第100話 大将
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アタシ達が使った魔法のおかげで、迷宮の一部が壊れて更地になっている。
「すごいパワーだね。敵がスキルで作った壁も破壊されちゃってるし」
「ああ、溜めが面倒だがやっぱり強力だな」
「ですが相手も強いですね。流石魔王軍といったところでしょうか」
大将の守備に回るくらいの奴らだからな。
少数精鋭で良かった。
大軍で来たら逆に迷宮で分断させられて一つずつ潰されてた気しかしない。
「それじゃあ早速だけど『ラストダンサー』の皆が心配だし先に進もうか」
「まて、薬を使ったからな。念の為にアタシのスキルで回復しておく」
薬には時間制限と副作用があるが、アタシのスキルならリセットできるからな。
なーに、成長したアタシなら数分だ。
奥に広がってる迷路らしき空間でも体力を使うことを考えるなら今のうちに回復しといたほうがいい。
ついでにリッちゃんとエリーも回復させておくか。
数分後。
「よし、互いに身体を整えたし、改めて他の奴らを――」
その時、周りの壁にヒビが入り迷路が砕け散る。
グネグネと世界が歪んだかと思うと、やがて元いた砦の中へと戻っていた。
……近くには数体の吸血鬼達の死体とボロボロになった『ラストダンサー』、そして勇者ちゃんがいた。
「おい、大丈夫か?」
「あ、エリー……。そっちは大丈夫そうだね。こっちはトラップとかもあってちょっとキツいかな」
「それ、でも……。全部、倒した」
「私もスキルを使ったせいで動けないのです……。『エリーマリー』の皆さんが迷宮のスキル持ちを倒したのですか?」
その質問が来るって事はそっちが対処したわけじゃないみたいだな。
だとしたらやったのは細目か?
「いや、アタシ達じゃない」
「じゃあストルスちゃんね。早く行かないと……」
ポリーナが立ちあがろうとするが、力が入らずよろけてしまう。
怪我が相当にキテるみたいだな。
「まて。先にアタシ達が中に入る。ポリーナ達はとりあえず手当をして後から来てくれ」
「……そうね、わかったわ。皆、治療に移りりましょう!」
よし、三人は治療に専念するみたいだ。
アタシ達は先行して扉の中に入る。
……中は戦闘の傷跡が凄まじい。
「うわ……」
リッちゃんが惨状に驚いているな。
それもそうか。
誰も彼もがボロボロだ。
たくさんのナイフで串刺しになった魔族が数体、そして細目も倒れている。
……酷えな。細目の足が片方千切れてるじゃねえか。
王都なら腕のいい治療士もいるから治せると思うが……。
「おい、大丈夫か?」
「マリー殿、中々の中々にキツい戦いだったのである。しかしみよ。迷路を作るスキル使いは倒れ、かろうじて生きている奴こそ、ここを守る大将である」
指さしたほうを見ると、ボロボロの魔族が一人、肩で息をしていた。
〈変身〉が解けたのかほとんど人間と変わらないな。
獣耳をした、見た目だけなら若い男だ。
「そやつのスキルは数千人もの食糧を不要とするものだと聞いた。直接戦闘に関与するものではない故、こうして今の際で生かすことができている」
「すごいね、ちっちゃな村一つ養えるんだ。千年前にいてくれたらなあ。飢える子もなくて助かっただろうに……」
リッちゃん、そのスキルの使い方は人として正しいけど今は場違いだぞ。
……だがコイツのスキルでこの砦の兵士を養ってたならコイツを倒せば大打撃だな。
その前に色々教えて貰ってからだが。
アタシは死にかけの魔族に近づくと声をかけた。
「さて、最後に情報を吐いちゃくれねえか?」
「ここまで我が軍を追い詰めるとはな……。だがもう遅い。兵士達には現状を伝達済みだ。こちらに戻るため動き出しているだろう。さあ、殺せ」
「まあ落ち着けよ。アンタの命についてはアタシは保証しねーが、軍にはかけあってやるぜ?」
