第114話 合流、帰還
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アタシ達は獣人達に別れをつげ、リッちゃんと落ち合う予定の所まで来た。
獣っ娘二人は予定通り置いていった。
久々の故郷だしゆっくり休めばいい。
「リッちゃん遅いな……」
「のんびり待ちましょう。はい、あーん」
「あーん。……獣人の里の肉は美味いな」
のんびりとは言ってもな。
いつ来るか分からない状況だとエリーと落ち着いてイチャイチャもしてられないからな。
もうすぐ着くと連絡があってからニ時間ぐらい経過してるぞ?
アタシは大きくアクビをする。
「眠くなってきましたか? リッちゃんが来たら起こしますよ」
「気持ちはありがたいがエリーだけ起きてるのもなあ」
とりあえずエリーに軽くもたれかかりなが髪を撫でる。
すべすべして気持ちいい。
「噂をしていたら来たようですね」
「本当だ。……ヤケに荷物が多いな」
なんで馬車が増えてるんだ……。
荷馬車だろ、アレ?
後ろに積んでるのは……。チーズにケーキ……。 食べ物がメインか?
「おまたせー」
「ずいぶんな大荷物だな」
「それがね、領主さん達が是非お土産にってくれたんだよ。馬車も貸してくれるんだって」
「いや空間魔法で放り込めば良かったじゃねえか」
そう言うと、リッちゃんはなるほどと言うようにポンと手をつく。
「確かに。そうすれば良かったや。うっかりしてたよ」
「勢いに乗せられて半ば無理やり押し付けられた形になってましたからね……。失念していました」
メイも元気そうだ。
「ところでそっちはどうだった?」
「オッケーだよ! 確かね、いい機会だから魔族としての市民権を得たい……だったかな?」
「結果は大事だけど結果だけ言われても分からないな。もっと丁寧に頼む」
アタシの質問にはメイが補足してくれる。
当主は吸血鬼で町を治めていた事。
エルフはその庇護のもと森に隠れ住んでいた事。
元々今回の件では人間のフリをして参加予定だった事。
始祖と呼ばれる吸血鬼がいた事。
その吸血鬼をリッちゃんが起こした事などだ。
結果として一族の創造主であるリッちゃんのお願いに逆らう気はないらしい。
領主としても今回を機に魔族としての地位を確立させておく事で後顧の憂いを断つのが目的だそうだ。
確かに今回戦いに参加しなかったら魔族として潜伏してるという扱いにされてもおかしくないな。
下手をすれば討伐対象だ。
きっちり利害が一致してるのは喜ばしいが……貴族の世界ってのはめんどくさいな。
「――と言う訳で万事つつがなく終了しました」
「へっへーん。バッチリこなしてきたよ! 凄いでしょ!」
リッちゃんが得意げに語っているが政治的な意図も考えたら極論、吸血鬼娘とエルフ娘の二人がいれば誰でも良かった気がするぞ。
「あれ? そういえばちびっ子三人はどうした?」
「『森林浴』の三人でしたら、カリンをそれぞれの両親に紹介するということで滞在するとのことでした」
「て事は……また戦いの時に会う形になるのか?」
「そうですね。領主の方々はあまり戦場へは出したくないみたいでしたが……本人たちの強い希望を止めるのは無理でしょう」
まあ何気にアイツら戦いは慣れてるし、カリンのスキルは優秀だからな。
無茶をし過ぎなければ大丈夫だろう。
「て事は、久々にこの面子だけか」
「最近は賑やかでしたから、急に人が減ると寂しく感じますね」
エリーが少し寂しそうに言う。
なーに、どうせすぐに戻ってくるさ。
たまには少ないのも良いもんだ。
「さあ! アタシ達の館へ帰ろうぜ」
リッちゃんが設置した転移門をくぐり、館へと戻る。
そこにはポン子がいた。
……簀巻きにされて吊るされている。
「あ、皆さんお帰りなさい! あと下ろして下さい!」
「何やってるんだお前? そう言う特殊なプレイを館の前でやるのはちょっと……」
「違います! 私はそう言う方向の変態じゃありません!」
「変態の自覚はあるんだな。まさか……首吊りか!? 悪いが死ぬなら他所でやってくれ。迷惑だ」
「少しは心配してください! 良いんですか? 私が死んだらこの館は事故物件ですよ!? 化けて出ますよ?」
面倒くさい奴だ。
もうウチにはオバケ達がいるんだよ。
化けてる暇があったらさっさと地獄へ行け。
「で、なんで吊るされてるんだ? どんな悪い事をした?」
「悪い事なんてしてません! ちょっと王都から出前を頼んだだけです!」
「ん? 別に普通……ちょっと待て。お前その金はどっから出した?」
「その……今は手持ちが無かったのでツケにしました……てへっ」
ほうほう。ツケね。
ツケるにしたってポン子の名前じゃ無理だろ。
ギルドも多分お断りだ。
じゃあどこにツケを回した?
