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第87話 幸運の支配者

6-87-102

「うおぉ! スゲー」

「なんだあのお嬢ちゃん? 赤黒だけとはいえ、最初外しただけで他は全部当ててんぞ?」

「そ、そんな馬鹿な……」


周りの客から歓声が上がる。

最初の頃は何人か一緒に参加していたが、勝負が熱くなるにつれて観客へとまわっていった。


今はポン子とエリーの一騎打ちだ。

……まあエリーはほとんど賭けを外していないんだが。


「そんな……。私の操作が失敗するはずは……。どこかに……、どこかにイカサマの手口があるはず……。何処に……?」


人をイカサマ師扱いとは失礼な奴だ。


「おいおいポン子、勝手にイカサマ呼ばわりは酷いぜ?」

「いいえ、あなた達がイカサマをしているのは分かっています! 問題はそれが分からない事です!!」

「アタシ達はルーレットに触ってすらいねえだろ」

「じ、じゃあ魔法ですね!」

「そのルーレットに刻まれてるの、魔法封じの刻印だよね?」

「ぐ、ぐぬぬ……」


リッちゃんにツッコまれて何も返せなくなってしまうポン子。

ヌルいな。アタシがイカサマなんて……。

まあやってるけど。


「さてはスキルですか? スキルですね?」

「アタシもエリーも玉をイジるスキルなんてねーよ。やってると思うなら証拠を出しな」

「ぐぬぬ……」


そもそもポン子がイカサマをやっているのは明白だからな。

じゃなけりゃ勝ち続けるなんてできねえ。


なによりイカサマは冒険者同士のやり取りでも当たり前にあるもんだ。

ポン子に比べればアタシ達のイカサマなんて些細なもんだ。


まず最初は風魔法でルーレットの玉をほんのちょっぴり加速させたり減速させた。

ポン子の反応を見るためだ。


結果はシロ。


つまり培ったテクニックで狙った位置にボールを落としてるんじやなく、ギミックがあるって事だ。


そしてアタシの魔法にポン子は気が付かなかった。

次にアタシはポン子とルーレット全体を風で覆って調べ尽くした。

……結果はクロ。


ルーレットを回そうと前かがみになる瞬間、わずかに足を動かして足元にあるスイッチを踏んでやがった。

すると押したスイッチに応じてルーレットの玉がブレた。多分だが磁石かなんかだろう。


この時点でアタシ達の勝ちは確定した。


イカサマを見破った以上は対策も簡単だ。

反応した場所に当たりをつけて風魔法で玉の位置をズラしてやるだけでいい。


途中からイカサマが通じない事に気づいたポン子は真っ当に勝負を挑んできたが、それはエリーの『絶対運』の前には無意味だ。


イカサマなしの勝負はエリーの『絶対運』がポン子をすり潰す。

イカサマしてるならアタシの無詠唱魔法で風を操ってボールをずらす。


これで無敵の完封試合を達成だ。


「これで勇者の持ち物取り返したし、ポン子の金と持ち物全部が無くなったな」

「ど、どうかもう……勘弁を……」


ポン子が泣きそうになっている。

しゃーないな。反省しただろうし、あとはおやっさんに……。


「いいえ、ポン子さん。まだ賭けるものがありますよ」

「エリーさん……。残念ですが、もう私の物はほとんどすべて……。店が出す額も膨大に……」

「いいえ、まだありますよ? ポン子さんの人生が残っています」


エリーがニッコリ笑って鬼畜な事を言う。

あれ? もしかして怒ってる? いつの間に?


「マリーの一夜を賭けようとしたんですから、これくらい当然ですよね」

「あ、その……、私は……」


アタシの彼女が超怒ってる。

怖いから誰か止めて。


「大丈夫、これからは私達が奪ったものを全部賭けて一つの番号を選びます。一度だけ、たった一度だけ勝てばすべて取り返せますよ。伝説を見せてください」

「う、ぁ……。や、やってやりますよ!」


……この勝負終わったな。


「これで、ポン子さんの人生は百三十二年、私達のものですね」

「あぅ……。あ……」


あの後、ポン子は立て続けに連敗した。

観客もドン引きしている。

アタシもドン引きだ。


途中で止めようと思ったがエリーの鬼気迫る様子に誰も口を出せなかった。

いくら絶対運が凄いって言っても連続で0の番号に入るか?


