第36話 オーガキラーの戦闘
ついに第三階層に到着した。
先行した『オーガキラー』と『パンナコッタ』がそれぞれ待っている。
……なんだか騒がしいな。
「意外と早かったねえ」
『パンナコッタ』のフーディーがいる。
まだここにいたのか。
「お前たちが雑魚を散らしてくれてたからな、ありがとよ」
「もう先に進んでしまってるのかと思いました。ありがとうございます」
アタシはエリーと一緒にお礼を言う。
「そうしたかったんだけどあいつがね……」
フーディーは親指で『オーガキラー』を指差す。
そこはラズリーとサファイによって雁字搦めにされているルビーの姿があった。
ラズリーが緩んだ顔でときどき匂いを嗅いでるのがすごく気持ち悪い。
「新しいプレイか? そういう趣味ならほっといてやれ。あいつらアレで興奮する変態なんだ」
「そうじゃないよ、あの大馬鹿野郎がね……」
「うるさい! 私は馬鹿じゃないぞ! 『知』の道に入って証明してやる!」
「あっマリー! いい所に来たんよ! 早く姉ちゃん止めて! 依頼失敗しちゃう!」
ああ、大体理由が分かった。誰かいらんことを言ったな。
しょうがねえな。一肌脱いでやるか。
「ルビー、お前は何のためにここへ来たんだ?」
「そんな事は決まっている! 私の知恵と勇気を試すためだ!」
いきなり目的忘れてんじゃねえよ。鶏か。
だがこういう時いきなり否定をしてはいけない。
こういう手合いは否定していきなり真実を突きつけると激昂するからな。
ちょっと残念になった老人をいたわるようにしなければ。
「その通りだルビー。だがアンタの知恵と勇気、こんなところで使ってしまってもったいなくねーか?」
「何!? では一体どこで使えというのだ!」
ねーよ。そんな場所。
だが残酷な真実は伏せておく。
大切なのは夢を見せる事だ。
家を売るときに幸せな家庭生活を思い浮かべさせて、背伸びした物件を買わせるのと一緒だな。
「よく考え……いや無駄だから考えるな、感じろ。ここより遥かに深く、遥かに暗い迷宮。あらゆる勇者や英雄たちが散って行った場所。そこには誰も解けない謎がある。お前が颯爽と現れ、その痴……知性で謎を解くんだ」
「そんな場所で私が……? いや、そんな場所がそもそもあるというのか……?」
ねーよ。そんな場所。
大体そんなとこで謎解いたって誰も知らねーし興味ねーよ。
「その地にたどり着き、知性を証明したとき、お前はこう言われる。『筋肉と知性の覇王ルビー』と」
「おおっ……。素晴らしい……」
もうひと押しか。
「想像するんだ。『流石はルビー』、『なんて偉大な頭脳なんだ』、『まさかアイツにアレほどの知性があるなんて』あちこちから響く、その声を。その時まで知性を見せるのはとっておくんだ。お前は知の中の知、いわば知の秘密兵器だ!」
「おおっ! 素晴らしいぞ心の友よ! ではその時その場所までとっておこう!」
ねーよ。そんな場所。
お前は秘密にせざるを得ない痴の中の痴だ。
だが発作が収まったようで何よりだ。
「うまくまとまったな、これで良いだろ?」
「……アンタ、私達の代わりに『知』の門に入るかい?」
本音としてはアタシもそうしたいんだがな……
「アレが対抗意識燃やしてまた入りたいとか言ったら面倒だ。すまんが遠慮させてもらう」
「ああ……、アレがまたしゃしゃり出ると厄介だね。たくっ、人選を間違えたかね」
まったくだ。
アレは筋肉しか能がない女だぞ。
仕切り直してそれぞれが門の前に立つ。
門と言うが奥には光の渦が巻いており、そこに入ることで転移させるようになっている。
「いいかい! 力の門だけは敵が別格に強いらしいよ! 気をつけるんだ!」
「ははは、この私がいる限り安心しろ。大船に乗ったつもりでいるがいい!」
