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第95話 潜入

7-95-110


「門番なんてかったりいよなー」

「おいおい、くだらねえ愚痴を言ってるとまたドヤされるぜ」

「いいだろ誰も攻めてきやしねえよ。どうせ魔王様の機嫌を取るための茶番だ」

「しょうがねえだろ。人間もこっちも消耗戦は避けたいんだ。いつもの小競り合いで終わらせて……うん? あのタコ野郎。見回りの奴じゃねえのか?」

「本当だな。なんであんなところで手を振ってやがる? こっちに来いってか?」

「しかしなんかおかし――」


会話に夢中になっている二人の首から刃が生える。


「会話の途中すまねえな。一人でイクのは寂しいんだとよ。一緒にイってやってくれ。サンダーローズ」


次に雷で刃を通じて内部から焼き焦がしてやった。

最後に土魔法で地面に埋めておしまいだな。


こいつらが気を取られていたのはエリーが作り出した幻覚だ。

幻覚で注意を惹きつけ、細目のスキルで背後に転移したからな。

気がつく暇もなかっただろうさ。


「よし、これで忍び込めるな」

「マリーは素早いのです。この門番さん達もご愁傷さまなのです」


少し遅れて勇者ちゃん達が追いつく。

そこにはアタシを転移させたはずの細目だけがここにはいない。


「ストルスちゃんから伝言ね。“秘密の入り口付近に敵はなし”だって」

「よし、案内を頼む」


細目の役割は“目”だ。

アタシを転移させた後は自分が転移して、はるか上空から俯瞰して敵の動きを見てもらっている。


細目は建物内でスキルを使うのは苦手だと言っていた。

本人曰く、一回も目視をしていないところは認識できずスキル発動に失敗し、対処しきれない事があるそうだ。


代わりに上空から外で見張りをしている兵士たちの挙動を『ラストダンサー』経由で逐一動きを伝えてもらい、それに合わせてアタシ達は移動している。


砦内部の動きこそ見えないが、こっちも建物から出るときや、逆に入る時に鉢合わせする心配が無いのはありがたい。


お陰で数体の魔族とかち合ったが、みんな静かに倒すことができた。


「これなら楽勝で狩り尽くせ――」

「敵襲! 敵襲! 反応あり!」

「索敵はどうした! 魔法隊は何をやっている!」



突如、砦全体に鐘の音が響き渡る。

同時に敵の声も騒がしくなった。


「ストルスちゃんから敵が真っすぐこっちに向かってきてるって! これやばいかも? ヤバくない?」


……マズイな。索敵のスキルか魔法を定期的に展開してたのか。

意外と早くアタシ達の事を見つけたようだ。


「確か細目が上から見た情報だと、この先の場所……中央の広場かなんかだよな」

「そうだよ、通路の細いトコで分かれて戦う?」


セオリー通りなら大多数が入ってこれないような場所で戦うのが基本だが……。


「『ラストダンサー』のメンバーもウチのリッちゃんも広域殲滅型だ。十分に力を出し切れない可能性がある。なにより〈変身〉を使われたら厄介だ」


相応に魔力を使う〈変身〉は使えるやつも限られてるだろうし、無駄撃ち覚悟で使ってくるとは考えにくい。


使うならアタシ達と面と向かって戦う時だ。

だが戦いが長引くとどうなるか分からないからな。

だったら『ラストダンサー』とリッちゃんの超火力での短期決戦にかける。


「良かった! 私もこういうトコで戦うの苦手だったんだ! じゃあ広間で戦うね」

「やるのですか? 私の勇者としての力で全てを薙ぎ払ってみせるのですよ」


勇者ちゃんもやる気のようだが……勇者ちゃんが力を解放するとアタシ達の行動も制限されるからな。

アタシはポリーナに目配せをしてみたが、首を振り返してきた。勇者ちゃんの出番はもう少し後だな。


「リュクシーちゃんはもうちょっとだけ待ってててね。雑魚は私達『ラストダンサー』が片付けるから」

「分かったのです! その時が近づいたら合図をお願いするのです!」


よし、これで役割は決まったかな。

そこでエリーが手を上げてきた。


「ここは私に任せて頂けませんか? 訓練の成果が出せそうです」

「アレか……そうだな。一発目の奇襲はピッタリだろうし頼むぜ、エリー」

「任せて下さい、〈幻覚創造〉!」


エリーが呪文を唱えると、さっき倒した魔族の姿がそこいらに現れる。


「わわっ! 魔族がたくさんいるのです!」

