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ゾンビは騎士に入りますか?


 最近、姫を狙ってくるやつが増えた。


 色恋的なアレではなく、誘拐とか人質とかそういう方面だ。

 たぶん皇帝や俺に対する交渉材料になると思ってるんだろう。


 今のところすべて未遂に終わっているのだが、捕まえた犯人ほぼ帝国の人間だったあたりこの国ほんと終わってる。内輪揉め大好きかよ。


 それゆえ通常なら警備を強化すれば済む話が、まず信頼できる警備の人間を探さねばならない、ということになる。

 俺やジュバが張り付いてるわけにもいかないし、とりあえずまともな人材の多いジジイのところから護衛を出させているが、もう少し何か考えないとなぁ。


 姫の護衛。


 そう考えたとき、少しばかりの違和感が頭の端をかすめた気がしたが、ついさっき新たな姫狙い犯を捕獲したばかりの俺は、今から向かう場所への憂鬱さに気を取られて忘れてしまった。


「おい、いるか」


 縄でぐるぐる巻きにした姫狙い犯を引きずって、訪れたのは第十軍団長の部屋だ。

 捕虜や罪人の尋問は基本的に第十軍が担当することになっているため、毎回引き渡しに来ているのだが、しかし、あれは尋問というか。


「嫌だもう嫌だ止めろ話す何でも話すから!! ゆるしっ……ぎゃああ!!!」


「いるわよぉン、どうぞ入って~」


 ……拷問だよなぁ……。


 第十軍団長のガロット。人呼んで拷問大好きおば、おねえさんである。

 まじ入りたくねぇ。


 しかしモノを引き渡さないと帰れないため渋々入室すると、中は相変わらず、拷問器具のテーマパークだった。夢の国も真っ青だ。団長室は改装自由とはいえこれはひどい。


 部屋の隅にごろごろ転がる元人間たちを極力見ないようにしながら、持ってきた犯人を適当に床へ放り投げた。


「……ここに置いてくぞ! 後は任せたからな!」


 俺は知らん。この後のことは何も知らん。


 用は済んだとさっそく帰りかけた俺の背に、「ちょっと待ってぇン、グールちゃぁん」と声が掛かる。

 心底待ちたくないが一応振り返ると、奥の部屋から、返り血まみれの女がひょいと顔を出した。


「何だよ」


「帰るついでに~、あっちの部屋のやつ捨ててきて欲しいのぉン。丈夫で楽しかったんだけど~、動かなくなっちゃったからン」


 出勤前にゴミ出してきてみたいなノリで言うな。


 やりたくないが、これ以上この部屋で押し問答すること自体がもう嫌だ。

 仕方なく了承して“あっちの部屋”とやらに向かう。なお当の本人は、新たな拷問素材を持ってご機嫌でさっきの部屋に戻っていった。


「うわ」


 扉を開けて、思わず素で声が出た。


 部屋の真ん中に椅子がひとつあり、そこにはぴくりとも動かない血塗れの男が拘束されていた。

 周辺にはやばい感じの器具が大量に落ちている。床も壁も血しぶきで真っ赤だ。凡人としてのオレも、グールとしての俺も、めずらしく満場一致でドン引きするレベルにひどい。帰りたい。


 だが引き受けてしまった以上は、と死体の拘束を外して肩に担ぎ、部屋の奥から響いてくる悲鳴は聞こえないふりをして、第十軍団長室を出た。


 拷問マニアやらマッドサイエンティストやら、皇帝のお遊びやらで何かと死体が出来上がることが多いこの城の裏手には、死体を放り込むためだけの深い穴が存在する。ある程度溜まったところでまとめて燃やすためだ。

 当然ながらほとんど人が寄りつくことのないその場所は、死臭と、えも言われぬ陰鬱さに満ちていた。


「お前、服装からして王国騎士だったんだろうな」


 底の見えない穴の前に立ち、肩に担いだ死体に話しかける自分はさぞ不気味に映ることだろうが、どうせ誰も見ていないんだから良いかと気にせず続ける。


「わりぃな。墓場が故郷じゃなくて、こんなクソみたいな国の下で」


 さすがに王国までつれて帰ってやるほどの手間は掛けられないし、俺とて戦場では散々王国兵を手にかけた身だ。そんなやつに哀れまれても癪に障るだけだろう。


「恨めよ。じゃあな」


 肩から下ろした死体を、穴の中に放り投げようとしたその瞬間。

 俺の腕になにかが巻き付いた。


「ヒィ!!?」


 ガチ悲鳴が出た。


 おそるおそる視線を下げると、死体の、いや死体だと思っていた男の手が、俺の腕をがっちりと掴んでいるのが見える。


「……生きてるじゃねぇか」


 どうしよう、これ。





「それで持って帰ってきたって?」


 団長室のソファで、ジュバが呆れたように言った。

 その反対側のソファでは先ほど捨てそこねたゾンビ騎士が、ほとんどそのままに安置してある。


「……戦った結果で殺すならともかく、こんなかろうじて生きてるボロ雑巾みたいな奴にトドメ刺せるかよ」


「団長の基準よく分かんねーな。でもどうせこのままほっといたら死ぬぜ?」


「それなんだよなぁ」


 この世界に回復魔法なんて便利なものはない。

 さしもの古代人にも難しかったのか、はたまた歴史の闇に消えていったのかは知らないが、そういった効果を持った遺物もない。


 ただし“物質を組み替える”ことが出来る遺物は存在するようで、薬草などの遺伝子を操作して効果の高い品種を生み出し、それらを加工して作ったポーションなどが主な回復アイテムである。

 余談だが、おそらく「強化人間」もそういった遺物を使って作り出されたのだろう。


 一応、軍の医務室はあるのだが、あそこはマッドサイエンティストの根城なので当てに出来ない。何を投与されるか分かったもんじゃないからだ。vs人間引きちぎりマシーン再びなんてご免である。


 城下で医者に見せるという手もあるが、そもそもこいつは敵国の人間だ。気が付いたら襲ってくるかもしれない奴を、戦えない一般人の医者に任せるわけにはいかないだろう。


「………………よし分かった。俺らが自力で手当てしてみて、死んだらそれまでってことにしよう」


 前述の通りここの医務室は当てにならないから、俺達は負傷するといつも自分で治療していた。

 しかしそれは、俺は中ボス補正ゆえ、ジュバは強化人間ゆえの、ムダな体の丈夫さにあぐらをかいた大ざっぱなクソ治療である。


「で、万が一回復して襲ってきたら、そのときは心おきなく殺して捨てよう」


「……ちょっと待てよ? 今おれらって言ったか? まさかおれも手伝うのか?」


「うるせぇ手伝えインテリゴリラ」


 今こそ身につけた知識を活用しろよ。


 そんななりゆきで、俺の団長室にはジュバが持ち込んだ本の山のほかに、『瀕死の騎士』というオブジェが新たに追加されることとなったのだった。


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