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第115話 戦いに向けて

8-115-133


翌日。

昨日帰ってこなかったポン子が朝になって帰って来た。

朝帰りとは困ったやつだな。

男がいない事は分かってるからどうせ一人で飲み歩いて来たんだろ。


「皆さん大変です!」

「朝からどうしたポン子? 飯はメイが作るからお前は黒い塊の錬金術士になる必要はないぞ?」

「違います! 前のあれは成功に向かう長い道のりの途中……、そんな事より大変なんです! 隣の男爵領に大量の魔族が出現しました! 今も増えているそうです!」

「何っ!?」

「さらに辺境伯領地も同時攻撃! 辺境伯領地で展開していた王国の対魔族部隊は釘付けになっているそうです!」


やべえ。

予想してたより動くのが早い。

昨日話してた内容の大半が白紙になった。


「魔王軍か……?」

「そうかも知れませんが、取り急ぎ王国宰相様と会談を行うので、ギルド本部まで来てほしいとのことです」

「分かった。とりあえずおやっさんに会いに行くぞ」

「それでは私は館で皆さんをお待ちして……」

「いや、緊急事態なんだからお前も来い」


ポン子の奴、この状況でサボろうとするとは何考えてんだ。


リッちゃんとエリーに準備を促してギルドへ移動する。

メイはどこかに緊急で連絡するらしく、館で待機するそうだ。


いま、アタシとエリー、リッちゃんの三人はギルドの二階にいる。

ポン子はここにはいない。

襲撃でギルドが騒がしくなってるからな。

雑務で猫の手も借りたい状態だったようなので返却した。


「入るぜ」


部屋の中にはおやっさんとギルドマスターが一緒にいる。


「来たか。……通信を始めるぞ」


おやっさんが手元の道具を弄ると空間に半透明のおっさんが浮き上がってきた。


このおっさんはロリコン宰相か。

……いや、これは実体じゃないな。映像か。


「久しぶりじゃのう。ワシの事を覚えておるか?」

「ロリコ……。宰相のおっさんじゃねえか。ついに死ぬのか? 良かったな天国に行けて」

「まだ死んでおらんわ!」

「そっか、天国は出入り禁止食らったのか。わがまま言わずに早く地獄に行ったほうがいいぞ」


悪いがお化けになってもウチに就職先はないからな。

館に来たいとか言われても困る。


「ええい、違うわ! ……話が進まんから続けるぞ。これは映像を転送する通信魔導具じゃ。色々と不具合も多くて市販はしておらんがの」


王国の研究技術ってやつか。

何気に凄いことができるようになってるな。


「状況を聞かせてくれ。魔族の奴らはあれか? 辺境伯のトコを挟み撃ちにする気か?」

「いや、それは無いじゃろう。バレッタ伯爵領地で魔族が展開するならともかく男爵領では場所が離れすぎておる」

「じゃあなんで男爵領なんかに出てきたんだ? 中途半端だろ?」


宰相のおっさん上を見上げ、ふむ……と小さく考えるような仕草をする。


「男爵領に魔族が展開する少し前、数体の魔族が王都の転移門より転移しているのを確認した」


転移門ってアタシ達が辺境伯領地に飛ぶのに使った奴だよな?

確かにリッちゃんが誰でも使えるとか言ってたが……。


「って事は転移門を利用されたって事か?」

「であろうな。本来なら一気に王都まで転移して軍を展開する予定じゃったんじゃろう。その可能性を考慮して我々は報告を受けた直後に王国にある転移装置を破壊し移動を不可能とした」


だいぶもったいなかったのうと宰相が呟いているがそれどころじゃない。


「どうして見つかったかわかるか?」

「諜報で見つけたか、あるいはネクロマンシーの秘術でファウストから聞き出したんじゃろう。アレは難しい条件を満たせば死者からも情報を引き出せるからの」


そんな技があるのか。

だとするとリッちゃんとかの情報も漏れてるか?


「僕知ってるよ。でもそのレベルまで熟練するのはオススメしないかな。最低でも万単位の死体と会話しなくちゃいけないし、普通は記憶が直接流れ込むから心が持たないよ」


ロリコン宰相の説明をリッちゃんが補足してくれる。

他にも体が残っている事とか色々と細かい条件があるみたいだが、とりあえず達成が難しいのは分かった。


王国では難易度もそうだが死者から記憶を読み取られるのは政治的にも良くないらしく、ネクロマンサーの秘術を徹底して封じているらしい。


犠牲の大きさからもすぐに諜報員の目に止まるそうだ。

便利だが敵にも味方にも極悪な術だな。


「魔王デルラ……今代における魔王の名前じゃな。そやつが前に砦へ攻めてきたのを踏まえて軍を再編したが、その際にどこかに穴が出来たのじゃろう。うまく見張りをすり抜け、マリーが出会ったというスキル持ちにより大量に軍を運んだと考えている」


