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第38話 陥落

アタシの攻撃はこいつと相性が悪い。

リビングアーマーっていうのは固くて炎も通さねえからな。

さすがに雷は通るだろうが……


負けることはないとは言え、親玉が控えている状態で消耗戦はよくない。


そういう意味ではあの筋肉姉妹も同じ条件のはずだ。

アタシは鎧が攻撃してくる剣をかわしながらこっそり様子を見る。


「ふんっ! 固いな! だがそれを上回ればいいだけの事! はぁっ!」

「ウチのスキルを食らうんよ! 振動圧!」


筋肉姉妹のうち、姉の方はただのゴリ押しだ。戦術もクソもない。

だが妹の方は面白いことをしている。


妹の持つ棒が僅かに震え、敵にぶつかるときに鎧の表面を削り取る。

振動を武器に付加して何度も叩きつけているのか。

押し付けるだけで内臓や腹にダメージがいきそうな嫌なスキルだな。


……ああ、なんかあったな。

振動……。震え……、音。

そうそう、音魔法だ。

思い出した。


念話での遠距離通信がメインになるに従って廃れた、マイナーな魔法だ。


数百年くらい昔までは通信手段の一つとして割と使われていたらしい。

だが、大気が震えて衝撃波になったり遮蔽物によっては届かなかったりと使い勝手が悪く、徐々に使われなくなった魔法だ。


ガラスとか下手な場所に置いてると割れてしまったみたいだしな。

今では大規模な祭りのときにたまに使われるくらいだ。

専門で使いこなそうとするやつはいない。


ちょうどいいや。

筋肉妹のスキルを魔法で擬似再現させてもらうぜ。


アタシは両手の刃に音魔法をかける。

……耳障りな高音が鳴るが魔法の性質上仕方ない。


「おいガラクタ。お前のためにアタシが作った即席魔法だ。ありがたく、その身に刻め」


アタシは震える刃を鎧に押し当てる。

思っていた以上に抵抗なく刃が入っていくな。

更に刃が敵から黒い霧のようなものを吸い出していく。


二度三度と切りつけ鎧を分断すると、あっという間に動かなくなる。


あ、そっか。

リビングアーマーは魔力をベースに動いてるんだった。

この刃、魔力に干渉する特性があるんだよな。オーバーキルだ。

そのまま切り刻んでも負けることはなかったかもな。


『オーガキラー』の方も三体のうち二体が倒されていた。

残るは変態が受け持っている一体のみだが、その戦いも優勢だ。

さらに筋肉姉妹が手助けすることにより一気に叩き潰される。


「そっちも終わったな、じゃあ準備を整えて扉の奥に進……」

「うおぉおおお! 残るは一人だ! 突撃!!」

「おい、待てっ!」


アタシの話も聞かずに扉へと突撃していく三人。

トラップとか仕掛けられている可能性もあるのに、何も考えずに突撃するんじゃねえ。


こちらへ向かって来たエリーやリッちゃんと合流して急いで後を追う。


『オーガキラー』のメンバーはすでに通路の中ほどまで進んでいた。

通路の一番奥の方には、先ほど逃げた骨野郎がいる。


トラップは仕掛けられてなかったのか?

