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第108話 里の番人

8-108-124


北の関所を抜けて二週間。

途中の村に寄りながら進んでいく。

気がつけば朝が寒いくらいだ。


ここからはそれぞれ分かれて進む。

今は最後の打ち合わせの最中だ。


「しかしウルルもルルリラも凄いな。春はもっと冷え込むだろうに、こんなところから来てたのか」

「はい! 場所はもう少し北のトコなんですけど、ウルルと一緒に温めあってここまで来ました!」

「やっぱりロマンのためには体を張らないと行けないじゃん?」


リスクのかけ方が間違ってるが元気があるのはいい事だな。


「私たち吸血鬼の里やエルフの森はここから西に一週間行ったところですが、意外と近くでしたのね」

「そうだな。そもそも俺ら外に出ないから気が付かなかったじゃんよ。そっちは違うのか?」


ウルルの疑問にアルマとフィールはそれぞれ頷いた。


「確かに私達もあんまり外には出ないよね」

「外に出ていくのは古き友人……メイさんを探しに行く者達くらいですものね。でもそれなりに人族との交流はありますわ」


まあエルフは恋愛物語にも出てくるからな。

人間の集落と近いと予想はしていた。

リッちゃんみたいに引きこもってると身体に悪いぞ。


まあ近いといってもそれぞれ距離もあるし、特に寒い地方は時期やらなんやらで色々動きが制限されるからな。

その辺りがあるんだろう。


「それじゃあアタシたちはこれから更に北に進んで、獣人達に会いに行くぞ。リッちゃん達は西だな。大丈夫か?」


「平気だよ! 今回はメイがいるからね、メイに任せておけば大丈夫さ!」

「お任せください。ご主人様をサポートするのがメイドの役目ですから」


元気いっぱいの回答だがメイに全部丸投げする気じゃねえか。

メイもあんまり甘やかすんじゃない。


……だが二人とも精神面も問題ないようだな。これなら問題なく――。

ん? さっきからカチカチに固まって黙り込んでる奴がいるな?


「どうしたカリン? さっきから黙ってるがトイレか? 我慢は良くないぞ?」

「いや、違うんだ。ほら、女の子の家にお邪魔するのって初めてだからさ。なんか緊張しちゃって」

「お前も女の子だろうが」


なんで同性なのに彼女の家に初めて訪れる彼氏みたいにソワソワしてるんだ。

うっかり父親と鉢合わせして勝手に気まずい雰囲気になってろ。


「別に顔を見せにいくだけなんだ。堂々と構えて、二人は貰っていくくらいの事を言えば良いだけだろ」

「安心して! もしもお父さん達が認めなくてもカリンちゃんがいればアタシ達だけでも……!」

「そうですわ! たとえお父様と言えども私達の関係にヒビは入れさせませんことよ!」


よしよし、その意気だ。

でも親の同意を得られるなら同意を得ておくんだぞ。

やっぱり駆け落ちってのは辛いからな。


うだつの上がらない冒険者だと愛も冷めて残ったのは子供だけってのも良くある事だ。

……一応逃避行ルートも調べといてやろう。


「あの……今回はメイをお披露目に行くんだけど……」


そういえばそうだった。

リッちゃん偉いぞ。

目的を見失っていなかったな。


「一緒に封印されていたリッちゃんも一緒にお披露目ですよ。カリンとリッちゃん、そしてメイ。それぞれ紹介する形になりますね」


エリーがナイスフォローをしてくれる。でもハーレム作ってる彼女と伝説の友人メイと魔王を同時にお披露目かあ……。

物凄い不安だ。

ひよっ子たちは万が一があったら、リッちゃんとメイに全てを擦り付けるんだぞ。


なーに、子供の失敗は大人が……。

リッちゃんにフォローできるかなあ。


リッちゃんに、メイ、『森林浴』の三人組と分かれて、アタシたちは獣人の里に向かう。


「王都に続いて、今回もまた一緒ですね!」

「よろしくじゃんよ」

「おう、ここからは数日でつくんだな?」

「はい! あ、でも途中から森の中なので馬車から降りないと行けないです」


森か……。

まあアタシ達も一応冒険者だ。

問題ないだろうか獣人は身体能力が高いからな。

ちびっ子達も疲れてるのを見たことがないから大丈夫だと思うが時間がかかるかもしれねえな。


「おい! 敵がそっちに行ったぞ!」

「任せろ! 俺の爪で一撃にゃ……じゃんよ!」

「ほかにも来ています! 次の準備をして下さい! ……〈守護〉!」


アタシ達は今、北の森に入ったところだ。

森に入ってから間もなく、物凄い数の魔物達の襲撃を受けている。


「あ、そのカエルみたいなの気をつけるにゃ! アイツは身体に周囲の毒を貯め込むから腐れ毒を貯め込んでたら厄介にゃよ!」

「こっちは任せてください! 私のスキル『水変エス者』で毒を無効化して倒します!」


ウルルもこの間からスキルに目覚めていたそうだ。

なんでも液体に直接触ることで性質を変化させるスキルらしい。

粘度や味の他に、毒なんかも成分を変えることで無毒化できるとか。


直接触らないといけないのがネックだが、上手く血液とかにコレやられたら極悪な攻撃スキルになりそうだな。


「……よし。一通り倒して落ち着いたな。北の森ってのはこんなに敵が多いのか?」

「んー、こんなの初めてです。なんででしょうか?」

「俺達が街にいく時は静かなもんだったじゃん? なんかあったのか?」


なにかって言ってもなあ。

早々トラブルなんて起きないだろうし、獣っ娘たちが知らないならアタシが分かるはずもない。


「お話し中すいません。探知魔法に反応がありました。敵の数は……大体二十といったところでしょうか?」


くそっ、また来たのか。


「まるで軍隊みたいだな」

「まさか! 魔王軍か!?」


ウルルが不吉な事を言う。

襲いかかってきてるのはタダの魔物だが、毎度囲むように組織的な動きをしているのは確かにおかしい。

……なにか、スキル持ちがいるのか?


