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第85話 舞台裏


貴族と思われる者たちも含めて去ったあとに宰相のオッサンが王様に話しかけていた。


「いささか手ぬるい処分でしたな。しかも説明不足による過失など」

「爺よ。仕方あるまいて。そのままでは爺や『ラストダンサー』まで処分せねばならぬ。とはいえ魔王の友人を黙認するわけにもいかぬ。……本来なら爺が黙認してくれれば終わった話なのだが」


王様が宰相のオッサンに向かって爺と呼んでいる。

見た目は王様の方が年上だから違和感が凄い。


「かつての災禍の一因を黙認などできませぬとも。そもそもワシごと切り捨てれば良かったものを」

「その心意気は素晴らしい。だが我々にはまだまだ爺が必要なのだよ。お陰で落とし所を考えるのに苦労した」

「ワシなど居なくとも国家としては盤石の極みと言っても良いじゃろうに。なんら心配しておりませぬわ」

「それでもだな……」


二人で仲良く話しているな。

プライベートで仲良しって感じか。教育係とか言ってたしな。


ところで特別奉仕ってのはオッサンと爺さんのやり取りを聞くことか?

それならもう十分だから終わりにしてほしい。


「さて『エリーマリー』のマリーよ。此度は大事になった。ここまで話が大きくなり、その根拠たる魔王の友人が実際にいるとなれば軽々しく無罪にするわけにはいかぬ」

「……ああ、分かってるさ」


宰相とか他の奴らに迷惑がかからないように、わざわざ罪状を改め直したんだよな。

普通ならキレるとこだぞ。


……これっぽっちも誤解じゃないどころか探られたら痛い腹しかないから黙ってるが。


「それでは本題の特別奉仕活動に話を戻そう。実に厳しいものになるがいいか」

「……覚悟はできてるぜ」


ろくでもない案件なら全力で逃げ出すがな。


「とはいえ、うすうす感づいているとは思うが此度の特別奉仕も、先の裁判も含め一つの茶番にすぎぬ。我々は情報をすでに得ていた。リッちゃんが魔王という事だけは予想外じゃったがの」

「ん? いきなり何を言っているんだ?」

「ふむ、順を追って説明するかのう」


詳しく語ってくれたところによると、どうやら大臣の中には冒険者ギルドに頼ることを良しとしない派閥が存在するらしい。

冒険者ギルドは国とのつながりは深いが特定の国家に所属しないことを是としているしな。その辺りが気に入らないんだろう。


そして今回言いがかりをつけてきた理由が『冒険者に魔王の派閥と内通している疑惑があるため』だったそうだ。

だが現実問題として動かせる兵力には限界がある。

そんな中で魔族を撃退できる強者なら遊ばせてもいられないため、金で動くなら積極的に活用していきたい。


そこでどうにかして公の場で魔族と無関係であることを証明させ、今後活躍してもらうために記録に残しておこうというのが今回の計画だったそうだ。


……それが今回はリッちゃんから出た予想外な爆弾のおかげでいろいろ調整する羽目になったと。


うん、なんかごめん。完全にアタシたちのせいだわ。

リッちゃんも寝てないで反省しなさい。


「もしかして特別奉仕活動などの罪状を設けたのは私たちの事情を鑑みていただいたのでしょうか?」


エリーがやや困惑ぎみに王様に尋ねる。

その質問を聞いた途端、爺は王様の威厳を取り戻すと、真っ直ぐエリーを見つめながら語りかけてきた。


「リッちゃんの出自を考慮してもアレは王としての真っ当な判断だと自認している。あの場に私情は挟んでおらぬよ」


瞬間、鐘がなる。

なんだ、この音?


「王よ。真偽を判定する魔道具『疑惑の鐘』がなりましたが……」

「……すまぬ、ほんの少しだけ、最後の特別奉仕だけは多少私情が入っておった」


真偽を判定する魔道具ってやつだな。

裁判だからそんなものまで用意してたのか。

……裁判、結構ギリギリだったな。

魔族と無関係って答えてたら終わってた。


だがよくわかったぜ。

この鐘があること前提で公的に無罪の証を見せつけ、反対するものを黙らせつつ冒険者への協力を仰ぐのが本来の予定だったのか。


「それでは仕切り直して特別奉仕の内容を伝える。本件をもってすべては完結する故、拒否は認めぬ」


王様がコホン、とひと呼吸置いたあとじっとコチラをみてくる。

なんだか緊張しているみたいだな。

さっきの裁判の場より緊張する奉仕活動ってなんだよ。


「『エリーマリー』の皆に告げる。私に特別奉仕活動を行うこと、以上である!」

「……は?」


ちょっと上ずった声で叫ぶ爺。

いきなりナニ言ってんだこいつ?

