第40話 集団戦
「オッサン、悪魔の体は魔力で作られてる。武器で時間かけて削り取ってもいいが、どっかに核となる部分があるはずだ。そこを徹底的に攻撃するぜ」
「詳しいな。お前、悪魔と戦ったことがあるのか?」
「ちょっとだけな」
ちょっと殺し合いをしただけだ。
「まずは右側のやつからやるぜ、左はアタシが牽制してやる」
「……任せた」
アタシ達は即興でコンビを組み戦う。
二体のうち、一体を牽制しつつ一体に集中砲火で倒していく作戦だ。
とりあえず一番怪しいのは顔面の光る赤い点だが、的が小さすぎて狙いにくい。
とりあえず様子見を兼ねて全身を刻んでみる。
……前に戦った包帯野郎の悪魔より、気持ち程度硬いが、しゃべるわけでもなく、本当に人形のようだ。
なんとなくだが、戦力としては前の包帯悪魔より弱いな。
オッサンも斬りかかる。
「……ふむ、固いな。ではそこはどうだ?」
そこでおっさんが悪魔の赤い点を的確に貫いた。
悪魔は大きく黒い霧を吹きだすと、後ろに大きく後退する。
やっぱりそこが弱点みてえだな。
だが凄いな、動き回る小さな点を貫くとか並大抵の技術では無いんだが。
「俺のスキルは『精密剣』という。剣を振るっている途中ですら、髪の毛一本分の誤差まで修正するのは容易い」
つまり、剣技に限定すれば技量が達人のそれって訳か。
今回の『技』の試練もソレで突破したんだな。
「いいスキルだな。剣士なら是非とも手に入れたいスキルだったろ?」
「……くだらんスキルだ。剣を極めようとすれば、いつかたどり着ける領域に過ぎない」
「そのおかげで今助かってんだろ、贅沢言うんじゃねえよ」
おっさんとこの悪魔、戦いの相性が良さそうで助かった。
アタシは悪魔の両足を蹴り飛ばして氷で固めてやる。
これで一瞬だけ足止めするくらいはできるだろうさ。
氷漬けにした方はオッサンに任せていったん放置だ。
アタシはオッサンに傷つけられて後ろに下がった悪魔に追撃をする。
怯んで動きが止まっているならアタシだって赤い点に当てられるんだよ。
怯んだ悪魔の額に刃をぶっさして、中をかき回すように刃を動かすと、予想通り大きく黒い霧が吹き出した。
額の中のどっかに核になる部分があるみたいだな。
「闇雲にぶっ刺しただけじゃ駄目だよなあ? しっかり急所をえぐるようにかき回さねえと感じねえぜ?」
悪魔の全身がひび割れ、黒い霧が吹き出すのが止まらない。
……こいつは終わりだな。
それを見ていたもう一体の悪魔の額にある、赤い光が強くなる。
「おう、どうした? お仲間がやられてビビったか? ……っ!!」
アタシは嫌な予感がしたので横に飛んで回避をする。
悪魔の額から、光の線が飛び出したのはその直後だった。
光の線が地面を焦がす。
「妾の影にぶつけるでない! 狙うべき相手を狙え!」
光線を慌てて回避するケバ魔族。
自分で呼び出したくせに勝手な奴だ。
しかし、あの光どっかで見た事あるな。
どこだっけ。アタシが生まれる前か……?
「何だアレは……?」
「光を収束させて放ったんだろ」
「光を……? そんな事が可能なのか」
確か、ビーム、いやレーザーだったか?