……いや、途中にギロチンの刃物や折れた矢など、明らかにトラップが発動して、壊された形跡がある。


究極のゴリ押しスタイルだな。

もう最悪あいつ等だけでなんとかしてくれそうだ。


「〈探知〉 ……マリー、残るトラップ反応は一つだけ、どうやらほとんどすべてのトラップは破壊されたようです」

「マジでゴリ押しだな」


もはや『オーガキラー』が止まることはない。

最後の一人に向かって突進していく。


「フハハハ! これぞ我が筋肉のパワーよ! 筋肉こそ力! 知恵だの数だのは弱者の戯言! 純粋なる力を思い知るがいい!」

「……カッカッカ。 筋肉など力のひとつに過ぎんわ! 見せてやろう、我の魔力をな!」

「ルビー様の筋肉に対するなんたる無礼! そのような言葉は万死を持って……」


その瞬間、通路の床が抜けたように穴が空く。

……巨大な落とし穴だ。

通路の一帯がすべて落とし穴になってしまっている。

アタシの身長三つ分はあるな。


「ぬ、ぬわあぁぁぁっ…………」


『オーガキラー』のメンバーはみんな落とし穴に飲み込まれてしまった。


「…………」

「…………」


……おい、骨野郎もアタシ達も沈黙しちまったぞ。

この微妙な間どうしてくれんだ。


「さ、さすがに力押しでここまで進んで来るとは予想外であったわ、筋肉というのも馬鹿にできんもんじゃのう」


ここは力の道だろうが。

なに存在意義をサラッと否定してやがるんだこの骸骨。


「エリー、アイツ等は大丈夫か? いや、駄目ならそれでもいいんだが」

「三人ともまだ生きています。 ただ、多数の敵反応が地下に!」


モンスターの溜まり場に落とされたか。

流石に筋肉では落とし穴はどうにもならなかったらしいな。


「ふむ、まだ生き残るとはしぶといの。残念じゃがヌシらの仲間は百のオーガアンデッドを倒すまで出てこれんぞ。最も、生きられるとは思わんがな」


オーガアンデッド。

オーガより膂力は落ちるが、恐怖を感じる事がないゾンビ化したオーガだ。

本来ならすぐに助けに行かなければならない所だが……


「……アイツらなら多分大丈夫だろ」

「かなり信頼しておるようじゃの? じゃが、ここにたどり着く手段もないのに、お前たちだけでワシを倒せると思うてか?」


アイツ等は一人一人がオーガと戦える『オーガキラー』だ。

最低基準でそのレベルならなんとかするだろうさ。


それに、助けるとしても眼の前の骨を火葬してからだ。


さて、敵も落とし穴を超えられないと思って油断してるな。

さっさと焼き斬ってやる。

「ねえ、僕にやらせてもらってもいい?」


そこで、声がかけられる。

珍しいな。

リッちゃんがやる気を出して声をかけてくるなんて。


「……大丈夫か?」

「任せてよ。さすがに接近戦で来られるとまずいけど、同じ魔法使いだしね」

「……ヤバいと思ったら手を出すぞ」

「大丈夫! 見ててよ」


なんか、やけに自信があるから任せてみるか。

リッちゃんが一歩前に出て敵と向き合う。

アタシたちは少し離れたところから様子を見る事にした。


「……ところで君、ワスケト君だっけ? 君のアンデッドの使い方にさ、僕少し怒ってるんだよ」

「ふむ? 何が不満かの?」

「自分の作った子供たちを使い捨てにする所かな」


まるで理解できないというように、骨野郎が首を傾げた。


「人間は妙な意識を持っておる……。生み出されたモノ共は生み出した者に利用され、使い捨てられるモノであろうが」

「そういうところだよ」

「ふむ、互いの意識の溝は深い。これ以上の議論は不要じゃの〈黒影槍〉」


骨野郎の影がリッちゃんの所まで伸びると影から黒い槍が飛び出して刺し貫こうとする。

……だが、槍は刺さる直前に霧散してしまった。


「無駄だよ」

「聞かぬ、じゃと? ならば〈氷槍撃〉!」

「アンデッドは詠唱なしで魔法が使えるから、当時は古代魔法に通じると思われてたんだ。実際には悪魔と同じで魔力で構築した肉体を削ってたから詠唱を省略できただけだったんだけど」


……やはり、リッちゃんに触れるか触れないかのところで霧散する。

それを見て、リッちゃんは空中に陣を書き始めた。


「ば、馬鹿な!? なぜ魔法が通じん!」

「人間がアンデッドになる場合の方法は二つ。借り物の力を借り続けて返し続けるか、借り物の力を盗んで自分のものにするか。盗む場合は、魔法に耐性をもつように防御を敷いて副作用で体が壊れるのを抑えるんだ」