宰相のオッサンも訳分からんような顔をしているぞ。

エロい事をしろっていうならもぎとるが……?


「なに、ほんのちょっと握手をしたり写真を撮ってくれればよい。私が手でポーズを作るからお前たちも一緒に同じポーズをとってのう、それだけでご飯三杯は……」

「お、王? ご乱心なされたか?」

「ふむ。爺には黙っておったか。実は私は『エリーマリー』のファンクラブ会員でな。牢屋に幾日も閉じ込めて置くのは会員として許せぬこと。故に最速で会わねばならんと思ってのう。急ぎ裁定の日を繰り上げたのだ」


何言ってんだこのボケ老人。

宰相の顎が外れそうなくらい開いている。

気持ちはわかるぜ。だけどお前が教育係なんだからなんとかしろ。


アタシ達は介護は無理だぞ。

介錯するなら手伝うが。


「本来なら私だけで奉仕を受けたいのが本音。しかしそれをやるとあらぬ誤解を受けるため、泣く泣く宰相を同席させておる」

「王よ。ワシはもっとこう、社会のためになる活動をするのかと……」

「宰相よ。王は国の鑑である。したがって王に栄える華を添える形で写真を取るのは間違いではあるまいて」


いや色々理屈つけてるだけで写真を取りたいだけだろうが。

宰相も納得してない顔だ。

そんなアタシ達を無視して爺がパンパンと手を叩くと声から一人の男が現れる。


「こちらは我が王国の諜報部隊の一人。見覚えはあるかな?」


見覚え? こんな特徴のない男で王国に知り合いなんて別に……。

いや待てよ?

コイツはアタシたちの街にいる、自分のスキルを悪用して可愛い女の子を中心に撮影している女の敵だ。

エリーが街にきた初期の頃に盗撮しようとしてぶっ飛ばしたはずだが……。


「お前、盗撮屋じゃねえか」

「いえ、私は盗撮屋ではなく写真家です。フェスの街にいた時はお世話になりました」


許可得ずに撮影してんだからたいして変わんねえだろ。

なんで諜報員になってるんだ。


「写真家、お前冒険者じゃなかったのか?」

「冒険者は世を忍ぶ仮の姿とでも申しましょうか。様々な街にいる密偵の一人でございます。街にいる民の不穏な流れを探し、王都に報告するのが私の義務でございます」

「誰も気がつかなかった密偵を瞬時に見つけ出し、倒した者がいると聞いていてな。この者を通じて、王都ではいち早くの報告を受けていた」


いやソイツ、男達の間では凄く有名だぞ。

写真を直接買ってる奴も結構いる。

……鉄の結束で女冒険者に身バレしないようにしてるだけで。


だがそいつが王国のスパイだって言うなら納得だ。

どっかで撮影してても男たちからはコレクションが増えるくらいにしか思ってなかったからな。

むしろ女冒険者から積極的に遠ざけてたわ。


この盗撮屋、アタシ達はかなり昔から目をつけられて情報が王都まで行っていたらしい。


「私は割と初期のうちからファンになってのう。マリーに……ただのエリー、そしてリッちゃん。皆の活躍をファンクラブメンバーとして応援しておった」


ただの、を強調してくるってことは……エリーの本来の立場に気がついてるな。

まあ元は貴族の出だしな。

密偵が回っていたなら情報がいって当然か。


しかし密偵使ってまでやることがファンクラブ活動って大人としてどうなんだ?