お前小舟ではしゃいで横転させるタイプだろうが。
一緒に乗ってずぶ濡れの船酔いになる奴の身にもなれ。
「フーディーにヒゲのおっさんも気をつけろよ」
力の門を抜けた先は大きな広間だった。
アタシたちが中に入ると同時に、空中に光の粒が集まってくる。
話に聞いていたモンスターの出現だな。
「エリー、リッちゃん。来るぞ。まずは様子見を……」
「サファイ! ラズリー! 全員突撃だ! うおおぉぉぉっ!」
「「うぉおおおおぉっ!」」
おい、せめて連携しようという意思くらいみせろ。
筋肉共が雄叫びと共に出現途中の敵に突撃していく。
どうやら敵は、スケルトンの類のようだ。
ルビーは斧を、サファイアは棒を、そしてラズリーはメイスを持って突撃していく。
魔物たちが生成され出現するかどうかの瞬間、スケルトンの集団は哀れにも吹き飛ばされて砕かれていく。
モンスター達が大量に生まれているが、生まれる速度より壊れる速度のほうが早い。
……正直『オーガキラー』を舐めていた。
剣や斧を持ったスケルトン達がいるのでおそらく上の階層で戦ったスケルトンの上位種だと思うが、もはやバラバラで見分けがつかない。
物量で圧倒するタイプの敵が圧倒されている。
筋肉バカが3人もいるとこんなに破壊力を持つのか。
「待って、姉ちゃん! こいつらバラバラにしただけじゃ死んでないんよ! 【健全なる肉体に宿るは健全なる炎、猛る魂は炎の証】〈火炎付与〉! さあボコボコにするんよ!」
おっ、きっちりフォローを入れてるな。
しばらくはこいつらだけで良さそうだ。
アタシ達は体力の温存も兼ねて、その戦いを見守る。
あっという間に敵は駆逐され、気がつけば静かになっていた。
「皆さんお疲れになったでしょう。準備はできております。【肉体の癒しはさらなる力、流れる汗は健康元気】〈エリアヒール〉」
変態が姉妹を癒やす。
何気に上位の回復魔法も使えるんだな、あの変態。
一見メチャクチャなようで意外とバランスが取れている。
攻撃と自身の強化ができる筋肉姉。
攻撃と姉のフォロー役の筋肉妹。
攻撃と回復ができる変態。
タイマンだと私が勝つだろうが、役割を徹底しているアタシ達と違って、それぞれの応用が効く。
チーム戦では厳しいな。
距離をつめられたら負けるかもしれない。
できるだけ距離を詰めさせないように牽制しながら戦うしかないな。
立ち回り次第ではAランクも目指せるだろうに。
つくづく馬鹿なのが惜しい。
「どうだ? 私たちの働きは?」
「流石だな。正直ここまでの火力があると思っていなかった」
「ははは。もっと褒めてもいいぞ? ところで誰か探索魔法を使えるやつはいるか?」
「エリーが使えるが、そっちにはいないのか?」
「私たちには筋肉があれば十分だからな!」
三人共それぞれ決めポーズを取るが、なぜ格好つけてるんだ。
そんなカッコつける場面じゃないだろ。
……コイツら戦闘技能以外の全てが欠けてやがる。
「えっと、それでは私が探索魔法を使いますね。【……の姿と罠を現せ】〈探知〉」
エリーの魔法はより洗練されて、罠や宝箱まで感知できるほどになっている。
……どうやら近くに敵はいないようだ。
「……駄目ですね。調べられる範囲に敵はいませんが、扉の向こう側を調べようとしたら魔法がかき消されます。先に進まないことにはなんとも」
「そっか、しょうがねえ。あの扉を開けて……」
同時にギギギ……と嫌な音を立てて扉が開く。
なんだ? トラップか? それとも探知魔法に反応したか?
「皆さん! 扉の向こうから百以上の反応があります!」
「ちっ!」
アタシと『オーガキラー』のメンバーはそれぞれ臨戦態勢に移っていく。