ポリーナは仲間と思われるのを避けたのか、ものすごく遠くから眺めている。


リッちゃんと勇者ちゃんは抱き合って震えていた。

お前らいつの間に仲良くなったんだ。


ポン子はフラリと席を立つ。

そこで黒服達がポン子を囲んだ。


「どこへいかれるので?」

「えっと、えへへ……。ちょっとお花を摘みに……」

「いけませんねえ。貴方の全財産および私生活のすべては、あちらの冒険者の所有物となっております」


逃げようとしていたようだが……。

あれだけガシッと肩を捕まれていちゃムリだな。


「あ、あの今月のお給料は……?」

「ガッツリ負けやがって何を言っている? 今日付けでお前はクビだ」

「テメエ! 本当なら色街に永久就職させるとこだぞコラァ!」


囲んでいる黒服達が怒鳴り散らしてくる。


「まあまて、コイツの身柄はアタシ達のものだろ? 勝手に傷をつけられちゃ困る」


軽く睨みを効かせながら言うと、黒服達も理解したようだ。


「……失礼しました、お客様がそういうなら手を引きましょう。行くぞ」

「へいっ! ポン子ちゃんよ、運が良かったなあ。せいぜい可愛がって貰いな!」


黒服達が去っていく中、残った黒服の一人がアタシの所に近づいてきて耳打ちしてきた。


「私、この賭博場を仕切っているものです。マリーさんのお噂はオネエ組よりかねがね伺っております。今日のところはどうかこれで……」


そう言うと、重みのある袋を渡してきた。

主催者と喧嘩になった時のために落とし所を考えていたが……ネームバリューって助かるな。

裏社会に顔バレしてるのは複雑な気分だけど。


あと金は貰ってもいいが、今回はアタシ達が一方的に荒らしてるだけだ。

受け取るのは忍びない。


「金はいらねえよ。アタシ達が一方的に突っかかってきたんだしな。代わりにアッチの嬢ちゃんを出入り禁止にしといてくれ」

「……王国の勇者ですね。分かりました」


勇者ってのバレてたのか。

最悪王国にツケが行ってたかもしれないな。

危ないとこだった。


しかし、これで博打中毒者が一人……。

いやポン子も含めて二人も減ったな。

いい事をした。


「ううっ……私をどうするつもりですか! 知ってますよ! 私が作ったコスプレを着せられて館に連れ込んでくんずほぐれつ……アイタッ!」


なんか馬鹿なことを言っていたので殴っておく。


「何言ってやがる、おやっさんに引き渡すに決まってんだろ」

「でもマリー、それならコテンパンにする必要なかったんじゃないの?」


リッちゃんが勇者と共に近づいてくる。

……途中からはアタシの意志じゃないぞ?


「いいえ、リッちゃん。罪の深さを知ってもらうためには相応の罰が必要なんですよ」

「もう十分反省しましたからぁ……。どうかお慈悲を……というかあなた達は鬼ですか!」


ポン子の奴が逆ギレしてきた。

なにを言ってやがるんだコイツ。

博打素人のアタシがコテンパンにできるんだ。

遅かれ早かれプロにボコられるに決まってるだろ。

むしろアタシ達相手で良かったと思うべきだ。


「アタシ達言い換えれば女神だ、安心しろ優しく裁いてやる」

「じ、じゃあ、私のお金を少しでも返して頂ければ……」


いきなり負けた金の話とは図々しいやつだな。

ポン子の金か……。

おっとそうだ。


「おいマス……黒服! この金でカジノにいる皆に奢ってやってくれ。勝利のお祝いだ」


アタシはわざと周りに聞こえるように声を張りあげ、ポン子が持ってた金全部をぶん投げて渡した。


「ちょっと! それ私のお金じゃないですか!?」


もうお前の金じゃねえだろ。いつまで存在しない金に執着してんだ。


支配人らしき男は一礼をするとテキパキと皆に景品の高級酒という形で振る舞っていく。


勝ちすぎると妬まれるからな。

こうやって敵意や反感を下げておくもんだ。

これでポン子の汚い金はアルコールでロンダリングされたわけだな。


「うおぉ! 流石は勇者一行だ!」

「俺達の勇者様! 最高!」

「さっきのカワイコちゃん! 今度は俺とも一夜を賭けて勝負してくれよな!」


何故かアタシ達は勇者の仲間になってるがまあいいや。

勇者も回収したし、カジノにいる客の記憶もなんかやべー奴ら扱いから奢ってくれるやべー奴らくらいに印象アップしただろうから撤退だ。


だけど最後のやつ、エリーと勝負するのだけはやめておけ。壊されるぞ。



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