3話 継承の儀
「ルドヴィック・レオパルド・リーチ」
大理石に国王の声が反響する。開け放たれた扉から進み出ながら俺は、2年ぶりに聞く父の声がなんとなく嬉しさを帯びているように感じ、思わず頬が緩んだ。
大ぶりの剣をたずさえて立つ国王の前で膝を折る。
国宝であるその剣は、遠目で見ると肩書きによらず質素にも見えるが、よく見ると精密に作られたそれは、どっしりとしていて威厳がある。
幼い頃によくヴィルと宝庫に忍んでは、眺めていたものだ。
いざこの剣が自分の物になると思うと、感慨深いものがあった。
王は剣を鞘から抜き放ち、剣先を俺の肩に近づけると、声高々に宣言する。
「雷剣の後継者ルドヴィック・レオパルド。成人を迎えた今日より正式に、雷神の守護者としてここに公表する。」
王がそう言い放つと、ヴィルドからナイフを受け取り、俺は自分の親指に刃を突き立てた。
「今ここで、血の契約を。」
そう言って王は剣を俺に渡す。
ずっしりと見た目よりも重いその剣は、まるで手枷のようで。 刃を入れた指がじんじんと痛んだ。
「我が帝国に忠誠を…」
親指を剣の魔法石にかざし、誓いの言葉をふと押しとどめると、俺はにやりと笑った。
「この身と魔導に誓う。」
「なっ……」
指を押し付けていた魔導石が赤く光り、継承の完了を知らせた。
ふわりと浮かび上がった幻影は俺の周りに数秒まとわりついてすっと消える。
不思議な感覚が治まり、俺は閉じていた眼を開いた。
静まり返っていた空間が、伝播するようにして一瞬で騒がしくなる。
国王はあんぐりと口を開き、ヴィルはその後ろで肩を震わせながら笑っていた。
ざわざわと民衆がどよめく。剣の継承式で魔導に誓うとは何事だ、とでも言いたげな視線がびしびしと背後から伝わった。
剣を高々と掲げ、民衆に向かう。
「私は、この国のより良い発展を遂げる者として、剣技だけでは満足出来ない!」
ざわざわとより一層騒がしくなった広間に足で床を鳴らす。
以外にも響いた音に、騒がしかった声も静まった。
「私は、この国を守るだけではなく、魔導によって新たな世界を生み出したい。」
剣を胸の前で横向きになるよう下ろし待つ。左手で触れる大剣の刃は厚く、冷たい。
「皆も知っての通り、私は旅をしていた。他国を渡り、様々は場所を見てきたが、
この国は他国に比べ比較的に発展していない。
過去を軽んじている訳では無い。剣一つでこの国を守り抜いた先代等はとても素晴らしかった。」
重量のある大剣を眺めながら、今は亡き先代を思い、微笑んだ。
「だが私は、もう知ってしまった。魔導の素晴らしさと利便性を。この国では希少な魔道具も他国では一般的に出回っている代物だ。皆は知っているか?山を5秒も掛からず超える方法を。
枯れた土地に水を蘇らせる手段を。私はそれをこの国でも再現したい!」
「それに私は分かってしまった。きっと他国に攻め入られた時、我が国の犠牲者は数えきれないものとなるだろう。対抗する手段として。自信を守る盾として。我が国も積極的に魔導を取り入れる必要がある。」
剣を再び高々と掲げ、先程と打って変わって期待の眼差しを向ける民衆に不敵に笑って見せた。
「よって私はこの剣に誓おう。この国の新たなる未来と安念を。」
そう言い終わると割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。
魔導学否定概念も、 これで少しはマシになるだろう。無事、民衆を味方につけた俺は内心ほくそ笑んだ。
(これで俺も堂々と魔導をぶっ放せるってもんだ。)
後ろで真っ赤になってぷるぷるしている国王を綺麗に無視して、絶えない歓声と拍手の中
俺は颯爽と廊下へ続く扉に消えた。