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第92話 転移

7-92-107


そして出発当日。

王城の前まで獣っ娘が見送りに来てくれた。


「姉さん達が無事で帰って来れるよう、祈っています!」

「つってもそんな心配してねーじゃんよ。サクッと相手ぶっ飛ばすじゃん?」

「今回はそういう戦いじゃないよー。ね、マリー?」

「ああ、今回は裏方だ。お前たちはお菓子作りをやって待ってろよ」

「はい! 美味しいお菓子を作って待ってますね!」


ああ、ひよっ子達のためにも帰って来ないとだな。


アタシ達が任務に行っている間、宿屋の調理場を借りて料理の練習をしているらしい。


今も名店の味を再現しようとお菓子作りに精を出している。

帰ってきたら是非とも美味いものを食べさせて貰おう。

期待してるぜ。



王城へ向き直ると『ラストダンサー』の面々が立っていた。


「別れの別れは済ませたようであるな」

「それじゃあ一旦お城の中に入ろっか」


城の中に入り、廊下を何度も曲がって奥深くまで案内される。


「待っておったぞ」


そこにいたのはロリコン宰相だ。


「ここから先に転移するためのゲートがある。一度使ったら次に起動出来るのは四日後じゃ」

「すでに拠点は用意してあるんだろ? なら何も問題ねーな」


場所は辺境伯領地の端。

開拓村という名の対魔族最前線。


何回かゲートを経由してたどり着くそこは間違いなく最大危険領域だ。


「辺境伯には連絡済みじゃ。とはいえ立地柄、辺境伯と会うこともあるまいて」

「まことまことに気遣いありがたいのである」


細目のおっさんが礼を言う。

それに対してロリコン宰相は軽く頷いた。


「勇者と『ラストダンサー』だけ帰って来れば良いぞ。お前たち『エリーマリー』は討ち死にしてくると良いわ」

「残念だが、そのゆがんだ顔を見にまた帰ってきてやるよ。勇者と一緒にな」

「ふんっ」


互いが互いに悪態をつきながら門をくぐる。

まあ辺に真面目なやり取りより、こういう挨拶の方がアタシたちには似合っているな。


「ん? ここは……外だな。王都の近くか」


門を抜けると外に出た。

どうやらあの扉そのものが転移門になってたらしいな。


「へえ、あの門は僕が作ったものじゃないよ。最近王都で作られたものだね」


って事は空間魔法を一部解明……いや、再現したのか。

やるな。

王都の魔法研究部門って意外と凄いのか?


「あといくつかゲートを潜るよー。次は男爵領に飛ぶからこっちおいでー。あ、マリーちゃんの拠点の隣の領地のことね」

「あ、こっちの転移門は昔作った奴だ。懐かしいなあ。これ作った頃は距離で魔力が増加する問題が解決できなくてねえ」


リッちゃんいわく、この試作品があと二つくらいあるらしい。

……ポリーナの話と合わせて考えるに男爵領と辺境伯領にあるんだろうな。


そうやって何度か転移したあと、ついに目的地へたどり着く。


今いる場所は山の中腹にある洞窟の中だ。

下の方には王都と比べるとだいぶ小さな、だがそれなりに発展した村が見える。


「あそこが開拓村だよ。さ、行こっか」


村に近づいていくと意外に騒がしい。

なんというか活気がある。


開拓村だと言うから、もっと何もないところを想像していたが……随分と喧しい村だ。


「驚いた? ここからちょっと行くと戦場だからね、間違っても敵を通さないように傭兵達を集めるためのお金がバラまかれてるんだ」

「国……支援、する。傭兵、集まる。傭兵のため、サービス業、できる」


なるほどな。

明日もわからねえ奴らが宴を行う最後の場所ってわけか。

金が動いてるから人も集まる、と。


「ここの門番がいくつか質問してくるからテキトーに応えてればいいよ」

「正直、苦手……。あいつら、暑苦しい」

「ははは。ジーニィ殿はああいう手合にも慣れておかねばならぬぞ」


話をしていると門番らしき人物が三人、アタシ達の前に立ちはだかる。


「ここは地獄の一丁目!」

「入れるのは魔王軍と戦うゴミだけよ!」

「例外は金に目のくらんだゴミだけ! 貴様達はどっちのゴミだ!」


なんだコイツラ?