血気盛んな奴だ。いきなり殺せだとかこっちも困るだろうが。
もう戦いは終わったんだ。
その辺の雑草とかいい感じの木の棒とかやるから情報をしゃべってほしい。
「ふん、もはやそういう次元の話ではない。この砦を攻略されたことで、あのお方……魔王様も視察のためもうじき到着する。そしてこの惨状、……お前たちも、俺も終わりだ!」
「魔王……」
リッちゃんから息を飲む音が聞こえる。
魔王か……。
マズイな、敵の能力は不明だがマトモに戦えるのがアタシ達しかいない以上、出会いたくない。
もし『ラストダンサー』も含めた全員が完璧な状態なら様子見くらいしたいが、今は撤退するに限る。
「元々は我々とて忠誠を示すためだけに攻めていたようなもの。間違っても大事に至るはずではなかった。引き金を引いたのはお前たちだ」
「悪いがこっちも色々仕掛けられてたんだ。お返ししただけさ」
「……これ以上は語らぬ。さあ殺すがいい」
まったく、口を開けば殺せ殺せうるさい奴だ。
魔王が来て命がやばいならそう言えってんだ。
「分かったぜ。お前も保護してやるから安心しな。だから魔王の情報を色々と教えてくれ」
「ふん、言えるものか……。無駄だ……。これからの、生き地獄を味わいながら……後悔する、が、いい……」
そう言い残すと動かなくなった。
……一応、生きてはいるみたいだな。
『ラストダンサー』の二人と勇者ちゃんが中に入ってきた。
エリーに説明を頼んでおく。
「すまねえな。情報を聞く前に気絶させちまった」
「いやいや重要な情報が聞けたとも。魔王がこちらへ来るなら早急に撤退をするのみ」
確かにな。頭が乗り込んでくるなんてのは前代未聞だ。
何を用意してるか分からないし、さっさと撤退するに限る。
「ストルスちゃん、話を聞いたわ。大丈夫? 動ける? あー……。ごめん、無理そうね」
「……見ての通り歩くことは実に実に難しい。しかしのしかし、スキルは健在。転移して先に戻り情報を伝えてこようと思う、構わぬだろうか?」
「ええ、村まで……。いえ、王都まで戻って状況を伝えて。その後は療養ね」
「かたじけない。後々の事は頼む。そこの魔族は王都で情報を吐かせよう」
アタシ達が了承すると、細目は魔族を担いで転移していった。
「さあ私たちも帰るわよ。急いでね。ジーニィちゃん、任務成功の狼煙と、緊急事態発生の狼煙、両方あげて頂戴」
「分かっ、た」
ジーニィが狼煙を炊くと、煙から赤と黄色の鳥が生み出される。
その鳥に何かを話しかけるジーニィ。
鳥は分かったように頷くと、砦の方角へ飛んでいった。
「さすがに砦の人達は馬鹿じゃないから、敵兵が近づいていることには気が付いてるはず、それであの二匹の鳥から伝言を受け取れば察するはずよ」
「じゃあ後はアタシ達が逃げ出すだけってわけか」
「そのとおり……。早く、逃げ、る」
ああそうだな。
だけどちょっとだけ待て、最後に軽く嫌がらせしておこう。
魔法で砦の扉の前に落とし穴を掘っておく。
ついでに扉が開かないように裏側で土を被せておいた。
まあ、少しでも時間稼ぎになれば幸いだ。
「さあ、撤退だ」
アタシ達は攻め落とした砦を離れて、迂回するように移動する。
うまく行けば二日後にはアタシ達の拠点に逃げ込めるな。
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「<索敵>に反応があります。こちらには気が付いていないようです」
「どうやら砦に向かっているようだね」
「数は…五百といったところでしょうか? 念のため距離を開けましょう」
途中、砦に帰還する魔族の部隊とすれ違ったが、エリーの魔法もあって気づかれる事はなかった。
おそらく、さっきの大将がなにかしらの合図を送っていたんだろうな。
早めに逃げ出せてよかった。
アタシ達はそのまま進み、人間が守る砦へと近づいていく。




