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第134話 封印の揺らぎ

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よし、このままアンデッド共から魔力を吸収して……。

おかしいな。勇者ちゃんが近くにいるのに少しも敵が倒れない。


「おい勇者ちゃん! スキルはどうした!?」

「使っているのですよ! 〈変身〉した魔族と同じなのです! 触らないと駄目なのです!」


なんてこった。

いきなり作戦がコケた。


「今助けるよ! 〈火球陣〉……ああ、だめだ!」


リッちゃんが魔法を放つも勇者ちゃんに吸収されてしまう。

マズイな、敵にタカられて……。

あ、敵が次々に倒れていくぞ。


「向こうから近づいてくるから大丈夫なのです! 少し敵を引きつけるのですよ!」


勇者ちゃんが少しずつ左……南の方へ逸れ出すと、敵も釣られるようにそちらへ集中する。

……ただの囮にしかなってないけどまあ良いか。


この様子を見ても、ファウストと魔王は二人とも動く様子がない。

ただの茶番だと思っているのか、あるいは警戒してるのか知らないが、これはチャンスだ。


「エリー!」

「任せて下さい! 〈ホーリーカーテン〉」


エリーが魔法を唱えると、光のカーテンが敵を覆う。

その光に包まれたアンデッド達は静かに動きを止めていく。


「やっぱりエリーの魔法は強いな」

「ええ。アンデッド相手なら私でも十分戦えそうです」


これならエリーも戦えるか。


「僕は少しだけ後ろからついて行くね」

「そういえばリッちゃんは聖魔法が苦手だったな。アタシ達が先行して削るから安心しな」


だが勇者ちゃんが囮になってくれたとはいえ、敵の数が多い。

魔王のところまで行くのに体力を削られそうだ。


とはいえ勇者ちゃんの所に敵が寄ってる今がチャンスだな。

エリーが道を切り開いて、突撃する。


アタシは周りの敵が近づけないように、周囲の地面を柔らかくして沈ませてやる。

よし、派手に転んでくれたようだな。


リッちゃんはエリーの聖魔法を受けないように、少し後ろからついてきている。

よし、このまま魔王とファウストのところまで――。


「油断したな! 今だ!」

「うわわっ!」

「ご主人様!」

「リッちゃん!」


黒い霧がリッちゃんを捕らえると、霧は人間のような姿に変化する。

……こいつ、吸血鬼か。まだいたんだな。

ゾンビ共に隠れて襲いかかるとは趣味の悪い野郎だ。


「リッちゃん、すぐに助けるぜ」


リッちゃんの方に助けに行こうとするが邪魔をしようとアンデッド達が立ちはだかる。

敵が多すぎるぞ、厄介だ。

吸血鬼達はリッちゃんを連れたまま少しずつ離れていくこうとする。


こいつら、アタシを焦らせようって算段か!

ちっ、雑魚にかまってる暇はねえ。何か手を――。


「放て!」


その時だ。

掛け声と共に暗闇から矢の雨が降り注いでくる。

放たれた矢はリッちゃんを避けるようにして魔族達を貫いていった。

凄い精度だな。誰だ? 


「あらあら。私達の創造主たる方に対して失礼極まりませんことよ?」

「おまたせだね!」

「や、やってやるぜ!」


『森林浴』のちびっ子三人組が顔を出してきた。

……戦いに間に合ったんだな。

ナイスタイミングだぜ。


「おまたせしました。ドラクート領より魔族・人間の混合部隊、これより魔王軍との戦いに参加します」

「よろしゅう頼むぞ」


拡声魔法でアタシ達にむけて声をかけてくれたのは、見たことないおっさんと子供だ。

あれが噂に聞いていた領主とご先祖って奴か? まあ今はそれどころじゃないからいいや。

こっちも軽く挨拶を返しておく。


リッちゃんも取り返せたし、このタイミングでの援軍はデカい。


「マズい……真祖の一族だ……」

「くそっ、俺達では勝ち目が……」


そこで狼狽える程度に理性のある奴らが紛れてる吸血鬼達だな。

この邪魔なゾンビ共を切り捨てたら次はお前らの番だから覚悟しておけ。


「ええい! 何を腑抜けている! 魔王様の前で敵に背を見せられると思っているのか!」


魔王という単語に震える魔族達。

魔王を恐れたのか、魔族たちは改めてカリン達に向かっていく。

だが魔族達は別の部隊によって再び足止めされた。

見たことない部隊……、いやあれは……。


「残念、私達もいるよ!」

「久しぶりじゃん。俺達もカリン達と合流したじゃんよ」


おお、獣っ娘二人に……母リラもいるか。

アイツらもココへ来たんだな。

結構な数の獣人がいる。

これなら何とかなりそうだ。


その後も魔族たちは魔族っ娘の部隊を攻めるが、獣人達により阻まれ近づくこともできず、遠距離から魔法と弓の連続攻撃で次々に沈められていく。


アイツらが組むと強いな。

吸血鬼と獣人のコンビは相性が良い。


「マリー姉! こっちは任せるじゃんよ!」

「ええ! そうですわ! こちらは私達が引き受けます!」


魔族っ娘達が頼もしい言葉をかけてくれる。


「……よしっ! 任せたぞ! アタシ達はアイツをブチのめす!」



南は勇者ちゃんが囮になっている。

北側は魔族っ娘たちが来た。


後はアタシ達が雑魚を蹴散らして突撃するだけだ。

魔王を目掛けてひたすら突き進んでやるさ。



「ふむ……。そろそろか。行け」


ある程度近づいた所で魔王が静かに命令を出すと、ファウストが動く。

――速い!