そうか、リッちゃんの体はある程度の魔法を無効化するんだったな。

次々と生み出される氷の槍。

それらは一つもリッちゃんを傷つけられないまま消えていく。


「人間がアンデッド……? まさか、ありえぬ! 完全な人の身を残してアンデッドになるなど不可能であるわ!!」

「それは君が模写した元の魔物の知識だろう? その魔物……、いや人かな? その知識が不完全なのさ」


ダンジョンで知性ある魔物が生まれる時、かつてどこかのダンジョンを住処としていた生物の記憶をコピーして生まれるそうだ。

逆に誰かによって生み出される場合は知識を一部創造者からもらうと聞く。

眼の前の魔物もそうなんだろう。


「お主! お主は一体何者だ!」

「ああ、ごめん、まだ名乗ってなかったね。 ……我は人の身から変化したアンデッドの王。魔王ファウストを生み出せしすべての魔族の母、リッチ・ホワイト。滅びよ矮小なる者〈真・炎蛇陣〉」


生み出された炎は最初にリッちゃんが放ったものと同じ魔法だ。

だがその威力は最初に作られた炎よりも強い。

熱波がこちらまで届く。


「ふざけるな! その程度の魔法、打ち消してくれる!」


だが炎の蛇は、いくつも撃ち出された氷塊を飲み込み、そのままの勢いで骨野郎を食らった。


「馬鹿な! なぜ……、ぬおぉぉぉっ!」

「悪いけどさっきみたいな即席の陣とは違うよ。僕に傷をつけるくらいの威力はないと消せないね」


炎に焼かれて骨野郎の体が崩れていく。


「ワシが魔法で力負けするだと……。おのれ……。ヌ……シさ……、ああ嗚呼アァッ!!!………………」


骨野郎はあっけなく炎に焼かれて跡形もなく崩れ落ちる。

残っているのは灰だけだ。


「……へへーん、どうだった?」

「本物の魔王みたいだったぞ、リッちゃんやるな」

「やはり攻撃魔法ならリッちゃんですね」

「良かったー、寒さに耐えて頑張った甲斐があったよ!」


効いてなかったんじゃなくて痩せ我慢してたのかよ。

……そういえば完全には無効化できないんだったか。


うわ、試しに触ったらほっぺたが冷たい。

でも勝ったから良いや。

ご褒美に両手で温めてあげよう。


敵の気配はない。

戦いが終わり、壊されたトラップや落とし穴も消えていく。

これでいったん終了だな。


「ところで落とし穴が消えたけど、『オーガキラー』は大丈夫かな……?」

「あっ」


トラップが消えるのは予想外だった。

ダンジョンのフロアボスは影響を与える事ができると聞くが……

あの骨野郎、ああ見えてダンジョンの一角を支配していたのか?


「『オーガキラー』の皆さん、戻って来れるでしょうか……?」

「……ダンジョンでは完全に封鎖された空間というのは存在できないはずだ、多分、きっと、大丈夫だろ」


とりあえずどこかで合流できることを祈って、アタシたちは前に進む。

骨野郎が灰になった所には、腕輪が落ちていた。


「これ、もしかしてあいつの核になっていたアイテムか?」

「ちょっと見せて? ……うん、多分そうだと思う。でもこれ呪い、かな? 効果は分からないけど……最悪死ぬかも。気軽に腕にはめたりするのは良くないね」


最後までろくな事しねえなあいつ。

まあ、一応戦利品だ。

ポケットにしまっとくか。

しかし『オーガキラー』とリッちゃんがあっけなく倒してしまったせいか、今回は気楽だったな。



眼の前の扉を開けると、宝石が置いてあったので回収する。

水色の球体水晶のようだが、見る角度によって中央の色が変わる。


「これは……。龍眼玉か?」

「キレイですね」


龍眼玉。

まるで龍の目のような色合いをしていることから、宝石の中でも一級品と呼ばれる。

吸い込まれるような虹色が美しい。


「僕にも見せて見せて! ……あ、これ凄い! 加工して装飾品にすれば面白いものが出来そう!」

「でも残念だな、これダンジョンから持ち出すと消えちゃうんだろ?」

「え? あ、ほんとだ。消滅、再生成する術式がかかってるね」


やっぱり持ち出し禁止か。

嫌がらせだな。

ま、いいか、目的のものも手に入れたしさっさと戻ろう。


アタシたちの任務はこれで完了だ。

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