表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/159

第97話 罠

7-97-112


アタシは空中で方向転換し、地面に着地する。

危ないところだったぜ。


「どうして私達の姿をみて〈変身〉をしていないと? もしかして魔族の変化は巨大になったり、形状が変わるだけだと思っているのかね?」

「何この子? 空中で変な方向転換しててウケるんですけど」


七三野郎とピンク女が嘲笑ってくる。

くそっ、見た目は何も変わってないように見えるから気が付かなかったぜ。

だがこっちも攻めの手札は見せずにすんだようだ。


「……もう変身は終わってるって事かよ」

「その通り。私は内側で変化を起こすものだよ。このようにね!」


七三野郎は再び黒い影の拳を両側から出すと、連続で殴りつけてくる。

その攻撃をかわし、影を刃で切りつけてやるが、刃は影をすり抜けてしまう。


……コイツ、アイツに似てるな。


「キャハハ! 無駄な努力ご苦労さま。面白いから私も参加しちゃおっと」


アタシと七三野郎の戦いにもう一人……、三人のうち一人が向かってきた。

そんな無防備に突っ込んでくるとかナメてんのか。


「その生意気な性根を分からせてやるよ。ファイヤーローズ!」


迫り来るピンク女に炎を叩きつけてやる。

……少しは回避するかと思ったらまともに受けやがったな。


だが、炎を浴び終えたその姿に変化は無い。

火傷一つなくその場に立っている。

一瞬体が焼け焦げたように見えたが……気のせいか?


「……なんで無傷なんだよ」

「残念でしたー。【流水は激流に変われ、岩よ砕け。敵を穿ちて爆ぜよ槍】〈爆水槍〉」


お返しと言わんばかりに魔法のカウンターが放たれた。

……三人から三つ同時に、だ。


くそっ、一発なら大丈夫だが三発は回避が難しい。

一発は食らってしまう、マズイな。

男に目を向けると、影の追撃も迫ってきていた。


くそっ、こっち躱すと魔法がすべて当たる。

……そこで雷を纏った風が魔法を打ち消し、弾き返してくれた。

リッちゃんか!


「【風雷陣】! マリー、こっちへ!」

「助かったぜ! ありがとよ! もう一発撃てるか?」

「任せてよ!【砕氷陣】」


リッちゃんが続けて魔法を放ち、敵の追撃を相殺してくれる。

お陰でなんとかダメージを受けずに戻ることができた。


だがこっちもダメージを与えられなかったな。

ピンク女の奴、リッちゃんの攻撃で体が傷ついたように見えたんだが……見間違いか?


「きゃははは! 分からないって顔してるー。私も〈変身〉して増えた二人を見せてるのに気が付かないとか、馬鹿じゃないの?」


舐めた口聞きやがって。イラッとする女だ。

だが秘密が少し分かったぜ。

二人は分身、偽物ってわけか。

とりあえず、これ以上組み合うのはマズイ。


アタシはエリー達のところに戻って回復と補助魔法を受けることにする。


「〈回復〉、〈守護〉。マリーすいません。魔法をかけるタイミングを見失っていました」

「いや、あたしが不意打ちしようとしていきなり飛び出したからな。仕方ないさ」


更には不意打ち失敗して攻撃喰らいそうになってるからな。

自業自得だ。


「キャハハハ。一人で勝てないから仲間に慰めて貰ってるのー? かーわいいー」

「アタシを馬鹿にすると痛い目みるせ? 一人だろうと百人だろうと丁寧に攻め立てて身体で分からせてやるよ」


とは言ったが相手の能力が分からない状態でツッコミたくないな。


「あはは、やってみればー? このマザースライン族のマリモネちゃんに傷をつけるなんて千年早いから」


マザースライン……?

知らない種族だ。

やっぱり情報を集めないと危ねえな。

……いや、体が変化して半透明になっている。

マザースライン、スライン……、半透明の姿……。スライム……。

こいつもしかして……スライム的ななんかか?


「おいおい、マリモネ。私を嗜めておいて自分だけ名乗るなんてずるいじゃないか」

「キャハハ、ゴメーン。どうせならバーラムも名乗っちゃいなよ」

「まったく。……だが今更名乗らないのも後味が悪いな。私の名前はバーラム。偉大な吸血鬼の一族に名を連ねる者。とは言っても今現在、砦に残っている仲間は過半数が私と同じ吸血鬼だがね」


吸血鬼か。やっぱりな。

攻撃がウチのフィールにそっくりだったからな。

たしか魔王に味方している吸血鬼は血がうすい、だったか?