秘匿するために遠くから少数の見張りしか置かなかったのが裏目に出たのう、と宰相が呟いている。

あの超魔法の余波で砦が一気にガタガタになったからな。

人手が不足して一時的に逸れてても不思議じゃないが……。


アイツがファウストを使って食らわせた一撃がここまで響くとはな。


「儂も過ぎたことをどうこう言うつもりはない。大事なのは今、そしてこれからじゃ。本題に戻すぞい」


分かりました、と頷くギルドマスターとおやっさん。

これからの対応をどうするのか聞かせて貰うぜ。


「王都へ向かう魔族達じゃが、おそらくお主らのいる場所……ドゥーケット子爵領の中心街であるファスの街を通過するであろう」


宰相のおっさんが地形図のようなものを見せて説明してくる。

通り道とか最悪だ。直撃するじゃねえか。


「それに伴い各ギルドに依頼する。依頼料はギルドに対して万札……金貨百万枚相当を前金として、更には成果次第で報酬の上乗せを保証する。本件はドゥーケット子爵にはすでに伝達済みである」

「……念のため詳細をお伺いしても?」


ギルドマスターが恐る恐る質問している。

こういったギルド絡みの事はギルドマスターに任せるに限るな。


「王国の主力部隊が到着するまでの防衛および魔族への反撃。現在も周辺領地に招集をかけている。今回の返答を踏まえて各地の冒険者ギルドにも正式に通達をだす」

「……分かりました。受けましょう」


ギルドマスターがあっさりと受けた。

魔族が目の前から来るなら交渉の余地なんてないが……とんでもねえ依頼が来やがったな。


「うむ。頼んだぞ。それでは儂も軍の手配に移る。時間稼ぎとして近隣から兵力を結集させている故、しばし待て。今回は王国のすべての力を使い子爵領地で止めてみせよう。頼んだぞ」


宰相のおっさんは依頼を伝え終えると、通信を切断したのか姿が消えていく。

……とんでもない状況だな。


ふと見るとギルドマスターがこちらを見てため息をついている。


「フヒヒ……嫌な交渉でした」

「やっぱ国相手だと緊張するか?」

「マリーさん。フヒッ、卑しい私めに声をかけていただきありがとうございます。緊張はしますが慣れていますので」


お、いつものギルドマスターだこれ。

やっぱりこうじゃなくちゃな。


「フヒッ、もしも断れば王国は子爵領を見捨てて次の領地で防衛線を構築したでしょう。子爵は倹約のため守りに特化した兵のみしか保持しておらず、攻める力をほぼ持ちませんから」

「なんじゃそら」


領主なのに戦う力がないとか。

ケチか。


冒険者の待遇が他と比べても良かったからココに住んでたが……。

いや、攻撃力が無いからこそ逆に冒険者の待遇がいいのか。


立地的にも盗賊くらいしか組織だった敵がいないし、国としても兵を持たない方が都合良かったから放置してたんだろうな。


イレギュラーな一部の仕事をアタシ達冒険者が請け負ってたってわけか。


「……ただ踏み潰されるか、金貰って踏みとどまるが選べるだけでもマシだろう」

「フヒッ、王国としても踏みとどまってくれたほうが助かるのでしょうかね」


おやっさんが小さくボヤいて、それにギルドマスターが反応する。


説明を聞くと王国側も国内に禍根を残さない事を考えているらしい。


どの道ここは魔族に蹂躙される。

仮に見捨てると、王国への不信が長く残る可能性が高い。

ただ踏み潰されるより、依頼して金を払い戦ってくれた方が、それぞれ関係の悪化を防ぐ事ができて、かつ領地の人間にも言い分が立つと言う事らしい。


互いの信用を損なわないために依頼して、互いが内情を察した上でギルドマスターも受けたと。


貴族ってのは面倒だな。

……今度ギルドマスターにエリー特製のクッキーでも差し入れてやろう


「結局それでアタシ達はどうすれば良いんだ?」

「これから緊急依頼を出す。動ける奴らは町の防衛にあたるぞ」

「フヒッ……他所の領地にあるギルドへは私が連絡して助力を仰ぎましょう」


大事になってきやがったな。


「フヒッ……。よろしければマリーさんたちも今回の依頼に参加していただきたいのですが……」

「もちろん参加するぜ。安心しな」

「え!? マリー、変な物でも食べたの? いつもなら悪いけど調子が……って言って断ると思ったのに」


リッちゃんがなんか言ってきた。

まったく。リッちゃんは分かってないな。


「アタシ達の館も襲われる可能性があるんだぞ? 全力で防衛しないとせっかく買った館が灰になっちまう。アタシはアタシとアタシの手が届く範囲を守り切るだけだ」

「あ、良かった。いつものマリーだった」


まったく。アタシはいつだってアタシだ。

変わらねーよ。


詳細は追って連絡するとの事なので、アタシ達はいつもの店で道具をそろえてから館に戻る。


館に戻るとやっと一息つく。

アタシ達はメイの入れてくれた暖かい紅茶にミルクを足して飲んでいる。


「大変なことになってきましたね」

「ああ、もしエリーが……いや、なんでもない。アタシについて来てくれるか?」

「もちろんですよ。マリーと私はいつだって一緒です」


ああ。知っている。

エリーに安全な所にいて欲しいなんて言うのはアタシのエゴだからな。

そんなもの、エリーが受け入れないのは知っているさ。


だからいつまでも一緒に居たいっていうエゴの方を押し通すぜ。

これで8部終了となります。

次回は1~2週間後の金曜日から投稿予定です。

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