随分と未来的な技を使いやがる。
……忘れてた技術を思い出させてくれてありがとよ。
悪魔との戦いはタメになるぜ。
アタシは水魔法で生み出した魔法を凍らせて氷を生み出すと、盾のように構えてレーザーを防ぐ。
そしてそのまま相手の体に氷と水を叩きつけ凍りつかせた。
魔法で動きを封じたところで、アタシはオッサンに合図を送る。
アタシが体を刻み、オッサンは正確に額の弱点を貫いた。
「ええぃ! 何をやっておるか! 最下級とは言え、悪魔であろうが!」
ケバい魔族が吠える。
「おいおい、余所見してる暇があるなんて余裕じゃないかい」
「っ! いつの間に…… しもうた!」
魔族は斬りつけられ、更に炎で炙られる。
「おのれっ! 影よ!」
魔族は慌てて影に潜る。
少し離れたところでまた姿をあらわした。
「……くそっ、くそお! 舐めるなよ!」
「舐められるようなことをしといて何言ってるんだい【石よ石よ、尖り尖り槍となりて相手を貫け】〈石槍弾〉!」
フーディーは魔法を唱え、影から出た魔族に追撃をしていく。
鋭く尖った岩の槍がケバ魔族へと迫る。
「影よ! 岩を喰らえ!」
フーディーグが生み出した魔法は、盾となった影に吸い込まれてしまった。
……あの影、厄介なスキルだな。
「ちっ、ならもう一回燃えちまいな!『炎眼』!」
「何度もその手が通じるものか! 影よ! 吐き出せ!」
「何!?」
フーディーが目を赤く光らせ魔族を燃やそうとしていたが、影から飛び出してきた石弾に邪魔される。
「くっ!」
「ははっ、そのまま死ぬがいい!」
その岩はフーディーの足に突き刺さった。
……さっきフーディーが使った魔法じゃないか。
魔法を跳ね返せるのか。
このままだとマズイな。
「オッサン、ソイツは任せたぜ!」
アタシは滅びかかっている悪魔を無視して魔族とフーディーの戦いに突っ込む。
「チッ、また来たのかい? しゃらくさいのう! 悪魔共よ、はよう!」
すると、また悪魔が二体召喚された。
「くそっ、何体いやがる!」
「ふん、知らんのか? 歩兵級悪魔は四体で一つ! 一人や二人やられた程度では造作も無いわ」
額を狙うが悪魔が回避してわずかに逸れる。
くそっ、アタシじゃ一撃でやれねぇ!
「オッサン!」
「もう来ている」
オッサンの声を聞いたアタシは、凍らせて一瞬だけ動きを鈍らせる。
そこをオッサンが一突きで屠った。
もう一体も同じように対処する。
「こうもあっさり妾の悪魔を屠るとは…… 主らを舐めておったわ」
「おいおい、私の魔法を跳ね返しといて無視なんて酷いじゃないかい、『炎眼』!」
「しまっ…… うぐっ!」
フーディーが近くまでゆっくりと忍び寄っていき、奇襲を仕掛ける。
彼女は再びスキルで魔族を焼き払うと炎が包み込む。
……あと一歩ってところだな。
「くそっ、くそっ! もう出し惜しみは止めじゃ! ダンジョン管理者権限執行! 貯蔵魔力変換! 〈変身〉」
魔族は高く飛び上がりさ叫ぶと、体が変化していく。
下半身が巨大なライオンのようになり、四本のしっかりとした脚で支えられる。
本来ライオンの顔があるであろう首の部分には魔族の上半身が生えている。
背中の羽も体も二回りは大きくなっている。
「この状態まで追い込まれるとは…… 任務は失敗じゃ! 三年かけて貯めた魔力の大半を使ってしまった以上、主らの命だけはいただくぞ!」
地面に降り立つと、その巨躯から地響きが響く。
「まずは貴様からじゃ! 影よ! 喰らえ!」
「なにっ!?」
フーディーグの方に向き直ると、半獣魔族はスキルを発動させた。
影が彼女を覆いつくすと、そのまま姿が消えてしまう。
「フーディー殿!? 貴様! フーディー殿をどこにやった!?」
「んん? 返して欲しいか? それでは返してやろう。 影よ、吐き出せ」
すると、ボロボロになったフーディーグが、影から吐き出されてこっちへ飛ばされる。
手足がおかしな方向に曲がっている。
……気を失っているが生きてはいるようだ。
「フーディー! しっかりしろ!」
「おや、妾の『喰ライ闇』をマトモに受けて、まだ息があるのか。なかなかにしぶといのう。今度はちゃんと噛み砕いてやるから覚悟せい」
「砕かれるのはテメェだよ」
アタシは武器を構える。
「威勢がいいのう、貴様らにも躾の時間じゃ。管理者権限執行! 限定テレポーテーション解放!」
半獣魔族が空間を開く。
その向こう側はエリー達のいるフロアの上空が映っていた。
「歩兵級悪魔よ! 全軍攻撃態勢に移行!」
影から八体、さっきの人形みたいな悪魔が現れると空間に飛び込んでいく。
……あの野郎、悪魔をエリー達のいる所に放り込みやがった!
追いかけねえと! ……だが空間はすぐに閉じてしまう。
くそっ、逃がす気はねえってわけか。
「くふふ……。さあ改めて問うぞ? 悪魔が八体、お仲間たちのところへ向かったが、主ら、どうするつもりかの? 妾と遊んでいて良いのか?」
「テメーを殺さねえと戻ることすら出来ねーだろうが」
「そうか、ならば妾からのサービスじゃ。管理者権限執行。限定テレポーテーション開放!」
すると、転移するための門が開きエリー達がいる広間が見えた。
「ほら、一人だけなら助けに行って良いぞ? フロアの敵を一掃すれば帰れるはずじゃ。最も、もう戻っては来れんがの?」
……コイツ仲間割れを誘ってやがるな、クソったれが。