ちょっと煽ってみるか。


「スライムと半端者の吸血鬼かよ。お笑い草だな」


そう言うと二人の表情が目に見えて変わる。


「貴様……。私に向かって半端者だと!? なんたる無礼! 吸血鬼の恐ろしさを見せてやろう!」

「スライムって言い方なに? 下等種族と一緒にしないでよ! 私達はスライムの長所を参考にしながらも初代魔王様によって作られた偉大なる血統なんだから!」


おっ? 軽く煽るつもりだったがそれぞれ怒りのツボに入ったらしいな。……好都合だ。


「はっ! 魔王様によって作られただと? 面白い冗談だ。リッちゃん知ってるか?」

「いやあ、知らないなあ……。もしかするとファーちゃんが作ったのかもしれないけど……。自信ないなあ」

「だってよ。それに吸血鬼の野郎は嘘つきだな。知ってるぜ。初代の意志に背いて魔王に味方してんだろ? それでよく吸血鬼ヅラできるよな? 血が薄くなると面の皮が厚くなるのか?」


ちょっと煽ると二人共顔がみるみる真っ赤にになる。

頭に血が昇ったか。

挑発に乗ってくれる奴は楽でいいぜ。


「くっそムカつく! バーラム! 援護するからやっちゃって!」

「任せたまえマリモネ! 舐めた口を聞いてくれるなよ小娘が! 『動くな!』」


アタシか再び吸血鬼目掛けて突っ込んでいこうとした瞬間、吸血鬼に向けて走っていた体が急に動きを止める。


……体が動かねえ。声も出せない。

今、身体を何かが縛り付けるような感覚があったが……。

もしかしてスキルを使ったのか?


「ふははっ! 私のスキルは『人説キの願イ』! 貴様の動きをスキルで封じさせて貰った! 貴様などただの弱者に過ぎない事を知るがいい! 血を啜ってやろう!!」


……ああ、普通なら脅威だろうな。

普通ならな。

だがアタシは普通じゃないんだ。


だからそんなに、不用意に近づくな。

イッちまうぜ?


「なっ!? 雷撃が……ぐああああっ!?」

「おっ、動けるな。どうやら動きを止められるのは一瞬だけか? それとも攻撃を受けたら解除されるのか?」

「馬鹿な……。無詠唱で魔法を使える奴がリストにないだと? 諜報部め……いい加減な仕事を……」


よし、会話もできるな。

こっちの質問には答えちゃくれなかったが、まあいい。

答えないってことは、スキルが攻撃でキャンセルできるか時間で解除できるかのどっちかだろ。


「【……貫け、水の槍よ】<水槍弾>」


……おっと。

スライム女から水魔法が飛んできた。


だがリッちゃんが攻撃を牽制、相殺してくれる。

お陰でこれなら余裕で回避できる。

動けなかったらヤバかったかもしれないな。


「ちょっとバーラム! もう少し動きを止めててよ!」

「うるさい! こんな隠し玉を用意してたとはな……。だが貴様の手の内は見破った! この傷は貴様の血で補わせて貰う!」


七三が文字通り牙を剥くと、襲いかかってくる。

だがよ、お前は色々勘違いしてるぜ?

そもそも手の内を知っているのはお前だけじゃねーんだ。


「この影の手で……」

「悪いがそう何度も吸血鬼と戦う気はねえよ。ネタは割れてんだ。フラッシュ」


アタシの手から閃光が迸る。

ちびっ子吸血鬼と同じなら、影の手も消えるだろう。

…どうだ? 効いたか?


「ギャアアア!」

「やっぱり吸血鬼は光が苦手…か。いや、ちょっと待て。なんでお前?」


光を受けた吸血鬼はもがき苦しむと、体にヒビが入り、一部が崩れだす。

…いや、効きすぎだろ。



「何故だ!? 何故私たちの弱点を把握している!」


おいおいまじかよ。

光の魔法でダメージを受けるのか。

こいつ、ひよっ子吸血鬼より弱点が多くないか?


…スライム魔族はともかく、こいつに脅威を感じなかったのはそういうことだろうな。そして、さっきの雑魚共の戦いにも出てこなかった理由はそれか。


「かっ…下等生物の分際で! くそっ! くそっ! くそおっ!」

「おいおい、光に弱いにしても程があんだろ。どっちが下等生物だ」


偶然とはいえ先に吸血鬼と戦っておいて良かった。

正直コイツは弱い。こんな明確な弱点があるなんて予想外だ。

さっきの動きを封じたスキルだけが脅威だが、今はそれを使う余裕もなさそうだな。


さっさと仕留めるか。


「あららー。バーラムってばもう負けそうなの? しょうがないなー」

「ま、まて……。私はまだ戦え、る……」

「全然そうは見えないんだけどー? あたしに無理矢理ついてきて暴走して、もう終わり? 行動を封じるスキルも使いこなせてないし、ホントさいてー」


仲間にたいして酷い言いようだ。


「おう、後はアンタ一人だ。攻めてきたのはこっちだからな。大人しく投降するなら命は助けるぜ」

「……さいあく。本当はあたしだって戦い止めてさ、お菓子でも食べてたいよ?」

「おう、尋問はするがちゃんと情報教えてくれれば菓子くらい食わせてやるよ」

「ほんとに!?」


ああ、獣っ娘の試作菓子だけな。

しかしどうやら戦わずに上手く行きそう……。


いや、なんかコイツおかしいぞ?

急に仲間の吸血鬼の首に腕を回して何やってやがる?


「……でもね、魔王様ってそういうの許さないんだよ。今だってそう! ホント最悪! バーラムも吸血鬼の一族なんだからさ、一人くらい殺ってよって感じ」

「ご……、が……。マリ、モネ……」


やっぱりだ。

コイツ味方にたいしてナニかしてやがる。

なんかヤバそうだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