「そうか……、それならしょうがないな。人の金で食べる飯は美味しかったか?」
「美味しかったですよ! 毎日届くので明日が楽しみです」
「自白したな。アイビーフリーズ」
「いたたた! く、苦しいですよマリーさん!? こういうプレイは夜にこっそりと……痛たたた!」
アホな事を言ってるがエリーが誤解したらどうするんだ。
とりあえず氷の蔦で思いっきり締め上げておくか。
「一応確認だ。この館に注文して、請求はドコに行くんだ?」
「それはその……マリーさんのところに……イタタタっ締め付け厳しいですよ! もっと労って下さい!」
「サンダーローズ」
「あびゃあああん!」
雇い人の金で飲み食いしてんだ。
十分悪い事じやねーか。
エリーが近くにいたオバケに事情を聞いている。
「ふむふむ……。どうやらお尻を叩いてもだんだん効かなくなってきたようです。それで仕方なく吊るしていたみたいですね」
効かなくなるくらいとかどんだけやらかしてるんだ。
本当に目を話すとすぐやらかしやがる。
……リッちゃんも元気になったし、そろそろ返品だな。
「あ、そうだ!」
「ん? どうしたリッちゃん? 万が一良くなる可能性にかけて頭を叩きたくなったのか? 良いぞ、好きなだけ叩いても」
「違うよ! ポン子さん、はいこれ。お土産のミルクバタークッキーだよ」
リッちゃんは身長くらいの大きさの箱を空間から取り出すと、ドンと置く。
おいおい、買い込みすぎだろ。
卸業者か。
こんなに貰ったって食えるわけない。
「ああ……リッちゃん、ありがとうございます。これ転売すると高く売れるんですよ。これだけあればいくら儲かる事か……」
「お前の食事、今日からこのクッキーな」
何サラッと人のお土産を転売して儲けようとしてるんだコイツは。
そういうセコい事やってるから今があるってのが分からないのか。
ギャーギャー喚いているポン子を黙らせると、アタシは手紙を渡す。
「アタシ達が戻って来たんだからギルドに報告してくれ」
「うう……。私のお金があ……。もう怒りました! ストライキです!」
「ほらよ。クッキーひと箱だ。売っていいぞ」
「頑張って行ってきます!」
よしよし、ポン子の扱いにも慣れてきた気がする。
出かける前にポン子はアタシに手紙を渡してきた。
「手紙で思い出しました。これがギルド……を経由した王国からの手紙です。戻ってきたら渡すようにとの事でした」
「おう、ポン子もたまにはマトモな仕事をするじゃねーか」
「いつも安心安全に地道な仕事をしてますよ! それではギルドまで行ってきます」
「もうツッコまないからさっさと行ってこい」
ポン子が居なくなったあと、貰った手紙を開ける。
ん? 開けにくいな?
……これは、魔法か?
リッちゃんがその魔法を見て呟く。
「本人以外は開けないようにする魔法だね。無理矢理開くと燃えちゃうかも」
「つまりこの中に重要機密が入ってるって事か。……読んでみるぜ」
内容は……次の戦いにおける配置やらなんやらだな。
宰相は王都の主力部隊を動かすらしい。
ただ重要な箇所はボカされている。
書かれているのは傭兵団と冒険者のおおまかな位置とアタシ達の初期配置だけだ。
「おやっさんからは近いうちに連絡があるとして……これからの事だ」
アタシ達はもうすぐの戦いに備えて、色々と準備を進める必要があるな。
打ち合わせをしておくか。
「とは言っても手紙を見る限りメインとなる戦いは王国の主力部隊だろうな。正面からぶつかるのはソイツらで、アタシ達冒険者や傭兵は奇襲・遊撃部隊として戦わせるみたいだな」
まあ傭兵団はある程度連携慣れしてるからともかく、少数での戦いが中心の冒険者を戦略に組み込むのはリスクがあるからな。
それよりはメインの戦場から少し離れた所で好き勝手暴れてくれたほうがいいか。
こっちもそのほうが気楽でいい。
「予定は……来月から配置について欲しいみたいだな。アタシ達はそれまで訓練と道具の整理、足りなければ買い足しだな」
王国も偵察を放って色々調べてるらしいがどうやら魔族側も同じらしく、雑魚を何人か捕まえたがたいした情報も無かったとの事だ。
だがくるべき時に備えて、事前に用意しておこうという訳か。
裏では諜報合戦が行われているようだな。
「あれ? ここって僕について書かれてる?」
「ん? ……そうだな。リッちゃん宛の依頼だな。転移門を設置した奇襲と補給線構築か」
「んー。転移門はたくさんの人が通れるちゃんとした奴だと準備に一週間くらいかかるんだよねえ。簡易的な奴ならもっと早く作れるけど沢山の人が動くのは無理かな」
なんか色々と面倒くさそうだな。
とりあえず近日中に会談したいって書いてあるから何かしらアクションがあるだろ。
王国のロリコン宰相を信じてコッチはリッちゃん倉庫の棚卸しでもしておくか。
「リッちゃん。今倉庫の中にはどれだけモノがある?」
「モノ? うーん、ちょっと出してみるね」
リッちゃんが倉庫の中身を一つ取り出していくと、回復薬に毒薬、筋力強化薬などの魔法薬、魔力石などが大量に出てきた。
「結構買い込んでたんだな。これなら買い足しをしなくても……。ん?」
数は少ないが、王都で買って使う機会がなかった爆弾などの使い捨ての攻撃道具もいくつか出てきていた。
「これは……回復薬か。リッちゃんとエリーが持ってた方が良いな。万が一の時は使ってくれ。怪我をしても死なない限りアタシが治す」
「わかったよ! マリーはどうするの?」
「アタシは魔法で大抵の事はカバーできるからな、ちょっと魔法の威力を底上げしてくれる奴でいい」
アタシも持つには持つが最低限だ。
母リラから学んだ技もあるしな。まだ使いこなせてないけど。
ただ魔王軍との戦いで母リラが使ってるのを見て、なんとなくだが掴めそうな気はしてるから大丈夫だろ。
アタシは開戦までの間にルルリラの“練気”を使えるようにしねーとな。




