第132話 秘密兵器
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「……船?」
「ふぉっふぉっふぉ。これぞ王国の隠し玉よ。空中船じゃ」
上の船から声を送っていたらしい。
そのまんまの名前だな。
ペガサス隊が船の方に出入りしている。
……アレが補給場所か?
「今そちらに降りるからの。少し待っとれ」
船から光が差す。
その光を伝うように宰相のおっさんが降りてきた。
船に乗ってたのか。
「どうじゃ? 風魔法により安全かつ、ゆっくりと高所から人を降ろすことができる機能じゃ」
「うわっ! 凄い! 周りの風の影響を無視して降りられるなんて! おっきな建物とかにも使えそうだね!」
リッちゃんが食いついてきた。
悪いが今それどころじゃないから技術的な話は今度な。
「あの船はなんだ?」
「先程も言ったとおり空中船じゃ。ペガサス騎士団を乗せて飛んで来たのがその船じゃ。もちろん武器の補給やペガサス隊の休憩場も兼ねておる。今回は先日手に入れた食料を不要にするスキル持ちと併せて荷物の削減ができたからの、大量の爆薬と武器を積んでおるわ」
船が空中の補給基地って訳か。
ペガサス隊はアレのお陰で継続して攻撃できる、と。
「船から直接攻撃はしないのか?」
「どうしても船の動力や浮力の材料と干渉してしまってのう。まだまだ試作段階じゃな」
宰相のオッサンが軽く構造を説明してくれた。
浮力は風魔法のほか、ダンジョンから取れたガスを使用し、船の上部に風船のように取り付ける事で賄っているらしい。
ただしガスはほっとくと勝手に抜けていくらしく、管理が難しい上に量産もできないとか。
「かつては爵位持ちの悪魔一体で国を落とすと呼ばれた。だがこの兵器を見よ。空から一方的に攻撃出来るという機能! かつて特殊なスキル持ちか優れた風魔法使いにしか出来なかった事が出来るようになった今、相性次第では爵位持ちすら倒せる!」
うん、興奮してめちゃくちゃ早口になってるな。
秘蔵の兵器を自慢できるのは嬉しいんだろうが少し落ち着け。
「人間は進歩する! 今は悪魔に叶わなくとも、代々継承するその知識と技術でいずれ悪魔すら倒せるようにしてみせるわ!」
「……火力を人間同士のいざこざに向けないようにな」
宰相のおっさんのテンションがマックスな状態で演説を終える。
「やっぱり宰相さんは立派だねえ。ぼくも負けてられないや」
リッちゃんが感動して目をキラキラさせてるが、間違ってもあんなモンを世の中に広めるんじゃないぞ。
作ってもこっそり眺めて楽しむだけにしとけ。
やがて冒険者達も来て、ペガサス隊に加勢する。
地上はもう魔族は大方倒され、人間達の方が多いくらいだ。
……勝負はあったかな。
「ここでダメ押しじゃ」
宰相のオッサンが後ろの空を指差すと、更に遠くから空中輸送船がこちらへ向かってきていた。
まだ輸送船があんのか。
数があれば王都と往復できるだろうし、補給が安定するのはかなり強いな。
「ふははは! 見たかリッチ・ホワイト! これが人類の叡智! 人類の力じゃ!」
「うん! 本当に凄いね!」
悪役みたいなセリフを吐く宰相のオッサンのセリフにリッちゃんの目がキラキラしている。
宰相のおっさんは牽制のつもりで言ったのかもしれないが、リッちゃんには逆効果だと思うぞ。
……近いうちに市中に謎の発明が出回る気がする。
「だがこれで勝利か。あっけな――」
その時、凄まじい威圧感がアタシ達を襲う。
この感覚は前にも来た。
魔王だな。
「おい! オッサン! 魔王が近くに来ているぞ!」
「な、なに!? 何を言っておる? 諜報部隊からそんな連絡を受けておらんぞ?」
いや間違いない。
その証拠に一部の冒険者達も敵を深追いするのをやめて警戒態勢に入っている。
かなり近くにいるな。
どこだ?
