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第86話 カジノ

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「やっほー。とんでもない事に巻き込まれてたね。牢屋生活大丈夫だった?」


しばらく待っていると城のメイドらしき人物とポリーナ、地味子があらわれた。

なんでも勇者のところまで案内するように言われているらしい。


「それにしてもリッちゃんが魔王の友人だなんてね。びっくりしちゃった」

「馬車での、話。思い返すと、友人、それらしき所、あった」

「すまねえ。迷惑をかけちまったな」


リッちゃんと一緒に謝っておく。

だが、二人共特に気にはしてないようだ。


「いいよいいよー。結果的に何事もなかったし。それで、勇者の所から先にいく? それともちびっ子二人連れて会いにいく?」


あっさりと水に流してくれたポリーナは、どっちから行くかの選択を促してくる。


魔王云々から裁定の結果まで、獣っ娘達にはすでに話が届いているそうだ。

すぐにでも会って安心させてやりたいが……獣っ娘二人を連れて勇者に会いに行くと騒がしそうだな。

それにいきなり獣っ娘が魔族の尻尾を出して戦闘になってもこまる。

先に勇者に会って、リッちゃんで耐性をつけさせてから連れて行くのがいいのかもしれないな。

こっちは王様のお墨付きで無罪だし。


「ひよっ子達は料理を覚えるっていう別の目的があるからな。後で会う事にするさ。まずは勇者に会いに行こう」

「オッケー、ついてきて」


勇者のいる訓練場に行く途中で中庭を通った。

勇者の剣が刺さっていた場所の台座部分は布で隠され、近くには『魔術試しの枝』とか書かれた看板が掲げられている。

仕事が早いな。勇者の剣は追放されたか……。


「さーて、ここが勇者がよく使っている訓練場だよ。もう来てるかな?」


そう言って扉を開くが、中にいるのは『ラストダンサー』のメンバー達だけだ。

勇者は何処だ?


「おやおや。マリー殿ではないか。一日の一日ぶりである。ポリーナがいる事から察するに、勇者に会いに来たのであるか?」

「ああ、勇者は見当たらねえがトイレか?」


細目が声をかけてくれる。

見回しても『ラストダンサー』以外に気配がないな。


「……あー、いないんだ。ここに居ないってことは、もしかしてアソコかなあ?」

「多分、そう。悪い事、教えた。ポリーナのせい」

「あはは……」


悪い事?

勇者ってのは、ろくでなしだったりするのか?

だとすると会いたくねえな。


「そんじゃマリー。悪いけど、少し城下町の方に行こっかあ」

「城下町? そこにいるのか?」

「うーん、たぶんね……」


歯切れの悪いポリーナの話を聞きながら、アタシたちは城下町へと向かう。


着いたそこは、アタシ達のいた街にあった色町を何倍にもしたような場所だ。

まったく、勇者ってのはスケベな野郎だな。


「ここに勇者がいるのか?」

「まあそんなとこ、でもここじゃないよ。もう少し奥。さあいこう!」



しばらく進むとやけに灯りがたくさん灯った建物の場所へたどり着く。


「ここは……?」

「カジノだよ。たしかファスの街も作るとか言ってたけど、まだできてない?」


カジノか。確かに作ってる途中だとは聞いたが……。

こんな感じのができるのか。


とりあえず中に入る。


「いらっしゃいませー」


出迎えてくれたのはバニーガールだ。

中では客がカードゲームやルーレット、サイコロなんかを転がして勝負をしている。


「こちらサービスのドリンクになります。……当店のご利用は初めてですか?」

「悪いが今日は勝負をしに来たわけじゃないんだ。人を探していてな」

「そうでしたか、ごゆっくりなさって下さい。もし勝負をされる場合はそれぞれの場所で参加するとお伝え下さい」


そういうとバニーの姉ちゃんは去っていく。

尻尾みたいなポンポンが可愛いな。


「ずいぶんと可愛い服装ですね」

「ありゃりゃ。エリーちゃんも着たくなっちゃった? ここの服装を見たくて男共が通い詰める事もあるみたいだよ?」


ポリーナが囁いてくる。

エリーのやつ、それでは私もこっそり用意して……とか言っているがナニに使うと言うんだ。

……でもちょっと見てみたいからこっそりじゃなくて堂々と二着買おう。


「僕はああいう服装は好きだけどちょっと苦手かな。でもメイなら似合うかも」


リッちゃんは詰めものが必要そうだしな。

気持ちは分かるぜ。


「リッちゃん、足りない部分には夢が詰め込めるんだから恥ずかしがらなくても良いんだ」

「えっと、違うよマリー? 普通に恥ずかしいだけだから……なにか勘違いしてる?」


大丈夫だ、任せろ。

皆で着れば怖くない。

と言うわけでメイをの分をあわせて四着……いや、ひよっ子の分もあわせて買ってやる。胸の詰めものも一緒にな。


「うわあああっ! また外したのです!? どうしてぇ!?」

「ふふふ、残念ですが全額没収です!」


……遠くの人だかりから声が聞こえてきた。

なんか、やかましいな。

何の勝負だ?