「リュクシーさん落ち着いて下さい。これは幻覚ですよ」


出てきたのは倒した奴らの幻だ。

触ると消えてしまうが、パッと見た限り本物にしか見えない。


同時に、アタシ達の姿が背景に溶け込むように見えにくく、隠れていく。

……よく見ないと仲間を見つけるのも一苦労しそうだ。


この幻覚のすごいところは声も音もある、万人が見ることができる幻覚って事だ。

触ると消えてしまうが遠くからだと気がつくことはできないだろう。

王都の牢屋では助かった。


この万人に見える幻覚の他にも、特定の相手に都合のよい幻覚を見せる〈幻視〉なんてのがある。


さあいくぜ。


「おいお前ら。侵入者が出たらしいがどうなっている」

「それが、俺達にも、分からねえ、んだ。だがさっき、魔族が、切りかかって、きた。もしかすると誰か、裏切り者が、いるの、かも、しれない」


魔族の質問に答えたのはエリーが作り出した幻覚だ。

口調がぎこちないのは会話のイメージができていないからだな。

見張りの魔族ともう少し話しをしていたら滑舌もよかったんだろうが……想像で補うしかなかった。


だがこんな拙い会話でも眼の前にいる奴らは騙せているみたいだな。

……いや、眉を潜めている奴らが何体かいるな。


違和感の正体がバレる前に一気にやってもらうか。

アタシはエリー達に目配せをする。


「はい、ここからが本番です!〈魅了〉」


エリーは小声で呪文を唱える。

すると前の方にいた魔族数人に魔法がかかったのか、どこか虚ろな目になった。


「いきます! 皆さん、『周囲の魔族を倒して下さい』」

「ワカリ……マシタ……」

「コロ……ス……」


エリーが声をかけると、魅了された奴らが他の魔族に襲いかかった。


「うわっ! お前ら何しやがる!」

「どうしたんだ!」

「そいつら、だ! そいつらが、侵入者、だ!」


最後の掛け声は幻影だ。

……だが効果は十分だったようだな。

仲間内で攻撃しあって乱戦状態だ。


「……やりました! 上手くいきましたよマリー」

「ああ、予想してたよりだいぶ効きがいいな、流石は精霊の魔法だ」

「新しい呪文……う、失われないように、保管したい……」


地味子がなんかいってる。

そういえば訓練中に話してた気がするな。

確か魔法発動のトリガーとなるキーワードの大半は精霊や悪魔から教えて貰った……だったかな?


人間が試行錯誤で発見したのはごく一部だとか。

まあ精霊と契約してない人間が使うにはいろいろと制約が多いからカスタマイズが必要とかなんとかも言っていたな。


ただ今は戦闘……いや、戦争中だ。

そのあたりの話は終わってから勝手に交渉してくれ。


連続で精霊の魔法を使用したせいか、エリーの額に汗が滲んでいるな。

拭いてやるか。


「エリー、魔力は大丈夫か?」

「ええ、特に〈魅了〉の消費が大きくて、魔力をためた石が二つも空っぽになりましたが……私自身の魔力は健在です」


今回の戦いでは、魔石をいくつか購入してエリーとリッちゃんに預けている。


今までは価格と魔力の充填がネックで魔石を買わなかった。

だが勇者ちゃんのスキルで魔力を貯めて放つ際、対象を魔石に向ける事で充填できると知ったのはラッキーだった。


普通なら毎日コツコツ充填して魔力を蓄積しないといけないからな。

魔力が色々混ざってるらしく安定性にかけるのが玉にキズだが、気軽にぶっ放せるのはありがたい。


正直勇者ちゃんはこれだけでも食っていけると思う。


「エリーはすごいのです! 魔力の充填は任せるのです!」

「はい、落ち着いたらまたお願いしますね。リュクシーさん」

「ふふん! 任せるのですよ!」


さて味方同士で殴り合ってるのと幻覚魔法で姿を隠している事もあってこちらには気づかれていないが……。


「幻覚が揺らいでいます。次の行動で幻覚がとけるかもしれません」

「エリーちゃんナイスよ。これからなんだけど、見つかりそうだしそろそろ撤退……したい?」


それとなく、こちらに合図を送ってくるポリーナ。


「いやまだだ。もっと暴れてやるさ」


敵が勝手に自滅してるだけで大暴れはしてないからな。

ここで撤退しても訳分からんまま終わるだけだ。

こっからがアタシたちの見せ場だぜ。


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