「……ありえるかもしれねぇな」

「さ、里が心配じゃんよ」

「急ぎましょう!」


獣っ娘達に急かされながらも、アタシ達は敵を薙ぎ払い里の方へ向かう。

……これが敵の襲撃じゃないといいが。



「向こうです!この坂を登ったところに里があります!」

「雑魚に構ってるのも惜しいな。無視して一気に駆け抜け――」


会話の途中でナイフが飛んでくる。

……誰だ?


ナイフが飛んできた方向から黒い影が高速で近づいて来る。

フードを被っていて良くみえないが……魔物じゃないな。

だが手が獣のような手だ。

それに人間にしては動きが早すぎる。魔族か。


「人間よ。よくここまで来れた。なかなか腕が立つのだろうが残念だ。この深さまで来た以上生きては返さぬ。諦めて投降するか死ぬか選べ」


フードの下に覆面もかぶってやがる。

用意周到な奴だ。

しかし何者だコイツ?


「深く入ったら昇天させますってか? こんな短い武器じゃ無理だな。さてどこの所属か教えて……」

「会話に興じる気はない。行くぞ」

「チッ!」


この野郎を話してる最中に襲いかかって来やがった。

両手の鋭い爪が左右から切りつけてくる。


「問答無用かよ! サンダーローズ!」


アタシはそれをかわすと、お返しに雷を一撃ぶつけてやる。

よしっ、動きを止めたな。


「ぐっ……やるな」

「お前は魔王軍か? それともこの里の魔族か? どっちだ?」

「何故里を知っている? いやいい、人間は殺すだけの事。里の事を知っているならなおさら……」


ちっ、魔王軍じゃないようだがそこそこ強そうだ。

面倒くさいが仕方ない。殺さずに捕まえよう。

そのためには拳でボッコボコにしないとな。

里の奴なら拳で友情を無理矢理クリエイトできるだろ。


そこでルルリラが声をあげる。


「……この匂い! おじさんだ! 久しぶり!」

「……ホントだ! パ……親父じゃんよ。なんで覆面なんかしてんだ?」


声につられて覆面がウルルとルルリラの方を見ると、固まったように動かなくなる。

つかウルル、お前の親父かよ。


「お、おお……ウルル……。ルルリラ……。生きていたか……。会いたかったぞ!」

「やめっ……近づくにゃ!」


覆面を脱いだ男はウルルの方に駆け寄って抱きつこうとしている。

その顔は黒豹そのものの顔をしていた。


ウルルが全力で両手足を伸ばして拒否してなければ感動の対面だったのかもな。


「あー、良かったな。感動の対面は後にしてアタシたちを里とやらに……」

「しかし何故ここに人間がいる。ウチの子とどういう関係だ! まさか貴様……」

「おい勘違いするな。アタシはアンタの娘さんの主人だよ。そして娘さんたちは従者としてアタシたちの――」


その瞬間、おっさん獣人が再び襲いかかってきた。


「貴様っ!! ウチの子を奴隷として扱おうというのか! 許さんぞ!」

「おい最後まで話を聞け! くそっ!」


再び襲いかかってきやがった。

くそ、めんどくせえ親父だ。

ちゃんと言う事を聞くウルルやルルリラを見習え。


「娘はああぁっ! 絶対に渡さん!」

「いや、いらねえよ」

「な!? ウチの娘を要らないとは何事だあっ!! 顔良し性格よし器量よしだぞ!」


なんで結婚前提の彼氏を連れてきた親父みたいなリアクションしてんだこのバカ親。

くそっ、実力がそこそこあるのが面倒くさい。


エリーが精霊魔法を使うかと目で合図をしてくる。


よし、ガッツリ魅了をかけて……。

……娘の前で魅了をかけるのは流石に可哀想だな。

色街にいるオッサン達みたいなことされて威厳が無くなっても困る。

元々威厳なんて無い気もするけど。


やっぱりここは派手にアタシの魔法で……。


「おじさん、落ち着いて!【ぷるりんぷるぷる、もっちもち!】〈アクアウォール〉!」

「な!? なんだこの水? ネバネバするぞ!? まさかルルリラか! この力……。お前スキルに目覚めたんだな!?」


おっ、処刑方法を考えていたらルルリラが魔法で動きを封じてくれた。

よくやったぞ。後でナデナデしてやろう。


この魔法、一見ただの水の壁を作る魔法だが、スキルで性質を変えているのかトリモチみたいにへばりついて親馬鹿獣人の動きを止めてくれている。

便利だな。


「くっ、ルルリラよ。スキルを覚えたのは素晴らしいと褒めたいところだが今はマズい! お前たちは騙されて……ぶふぁ!」


ギャーギャーやかましいおっさん獣人の顎にウルルが一撃を食らわせた。

……いい感じに入ったな。

舌を噛んだのか痛そうにしている。


「親父! いい加減にするじゃんよ! こっちの人達は先輩冒険者だから敵じゃないんだぜ」

「先輩冒険者……? ウルル、お前たちは冒険者になったのか? ルルリラも?」


困惑してるが完全に動きが止まったな。

少しは頭も冷えたみたいだ。

しかし冒険者になった所から話さないといけないのか。

めんどくさいな。


「あー、アタシが説明するぞ。きっかけはだな――」


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