
「おい、説明を……」
話を聞く間もなく、リッちゃんは光の中に入ってしまった。
アタシ達も慌てて追いかける。
「ただいまー!」
「は?」
「ここは……館、ですか?」
目の前にはよく知った花壇がある。
いつか花冠を作った花壇だ。
「すごいでしょ! これであの元ダンジョンと往復自由だよ! 魔力さえあればだけど!」
「確かにこれは……。凄いですね」
「空間魔法か?」
「そうそう、それ! 我の秘術に恐れおののくがいい!」
エリーと同じく、アタシもこれには驚いた。これならどこからでも帰り放題じゃないか。
流通革命じゃないか、コレ?
「これどうなってるんだ?」
「ダンジョンの空間魔法を擬似的に再現したものだよ。誰でも入られると困るから魔力の波長を登録して保護してるけど」
話を詳しく聞くと館に仕掛けた魔法陣とここの魔法陣を空間的につないでいるらしい。
魔力を込めて魔法陣の維持をしているので定期的に魔力を入れなければいけないとか、一度開通させたら館の方で新たに陣を書かないと新しいルートは作れないとか面倒らしいが、それでも便利だ。
リッちゃんのお陰で馬車の旅から開放されたな。
さて、館でエリーとゆっくり休むか。
「ところでギルドへの報告は向こうの領地でおこなう必要があったのではありませんか?」
「あっ」
結局、アタシ達は再び魔法陣をくぐりなおした。