だが、こっちを狙っている様子はない。

向かっているのは……エリーか!


「……〈ホーリーカーテン〉!」

「やらせねえよ! ファイアローズ!」


攻撃を仕掛けようとしたファウストにエリーが聖魔法を、アタシが炎をそれぞれ浴びせてやる。


アタシの炎は片手で払われてしまったが、エリーの魔法は刺さったようだ。

身体からわずかに白い煙がでて、動きが鈍る。


アタシはとっさに二本の刃を構えて斬りかかった。


「悪いが見惚れる相手を間違えてるぞ。お前が惚れたのは別の奴だろ?」


ファウストの喉と手首、両方に一撃ずつ叩き込む。


……硬い。

いきなり突撃されたから“練気”を使ってないとはいえ、薄っすらとしか傷がついていない。

急所でこれじゃあマトモに打ち合っても倒せる気がしねえ。


だがアタシが斬りかかった事でファウストは後ろに飛び退いた。

牽制程度にはなったようだな。


「エリーは聖魔法を連発して相手を鈍らせておいてくれ」

「分りました。しばらくそちらの支援はできませんので先に……〈守護〉、〈身体強化〉、〈幻影〉……」


エリーがいくつかの補助魔法をかけてくれた。

よしっ、これで削り倒せるか試してみるとするか。


「やはり揺れず……。あ奴らではないか。では何が……」


今は魔王の戯言に構っている暇はない。

ファウストが動いた今、警戒するのは前に使った攻撃魔法だ。

あれを喰らえばひとたまりもないからな。

万が一のカウンターも考えてファウストに距離を詰めていく。


何度か斬りつけるが、やはり硬い。


この防御力をなんとかしないとな。

エリーの魔法で動きを鈍らせていても、このままじゃ押し負けるぞ。


“練気”を刃に通してみるか……。


「マリー! 避けて!〈氷結陣〉」


リッちゃんが魔法を唱えると氷の粒が次々にファウストへ向かっていく。

その攻撃を見て、狼狽えたようにファウストは動きを止めた。


氷の粒がそのままファウストを固めていく。


「ファーちゃん覚えてる……? これはお仕置きする時によく使った魔法だよ」


ファウストは凍りついたまま動こうとしない。

身体を軽く霜が覆っておるだけで、動こうと思えば動けるはずだ。


一体何が……。


「ふむ、貴様だったか。余の人形の心をかき乱したのは」


魔王が動き、ファウストとリッちゃんの所にやってくる。


「一体どういう原理でこの人形に干渉している? いやいい。貴様ならこの人形の秘められた力を解放できよう」


魔王の奴、ファウストがやられているのにどこか嬉しそうだ。

だけどよ……。


「悪いがアタシの本命はお前なんでな! わざわざ近づいてくれてありがとよ!」


アタシは魔王に斬りかかる。

……が、二本とも刃を受け止められてしまった。


魔王の手にはいつの間にか杖が握られている。


「余に守りを取らせた事、見事である。此度の封印開放の役目は貴様では無かったとはいえ、その実力は誇るが良い」

「言われなくたってアタシは最高なんだよ!」


何度か斬りつけるが、杖捌きで見事に弾かれる。

コイツ、強いな。

魔王を名乗るだけの事はある。

だけどよ――。


「むっ? 地面が緩く……?」

「ドロドロは嫌いか? 貰うぜ!」


斬りつけるながら地面を柔らかくしたのに気が付かなかったな?

こういう所で実践経験の差が出るんだ。


そのまま首を切り落としてや……。

なんだ?

なにかに掴まれたように、足が引っ張られる。

いや、実際に足首を掴まれていた。


「なんだっ! このゾンビ、邪魔だ!」

「策を練っていたのが貴様だけだと思っていたか? 愚か者め。【死者よ爆ぜろ】〈デッド・ボム〉」


魔王が呪文を唱えると、足首を掴んでいるゾンビの身体が膨れ上がる。


マズい、爆発するのか!?

アタシはゾンビの手首を切ると、地面の土を盛り上げて膨れ上がったゾンビを空中に吹き飛ばす。

少し遅れてゾンビは空中で爆発して、弾け飛んだ。


爆音が周囲を揺らす。


「あんなモン当たったらただじゃ済まねえぞ……」

「マリー、今援護に……。くっ」


こっちの方を見たエリーも少し慌てている。

今エリーは聖魔法を連発してファウストの動きを鈍らせている最中だ。

助けに来てほしいがファウストと両方に動かれる方がマズい。


「ふむ……。死人形よ。しばらくそこの女子供と戯れるがいい」


魔王が合図をすると、ファウストがリッちゃんの方に動き出す。

……作業を分担してくれたか。


「こっちは僕たちに任せて! エリーも魔王を!」

「はい! 【……光の衣は鎖を断ち切らん】〈ホーリーカーテン〉」


エリーの魔法に覆われている限り、ゾンビの横槍が入る心配はなさそうだ。


魔王がターゲットを絞ったお陰でこっちもエリーを動かせる。

リッちゃんは最悪メイの防御があるからな。


リッちゃんがファウストと向き合っている。向こうは周囲のゾンビ達も手を出してくる様子は無いようだ。


完全に二人とファウストを戦わせるって訳か。


「さてマリーよ。見事である。封印が解けるまでの間、しばし遊んでやろう。〈変身〉」

「封印……だと?」


アタシの説明には答えず、〈変身〉を使用した魔王の姿が変わっていく。

といっても姿はそのままだ。

ただ、全身にタトゥーのような姿が刻まれていく。

見た目に変化はないが……。

厄介そうだな。

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