第124話 宿敵との再会
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夜になり、アタシ達はリッちゃんの魔法で再び敵陣近くの森に転移する。
味方の陣地も近い。
アタシ達は今回、リッちゃんと一緒にそのまま暴れて味方の陣地まで一気に帰宅する。
激しく移動するからメイは味方の陣地で待機だ。
「まさか……。……が……ちらに……?」
「明日攻めて……落とさねば……我ら……逆に……れてしまうぞ」
「どうして私がこんな所に飛ばされて……」
割と近くまで敵が来ているな。
色々と雑談で騒がしいようだ。
コッソリ叩き潰して突撃だな。
ん? なんか踏んづけたぞ?
「っ! 誰だ?」
「おっ、すまねえな。暗闇で見えな……ん?」
うっかり誰かを蹴飛ばしてしまったようだ。
暗くて見えなかったが……。
こんな所にいるのは誰だ?
「……いや構わない。所詮は副隊長を外された身……。私など……。ん、……こ、この気配はっ! 貴様はあの時の女か!」
騒ぎ立てながら立ち上がってくると、その巨体がうっすらと星明りに照らされる。
前の首なし騎士じゃねえか。
「お前、昨日はもっと奥に居ただろ? なんでこんなとこにいるんだ?」
「貴様のせいだ! 貴様を取り逃がしたばっかりに……このような敵も味方もいない所で警備をする羽目になったのだ!」
おいおい、勝手にアタシ達のせいにするなよ。
アタシ達がナニを……。あー……うん、同士討ちするように仕掛けたわ。
リッちゃんがまた悪い事を……みたいな顔をしているが誤解だ。
説明はあとでエリーにしてもらおう。
「その説は助かったぜ。ありがとな。ついでだしコッチに寝返るか?」
「おのれ! 貴様を倒し! 副隊長に返り咲く!」
いやもう手遅れだと思うぞ?
暴走して暴れまわる奴が副隊長になれるとは思えない。
「私は不死身の騎士ギヌ! 尋常に勝負!」
「いや、悪いけど戦争中なんでな。また今度な」
いちいち名乗りを上げてるトコ悪いがアホの子は間に合ってるんだ。
……アタシの代わりに戦闘狂を紹介した方がいいだろうか。
一人でオーガを倒すチームのリーダーなんだが。
「えっと、〈幻想幻惑〉」
「何っ!? くそっ、二度も三度も同じ手にかかると……ウオオオオォッ!」
エリーが幻覚魔法をかけたが必死で抵抗しているようだ。
しかしやかましい奴だ。
コイツと一緒にいると他の奴らに見つかるぞ。
さっさと奇襲を仕掛けたほうが良いかもしれない。
「ふ、フハハハハ! 完全に、完全に魔法を破ったぞ! 私は正気に戻った! 覚悟しろ!」
魔族が武器を向けて口上を垂れる。
……岩に向かって。
「あーはいはい。怖い怖い。タスケテー」
「ふん! 今更謝ってももう遅いぞ!」
「辺りにあるものが私達に見えるような魔法だったのですが……やりすぎたでしょうか?」
うん、大丈夫だ。
エリーはよく頑張ってる。
マズいのは目の前の岩に向かって話しかけてるアイツのほうだ。
さっさと無視して奇襲を……。
やべえ。魔族の奴らがコッチを見て騒いでる。
「人間だ! また奴らが来たぞ!」
「飛行隊と連携で囲め!」
……そりゃバレるよな、あんだけうるさけりゃ。
いきなり奇襲失敗したがしょうがない。
これからは敵のアイドルとして頑張るか。
「今はアツいサービス増量中だ。リッちゃん、頼む」
「任せて! 〈火球陣〉」
「魔法!? くそっ、仲間がいたのか!」
「くそっ、囲んで……ギャッ!」
「今はサービスタイムなんでな。アタシもしっかりサービスしてやるよ」
眼の前で騒いでるやつを一人一人刻み、時にはファイアローズで焼いていく。
どうだ?
今朝と同様に暴れられた気分は?
中々に厄介だろ?
「貴様ぁ! 舐めた真似をしてくれたなあああ!」
喧しい声が後ろから聞こえる。
さっきの首なし騎士じゃねーか。
もう幻覚が解けて……。
「貴様が本体か! それとも貴様か!」
「落ち着いて下さい元副隊長!」
「元って言うなあ!」
あ、大丈夫だ。
全然解けてない。むしろ敵をバンバン殴ってる。
「くそっ、幻覚を解くだけの攻撃を与えろ!」
「駄目だ駄目だ、その程度の攻撃が私に通じると思うなよ。この『硬身持チ』のスキルにはそうそう攻撃は通じんぞ!」
なんか防御系スキルを持ってるのか。
いや、それより兵士の発言のほうが気になった。
首なし騎士にダメージを与えようとするって事はエリーの魔法が攻撃で元に戻ることが見破られてるな……。
しかしアホ魔族の方は攻撃されても幻覚が解ける様子がない。
アイツと肉弾戦をしてたら結構厄介だったかもな。
「まあいいや。アイツはほっといてサッサと暴れまわって敵陣を抜けよう。リッちゃん、一発頼む」
「分かったよ!〈岩槍陣〉」
岩の槍が敵を吹き飛ばし道を作る。
サンキューリッちゃん。
アタシはリッちゃんやエリーに言い寄ってくる奴らの露払いだ。
「悪いがお触り禁止だぜ。リッちゃん、エリー、道を進むんだ!」
「クソっ、逃げられるぞ!」
「それよりアイツを止めろ!あの首なし馬鹿がまた暴れまわっているぞ!」
おっ、あの首なし騎士も結果的にアタシの支援をしてくれてるのか。
正気を失っているとはいえ助かるぜ。
サンキュー首なしの人……人?