「こっそりライブ活動に参加したりと色々大変だったぞ。だが献身的な活動に参加したお陰で今では会員のNo2と呼ばれておる」

「ちょっとまて、No2だと?」

「ファンクラブ……! そんなところから王国が侵蝕されるとはのう……。王国も終わりかのう……」


宰相のオッサンがうるさい。

いま王国とかそんなものより大事な話なんだから邪魔しないでほしい。


つかお前さっきまで王国は盤石とか言ってただろうが。

千年見守ってきた国なんだからもっと自信を持て。

おっさんはこんな奴らを支えてるんだ、偉いぞ。


「んもう、騒がしいなあ……。裁判始まった?」


ここで元凶ことリッちゃんが目を覚ます。

もうとっくに終わったよ。


「すまんリッちゃん、リッちゃんが体を使ってあの爺さんに特別奉仕をする事になった。それで罰は終了だそうだ」

「えっ!? うそ、ホント……? そんな……。聞いてないよそんなのって……。でも僕が犠牲になればみんなを……」


聞いてないのはリッちゃんが寝てたからだ。

なんか誤解してるが元々やらかしたのはリッちゃんだからしばらく反省してもらおう。


「はい、それじゃ撮影しますよー。皆様王様の近くまでお願いします」

「ううっ……、メイごめんね……」

「何服を脱ごうとしてるんだ。写真取るからバカな事やってないでコッチに来い」

「えっ? えっ?」


プロはファンに肌を見せずに虜にするもんだ。

まったく、リッちゃんはまだまだだな。


王様が変な手の構えを胸元に持ってくる。


「何それ? 蛇のポーズ?」

「違うぞリッちゃん。王様の真似をしてみろ」


よく分からずにリッちゃんは王様の真似をして手を合わせる。

よし、王様とリッちゃんでハートのポーズが完成したな。

アタシもエリーとやっとくか。


「良いですよー! 凄くいい笑顔です。可愛いですねー。素敵ですねー。はいこっちに視線下さーい。あ、可愛いですねー」


写真家が全力で写真を撮っている。

シャッター音がうるさい。


「ふおおっ……! これよこれ! 苦節六十余年、生きててよかった……。あ、会員達への自慢用に仮面をつけたパターンもお願いするぞい」

「なんでこんな事になっとるんじゃろうか……。リッチ・ホワイトを叩いて昔のように暴走したり増長しないように釘を刺すだけだったんじゃがのう」 


そりゃ教育係に問題があったんだろ。

製造責任ってやつだ。


つか、リッちゃんのほうも本気で排除する気はなかったか。

色々ヌルい部分があったからな。


本気でやるなら根回しして完封だって出来たはずだ。

宰相のオッサンも心のどこかで許してんだろ?


しょぼくれたオッサンの肩を王の爺さんが優しく叩く。


「私は正気だとも。前に近衛兵やペガサス騎士団の訓練場として見つけてきたダンジョン、アレはそもそもマリーの敷地内にあるものを使用させてもらっておる」

「今なんと? 諜報部隊が見つけた秘密裏のダンジョンで急速に近衛が力をつけているので気になっておったが……。いつの間に近衛勢力まで取り込まれて? しかもダンジョンじゃと? 訓練用? もうワケが分からんぞい……」


……なんか嫌な話が聞こえたぞ。

いや、アタシ達は何も知らないし聞いていない。

ダンジョン周りはメイに一任してるんだ。

アタシは知らないし興味ない。


「そんな事よりアタシ達の撮影はこれでいいか? 早くひよっ子達に顔を見せて安心させてやりてえんだが」

「ふむ、私は大変満足だ。これにて贖罪は終えたものとする。よかったらいつでも来なるといい。いつでも賓客として扱おうではないか」

「なっ!? 駄目じゃ駄目じゃ! 一介の冒険者にそこまで権限を与えるわけにはいかぬ! いいかリッチよ。此度の裁定はこちらにも事情あってのこと。最早覆せぬが、もし事前の断りなく王へ向かうような事があれば重罪とする!」


宰相のオッサンがリッちゃんを睨みながら言ってくる。

事情ってかほどんど私情じゃねえか。


「あ、もう必要ないです。今の王様とも仲いいですし飢えで苦しむ子供もいないみたいなので」

「そ、そうか! 言質は取ったぞ! では早速王の間から離れるのじゃ! さ、早くせい!」


あれよあれよという間に追い出されてしまった。

去り際に王様がまたおいで、と声をかけてくれていたが宰相のオッサンがいる限りもう会うことすら難しそうだ。

今だって扉の前に立って通すまいと眉間にシワをよせているからな。


「さて、諸君らには案内の者が来るのをしばらく待ってもらう」

「……アタシとしてはどっちでも構わねえけどよ、勇者の護衛任務は誰かに任せるって事でいいのか?」


このゴタゴタが始まる前から気になっていたことだ。

さすがに勇者の護衛の任務はなくなるだろうが、一応確認しとかねえとな。


任務キャンセルを確認したら、さっさとファスの街に戻ってひよっ子魔族たちを一人前の淑女に躾けないといけねーんだ。


「……護衛、か。うむ依頼を取り下げて……いや、やはり継続で依頼する」

「ん? 良いのか? アタシ達はほら、アレがいるぞ」

「だからこそ、というのもあるのじゃ。勇者は物話に謳われるような人物ではないが、天性の才能で人を見抜くからのう。非道な魔族と戦う前にアレを見せておくのは悪くない」


て事はアレ……リッちゃんと勇者を会わせるのか。

勇者と魔王が出会うとどんな反応が分からないから起きるか怖いんだが。


「あとどうでもいいが、剣を抜いたやつが次期勇者だよな。リッちゃんが抜いたがどうなるんだ?」

「おっとと。急に腹が痛くなってきたのう。さーて、トイレトイレ。では失礼する」


宰相のオッサンはとんでもない早足で去ってしまった。

なんか色々酷い。

この国大丈夫か?


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