人だかりをかき分けて見ると、中央に一人の男が突っ伏している。

……いや、服装は男だが胸元とか腰つき見る限り女だなコイツ。

ずいぶんとラフな格好をした……違うな。これ鎧の下から着る肌着か。


「ふふふ、これで12連敗ですね。まだ続けますか? と言っても賭けるものが無いようですが?」

「鎧も剣も賭けてしまったのです……。もう賭けるものは残って……。いや、ひとつだけあるのです! 私です、私自身をかけるのですよ!」

「グッド! いい心がけです。ふふ、私も初めてですよ。自分自身まで賭ける相手は! それが勇者とあれば尚更のこと! さあ勇者様の初夜をかけて公平かつ公正な勝負を――」


ずいぶんやかましいディーラーだな。

……というかちょっとまて、そこのディーラーに見覚えがあるぞ。


「お前ポン子じゃないか。何やってるんだこんなとこで」

「げっ! マ、マリーさん!? なんでここにいるんです!?」


げっとは何だ。失礼な奴だな。

しかしこの慌てふためき方、間違いなく本人だ。

見られたくないものを見られたような顔しやがって。


「えっと、マリーちゃんの知り合いなの? 友達?」

「いやこれっぽっちも友達じゃねえな。本人はギルド員だと自称しているが可愛そうな奴なんだ。アタシ達もよく迷惑をかけられてる」


ポリーナが質問してくるがコイツと仲間だと思われたくない。

しかし王都で出会うとはな。

おやっさんもいないしどうしたもんか。


「聞こえてますよマリーさん! 自称ではありません! 私は正式かつ模範的ギルド員です! ほら、会員証の写真を見てください!」

「えぇ……ホントにギルド員……?」


おい、こんな所でギルド会員証をだすな。

ほら、ポリーナも呆れてんぞ。

つか模範的なギルド員がカジノで勇者から金を巻き上げるわけねえだろ。

魔王の手先かなんかかよ。


「ギルドの指示でここに来たのか?」

「違います! ふふふ、私のカジノのディーラーとしての腕前を見込まれまして、支店から本店に異動になったのです!」


お前元々ギルドからサポートとしての出向だったろ。

なんでディーラーにジョブチェンジしてんだよ。


「あの、ギルドの受付は良いのでしょうか……?」

「ギルド? はっ! 笑えますね」


エリーが心配そうに尋ねてくるが鼻で笑いやがった。

エリーに舐めた態度を取るとは。

ポン子め、許すまじ。


「ギルドなど構いませんとも! ここでのディーラー報酬は歩合制、相手から上手く巻き上げればそれだけ私の懐も温まるというもの! 今までに稼いだ額に比べれば、ギルドの給料など塵も同じ!」


駄目だコイツ。身も心も悪に魂を売ってやがる。

つかそれカジノでペラペラ喋っていい話じゃないだろ。


さては脳みそだけは空っぽだったから売れなかったんだな。


「残念だがギルドでお仕置きが必要なようだな……」

「いいえ! 私はもうギルド員などではありません。カジノからカジノへとさすらう名もなき伝説のディーラーです!」

「大丈夫か? 懐具合じゃなくて頭の方だぞ?」


それやらかして逃亡劇を繰り広げてるだけだろ。

せめて妄想の中くらいマトモな仕事をしろ。


「失礼な冒険者ですね……。私に意見できるのは勝利した者のみですよ!」

「じゃあ、そのディーラーさんよ。アタシ達と勝負しよう。手始めに勇者の財産を賭けてな」

「いいでしょう! 私の素晴らしさに地を這うあなたが目に見えます!」

「え!? いきなりあなた達は……一体誰なのです……?」


勇者ちゃんが驚いているが今は無視だ。

先に問題児を倒さねえとな。

強敵の前にまず雑魚敵。

それがセオリーだからな。


「ふふふ、このレジェンドたる私に勝てますか? 全財産を吐き出して泣いて謝っても許しませんよ?」

「あー、はいはい。じゃあやるぞ。そのルーレットでいいか? そこのカードか?」

「ふふふ、ではこのルーレットで勝負しましょう! ルールはご存知ですね?」

「基本は知ってるぜ」


黒か赤の色、もしくはゼロから三十六までの数字に賭けて当てるだけのゲームだろ。

偶数に賭けるとか細かいルールはあるが……別に今回は必要ない。


やるのはアタシじゃねえしな。


「なら構いません。さあさあ、皆様! これから勇者の身柄を賭けて冒険者御一行が勝負を始めます! さあ、ほかに一緒に参加する方はいらっしゃいませんか?」


まだ身柄は賭けてねえだろ。


まったくポン子のやつ。

悪い色に染まりやがって。召喚石とかで精神汚染されてんのか?

……ちょっと本気でお仕置きが必要だな。


「さあ、始めましょう! たとえマリーさんと言えども手加減はいたしません。もちろん魔法やスキルは禁止、詠唱を少しでも唱えたら罰金十倍ですよ。証拠がないのにイカサマだと騒ぐのも駄目です」


ドヤ顔で言ってくるポン子。

随分と天狗になってるようだな。

アタシが鼻っ柱をへし折ってやれないのが残念だ。


「残念だが戦うのはアタシじゃねえ。エリー、頼むぜ」

「え? ……そういうことですか。任せてください!」

「ああ、ルールは――」


さあポン子。

お仕置きの時間だ。


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