変にポーズを決めやがって。

門番だろ、普通に通せよ。


「んんー? 貴様『エリーマリー』のリーダーに似てるなあ」

「似てるもナニも本人だ。つかなんで知ってんだよ」


アタシの話を聞いた途端、突如男たちが動揺する。


「おいおい、なんてこった……」

「王都で裁判沙汰になったとはきいたが……」

「まさかこんなところな流されて来るなんて……。俺達ファンだったのに」


お前らファンかよ。

いや、なんでこんなトコにもファンがいるんだよ。

つか辺境なのに知られてるとか。


ネットワーク広すぎの早すぎじゃねーか?

アタシ達の知らない所でどうコミュニティが育ってんだ。


「まあいいや。顔が分かってるなら通して――」

「特別奉仕と聞いていたが……。ここに流されたということは娼婦堕ちか……」

「くっ、ならばせめて抜くのが礼儀というもの」

「すいません。三人でおいくらですか? オプションはどこまで……ふぇぁだっ!」


とりあえず馬鹿な事言った奴に一発入れておく。

悪いが勇者ちゃんもいるからな。

厳しめに行くぜ。


しかし人を流されてきた犯罪者扱いすると失礼な奴らだ。


「アタシ達は無罪放免だ。今は仕事で魔族と戦いに来ている。身元が分かってるなら馬鹿な事言ってないでさっさと通しな」

「くっ、殴りつけるとはなんというご褒美……」

「実に羨ましい……」

「もう一発、今度は股間に……。いや尻に……」


あ、駄目だこいつ等。



とりあえずアタシのファンなら公私を分けるんだと伝えてから村へはいる。

お陰であっさりと入ることができた。


アイツ等の服にサインも書いたし大丈夫だろ。

中はファスの街にある色街と表通りを足したような変わった町並みだった。

娼婦や男娼と武装した傭兵達がごっちゃになってるのは見ててちょっと楽しい。


あと街に異様に活気がある。


「ギルドの出張所はあっちで、傭兵達の請負所は向こうね」

「ねえマリー、冒険者と傭兵って何が違うの?」

「傭兵ってのは戦闘限定の戦闘屋だ。善悪もなく必要に応じて雇われるな。ここにいる奴らは魔族と適当にやりあった後、どっかの貴族でも雇われたいやつらだろうな」


人によっては盗賊やマフィアにだって雇われるのが傭兵だ。

逆に冒険者はギルド経由である程度ルールに則った上で色んな事をやる何でも屋だな。

まあ冒険者兼傭兵なんてのもいるし違いを明確に分かってる奴らなんていないだろう。


ただそういう兼業の傭兵はギルドでも実力のある鼻つまみ者がなってるイメージだな。

魔族絡みで戦があるから存在が許されてるような集団だ。

その辺りを説明してやるか。


「ふーん、じゃあ結構問題が多いのかな?」

「賞金かけられてるやつもいるだろうが……」

「ここで表立って争うのは禁止だよー」


ポリーナが補足してくる。

そうだろうな。

なんせ目の前には魔族がいるんだからな。

ここを管理してる貴族としても身内で争うんじゃなく敵と争って消耗してほしいはずだ。


まあこっそりと戦ってる奴らもいるかもしれねーが、それはそれだ。

アタシたちには関係ない。


「傭兵の斡旋所もピンハネが大きいとか色々と良くない噂があるからな。傭兵と契約したきゃ直接契約すればいいさ」

「そうだねー。あそこは貴族がまとめて依頼をするところだしね。私達がもし依頼を受けるならギルド経由で受ければいいよ」


ポリーナが更に補足をしてくれる。

ギルドの方が報酬はいいがランクの制限や審査で受けられる絶対人数が少ない事、傭兵は誰でも依頼を受けられるが斡旋所はアフターフォローがなかったり雑なことなどだ。


「とにかく用がないなら近づかないことをおすすめするよー」

「そうだな。アタシとしても別に近づく用事は……いやちょっと待て」


傭兵ギルドの方に歩いていく人影を見つけた。

どうやら知り合いがいたようだな。

アタシはそいつに近づいて声をかけてやる。



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