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大剣の魔導士  作者: えな
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2話 誓約と兄

 窓から差し込んだ光が装飾品に反射し、キラキラと輝く。


 久々に身に纏う仰々しく飾られた服は

 俺の気分を落とすに充分たる物だった。


挿絵(By みてみん)


 面倒くさくなるほど多い装飾品とボタンに

 イライラしながら手を動かす。

 人一人にこんなに大量に物をぶら下げてどうするんだと思い、いっその事全部ぶっちぎってやろうかとも考えたが、国民の税金でもある為、うやむやにそんなことをするのは躊躇われた。


「着飾るのも王子たる者の役目だよ。」


 仰々しい服に苛立ちを募らせていると、

 これまた仰々しい服に身を包んだ兄が扉を背に微笑んだ。


「ヴィル……いつから居やがったんだ…」


 もしや着替えているところをずっと眺めていたのだろうかと、若干顔がひきつる。

 ついさっきだよと言いながら近づいてくる兄に、近くに置いていた装飾品を掴み、ずいと差し出した。


「コレ、兄さんが選んだろ…」


 じっとりした目で装飾品を押し付け、こんなに付けねぇからなと言ってやると、ヴィルドはガッカリしたように肩を落とした。


「折角レオの成人の儀の為だけにあつらえたのに…」


「うるせぇ。……きっちり成人になる前日に捕まえに来やがって……

 本当に腹の立つ野郎だな。」


 チッと舌打ちしながら睨んでやると、

 ヴィルドはしょんぼりしながら金の装飾品を握った。


 俺が成人になる今日、誓約の儀が執り行われる。

 これは王に障害の忠誠を誓う血の契約で、

 これを結んでしまえば自身の王の狗に。

 つまり俺は、一生ヴィルドの狗に成り下がる訳だ。


 王家に縛られるのが嫌だった俺は、この儀式から逃れたいがために逃げ回っていたと言うのに。

 それをこいつは、いつでも掴まれられたんだぞ。とでも言うような顔で、飄々と捕まえて見せてくれやがった。

 本当に、思い出しただけでも腹の立つ。


 イライラしながらカフをとめていると、

 ヴィルドがそっと俺の腕を掴んだ。


「でも、僕の騎士は絶対にレオがなって欲しいんだ…」


 肩を落として俯いて見せたヴィルドに

 げっと顔をしかめる。


「レオが自由を好いているのは知ってる。

 僕も、城にずっと居ろだなんて強制したりしないから。

 だから、洗脳して強制的にさせるんじゃなくて、

 レオが納得した上で大剣を継承して欲しいんだ。」


 脅迫じみた説得に、あざとく眉を下げて見せるヴィルドをこいつ……と思いながら眺め、何も言えないでいると、グイグイと距離を詰められる。


「それとも、僕の騎士になるのがそんなに嫌なの?」


 若干怒りを帯びた瞳に正面から見つめられる。

 距離後数センチという所まで急接近され、近い!寄ってくるなと腕でガードするが尚も近ずいて来ようとするヴィルドに

 パーソナルスペースぶち壊しに来るなと叫んだ。


「誰もそんなこと言ってねぇだろうが!

 それに、どうせ断った所で意味ねんだろ………やるよ。」


 結局のところ、それしか俺に選択肢は用意されていないんだ。

 分かってはいたし、逃亡するのなんてただの悪あがきだといわれても、それでもやらずにはいられないだろう。

 最後の自由だと、心のどこかでは分かりながら旅をしていたのかもしれない。

 捕まった瞬間、やっぱりこうなるかと思ったのも事実だ。


 鬱な気分になりながら、近くにあったヴィルドの顔をぐいっと押し戻すと、あーんれおーと情けない声を出した。


 それにしてもこんなやつが時期国王だなんて、この国は大丈夫なんだろうか。

 情けないふよふよな兄に国の将来が心配になる。


 そんな俺の心労を知ってか知らずしてか、ヴィルドがにこにこしながら俺に香水を吹っ掛けてきた。


「うわっ、くっっせ!何だよイキナリ!?」


 爽やかな匂いが鼻腔をつき、思わずうっと顔をしかめる。


「王子たる者の役目だよ。」


「またそれかよ……必要ねぇだろ。こんなもん。」


 サッと香水を取り上げたが、もう既に大量にかけられていた為に、些か無意味だった。


 体にまとわりつく匂いにしばらくぶりな不快感を覚える。

 半ば諦めたようにため息を着くと、ヴィルドに向き直った。


「さっき言ったこと、忘れんなよ。」


 なんの事だとでも言いたげに笑顔をうかべるヴィルドにとぼけんなよと指を突きつける。


「「城にいることを強制したりはしない」って言ったろ。

 男に二言はねぇぞ…しっかり守ってもらうからな。」


 にやりと笑ってみせると、ヴィルドはやれやれと言ったふうに口を開いた。


「ちゃんと聞いてたんだね。」


「当たり前だろ。」


 ムッとしてヴィルドの額を人差し指でこずく。

 俺を馬鹿だとでも思っていたのだろうか。


 なんだかムカついたが、多少なりとも自由があることを知り、少し肩が軽くなったような気がした。

 俺はふと腕にかかる重みに気づき、そうだとばかりにヴィルドの方を掴んだ。


「ならこの腕輪は外せよな。」


「何故?」


 きょとんとした顔で首をかしげながら、とぼけようとする兄に何言ってんだと詰め寄る。


「何故……って。これを付けられてたら

 どこにも行けねーだろうが……」


 何せ、一定距離離れると電流が流れるのだ。

 外してもらわないと困る。


 ヴィルドは口に手を当てふふふっと笑い

 違和感のある笑みを浮かべた。


「どこへだって行けるじゃないか。

 "この国の中なら"ね。

 男に二言はない。……だね。レオ?」


 するりと俺の腕から抜け出たヴィルドは、

 じゃあ僕先に言ってるからねと言い残し、さっそうと消えて行った。


 ヴィルドが消えていった扉を、俺は蒼白になりながら見つめる。

 ヴィルドのあの笑み……


 幼い頃にしてやられた、数々の出来事が脳裏を過った。


「あいつ……企んでやがったな………」


 ヴィルドの質の悪さを今更ながらに思い出し、深い脱力感に見舞われながら

 俺はこれから起こるであろう濃い人生に、膝を崩して嘆息した。

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