まあいいや。
味方の陣地はもう眼の前だしな。
これで十分暴れ……、ん? 味方の方から誰か来るな。
援軍か。いやそれにしては一人だけやけに突出してるな……?。
「ふはははは、面白そうな事をしているらしいなマリー! 私達も混ぜるのだ!」
……ルビーだ。
お前昼も戦ってたのに元気だな。
悪いがアタシは魔族と戦うので忙しいんだ。勘弁してくれ。
「一応聞くが、なんでここに居るんだ?」
「我が肉体がマリーの居る方向を教えてくれたぞ! 危機を助けるのが仲間だからな!」
「別に困ってないし仲間でもないぞ」
「ふはは! 謙遜するな。我が筋肉が友だと語っている」
おいルビーの筋肉。
勝手に仲間認定するんじゃねえ。
つかこんな離れたところからアタシの存在を感知するとかどんだけだよ。
ルビーも怖いけど筋肉も怖い。
……良質なタンパク質とかで買収できないかな。
「おのれえええ! 本体はどれだあああ!」
くそっ、混乱してる間にポンコツ魔族が攻めて来やがった。
もうすぐこっちに到達するぞ。前門の筋肉、後門のポンコツとかどうすんだよ。
……そうだ!
「おいルビー! アイツが一騎打ちをしたいんだとよ!」
「何っ!? よろしい、受けて立とう! 私はルビー! 最強を目指し戦うもの、参る!」
よしっ、ルビーがブッ叩いたお陰で動きを止めた!
「うぐっ、……はっ、ここは!?」
「どうした! 一騎打ちの最中に余所見をするとは余裕だな?」
「な、何だお前は……ええい! まずはお前からだ!」
目には目を、パワーには馬鹿をぶつける事に成功したな。
だがルビーが馬鹿力で叩いたせいか魔法が解けたようだ。
まあアタシ抜きで勝手に戦いが始まったからいいか。
頑張れよ、首なし魔族。
理想は相討ちだがギリギリ勝っても良いぞ。
「〈守護〉……さあマリー、味方と合流しましょうか」
「ああ、これ以上はアタシ達の手に余るからな」
アイツは放って置いて、他に援軍に来てくれた兵士や冒険者と連携しながら周囲の魔族をブッ叩くか。
しばらく魔族を倒しながら戦っていると、少しずつ戦いの流れが変わり始める。
攻めていた魔族が引き始め、味方も深追いをしなくなっていく。
「流石に敵も疲れたか。また少し睨み合いになりそうだな……ん?」
なんか二人だけ未だに残って戦い続けてる奴がいるな。
「うおおっ! 私こそ至高の戦士だ!」
「何を! 私こそ究極の戦士は私だ!」
……まだ戦ってんのか。
お前ら戦士の代表ヅラしてるが他の戦士達に失礼だろ。謝れ。
他の魔族も二人を放置してるし、あの首なし魔族も問題児扱いなんだろうな。
まあいいや。ほっといて帰ろう。
勝手に相討ちしてくれ。
アタシ達が本拠地に戻ってから、しばらくするとルビーも戻ってきた。
「おう、戻ってきたって事は勝ったんだな?」
「ふふふ。今回は残念だが引き分けだ。良い戦いだったぞ!」
「そうか……。残念だぜ、いや本当に……」
「ふふ、分かってくれるか。流石は心の友だ。しかし次こそは私が勝つ!」
せめてどっちか片方が倒れてくれればよかったのに。
引き分けとかどっちも生き残ってる最悪の選択肢じゃねえか。
「姉ちゃん! どこ行ってたんよ? 探したんよ?」
「うむ! マリーがピンチだと思ってな、助けに行ったら新しき友と意気投合して語り合ってた所だ」
サファイがこっちを見ていくる。
ピンチではなかったが助けにはなった。
敵と筋肉で語り合ってたし、嘘は言っていないぞ。軽く頷いておこう。
「無事だったなら良いんよ。次は行く前に一言欲しいんよ」
「ああ、姉ちゃんに任せるのだ! 次こそはこの腕で勝利をもぎ取ろうではないか」
「対話じゃないん!?」
サファイはまだまだだな。
何年妹をやってるんだ。
ソイツはコミュニケーションに暴力が含まれてる野蛮な奴だぞ。
「やれやれ。アタシ達みたいに愛と正義で動けば良いのにな」
「マリー……。正義って単語の意味、この千年で変わったのかな?」
リッちゃんは分かってないな。
「愛ってのはエリー、正義ってのはアタシの事だ。つまりアタシのやる事は全て正しい」
「うん、ありがとう。こんな戦場だとそういう傲慢さは必要だもんね……しょうがないよ」
リッちゃんの目が生暖かい。
なんだよ、七割くらいしか本気じゃないのに酷い。
悲しいから後でエリーに頭を撫でてもらおう。