周りにはいない。
空もペガサスが飛んで……いや違う。
「空を見ろ! 遥か上だ!」
ペガサス隊よりはるか上空からそいつは降りてきた。
急降下する途中、近くにいたペガサス達に炎を吐き散らす。
激しく燃え上がる音と共に、空が明るくなる。
同時に、十数体のペガサス達がが燃え上がり落ちていった。
落ちていくペガサス隊と共に、ソイツはやってくる。
「我に気がつくとは冒険者というのは勘が鋭いものだな。見事である」
魔王デルラ。
トップが直接お目見えとはな。
複数の冒険者から魔法が飛ぶが、魔王はそれを意にも介さず弾いて見せる。
「久しぶりだな? もう決着はついたし、来なくても良かったんだぜ? 魔王さんよ」
「貴様はマリーか。余の記憶の片隅に残っている事を誇るがいい。これで此度の侵攻の目的は達成されたようなものだ」
何を言ってやがる。
もう戦いは失敗に終わってるだろうが。
攻撃を仕掛けたいが、相変わらず背中に棺桶のようなものを背負ってやがる。
初代魔王ファウストが中に居るんだろう。
下手に攻撃を加えてファウストを起こしたくない。
「貴様らの働き、矮小なる人間にしては見事である。褒めて使わそう」
「馬鹿にしてんのか?」
パチパチと手を叩く魔王。
その姿が癪に障る。
強者の余裕だとでも言うつもりか?
そこで宰相のオッサンが前に出た。
「お前一人が来たところで儂らの勝ちはもはや揺るがぬ、投降せよ」
「ふむ。本当に勝ちが揺るがぬか、試してみよう。【黄泉の供物は捧げられ、失われし命は宵闇より与えられる――」
なんだあの魔法は?
背中にゾクリと悪寒が走る。
これは……ヤバい!
「皆! 攻撃しろ!」
誰が言ったのか分からないその掛け声に、アタシは、いやアタシ達を含めた冒険者と兵士たちが同時に攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃は全て防がれ、近づいた何人かは遠くへ弾き飛ばされた。
棺桶から飛び出した初代魔王、ファウストによって。
「ファーちゃん!」
「――屍は戦士の豊穣。仮初の命によりて再び芽吹き立ち上がれ】〈ハーヴェスト〉」
死んだ兵士や魔族達の身体が黒く染まっていく。
……呪文が発動しちまったか。
「オ……アァ……」
「や、やべぇぞ! 死んだ奴らが蘇ってきやがった!」
「おい! 敵も味方もゾンビやスケルトンになってんぞ!」
さっきまで倒れていたの敵や味方が次々と復活していく。
だが、そいつ等から知性を感じない。
おいおい、まさか……。死んだ奴らがアンデッド化してるのか?
見える範囲全部……いや、敵味方を含めたすべての範囲で?
「くっ、意外と強いぞ!」
「気をつけろ! コイツら呪われてる! 攻撃で死ぬとゾンビになるぞ!」
アンデッド達の攻撃は単調だが、リミッターが外れて一撃の威力が上がっているな。
更にこのアンデッド共は首を刎ねられても平然と襲いかかってくる。
四肢をバラバラにするしか無力化する方法がねえ。
「さあ人間たちよ。ここからが余の戦である。頭を垂れるならば安らかな死を与えよう」
ふざけやがって。
だが、このままじゃジリ貧だ。
人間と魔族にアンデッドが入り混じった状態で乱戦状態なのもまずい。
多分だが街の方に運ばれた奴らの中にもアンデッド化した奴がいるはずだ。
「さて……マリーよ。先日の借りを返したいところだが、今は羽虫を払うほうが先のようだ。しばし待つがいい」
「何を――」
言い終える前に魔王はドラゴンを操り大きく飛翔する。
魔王はペガサス達に狙いを定めると、炎を吹きかけて次々とペガサス隊を落としていく。
「あ、あぁ……。我が国の精鋭達が……。いかん、後退じゃ、後退させよ!」
通信の魔導具を経由して、ペガサス隊に支持を送っているようだ。
珍しく宰相のおっさんがうろたえている。
無理もないか。
基本的にペガサス隊の装備は対地攻撃がメインだ。
空を飛ぶ敵にも弓と魔法で攻撃は出来るが、ドラゴン相手じゃそんなものかすり傷にもならないからな。
ただの動く的でしかない。
逃げているペガサス隊に向かって、ファウストが手を構える。
「おい、まさか……」
「危ない!」
前に開拓村で見せたのと同様に魔力を撃ち出し、ペガサス隊を攻撃した。
その威力は空気を震わせ、ペガサス隊を飲み込んでいく。
攻撃が終わると、ペガサス隊はほとんどが消滅していた。
「相変わらず凄まじい威力だな。だが……」
「うん。前より少し威力が落ちてるね。攻撃範囲も狭くなってるし、傷は完全には治っていないんだと思う」
リッちゃんが気になってるところを教えてくれる。
やっぱりか。
次に、ファウストがこちらを向く。
――来るか。
「今はまだだ。向こうのがらくたを狙え」
魔王の命令で攻撃の向きを変える。
ファウストが次に狙ったのは空を飛ぶ輸送船の方だ。
先ほどと同じく魔力の波がファウストから撃たれ、船が燃え上がった。




